崖の縁のミウたん   作:新六毛

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朝日の白銀 (1)

「nana(ママ)……! nana(ママ)……!」

炎に包まれた家々、肌を焦がす熱風が四方から襲い来る

馴れ親しんだ故郷の村が、地獄の様相を呈する中、少女は必死に我が家を目指す

『シュッ!!』

耳元を一際熱い何かが掠める

次の瞬間、少女の身体は宙を舞う

一瞬置いて…

『ドゥゥゥゥゥン!!』

凄まじい衝撃音が響き渡る

強かに地面に叩きつけられた少女

全身を襲う激痛 霞む少女の視界に、巨大な金属うねりが近づく

直ぐに其れが戦車のキャタピラだと気付くが、痛む身体は動かない

衝撃音で聴力を失ったのか、辺りを異様なまでの静寂が包み込む

少女は自分を曳き殺さんと近づく戦車をキッと睨み付ける

せめて、せめてコイツらに意地の一欠片を見せつけたい!

目の前に迫る金属の轍 少女が死を覚悟した瞬間、それは突然小さく震え動きを止める

直後、車内から火だるまの搭乗員が飛び出して来る

何も聴こえないが、のたうち回るその姿から、凄まじい絶叫が伝わってくる

何が起きたか解らず、呆然とする少女

そこで力が抜ける様に彼女の意識は途絶えた…

 

 

 

 

 

「お客さん、起きて下さいよ! 閉店です」

誰かが肩を揺すっている

「!?」

カウンターに伏せっていたミラは起き上がり、辺りを見回す

「オ、ミ、セ、オ、ワ、リ……OK?」

「かたじけない… 」

外見から日本語が不自由なのかと思い込み、若干馬鹿にしたようなイントネーションで話かけたバーテンは、彼女の古風で流暢な返しに面喰らう

会計を済ませ、店を出る

既に時刻は深夜2時を回っている 酔った身体に冷たい空気が心地良い

ちょっぴり覚束ない足下 酒には逃げたくは無い、そう思いながらも、最近飲み過ぎる事が増えた

「!?」

行く手の路上で、若い男達が何やら騒いでいる

男達の足元には踞る幼い少女…

穏やかではない雰囲気に、ミラは顔をしかめながら近づいて行く

「このヤロ~ タダで済むと思ってんのか!」

「最近、店のゴミ漁ってんのテメ~だなぁ?」

「……ごめんなさ~い ……ごめんなさ~い」

香水の匂いをプンプンさせる茶髪の男… ホスト… という連中だろうか?

足元に踞る緑色の髪の幼女を足蹴にする

緑色の髪… それがラムネでなければ、ミラは当然とっくに男達を伸してその幼女を救い出しただろう

 

ラムネ……

 

主に日本に生息する野生の幼女

日本に来て間もない頃、飛び出して来た

ラムネをミラは車で跳ねた事がある

初めは子供を轢いたと思い動揺したものだ

まさか日本にも野生の幼女が居ようとは…

ミラの故郷、チェチェンではピンク色の頭髪の種族、日本で言う所のティナが主流だった

ラムネより一回り大きいが、存在感が無いのが特徴といえば特徴

チェチェンでは春になると、畑に巣くうティナを駆除する為、野焼きを行う

炎に追われて泣き叫ぶティナの声は、チェチェンに春を告げる風物詩だ

何処の国でも野良幼女は害獣なのだろう

ミラは男達の脇をすり抜ける

途中、男の一人がミラを見て下品な口笛を吹いたが、ミラからすれば頭一つ分も背の低い東洋の猿など、相手にする気も無かった

その男がその言葉を発しなければ……

 

「ヘ~イ! 綺麗だね~ 何処から来たの? 肌白いね~…… ロシアかなぁ?」

「!!」

ミラはその言葉に立ち止まる

「正解? ロシアの女の子、綺麗だもんね~ ロシア大好きよ~ あいらぶロシア~グェッ!? 」

男は最後まで喋れなかった

ミラの右手が男の首を締め上げていた

既に男の足は宙を泳いでいる

「な、何しやがんだテメー!」

仲間の異変に気付いた男達がミラに詰め寄る

ミラは右手に握る男を、その連中に向け、まるで人形の様に突き放つ

「うわっ!」

それを受け止め、よろけた先頭の男の側頭部に、白くしなやかな鞭が吸い込まれる

鞭… ミラの長く美しい御御足は、男達の目には実際そう見えた

三メートルを吹き飛び、路側の垣根に頭から突っ込む男

「畜生!」

別の男がミラに掴みかかる… が、ミラはその腕を掠める取ると、ガードレールに向け豪快な一本背負いを叩き込む

「ぐえっ…… 」

息一つあげず、ネオンの灯りを受けて踊る様に体術を繰り出すミラ

さすがに男達も、目の前の女が只者で無い事に気付いた

「お、覚えてろよ!」

伸びた仲間を抱えると、ザコ風味全開の捨て台詞を残し、男達は夜の街に消えて行った

「フゥ……… 」

ミラは大きくため息をついた

最近の自分はどうかしている

今、彼らに振るった暴力は必要なものだったろうか?

彼らに悪意があった訳では無いはずだ…

自己嫌悪と酒の悪い回りで気分が悪くなったミラは、足早にその場を離れようとする

 

「………だぁ~い好きだよ……」

不意に誰かに声をかけられた

「……だぁ~い好きだよ!」

見れば、先程まで男達に足蹴にされていたラムネだった

鼻血を出しながら、満面の笑みでミラを見詰める

どうやらミラが自分を助けてくれたと勘違いしている様だ

「これにて御免… 」

ミラはそんなラムネに背を向け、夜の闇に消えて行った

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