崖の縁のミウたん   作:新六毛

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北の国から来た少女 (2)

こけし相撲……

我が国に於いて、こけし文化の中心地と言えば、やはり東北地方といえるだろう

知識の無い者は、こけしそのものを東北の伝統工芸とまで誤認する

その東北地方に於いて、正月の代表的伝統行事がこけし相撲である(原文ママ)

円形の台座の上に置かれた二体のこけしを、それぞれのマスターが台座を叩く振動でコントロールし、相手を倒すか、台座の外に押し出せば勝利となる、まさにこけしによる相撲である

その昔、稲作の吉凶を占った事に始まると言われるこけし相撲

今日それは、こけしアーティスト達が己のこけしの可能性を追求し、互いの技量を琢磨し合う絶好の舞台として、こけし界三大イベントの一つとなっている

そのこけし相撲の東日本大会が今日、件のこけしアート用品店で開かれるのだ

ミウたんが来店した最大の目的も勿論、この新春恒例こけし相撲での腕試しなのである

 

こけしの実売から、鑿や彫刻刀は勿論、絵筆、鑢、ダイアモンド鶴嘴、その他諸々、こけしに関わる物なら何でも揃うこの店は、こけしアーティストや愛好家達にとってまさに聖地とも呼べる所である

ミウたんも店内でめぼしい物を物色しつつ、他のこけしアーティストと新年の挨拶や情報交換等を行う

ミウたんにとって残念なのは、こけしアーティストには若い世代が、それも女性は殆ど居ない事である

こけし界で次世代のホープとは一般に40歳迄を指す

それ程、ミウたんは飛び抜けて若い

同じ趣味を持つ友達や… ややもすれば彼氏が出来れば… そんなミウたんの希望はなかなか実現しない

 

開店から2時間…

時計の針がが11時を指す頃、こけしファイティングマスターとなったアーティスト達が、続々と裏庭の特設ステージに集まり出す

今年も、新春こけし大相撲大会が幕をあげる

今年は開幕カードから、前年度優勝者と、ミウたんとの縁浅からぬ鳴子の巨大こけし組織、ビッグバースト主将の対決という好カードが組まれ、大会はいきなり白熱する

ミウたんも自身のこけし力士、『ディア・サンタクロース ~もみの葉側位付け~』の調整をしながら、優勝候補同士の熱い闘いに視線を奪われる

そして白熱の初戦の興奮冷めやらぬ中、第二試合にミウたんが登場する

生意気にも、こけし界に於いてはちょっとしたアイドル、ミウたんは大きな歓声を受けて舞台に上がる

「ディア・サンタクロース、頼んだわよ!」

アニメの登場人物の様な厨二臭い台詞を吐いて、謎のポーズをとるキモいミウたん

対面に彼女の対戦相手が姿を表す…

 

「……お、お姉さま………!?」

「え、えぇっ!?」

ミウたんのお目目が見開いた

そこには朝方、駅で出会った、あのお上り少女の姿が…!

ま、まさか彼女もこけしファイターだったとは!

彼女はこの大会に出る為に上京して来たというのか!?

何と言う運命の悪戯か… 自分が姿を重ねたあの娘が、自分と同じこけしファイターとして自分の前に立ち塞がるとは!

ミウたんは意外なライバルの出現に動揺しながらも、待ち焦がれた同年代のこけしファイターの出現に嬉しさが込み上げていた

だが、試合は試合だ 嬉しいからこそ、先輩としての威厳を見せつけなければ!

 

「お、お姉さま… 朝はありがとうございます!」

「お姉さまって言うな! ディア・サンタクロース、やっちゃって!」

ミウたんは機先を制して攻撃を仕掛ける

少女のこけしはピンクを基調とした極めてオーソドックスな伝統こけしであった

そこにミウたんの真っ赤なディア・サンタクロースが襲いかかる!

