我が国を代表する伝統工芸、こけし…
その発祥には諸説ある
一般的に広く知られている説では、源平合戦の折、源義経が寡兵を欺く為に陣中に並べた木彫りの人形に始まるとされている
今日、こけし工芸の中心地と言えば東北地方であるが、これも、義経の奥州行の際に伝えられ、広まったとされる
(民明書房刊 「日本こけし大全 ~その謎と伝承~ 」より)
「はぁ~ はぁ~」
麗羅は悴む指先に息を吹き掛けながら、軒先の洗濯物を一枚一枚取り込んでいく
麗羅の住む東北の裏側はこの時期、最高気温が10℃を上回る事はない
散々な嫌味と悪態をつかれながらも決行した東京への日帰り旅
普段は大人しく言いなりの彼女が必死に懇願し、許されたその代償は予想通り厳しい物だった
普段から麗羅の仕事である炊事洗濯に加え、雪かき、買い物、町内会の清掃まで…
全てを麗羅が担当する事になった
正に寝る間も無い程の忙しさである
だが麗羅に後悔はなかった
東京で出会ったあの人の存在が、今の麗羅には何よりの励ましになっていたのだ
「…ねぇ 麗羅、今月号のClEL買って来てくれた?」
「すみません、お姉さま… まだなのです… 洗濯が終わったら麗羅、直ぐ行くのです…」
「ハァ~!? アンタ、朝からずっと洗濯してんのにまだ終わらないの? ほんとノロマだね!」
「…麗羅、反省です……」
ボブショートの、いかにも勝ち気そうな姉からの容赦ない叱責に俯く麗羅
「真理亜、麗羅を責めては可哀想でしょ… 朝からろくに休んでないのよ…」
そんな麗羅に助け船を出す存在が現れる
「宛子姉さん… だってコイツ…!」
宛子と呼ばれたロングヘアーにオーバル眼鏡の女性は、何も言わず真理亜を見つめる
「!?………うぅ……」
その無言のオーラに圧倒されたのか、まるで蛇に睨まれた小動物の様に、真理亜は背中を向けて足早に立ち去った
「ゴメンね、麗羅ちゃん… 本当は私が代わってあげたいけど… お母様に知られたら…」
そう言うと宛子は麗羅の頬を撫でた
端から見れば、麗羅に同情を寄せる心優しき姉…
だが、そんな姉に頬を撫でられた麗羅は、その場に凍り付いた様に動かない
側に居れば気付いたかもしれない
その時麗羅が身を震わせ、奥歯をカチカチ鳴らして居たのを……
東北の裏側… 冬は全てが雪に閉ざされる山間のこの地で、麗羅は母と四人の姉と一緒に暮らしている
美人一家として、地元では知らぬ者の居ない、有名な存在である
母は少し離れた田舎町の場末のスナックでママを務めながら、五人の娘達を育て上げてきた
麗羅はそんな母に感謝していた
血が繋がらない自分にも、生きて行けるだけの食べ物と、最低限の教育を授けてくれた
そんな自分が義理の姉達に尽くすのは当然だと麗羅は思う
だが、麗羅には夢があるのだ
こけし…
幼い時に失踪した麗羅の父親が彼女に残した唯一の物…
麗羅はこけし職人に成りたいのだ
こけし職人の道を極めれば、いつかきっと 父に出逢える…
保証は無いが、麗羅は確信していた
近い内にこの家を出よう
そしてその為にも今、精一杯恩返ししよう
麗羅は今夜も氷の様な冷たい水で米を研ぐ
『ドタッ… ドタッ… ドタッ…』
階段をかけ降りる音がして、台所の引き戸が開いた
ツインテールの少女が冷蔵庫を開けて、麦茶を冷水筒から直接かぶ飲みする
「………なによっ!」
麗羅の視線に気付いた少女は鋭く、それでいて深い悲しみを湛えた瞳を麗羅に向ける
麗羅は直ぐに向き直して、再び釜の白米を研ぎ始める
少女ははたけたブラウスのボタンを閉め直しながら、台所を出て行った
程無くして、再び引き戸が静かに開く…
麗羅は敢えて反応せず、味噌汁具材を刻んで行く
「あら? 今夜は茄子の御味御汁?」
そんな麗羅の肩越しに宛子が顔を覗かせた
コクリ… 麗羅は無言で頷く
「危ないわよ、麗羅ちゃん… 包丁はもっと立てて使わないと…」
宛子の長い指が、まな板の上で包丁を握る麗羅の右手を包む
「お、お姉さま… お魚が焦げてしまいます…」
背中に覆い被さる宛子から逃れる様に、魚焼き器に飛び付く麗羅
「ふふっ 可愛いわね…」
炊飯器から立ち上る湯気で眼鏡を曇らせながら、宛子はうっすらと微笑む
「疲れてるでしょ? 今夜、久々にマッサージしてあげるわね… 今日は一番にお風呂に入りなさい…」
「つ、疲れてなんかいません! それに麗羅、お風呂は最後で…!」
「私を待たせるの? 後片付けは真理亜にやらせるから、先に入りなさい…」
麗羅はそれ以上何も言えなかった
