崖の縁のミウたん   作:新六毛

18 / 96
朝日の白銀 (4)

空港に着いたシーニーは渋滞を避ける為、早朝5時にはこの通りを通過する

その車がこの川に架かる橋に差し掛かった時が襲撃のチャンスだ

橋の上は逃げ場が無い

ラムネが自爆し前を塞げば、シーニーは身動きが取れない

 

橋の袂に身を潜めるミラと鼻血ラムネ

早朝の刺す様な寒気の中、ラムネは呑気にお菓子を頬張る

「これ~ 食べる~?」

ラムネはミラとピクニックでもしているつもりなのだろう、ミラの前にポップコーンを摘まんで差し出す

背中には爆薬が詰まった土嚢袋 目の前の道路の真ん中にはバツ印

ミラの合図でラムネは飛び出し、訓練通り袋の紐を引くだろう

なんの苦しみも無い筈だ 当然、恐怖も感じていまい

(お前も私と出逢わなければな… )

ミラはラムネの頭を軽く撫でる

病弱ラムネはあれから大分良くなった

ミラは彼女に所持金を全て預けてきた

どうせミラにはもう不要だし、彼女の大事なパートナーを道ずれにするのだから、せめてもの慰謝料だ

鼻血とのやり取りで、お金の使い方位は分かるだろう

ミラは彼女達に謝るつもりはない

ロシア軍への… シーニーへの復讐を決意した時、自分が死後、地獄の業火に焼かれる事も覚悟した

今更偽善などしない

 

 

 

人通りの無い早朝の通りに、仰々しい車列が現れたのはその時だ

「……時は来た、只それだけでござる……」

ミラは小さく呟くと、ラムネの肩に手を乗せる

ラムネはいつもの訓練の様に身を屈めてダッシュの体勢を取る

 

車列が橋に差し掛かる…… 今だ!

ミラはラムネの肩を叩く

其を合図にラムネが駆け出す… と、直ぐに立ち止まる

ミラは焦った

何をしている!? 訓練通りやれ!! ラムネは踵を返すと、ミラに深々と頭を下げた…

 

「……だぁい好きだよ!」

 

「!?」

 

今まで見せた事の無い穏やかな笑みで、ミラを見つめるラムネ

そして再び道路に記されたバツ印に向かって駆けて行く

 

……その手をミラは掴んでいた

驚き振り返るラムネの頬にミラの渾身の張り手が炸裂する

「……大キライだよ!!」

ミラはラムネの背中から土嚢袋を剥ぎ取ると、橋の上から投げ捨てた

呆気にとられるラムネの脇腹をミラの強烈な蹴りが薙ぐ

「ぶぇぇぇっ…」

その衝撃で吹き飛ぶラムネはそのまま袂の土手を転がり落ちて行く

ミラはポン刀を抜く

白銀の刃身が朝日を受けて鈍く輝く

車列の前を行く警備車両がその姿に気付いた時、ミラは既にその脇をすり抜けていた

「シーニー… 覚悟でござる!!」

ミラの跳躍から繰り出される渾身の一突きが、シーニーの乗る黒塗りのフロントガラスを突き抜け、後部座席に陣取るシーニーの心臓を貫く……

 

事はなかった

 

ミラの魂の一突きは無情にも、フロントガラスに微かな切り傷を残しただけだった

防弾ガラス…

襲撃を予知した当局の当然の対応だった

そのままボンネットを駆け登り、 車体の屋根からポン刀を突き立てんとするミラ

『パン! パン! パン!』

乾いた炸裂音が辺りに響く

「!?」

ミラの意思とは無関係に彼女の膝から力が抜け、車の屋根にへたり込む

それでも掲げたポン刀の狙いを定める

『パン! パン! パン! パン!』

今度は明確な激痛と灼熱がミラの身体を突き抜ける

『ドサッ』

音を立てて屋根から転げ落ちるミラ

シーニーの黒塗りはそのまま全速力で走り去る

冷たいアスファルトの上でそれを見つめるミラ

声にならない何かを、鮮血に濡れた唇が呟く

黒い大きな革靴が、彼女の白磁の様な頬を踏みつける

『パン! パン!』

その音にミラの身体は小さく弾んで、彼女の瞳から光が消えた

 

 

 

 

 

廃倉庫の中、ラムネの訓練は今日も続く

それを傍らで赤いコートを纏ったもう一人のラムネが見守る

額に玉の様な汗を滲ませながら、ラムネはじっと空を見上げる

野良幼女が何を思うのか、人間には分からない

彼女達は人間の様な感情は持たないとされる

人に似て、人の様に振る舞い、人の様に喋る、人ではない生き物…

時として人は、彼女達の言動に人と同じ知性や感情を垣間見る事がある

だがそれは、人の都合の良い解釈や思い込みであるという

暫く空を眺めていたラムネは、急に傍らのラムネに何事か話かける

赤いコートを着たラムネは慌てそのラムネの脇に立つ

天を覆う雲一つ無い、冬の突き抜ける青空…

何故か二人はそれをいつまでも見上げていた……

 

 

 

 

 

「あれ? なんだろ~コレ?」

せめてもの食料の足にと河口でカラス貝を削っていたミウたんは、目の前を流れて行く土嚢袋を手に取り、そこから垂れる糸を無意識に引っ張る

 

辺りは光に包まれた……

 

雄大な日本海に沈む紅の太陽

さざ波と鰯雲を鮮やかに染めて、時は今、サンセットモード……

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。