こけし相撲歴3年の巧みなこけしコントロール

一気に勝負を決めるか、と思われた瞬間、少女のこけしはひらりとサンタクロースをかわす

「やりますよ!」

掛け声と共に少女が反撃に出る

ミウたんの先入観とは裏腹に、少女はかなりの手練れだった

「いただくのです!」

少女のピンクこけしが華麗なステップを刻み、サンタクロースに体当たる

体重が乗った鋭い一撃がサンタクロースの下半身を直撃し、大きくバランスを崩す 「やりますよ!」

止めとばかりに一気に詰め寄るピンクこけし

だがミウたんはこの瞬間を待っていた

「くたばりやがれ!」

前のめりになったピンクこけしの側頭部に、サンタクロースのニーハイが炸裂した そのまま場外に吹き飛ぶピンクこけし

勝負はあっさりと決まった

 

 

 

午前の部が終了して昼食タイム、ミウたんは少女を誘い、近くのファミレスへやって来た

当初は駅の立ち蕎麦280円で済ませる予定だったが、初めて出来た可愛いこけしフレンドに先輩面する為、急遽、紙鑢予算900円を崩してご馳走する事にしたのだった

こけし相撲のでの互いの健闘を称え、改めて自己紹介し合う

 

少女の名は麗羅、ミウたんより一つ年下の17歳

東北の裏の方からやって来たらしい

芳しい肉汁の香りを靡かせて、ハンバーグステーキが麗羅の前に運ばれて来た

「お姉さまは食べないのですか?」

「う、うん… 水が…大好きなんだ…… 」

唸りをあげる空きっ腹を押さえて、努めて笑顔を作る

まさかファミレスのまんまがこんなに高いだなんて…

麗羅が1100円のハンバーグステーキを注文した時、ミウたんのお昼は氷水になった

「……所で、麗羅ちゃんのご家族は? もしかしてご両親はこけし関係のお仕事でも?」

ステーキプレートの上で踊る肉汁に理性を失いながら、何とか会話を紡ぐミウたん 「………………」

だがその質問を聞いた麗羅の表情は急に曇り、ハンバーグを刻む手が止まる

(し、しまった… )

ついハンバーグに気を取られ、迂闊な質問を…

ミウたんはすかさず自分の身の上話に切り替えた

母を幼くして失い、父は失踪して天涯孤独な自分をさらけ出せば、麗羅もきっと許してくれるだろう…

ミウたんの予想通り、麗羅の顔に少し笑顔が戻った

 

「実は、麗羅も本当の両親は居ないのです… 」

だが、そんな麗羅の口から語られた身の上話に、ミウたんは驚愕する

麗羅も小さい時に母を亡くし、父は失踪したそうだ

そうだ、と言うのは、麗羅には両親の記憶が無いからだ

麗羅は父親の交際相手だった女性の元に残され、その女性の手によって育てられた 育てられた、と言っても、実際は愛情など無く、飯使いか奴隷の様にこき使われ、毎日の様に謂れのない暴力や中傷に晒されていた

女性には四人の娘が居り、彼女達からは言語を絶する性的虐待を受けていた

そんな麗羅の悲惨な毎日を支えていたのは、麗羅のたった一つの宝物、父が麗羅に残していったという、一体のこけしだった 「マルハン」という変わった名前が刻まれたこけし

麗羅は辛い時、悲しい時、寂しい時、このこけしに語り掛けた

麗羅にはこけしから優しい父の声が聞こえる気がしたのだ

麗羅はある時、夢を持った

こけし職人になりたいと…

自分と父親を繋ぐただ一つの接点、こけし…

こけし道を歩めば、いつの日か、父と再会できるかもしれない…

それが麗羅の夢であり希望なのだ

 

何と言う事だろう… まるで自分と同じではないか…

こけしに翻弄され巡り会った二人の少女

まるで妹の様… ミウたんは目の前の少女を他人とは思えなかった

それは麗羅も同じだった

 

 

 

その日の夕方、ミウたんは麗羅は駅のホームで熱い抱擁をして別れを惜しんだ

結局こけし相撲は、麗羅との会話が長引き不戦敗となったが、そんな事はどうでもよかった

ミウたんは麗羅にこのまま一緒に東京で暮らそうと誘ったが、麗羅は首を振った

如何に酷い扱いをされても、育ての親から黙って逃げる事はしたくないと…

それでもいつか必ず、こけし職人になるため上京し、ミウたんに会いに来ると誓ってくれた

ホームを離れ、東北の裏の方へ向かう特急にいつまでも手を振るミウたん

その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた…

 

 

 

ミウたんはこの後、自動改札に挟まれ意識不明の重体となるが、それはまた、別の物語である…

 

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