俺“達”の家族がこんなに可愛いわけがない   作:武太珸瓏

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2016/3/7:
一部、微調整しました。
内容は変えていません。


ちょっと不思議な話
まぼろし の ねこ


 

 

 

どーん、どーん。

 

どこかから、花火の音がきこえてきます。

音のするほうの空をみると、まっくらな空に、きれいな形の花火があがっています。

 

けれども、今のぼくには、それがどんな色なのかまでは、よくわかりません。

でも、そのかわり、こんなに暗い中でも、ぼくには夜道のこまかいところまで、よく見えました。

 

すこし遠くのほうから、たくさんの人たちのにぎやかな声がきこえてきます。

ぼくは、なれない足をなんとかうごかしながら、その声のほうへ歩いていきました。

 

いつのまにか、ぼくはネコになっていたみたいです。

 

ついさっきまで、お父さんとお母さんと、そしてお姉ちゃんたちといっしょに花火大会にきていたはずなのに、気がついたらぼくはネコになっていて、ひとりで夜の道を歩いていました。

 

人がいっぱいいるところに行けば、みんなに会えるのかな? とおもっていたのだけど、歩いているうちに、よく知っているはずのこの道が、なんだかいつもとちがっているような気がしてきました。

あんなところに、でんわボックスなんてあったかな?

 

どんどん、こころぼそくなってきたときに、どこかから、女の人の泣き声がきこえてきました。

ちょっとこわかったけど、それよりも気になる気もちの方が強くて、ぼくはその声のするほうへむかいました。

 

そこには、ルリ色のゆかたすがたのお姉さんが、道のはしっこにうずくまって、シクシクと泣いていました。

おもいきり走ったあとみたいで、ゆかたが乱れています。

ぼくはそれをみて、なんだかとても苦しい気もちになったので、なぐさめてあげようと、そのお姉さんに近づいていきました。

 

そのお姉さんは、とてもきれいな人でした。

きれいな、黒くて長いかみの毛をしていました。

でも、せっかくのきれいなかみの毛も、今はバラバラにみだれて、だいなしになっていました。

 

ぼくは、なんだか、むねが苦しくなって、そのお姉さんに、

 

「にゃあ~」

 

と、声をかけました。

ネコになっているから、人間のことばが話せないんです。

 

お姉さんは、ぼくのほうを見ると、

 

「え、“夜” ……? まさかね……」

 

と、少しおどろいていたみたいでしたが、すぐにやさしい顔になって、

 

「…あなたもひとりぼっちなの? ほら、おいで…」

 

と手まねきしてくれたので、ぼくはお姉さんのすぐそばまで、よっていきました。

お姉さんは、ぼくのあごの下を、まっ白な手で、やさしくなでてくれました。

ぼくは、きもちよくて、うっとりとなったけども、それよりも、お姉さんの目がまっ赤になっていることの方が気になっていました。

 

すると、どこかから、

 

「お~い……」

 

と、若い男の人のよぶ声が聞こえてきました。

それを聞いたとたん、お姉さんはハッとして立ち上がると、辺りを見まわして、でんわボックスを見つけると、そのかげにサッとかくれてしまいました。

 

そのすぐあとに、さっきの声をだしていたお兄さんが走ってきて、ぼくの目の前でとまると、ひざに両手をのせて、ゼイゼイと息を切らしていました。

どうやら、あのお姉さんを追いかけてきたようです。

 

「畜生! “黒猫” のヤツ、一体どうしちまったんだ!? ワケがわからねえよ!」

 

お兄さんは汗まみれだったけど、それよりも、目から涙がどんどんあふれていて、さっきのお姉さんに負けないくらいまっ赤になっています。

 

ぼくは子供だけれど、今ここで何がおきているのかは、なんとなくわかりました。

 

このお兄さんは、あのお姉さんのことが大好きなんです。

そして、あのお姉さんも、お兄さんのことが大好きなんです。

なのに、ケンカかなにかして、ふたりともバラバラになってしまったのでしょう。

 

「ニャーッ、ニャーッ!」

 

ぼくは、必死になって、お姉さんが、すぐそこのでんわボックスのうしろにいることを、このお兄さんに伝えようとしましたが、やっぱりネコのなき声しか出せません。

 

お兄さんは、そんなぼくに気づくと、

 

「…ん? どうしたニャン公? 迷子にでもなったか?」

 

なんて、のんきなことをいって、ぼくをだき上げました。

ぼくは、いっしょうけんめい話そうとしましたが、お兄さんは、なんだかタマシイがぬけたみたいな目でぼんやりとぼくの顔を見て、

 

「……俺、アイツにフられちまったってことなのかな…?

