崖の縁のミウたん   作:新六毛

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未来の今頃 (1)

ガス代節約の為、1週間に1度と決めているお風呂ちゃぷちゃぷタイム

肩まで浸る久しぶりの湯船の快感に、思わずオッサン臭い呻き声を上げるミウたん

だが、その吐息は決して湯船の心地よさだけから来るものではなかった

バスタブの中に伸びる白くスレンダーなミウたんの肢体

仰け反る様に浴室の照明を見つめながらミウたんは呟いた

「おパンツを見せて……10万円………」

 

ミウたんの元にその手紙が届いたのは昨日の事

差出人はミウたんの中学校の先輩にあたる1人の女性

学生時代は殆ど面識がなかったが、上京後ふとしたきっかけで再会し、以後何かとミウたんの事を気遣ってくれる、数少ない相談相手なのだ

先日もミウたんの就職先の斡旋に、自分の派遣勤務先を紹介してくれたばかり…

残念ながら面接でのアクシデントからお祈りされてしまったが、今回再びその会社での短期バイトの募集があり、生活苦に喘ぐミウたんに声を掛けてくれたのだ

手紙に綴られた内容からするに、今回動いているプロジェクトは何でも、その先輩が中心となって企画されたものらしい

仕事の内容は至って簡単、ある映像作品で寸劇に合わせて尻餅をつき、パンツを見せるだけ…

パンツは白の他に、赤、虎柄等がある

顔は殆ど映らない 望むなら全く映らなくしても良い

 

10万円…

 

今のミウたんにとってはとてつもない大金である

だがしかし… ミウたんも女として、人としてのプライドがある

パンツを見せて金を取る こんな事をしていいのだろうか?

顔が映らないとはいえ、こんな仕事をしている事を知ったら、大好きなお父さんを悲しませる事にならないだろうか?

天国のお母さんはどう思うだろうか?

ミウたんは思う、このお仕事でお金を手にしたら、もう二度とあの日の砂浜で夕陽を眺めて感動していた自分には戻れないだろう…

バスタブの中に顔を沈めるミウたん

程なくして何かを決心した様に立ち上がる

神々しい迄に艶やかな、若いミウたんの濡れた白肌が、浴室の照明を浴びて輝く

この仕事は断ろう…

例え明日も何とか水産から流れてくる鯖味噌定食の匂いで塩むすびを頬張る惨めな昼食を取る事なっても、自分はいつもの大好きな自分でいよう…

ミウたんはバスタオルをその細い身体に巻き付けると、お風呂上がりの楽しみであるお手製牛乳寒天 ~中国産きな粉とベトナム産黒大豆を添えて~ を放張る為にスキップしながら台所へと跳ねて行った

「う~~ん でも、やっぱり10万円欲しい!」

答えは初めから決まっていた

ただ、恥じらう乙女でありたかったのだ

 

 

 

ミウたんはその夜、不思議な夢を見た

ミウたんは何故か宇宙飛行士で、人類初の月面探索のミッションに挑んでいた

静寂で神秘的な月面を行くミウたん

ふと、パウダーサンドが積もる視線の先に、二本の轍が現れた

誰も居ない筈の月面に…

ミウたんは地球の基地の承諾を得て、轍の先を追う

程無くして轍は小さなクレーターの縁で途絶えた

ミウたんはクレーターの中を覗き込む

擂り鉢型のクレーターの底に、ミウたんが乗って来たのと同じ探索車が停まっている

ミウたんはクレーターの縁を慎重に降りて行く

探索車に近づくと、中からミウたんと同じ宇宙服を着た何者かが降りて来た

改めて基地に接触の許可を取ると、ミウたんは恐る恐る彼の元に近づく…

「我々は… 君達が… 此処に来るのを… もうずっと… 何千年も… 何万年も… 待っていたのだよ…」

突如、ミウたんの頭の中に声が響いた…

そこで目が覚めた

 

「10万円か~ 何を買おうかなぁ~」

明くる日、カウンターで堂々と賄い代わりのフライドポテトを頬張りながら、ミウたんは独り言ちる

ミウたんのバイト先のファーストフード店は、お世辞にも人気の有る店とは言えない

基本、お昼と夕方以外は客も疎ら

雇われの身、暇に越した事は無いとは言え、時間を潰すのも楽ではない

ミウたんは今朝見た夢を思い出した

(宇宙旅行もいいかなぁ~)

空想の世界に想いを馳せるミウたん

低知能で極貧人生を歩んだミウたんにとって、10万円という金は、己の欲望の全てを具現化できる途方もない大金の印象を持つのだ

「い、いらっしゃいませ~!」

二時間ぶりの来客に、慌てポテトを飲み込むミウたん

オーダーされた金平鮪バーガー30個の調理に忙殺され、夢の事など、直ぐに記憶の中から消えていったのだった

そんなミウたんの元に、先輩からの待望の返信が届いたのは、丁度バイトのシフトも休みになった水曜日の事だった

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