崖の縁のミウたん   作:新六毛

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青春セヴァストポリ

「ふわぁ~~ぁ」

まるでアニメキャラの様な大きな欠伸をしながら玄関を開けるミウたん

既に太陽は地平線を遥かに越えて朝と言うには幾分遅すぎる時間

爽やかな快晴の空の下、今日は幾分厳しさの緩んだ、冬の冷たいそよ風を胸一杯に吸い込みながら、ミウたんは大きく伸びをした

今日はアルバイトが休みの日 月に3日しかない休日の1日

思う存分寝坊して日頃の寝不足の仇をとったミウたんは、軽く上半身を屈伸しながら玄関先のポストを覗きこむ

木の棒を地面に垂直に挿して、ミカンの缶詰の空缶を付けただけの手作りポスト

何気にミウたんはこの瞬間が好きだ

新たな出会い、運命の出逢い

いつの日かこのポストに届けられる筈の愛の告白を想い、できればそれが今日であれと祈る

そして… 公共料金の督促状が3通と、宗教団体の不気味な絵葉書、女の子のマル秘高額バイトの勧誘DMが4通…

いつもと大して変わらぬ、味気ないリアル迷惑メールの束を、いつもと同じように片手に握って玄関を潜るミウたんだった…

その時、彼女の足下に1通の封書がひらりと落ちた

(手紙…?)

今日は少しだけいつもと違った

封書を拾いあげると、裏の差出人を確認するミウたん…

「………先輩!」

 

 

 

 

 

「それでは志望の動機をお聞かせください…」

張り詰めた空気が漂うオフィスビルの一室、パイプ椅子に腰掛けたミウたんは緊張を隠せぬ面持ちで慎重に言葉を紡ぐ

「あ…あ…あ…… あの… そ…せ、先輩のさせ… 紹介でその… はい…おん… 貴社? 御社? 御社に… えっ…と… はい……」

 

ミウたん御年18歳

中学卒業後、漠然と趣味のこけしアートで食べていきたいとの思いから宛もなく上京し3年

アルバイトや内職をしながらこけしアーティストの夢を追ってきたが、孤独と貧困に喘ぐ日々

流石に人生設計の建て直しを痛感させられていた

そんな時に届けられた1通の封書… 訪れた転機…

決して夢を諦めた訳ではない ただそのアプローチの仕方を変えるのだ

きちんとした会社に就職し、経済的にゆとりを得る方が、結果的に夢への近道である事に気付いたのだ

そうして今、ミウたんは生まれて初めての面接試験に挑んでいた

 

【株式会社平和】ーーーーー

 

ミウたんが選んだ就職志望先は、大手遊技機器製作会社だ

実はミウたんの先輩にあたる人が、この会社に派遣として働いているのだ

今回その先輩が、学歴不問の中途採用試験の実施を知り、わざわざミウたんに知らせてくれたのだ

同じ中学の先輩で、ミウたんの数少ない東京での顔見知り

こちらの業界ではちょっとは名の知れた存在で、ミウたんの憧れの存在でもあった

そんな先輩からの誘い… 先輩と同じ職場で働けたら…

そんな想いがミウたんの背中を押したのも事実だった

 

かつて経験のない極度の緊張の中、ミウたんの声は上ずる

額に玉の様な汗を浮かべ、視線は落ち着きなくさ迷う

普段の天真爛漫なミウたんの姿はそこにはない

「貴女… 18歳だよね? 学校出てから何やってたの? 今のアルバイトじゃ駄目なの?」

圧迫面接…

敢えて高圧的態度でプレッシャーを与える事により、面接者の本質やマニュアル外の対応力を見定める、昨今の面接の流行型…

中学卒業後、こけしと食べる事とエロ妄想以外にまともに興味を示さなかったミウたんに、そんなプレッシャーをはね除けるのは到底不可能だった

 

『ぎゅるるるるるぅぅぅ……』

 

ミウたんの下腹部が悲鳴をあげ始めた

(お腹が……!)

ミウたんの中を熱い何が下って行く

「大体面接だって言うのに貴女のその格好は何? そもそも求人票ちゃんと読んだ? ウチはね、巨乳が欲しいんだよ ウチ場合、基本面接は水着が普通だからね?」

 

『ピ~~~ プスプス……ゴロゴロ…… 』

 

「貴女の先輩も相当な巨乳だけど、何で貴女を推薦したのかな? 顔が多少かわいいって言ったって、ウチの社員は相当レベル高いよ? ひょっとして貴女、パンツ見せれる系?」

 

『ビッ… ビチビチ……プス…ブバッ……』

 

「どうしたの? 何で黙ってるの? 顔色良くないね? 大丈夫? ……ん? 何か臭い…?」

パイプ椅子に座ったまま項垂れるミウたん…

微かな嗚咽をあげ小さく震えている

膝に置いた白いお手々に、ピタピタと透明な滴が垂れていた…

慌て窓を開ける面接官達…

タオルケットを与えられトイレの場所へ案内されるミウたん

歩く度にその股間から悪臭を放つ茶色いの滴が漏れ落ちる…

漸く女子トイレにたどり着き、這うように個室に逃げ込むミウたん

「うぅ…… ううぅ……」

東京に来て幾度目になるだろうか、滂沱がミウたんの白磁の様な頬をまた濡らす

何でいつも私はこうなの…? 私だけ幸せになれないの…?

 

(面接が終わったら、久しぶりに一緒にお昼を食べましょう)

 

楽しみにしていた、そんな先輩との約束…

「こんななりじゃ、行けないもの…」

トイレットペーパーを幾重にも巻き取り、事後処理に追われるミウたんは、己の生まれた星を呪わずには居られなかった

 

何とか人としての最低限の外見的状態を回復したミウたんは、面接室には戻らず、玄関ロビー置かれたゲッキツの鉢植えを然り気無く両手に抱えて平和を後にした

新しいスイーパーの移籍金をそれで捻出する為だ

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