無理もねえよな。こんな俺を好きになってくれただけでも俺はスゲエ嬉しかったんだけど、結局は、俺の本当の姿を知って、幻滅しちまったんだろうな…」

 

 

(……違う!)

 

ぼくの耳に、お姉さんの小くても強い声が聞こえてきました。

今のぼくはネコのカラダなので、人間にはきこえない声もきこえてくるのです。

 

「…今からアイツの家に行っても、きっと会ってはくれねえだろうな……」

 

お兄さんは悲しそうにそういうと、ぼくを地面にそっとおろしました。

 

「ケッ、結局のところ、俺が一人で舞い上がっていただけなんだな。つくづく、情けない男だよ、俺は……」

 

そしてお兄さんは、家がいっぱいある方へむかって、トボトボと歩いていきました。

ぼくは「ニャーッ、ニャーッ!」と、お兄さんをよびとめようとしましたが、もうぼくの声はきこえていないようでした。

 

お兄さんのすがたが暗やみの中に見えなくなってから、ぼくは、でんわボックスのカゲから出てきたお姉さんの方へ歩いていきました。

 

「にゃあ…」

 

ぼくによびかけられたお姉さんが、ぼくをだきあげました。

 

「……あの人には言っていたはずなのにね。“私は貴方のそんな情けないところも好きよ”って……」

 

顔はぼくの方を向いていたけど、そのことばは、あのお兄さんに向けたものだということが、ぼくにもわかりました。

 

「……でも、これは仕方のないことなの。私の目指す『理想の世界』へ至るためには……」

 

ぼくは、それをきいているうちに、なんだかスゴくはらがたってきました。

 

「フギャ、フギャッ、フギャーッ!」

 

ぼくは、お姉さんのうでの中で大あばれしてコウギしました。

ふたりとも、おたがいのことが大好きなんでしょ?

なのになんで別れるの?

 

それに、もしこのまま、ふたりがむすばれなかったら“ぼくや、お姉ちゃんたち”だって ── !

 

…そうです。このときのぼくには、このふたりが誰なのか、もうわかっていました。

 

「き、急にどうしたというの? さっきまで大人しかったというのに…?」

 

うろたえるお姉さんのうでから、ぼくはムリやりすり抜けました。

そして、地面におりると、

 

「フーッ!」

 

と、毛をさかだてて、おこってみせました。

お姉さんは、しばらくおどろいた顔をしていましたが、やがて、

 

「…あなた、私の話す言葉がわかるの?」

 

と、とまどいながらもきいてきました。

ぼくは、毛をたてるのをやめて、 

 

「にゃあ」

 

と、しずかにこたえました。

 

「…そう。どうやら貴方、普通の猫ではないようね…」

 

お姉さんは、意外とあっさり、このふしぎな現象をうけ入れてくれました。

 

「でも、たとえ貴方が誰の使い魔だとしても、私の意志は変わらない。“運命の記述” に記された “儀式” の遂行は絶対に成されねばならないのよ!」

 

「フンニャーゴッ!」

 

お姉さんのいってることは、ぜんぜんわからなかったけれど、ぼくはまたコウギの声をあげました。

ぼくは、とってもおこっていました。

もしぼくが、トラとかライオンになっていたら、おもいっきってほえていたところだけれど、ネコのすがたの今では、これが、せいいっぱいでした。

 

それに、この人のいってる “ギシキ”とかがうまくいかなかったら、ぼくたちだって……。

 

「そこまで私に抗議の姿勢を見せるというのなら、あなたにはわかるとでも言うの? 未来のことが……」

「にゃん」

「本当に?」

「にゃん!」

 

お姉さんは、すこしかんがえていたみたいだけど、やっと決心できたみたいで、ぼくに、おそるおそる、きいてきました。

 

「じゃあ、訊かせてもらうけど、私たちは、この先の未来で『理想の世界』を得ることが出来たのかしら?」

「にゃあ?」

 

ぼくは、さっぱりイミがわからなかったので、ききかえしました。

 

