結果から言えば、エルムドア侯爵は救出できた。
ただし、各々にとって満足できる結果かどうかは別れた。
戦闘のあと、砂ねずみの穴ぐらをくまなく探索しているうちに、激しい剣戟と言い争いの声が聞こえ、ラムザと仲間の一部が急行した。
そして、建物の中に入ると、一人の騎士を絶命させた騎士―ウィーグラフと、その建物の奥に拘束されたエルムドア侯爵が横たわっていた。
―私を見逃してくれるなら、エルムドア侯爵を返そう―
本意ではないとラムザ達に語ったウィーグラフではあったが、あるものは最大限利用するらしい。
エルムドア侯爵に剣を向け―距離は少しある―自分を逃がすようにラムザ達に迫った。
結果、エルムドア侯爵の安全を第一という建前の元、ウィーグラフを逃がした。
ゼクラス砂漠からドーターに戻ったラムザ達は、駐留している北天騎士団にエルムドア侯爵の保護を求め、受け入れられた。
探してもなかなか見つからなかったエルムドア侯爵救出に、駐留騎士団のリーダーはラムザ達を称賛したたえた。
ただ、ウィーグラフを逃がしたとは、ついに誰も言い出せなかった。
ドーターで一日過ごした後、ラムザ達は本来の任務であるイグーロス警護に戻るために、イグーロスへと向かい始めた。
「・・・大義は果たした。なのになぜか素直に喜べない。」
ディリータはそんなことをつぶやく。
「栄誉なことですわ。素直に喜べばいいですのに。」
そう返す高雄も、本心からそう言っているわけではないのがわかる。
「・・・あのウィーグラフにやられた男、ギュスタヴというのだが、あれも使われた男の末路だそうだ。」
「どういうことです?」
「この話はまだ真実かどうかわからないから、ラムザには話してないが・・・」
そういって、ディリータはもう一台の馬車を見る。
荷台にはラムザがいて、村雨と朝潮が楽しそうにじゃれついているのが見える。
「・・・ギュスタヴは誰かに誘拐をそそのかされたらしい。しかも、エルムドア侯爵の来訪を事前に伝え、かつ来訪するときのルート予測まで伝えていたらしい。」
「なんですって!?」
驚いて声を出す高雄。ディリータはしぃーっと、静かにしろとジェスチャーする。
同じ馬車には五十鈴と青葉、陽炎がいたが、みんな一様に眠りこけている。
「・・・すみません、取り乱しました。でもすると、一体何のために誘拐をそそのかしたのですか・・・?」
「わからない。エルムドア侯爵の来訪目的もわかっていない今、あれこれ想像するのはできるが、真実を知ることはできないだろう。だから、オレもラムザには話してないのさ。」
やれやれと、ディリータは肩をすくめる。
「・・・では、なぜその話を私に?」
「なんでだろうな。・・・オレにもさっぱりだ。」
ラムザ達は幸運なことに、スウィージの森でも、マンダリア平原でもモンスターの群れに襲われることはなかった。
はぐれモンスターの1、2匹程度は出くわすが、足止めを食うほど苦戦することもなく、一行は無事にイグーロスへとたどり着く。
そして、イグーロスへ着いたラムザ達に待っていたのは、ダイスダーグからの呼び出しであった。
「なぜ、ゼクラス砂漠へと行ったのだ?」
ラムザ、ディリータ、アルガスが、イグーロス城の執務室に入ったときの、ダイスダーグの開口一番がその言葉だった。
「・・・」
「なぜ、ゼクラス砂漠へ行ったのかと聞いている。」
とっさのことに、ラムザは話すことができなかった。
「・・・それが、必要なことだと思ったからです。」
あえてザルバッグからの助言のことを話さず、あいまいな表現をしたラムザ。
その言葉を聞き、ダイスダーグの声色が一層下がる。
「その心意気は必要であろう・・・だが、それが命令違反していいということにはならん。ラムザよ、なぜ『法』があると思う?皆が勝手気ままにふるまわぬようにするためだ。その法を我々ベオルブの人間は順守し、その尊さを示さねばならぬのだ。」
「もう、よいではないか、ダイスダーグ。」
ダイスダーグの説教が、執務室奥から聞こえてきた声に遮られる。
奥の扉、テラスに続いているその扉からは、身なりのいい初老の男が入ってきた。
ディリータ、アルガスがその男を見た瞬間、片膝をつく。
ラムザも一瞬だけ反応が遅れるが、片膝をつく。
「これは家の問題でもあります、ラーグ閣下。」
ラーグと呼ばれた男は、はっはっはと笑いながら、ダイスダーグに近寄る。
「なに、我らの若いころとて命令違反の一つや二つあっただろう。そういった功績があったからこそ、我らはガリオンヌの領主だったり、ベオルブの当主になったりしたのだろう?」
「・・・いささか、甘いのでは?」
「命令違反を無にするほどの活躍を見せたのだ。それに、そういった若さと力、生かさぬわけにはいくまい・・・」
ラーグはダイスダーグに目配せをする。ダイスダーグは一つため息をつくと、改めてラムザ達を見据えた。
「楽にしろ。骸旅団殲滅作戦は大詰めを迎える。お前たちはそれに参加し、一斉に襲撃するアジトのうちの一つを任せる。」
「・・・はい、失礼します。」
立ち上がり、一礼して、3人は部屋を出た。
「・・・おい。」
ダイスダーグが天井のほうへと声をかける。
特に反応はなかったが、ダイスダーグは続ける。
「エルムドア侯爵との密使を任せる。様々な話を聞いているお前なら、我らの要求もわかるな?」
変わらず反応はなかったが、ダイスダーグは気にしていなかった。
「・・・行ったようだな。」
「ええ、そのようです。ラムザのせいで計画がずれました。・・・申し訳ありません。」
「構わぬよダイスダーグ。どのみち、ガリオンヌ領で誘拐が起こった時点で最初の想定は破たんしている。修正をかければいい。」
「時間もありません。急がねばなりませぬな・・・」
そんな意味深な会話を、部屋の外から聞いていたメイドが1人。
「・・・」
そのメイドは気配を消して部屋の近くから離れ、そして天井を見る。
「あ、いたよ。漣ちゃーん!」
遠くからメイド―潮が走り寄ってくる。
「提督がみんなでごはん食べようって言ってたから、漣ちゃんも一緒にいこ?」
「マジで!キタコレ!行くしかないっしょ!」
メイド―漣は潮を逆に引っ張り返しながら、潮と一緒にイグーロス城の廊下を走っていった。
さ、歴史が大きく動き始めますね。
そんななか、暗躍し始める艦娘。
果たして、みんなの思いは本当に一つなのか
はたまた、時代の流れに巻き込まれてしまうのか・・・
まて、次週!(ぁ