空を覆っていた雲から、しとしとと雨が降ってくる。
降りそうな天候だとは思っていたラムザだったが、このタイミングで降ってきてほしくはなかった。
ウィーグラフと言い争っていた騎士が、前に出てくる。
その動きに対応して、朝潮が前へと出る。騎士と相対すためだろう。
だがその動きは、高い建物の上にいる弓使いからの攻撃によって、阻害されてしまう。
「上からの矢・・・」
五十鈴が半ば反応でその方向へボウガンを構える。しかし、かなり高さのある建物で、なおかつ打ち上げとなると、明らかに射程と射角が足りなかった。
「うっとおしいわね・・・ラムザ!五十鈴は建物の上にいる弓使いを狙いに行くわ!」
五十鈴はそう言い放つと、ラムザからの応答を待たずして、建物の外周や屋根を伝って上へと昇り始めた。
「まて!1人じゃ危険だ!」
そんな五十鈴を、ディリータ、アルガスが追いかける。
朝潮が騎士と接敵する。今のうちは互角に見える。だが、相手の編成は弓使い、そして・・・黒魔導士だ。
「!!」
朝潮が何かを感じて、とっさに盾を構える。だが、構えても防ぐごとはできなかった。
「熱っ・・・これは、魔法・・・」
敵の黒魔導士から放たれた魔法「ファイア」が朝潮に当たる。
魔力を消費し、大気中にある性質を変化させ自分の望む行為を起こす。
一種の奇跡にも近い魔法だが、発動するものがその奇跡をイメージし、それを起こせるだけの魔力がなければ不発に終わる、きちんとした法則である。
「朝潮!」
すかさずラムザが朝潮と場所を変わり、騎士の攻撃を一手に引き受ける。
ついに魔法だけでなく矢も飛んで来はじめ、ラムザは徐々に下がる。
「清らかなる生命の風よ・・・失いし力とならん!ケアル!」
高雄が唱える白魔法「ケアル」によって、朝潮の傷ややけどが治っていく。
完全に治るわけではなかったが、傷は見た目上癒え、やけどによる痛みも引いた今ならば、前線に立っても十分動けると、朝潮は判断した。
「待って朝潮ちゃん・・・沈黙の光よ、音の波動のもたらす邪悪な影から守りたまえ!シェル!」
朝潮を、魔法のヴェールが包む。そのヴェールはラムザにもかかった。
「敵の魔法攻撃を、ある程度軽減する魔法です。・・・気休め程度にしかならないかもしれないですが。」
「感謝します!これで、あの黒魔導士に肉薄できます!」
高雄が何か言おうとするよりも早く、2人の黒魔導士に向かって突撃する朝潮。
ラムザはフォローに来た陽炎とのコンビネーションで、ようやく騎士を倒したところだった。
「こんなことなら・・・青葉や村雨も一緒についてこさせればよかった・・・」
青葉と村雨は、引き続き情報収集を頼んでいた。スラム街であまりに大人数すぎると怪しまれると思ってのことだった。今では完全に裏目に出ている。
「ラムザ!次行くわよ!」
陽炎が弓使いに肉薄する。なぜか武器を何も持っていない敵がいるが、モンクでもなさそうなそれを完全に無視してボウガンを持っている弓使いを切り付ける。
圧倒的に押していることを確認し、ラムザは狙われている朝潮のフォローに向かう。
黒魔法を相互から撃たれ満身創痍に近い朝潮も、必死に黒魔導士を攻撃しようと肉薄する。
しかし、狙われている黒魔導士は適度に距離を開け、躱し、逃げる。そして、もう一方の黒魔導士が朝潮を狙う。連携は抜群だった。
順調だった。相手が力尽きるのも時間の問題だと思っていた。だからこそ、黒魔導士は、すぐ後ろにラムザが近づいてきても気が付いていなかった。
「はぁっ!」
一撃必殺。まさにその通りの威力だった。
背中からの正拳突きにより、完全に油断していた黒魔導士が沈む。その様子を見ていたもう片方の黒魔導士が驚きのあまり一瞬だったが、体制を崩す。
朝潮にとって、その一瞬で十分だった。
その一瞬のうちに詰め寄り、必殺の一閃。黒魔導士は抵抗むなしく切り捨てられた。
「大丈夫か、朝潮!」
「はい、朝潮、これならまだ戦えます!」
「無理はしないで。高雄と合流して回復してから・・・」
「その必要はないわ。」
建物の上から地面に飛び降り、着地した五十鈴が合流する。
「上から敵を撃って、あらかた片づけたわ。それに、いいものも手に入ったし、作戦は完了よ。」
ひらひらとボウガンを見せる五十鈴。周りをよく見渡すと、矢の刺さった敵が倒れているのが見える。
「わかった。あのウィーグラフと言い争っていた騎士だけ手当して、エルムドア侯爵の居場所と、ウィーグラフの行き先を聞こう。」
尋問は、大荒れだった。
ウィーグラフと言い争っていた騎士は、案の定、骸旅団であった。
縛って身動きを取らせなくした後、アルガスが激昂したかのように捕虜となった騎士に怒鳴りつけた。
挙句、少しでも騎士が反発すると殴る蹴るなどの暴行を多発させた。
ラムザとディリーダはアルガスを止めるのに必死になり、話を聞くのが大幅に遅くなった。
最終的には青葉、高雄、朝潮が代わりに尋問をはじめ、それでも情報を聞き終えたのは深夜のことだった。
ラムザは高雄に騎士の手当を指示し、アルガスに頭を冷やすようにきつく言う。
そうして、ドーターでの一日が過ぎ去った。
翌朝、朝潮が捕虜にした騎士を、街の駐屯騎士団に引き渡している間に、ほかの全員を集めて情報の共有を行った。
「骸旅団の隠しアジトが一つ、ゼクラス砂漠にあります。砂ねずみの穴ぐらと言ってたこともあってほぼ確実でしょう。」
「青葉さんの情報を補足すると、ゼクラス砂漠の中心から少し外れたところに、昔の集落だったところがあります。おそらくそこに骸旅団がいる可能性が高いです。」
「エルムドア侯爵がそこにいるかわからないけど、やはり目指すはそこだね。よし、準備ができ次第ゼクラス砂漠へ向かおう。」
それぞれに同意の言葉をもらい、ラムザは周りを見渡す。
青葉や高雄は深夜にまで及んだ尋問だったためか、まだ疲れが残っている様子だった。
ラムザ達は手早く荷物を積み込み、足りないものを確認し、朝潮が帰ってきてから街を出発した。
そんな様子を、龍驤はこっそりと見つめていた。
「ウチはウチで、帰る方法を別に探す。だから、あんたらも死なんでな・・・」
龍驤は自分の馬車に乗り込み、ラムザ達とは反対の方向へと走り出した。
また、会えると信じて。
魔法が物理法則っていうのもおかしな話ですね。
魔法って、どうなるかっていうイメージをして、それに必要な変化を起こせるだけの魔力が必要だと思うんですよ。