「ごめんなさい、今の言い方ではわからなかったみたいね? 改めて言い直すわね。

要するに未来では、私もあの人も、そして “あの女” もバラバラにならずに、一緒に幸せになれているのかしら?」

「にゃん!」

 

ぼくは、お姉さんがいった“あの女”がだれなのか、ちょっとだけかんがえたけど、すぐに、だれのことをいっているのかわかったから、自信をもってこたえました。

 

「…そう……」

 

お姉さんは、ぼくのこたえを聞くと、目をとじて、むねに両手をあてて、なんどか、ゆっくりと、息をすったりはいたりしていましたが、やがてまた、ぼくの方をむくと、

 

「貴方が本当に、不思議な力を持った猫なのか、それとも、実際はただの野良猫で、単に私が独りで喋っていただけなのかはわからないけれど、おかげで、ほんの少しだけ、気持ちが落ち着いたわ。

── それでも、家に着いたらまた泣いてしまうかも知れないけれどもね ──

でも、ありがとう、私の話し相手になってくれて。

これ、すっかり冷めてしまったけれど、お礼に貴方にあげるわ。よかったら食べて頂戴ね」

 

お姉さんはそういうと、ぼくのまえに、パックのタコヤキを、フタをあけておいてくれました。

アオノリのついていないタコヤキでした。

お姉さんは、ぼくのあごを、またひとなですると、

 

「じゃあね。いずれまた何処かで会えると良いわね」

 

といって手をふると、まだ少しヨロヨロしてるけど、さっきよりも、ちょっとだけ明るくなったかんじで、夜のヤミのなかへ消えていきました。

 

ぼくは、その後ろすがたにむかってよびかけました ──

 

「にゃ~ん」

(ゼッタイまたあえるよ)

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

「……くん? タッくん?」

 

だれかにカラダをゆすられて、ぼくは目をさましました。

 

となりを見ると、こん色のゆかたすがたの璃乃ねえちゃんが、ぼくの顔をのぞきこんでいました。

ぼくらは、花火大会の会場につくられていたベンチにすわっていました。

 

「……あ、ゴメン、姉ちゃん。ぼく、ねてたんだね?」

「そうよ、せっかく私が話し相手になってあげてたのに寝ちゃうなんて、無礼千万だわ!」

「ホントにごめんって! なんだか、ふしぎなユメみてたから…」

「へえ、どんな夢?」

 

璃乃ねえちゃんは、きょうみしんしんにきいてきます。

人の見たユメにきょうみをもつような人は、きっとこの璃乃ねえちゃんぐらいだろうな?

 

「…えーと……」

 

ぼくが、つい今まで見ていたユメを思いだそうとしていたら……。

 

「お~い、彪瑠ゥ~、璃乃ちゃぁ~ん」

 

悠璃お姉ちゃんの元気な声が聞こえてきました。

その方を見ると、お父さんとお母さんにつれられた悠璃お姉ちゃんが、こっちにむかってブンブンと手をふりながら歩いてきてます。

 

「もう、待ちくたびれたわ。タッくんったら、居眠りなんかし始めるのだもの」

 

璃乃ねえちゃんのキツいグチにも、

 

「ゴメンね、トイレ意外と混んじゃっててさあ…」

 

ピンクのゆかたを着た悠璃お姉ちゃんが明るくこたえます。

このお姉ちゃんたちは、ふたごで、元々の顔はそっくりなのに、なぜだか性格がゼンゼンにていません。

だから、ふだんの顔つきも、好みの服装とかもゼンゼンちがいます。

だから、よそのウチの人に姉妹をまちがわれるようなことも、ほとんどありません。

 

「ん? 彪瑠、その手に持ってるのは何だ?」

「え?」

 

お父さんにいわれて、自分の手もとを見ると、いつのまにか、タコヤキのパックがあります。

 

「あれ? ぼく、なんでこんなもの、もってるんだろ?」

 

「え? 自分で覚えてないの? 捨ててしまいなさいよ、そんな出所の分からない気持ちの悪い食べ物」

 

璃乃ねえちゃんが、顔をしかめながらいいました。

たしかに、自分の手に、いつのまにか食べものがあるなんて、ぼくも気もちわるいです。

そういえば、むかし、そのへんにおいてあった飲みものに毒が入っていたジケンがあったって、お祖父ちゃんがいってたっけ……。

 

「彪瑠、ちょっとそれお母さんに見せなさい」

 

