崖の縁のミウたん   作:新六毛

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清貧なる浅知恵

12月も半ばを過ぎて、遥かグリーンランドでサンタクロースがプレゼントの用意に忙殺されている頃…

ここ日本の首都、東京でも越冬の準備に追われる美少女が一人…

 

『越冬』

 

その言葉を大袈裟と捉える者は、自らがブルジョア階級に生まれた事を神に感謝すべきである

何とか水産のワンコイン定食で糊口を凌ぐレベルの下層民にとって、冬を乗り切り 春を迎えるのは決して容易な事ではない(注、原文ママ)

ましてや、その香りで飢えを凌ぐレベルのミウたんなら、その困難は尚更である

ミウたんが生まれ育った日本の裏側の、何とか半島の付け根辺りに比べれば、確かに東京の冬は暖かい

だが、ヘビー級ボクサーに瞬殺されるパンピーが、ライト級ボクサーになら勝てるかと問われれば、そうでは無かろう

冬は何処であれ誰であれ寒い物だ

寧ろ、寒い土地で育ったミウたんだからこそ、冬の準備に抜かりはないのだ

ミウたんの冬支度は立て付けの悪いドアと窓の隙間を埋める事から始まる

ここで用いられるのは… 新聞紙

 

田舎を旅する都会のトレンディなヤングは、しばしば北の寂しい漁村の家々が、窓に新聞紙を貼っているのを見て、思わずその貧しき様に落涙するという

だがそれは、所詮もやしっ子の偏見である 北の漁民の所得は意外と高い

彼らは何世代にも渡り、長い冬を生き抜く中で、新聞紙程、保温効果と防湿効果に優れた物は無い事を学んでいるのだ

時に害虫駆除の必殺兵器に、時に放射能汚染水の漏洩防止に、時に究極の保温材に…

万能の応用力を持つのが新聞紙なのである

ミウたんの場合、此を使うにも一工夫する新聞紙を隙間に詰める際、石鹸水を吹き掛けるのだ

新聞紙を湿らすのは密着性を高める常套手段だが、そこに石鹸を混ぜる事により、僅かな隙間風が常に室内にソープのアロマを充満させる仕組みなのだ

手際よく歪んだ窓の隙間に新聞紙を詰めていくミウたん

「………よし!」

満足そうに頷くと次は暖房の準備に取り掛かる

 

ミウたんのお家にもエアコンはある

あるにはあるが、使えばブレーカーが落ちてしまう

電気代節約の為、ミウたん家の契約アンペアは5アンペアなのだ

暖房としてはストーブも捨てがたいが、やはり対費用効果の観点から、ミウたんは火鉢を使う

「火鉢wwwwワロスwww」

ナウなヤングなら火鉢という単語を聞いただけで、思わず煽りたくなる衝動に駆られるだろう

だがそれは所詮、ゆとりの浅はかさたる由縁だ

火鉢… それは日本人が古より慣れ親しんだ由緒正しき暖房具

餅焼き、湯沸かし、証拠隠滅、どれをとってもストーブ如きの比ではない

一度でも火鉢で焼きあげられた餅を食べた者なら、ストーブ餅など決して喉を通らない

ただ、ミウたんはお餅は買えないので、小麦粉を溶いて割りばしに着けた物を火鉢で炙り味噌を着けて食する

それでもそれは、ミウたんにとって欠かせない冬の風物詩なのだ

更に火鉢は燃料に幅広い応用性を持つ

炭だろうが枯木だろうが請求書だろうが、何でも燃料になるのだ

ここがミウたんのお気に入りでもある

 

隙間風も治まって、爽やかなソープの香りの中、この冬初めて火鉢に火を灯すミウたん

チロチロと燃える新聞紙の余りに手をかざし、優しい笑顔で炎を見つめる

作業の疲れが火鉢の暖かさで癒され、思わずうとうとしだすミウたん

今年の越冬準備も無事終わった

一足早い春の様な温もりを全身に感じ、ミウたんの意識は白濁の中に溶けた…

 

 

 

 

 

翌日、居間で倒れていたミウたんが、訪ねて来たNHK料金徴収人によって発見される

一酸化炭素中毒による意識不明の重体

警察はミウたんが貧困を苦に自殺を謀ったと見て、意識の回復を待って詳しい事情を聞く方針との事…

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