曇った眼鏡越しにも分かる鋭い宛子の眼光
(あぁ……ぁ……)
麗羅は膝頭が震えて、今にも崩れ落ちそうだった
自分が家族と血が繋がっていないと知ったのは、小学四年の冬だった
真理亜姉さんが学校の回転遊具から転落し、大怪我をした事があった
頭を切り、大量の出血で輸血が必要となった
その時、初めて血液型のロジックを知った
A型の自分とB型の家族…
自分が赤ちゃんの頃に亡くなったと聞かされた父
その血液型がB型だったと知った時の絶望は、言葉では言い表せ無かった
恐る恐る母にその事を訊ねた
予想に反して母はあっさり、自分がかつて交際していた男が預けていった赤の他人だと認めた
その時、自分の心の中に鬱積していた蟠りがほどけた
姉妹の中で常に感じていた不平等感… 謂れの無い暴力や心無い罵声…
それが自分に向けられる理由が漸く理解できのだ
母を、姉達を恨み、憎んだ事もあった
だが、自分の本当の父が残していったというこけしを見た時、その優しい微笑みに諭された気がした
赤の他人の自分を家族として受け入れてくれた皆を恨んではならないと…
不意に麗羅の寝室に光が射し込んだ
「待たせてゴメンなさいね… 真理亜が聞き分けないから、お説教をしていたの…」
ベッドの上で背中を向け、身動ぎ一つせず固まる麗羅
真理亜姉さんの悲鳴と許しを乞う叫びは、一時間も前から聞こえていた
麗羅の頬に柔らかい感触が伝わる
ベッドに入ってきた宛子の頬の感触だ
その手は麗羅の頭を撫で、頭髪を弄ぶ
「疲れたでしょ? 麗羅はいつも頑張ってるものね…」
空いた左手が麗羅の腰の辺りを優しく揉み解す
宛子の唇が麗羅の頬の上を滑った
髪を弄っていた右手が肩越しに麗羅のパジャマの中に滑り込んでくる
どうと言う事は無い… 何時もと同じだ… ほんの一時間も時が過ぎれば、後はゆっくり眠れるのだ…
普段は知的でクールな姿しか見せない宛子の荒い鼻息が、闇の中に響く
暗闇の中でもうっすらと浮かび上がる二人の白い肌
肉と肉が擦れ合い奏でる卑猥な旋律
「可愛いわよ… 麗羅…」
宛子の舌が麗羅の咥内に乱入する
麗羅はただ目を瞑り、時が経つのを待つ
心を無にする… それが麗羅が出来る唯一の抵抗手段なのだ
だが、そんな麗羅の儚い抵抗など、宛子にとってはまさに赤子の手を捻るも同然
尻肉をまさぐっていた宛子の指が突如、蛇の様に股の間に滑り込み、麗羅の秘所の敏感な一点を刺激する
「あうっ…!?」
思わず声をあげてしまう麗羅
その羞恥心が彼女の無の心を書き乱す
「ふふっ やっぱりここがいいのね…」
獲物を捕らえた蛇は、無慈悲に麗羅の秘所を蹂躙していく
麗羅は腹の底に熱い何かが湧き上がるのを感じた
(駄目… 駄目です…!)
その熱い氾流から逃れようと身体を捩るが、完全に宛子に組敷かれ、微動だに出来ない
宛子の長い髪が、さながら触手の様に麗羅の身体に絡み付く
絶望的状況の中で、沸き上がる熱い氾流が遂に麗羅の全身を呑み込んでいく…
「うっ… うわっ… うわぁぁっ…… お姉さまっ……!」
白い閃光に満たされる麗羅の脳裏に浮かんだのは、宛子の姿ではない
あの日… あの時… 見知らぬ都会で、自分を優しくエスコートしてくれた女性…
駅のホームで別れを惜しみ、熱い抱擁をくれた女性…
自分を妹の様だと言い、一緒に暮らそうと誘ってくれた女性…
生まれて初めて、自分を本当に愛してくれた女性…
(……ミウお姉さま………… )
麗羅の瞼から一筋の涙が溢れた
涙と体液に濡れたシーツの上に横たわる麗羅
寝室を包む闇より暗い闇が、彼女の心を染めていた
ミウお姉さま… こんな私でも… こんな汚れた私でも… 妹と呼んでくれますか…
どうして私は… 貴女の妹に生まれなかったの…… どうして……
疲れ切った麗羅の意識はそこで途切れた
"はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…"
ベッドの上でこれまでに無い、荒い吐息をあげるミウたん
パンティの中で激しくのたうっていた右手が、漸くその動きを止めた
(はぁ~ たまには義理姉妹GLもいいものね~)
ミウたんには百合趣味は無いが、あの日、麗羅が語った一言がミウたんの耳に焼き付いていた
(姉から虐待を受けている……)
その抽象的な言葉から無限に広がるイマジネーションが、ミウたんのエロ妄想を完全に暴走させていた
この半年でも最高の独りエッチ…
よく分からない寸評を付けるミウたんの肌は、何時もにまして艶やかに潤っていた