お母さんが、ぼくからナゾのタコヤキをうけとると、パックのフタをあけて、まるでネコみたいに、スンスンとにおいをかぎました。

 

「どうやら大丈夫そうね、このたこ焼き。冷めてはいるけれど、間違いなく作ったばかりのものだわ。念のために、家で軽く火を通せば、問題なく食べられそうね。

大方この子たち、誰かご近所さんから奢ってもらって忘れているのではないかしら?」

「そりゃあ、母さんの食い物への目利きは信頼してるけど、お前がそんなことを言うなんて意外だな。食品の安全性に対しては、いつも厳しい態度をとっているのに」

 

お父さんのいうのも、もっともだと思います。

今のお母さんは、らしくありません。

お母さんは、少し首をかしげながら、

 

「そうね。確かに私らしくないかも知れないわね。一体どうしたのかしら?

何だったら彪瑠、お母さんがきちんと火を通したものを、あなたから桐乃叔母さんにでもあげたらどう?

『お土産だよ』とか言って渡したら、きっと喜ぶわよ」

 

そういって、ぼくにタコヤキのパックをかえしてきました。

そして、ぼくがお母さんの手からそれをうけとったときです。

 

「あれ?」

「あら?」

 

ふたりとも、なんだか妙なかんじになりました。

 

「どうした、二人とも?」

 

お父さんが、ふしぎそうな顔をしました。

 

「いえ、何かデジャヴを感じたのよ。別になんでもないわ。

そんなことより、そろそろ夜も更けてきたから帰りましょう?

花火も、さっきクライマックスを迎えたみたいだしね」

 

お母さんが、そういったときです。

 

「ちょ~っと、待ったァ~!」

 

まるでこのタイミングをまちかまえていたみたいに、桐乃おばさんが現れました。

 

「なに、あたしをおいて帰ろうとしてるのよ~?」

「あら、貴女今まで何処に潜んでいたの?」

「潜んでなんかいない! ちょっと浮かれて屋台とか見回っているうちに、みんなとはぐれちゃっただけ!

みんなこそ、あたしのこと忘れてたでしょ!?」

「別に忘れていたわけではないわ。今から貴女を捜すところだったのだから」

「本当に?」

 

まだ少しうたぐってそうな桐乃おばさんの前に、お父さんがフォローに入りました。

 

「本当だぞ。お前のことを忘れるわけないじゃないか。なあ、みんな?」

 

お父さんの言葉に、ぼくらはまよわずに、うなずきました。

 

「そう、なら良いケド…」

 

桐乃おばさんも、ようやく気げんを直してくれたみたいです。

 

いつもにぎやかだけど、子供のぼくから見ても、強いきずなで結ばれているお父さんたちを見ていると、ぼくはむねの辺りがあたたかくなってきます。

 

そして、それがきっかけになって、さっき見たユメの、おしまいのあたりで聞いたことばが、ぼくの中で思いだされそうになっていたとき、

 

「彪瑠、どした? 何だか柄にもなく、物思いにふけってるみたいだけど?」

 

悠璃お姉ちゃんに、思考を中断させられてしまいました。

 

「べつに、なんでもないよ、お姉ちゃん」

 

すると、ぼくのとなりの璃乃ねえちゃんが、不満そうにいいました。

 

「タッくん、前から思っていたのだけれど、何故、悠璃姉さまは『お姉ちゃん』で、私のことは『璃乃ねえちゃん』なの? 私の方の呼び名が何だか微妙ではない?」

「え? それは、お姉ちゃんが二人いるから、よび方をかえているだけだけれど?」

「そうではないでしょう?」

「なにが?」

「私のことは “姉さま”と呼びなさいと、 いつも言っているでしょう?」

「それはイヤだよ~!」

 

こうして二人のお姉ちゃんの間で、その夜は、ぼくにとっては、すごくつかれる夜になってしまいました ──

 

 

ちなみに、あのタコヤキは、お母さんにかるく、やきなおしてもらってから、ぼくと桐乃おばさんでおいしく食べて、そのあとも、おなかがイタくなったりとかはなかったので、みなさん安心してください。

 

 

 

 

 

《 おしまい 》

 

 

 

 





地味に悩んだのですが、猫にたこ焼きを与えて大丈夫なのでしょうかね?
説明臭くなるので、本文中には書いてありませんが、一応、作中のたこ焼きは、青海苔も香辛料も使わず、よく火の通されたものだという設定です。

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