崖の縁のミウたん   作:新六毛

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ら苦さな多y也? (1)

12月、街はイルミネーションに彩られていく

東京には本当の空が無い…

日本の裏の方の、何とか山脈の影の高速を降りた辺りの、自然豊かな糞田舎で生まれ育ったミウたん

彼女にとって、大都会東京の荘厳な街並みは、どことなく冷たくて見栄っ張りで、それでいて寂しさを滲ませているように見えて、決して好きにはなれなかった

だが、この季節だけは違う

普段は無機質なコンクリートの街並みが、電飾で飾られた街路樹に照らされて、まるでお伽噺の国の様な風景に変わる

行き交う人々心なしか笑顔に溢れ、いつもの喧騒さえジングルの音の如く響く

そんな光景を歩道橋の上からうっとりと眺めるミウたん

齢18、ミウたんもまた乙女なのである…

だが、彼女の背後を通り過ぎて行く一組のカップルの楽しそうな話し声を聞くと、ミウたんは急に顔を曇らせる

ミウたんにとって年末のビッグイベント、クリスマスは決して楽しい物ではない

ミウたんは東京に出てきて3年、いつも独りぼっちだ

独りぼっちを寂しいと思った事はない

ミウたんはいつも自分にそう言い聞かせる

でも…

クリスマスの日に独りで食べるSEIYUのカップマドレーヌ程、味気ない物が無い事は、ミウたん自身が良く知っているのだ

 

どうして私には彼氏が出来ないのだろう…

お顔だって十分かわいい筈…

おっぱいが無いから?

ガス代節約でお風呂に週一しか入らないから?

お洋服が継ぎ接ぎだらけのヴィンテージだから?

パンの耳が入ったビニール袋を持っているから?

ペットボトルを再利用したオリジナルお手製水筒を下げているから?

 

駄目なの? 普段の私では……

普段の私では誰も愛してくれないの……?

ミウたんの瞳の中の何かが、青いLEDの電飾に照らされて淡い光を放った

 

 

 

「はぁ~…… 」

ミウたんは深いため息をついた

どうして休みの日はあっという間に過ぎ去るの?

ファーストフード店のアルバイトは決して嫌いでは無いのだけど…

それでも休み明けの出勤は憂鬱になる…

ブルーと言うの?

朝の7時、既に街は活動を始めている

人の波、車の群、何かに追われる様な無機質のうねり…

そんなモノクロライクな景色をロッカールームの窓越しに眺めながら、ミウたんは制服に身を包む

ロッカーの鏡に映る自分は、努めていつもの明るいミウたんを演じている

「いらっしゃいませ~!」

微かに残った元気を搾り出し、ロッカールームを出て行った

 

「はぁ~……」

休憩時間、ミウたんはまた大きなため息をついた

職場で唯一の憩いの場所、トイレの個室にこもりぼんやりと虚空を眺める…

最近何か変だ…

私、どうしたんだろ… 疲れてるのかな…

ミウたんは自分の肩を両手でぐっと掴んだ

温もりが欲しい… 誰かに抱きしめて欲しい…

ミウたんは突如、トイレットペーパーを猛烈な速度で巻き取り出した

2ロールを空にすると、その紙を手で丸めて個室を出る

そのまま洗面台に向かうと、手にした紙の塊を制服の上着の中に潜り込ませた

「巨乳になれば… 愛されるの……?」

不自然なまでに盛り上がった両乳房を手で整えると、魂の抜けた様な顔をしたミウたんはトイレを後にした…

 

 

 

その日、ミウたんは全財産5千円を握りしめ、イオンモールにお正月の食材の調達に来ていた

(う~ん、お餅が欲しいけど… ここは小麦粉でガマンか… )

バイト先からボーナス代わりに貰った、バーガー無料引換券30枚を金券ショップに持ち込み、手にした3千円

手持ちの残資金2千円と合わせ、何とか捻出した5千円…

同年代の少女達が数千円、数万円を散財してショッピングを楽しむ中、ミウたんは年末年始も明日を生き抜く為の闘いを強いられていた

「…………………… 」

背中越しに聞こえる、楽しそうな少女達の囀りから、努めて意識を反らす

 

「これってもしかして!」

ミウたんは思わず色めき立つ

惣菜コーナーで、大好物であるカキフライ五個入り490円が、なんと190円に値引きされているのを発見したのだ

いつもその存在に気付いていながら、所詮ブルジョアのおまんまと自虐的に目もくれなかった其が、年末の為か、今日に限って特売品の黄色いラベルが貼られていたのだ

最後にカキフライを食べたのはいつだろう…

ミウたんは口の端から溢れる唾液をアニメキャラの様に袖口で拭うと、無意識にカキフライに手を伸ばす

 

「だ… ダメ…!」

ミウたんは慌て伸ばした手を引っ込める

危うく理性を崩壊させる所だった

ここで190円を無駄にすれば、正月2日目用のカニ蒲代を溶かす事になる

カキフライはこけしが売れた暁に…

ミウたんはカキフライに向かって小さく手を振ると、寂しそうに粉物コーナーへと向かうのだった

 

「……………………」

そのミウたんの視線の隅で、先程から彼女に惨めな思いを味あわせている同年代の小娘達が、買い物カゴに無造作に惣菜類をブチ込んでいく…

 

ミウたんの中で何かが弾けた…

 

ミウたんは踵を返し、5個入りカキフライをスカートの中に捩じ込むと、レジカウンターの脇を駆け抜け、最寄りのトイレに飛び込んだ

個室に籠り、鍵を閉め、スカートから出したカキフライパックのラップを指で抉じ開ける

そしてそのまま、手掴みで念願のプリプリにむしゃぶり付く

「旨いっ!!」

ミウたんの顔からとびきりの笑顔が溢れる!

 

「……………………」

次の瞬間、その笑顔は掻き消え、今度は彼女の大きな瞳から大きな雫が零れる…

「うぅ…… やっちゃった…… とうとうやっちゃった………」

個室に響く啜り泣き…

越えてはならない一線、それを呆気なく飛び越えた…

「どうして私だけ… どうして私だけ、何もかも……」

啜り泣きは湿度を上げて号泣へと変化していく

ミウたんは悲しかった

己の境遇が… 何一つ満たされぬ、己の人生が…

こけしアートは理解されず、クリスマスを過ごす彼氏も居らず、仕事に遣り甲斐を見出だせず、正月だと言うのに小銭を数えて暮らす日々…

何故私だけ… 何故私だけ、幸せになれないの…?

トイレの個室で盗んだカキフライを頬張り、感動する私…

何と惨めで哀れな存在なのだろう…

あの日、夕暮れの鰯雲に感動した、可憐で純真な私は草臥れ、汚れてしまった…

溢れる涙がカキフライの上に垂れる

もう、何もかもが嫌になった…

どこか遠くに行きたい…

ミウたんは余った4つのカキフライを頬張ると、お客様サービスセンターに自首すべく、衣のカスを払いながらトイレを後にした…

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