(???)
状況が飲めないミウたんは暫く硬直した後、周囲を見渡しながら歩き出した
(飲み過ぎた……かな……)
外気の冷たさと、不可思議な状況に徐々にミウたんの酔いが覚める
(!?)
ふと、行く手の傍らに踞る人影… 近付いて見れば髪の長い少女だった
「ど、どうしたの? もしかして… 迷子かな~ 実はあたしもなんだ…」
ミウたんは縋る思いで話し掛けた
とりあえず洋館に戻らねば…
「……私… まだ… 働ける…… きっと… また… 遊んでくれる……」
「えっ!? なぁに? 具合悪い…の?」
その声に反応して向けられた少女の顔は、血の様な赤錆にまみれていた
「きゃぁぁぁぁぁぁっ!!」
まるでホラー映画のヒロインの様な悲鳴を上げ、ミウたんは駆け出した
「はぁ…はぁ…はぁ…」
(何なの今のは… 人間じゃない…)
息を切らせてへたり込む 酔いは完全に覚めていた
ふと、視線の隅に動く陰… 見れば作業着に身を包んだ中年男性
「あ、あのすみません… 助けて下さい! 洋館に… 燦憊館に行きたいんです!」
「ラビッシュカテゴリー…… ノットシリアル……」
人工音声の様な無機質で抑揚の無い声に、ミウたんは無意識に恐怖を感じ飛び退る
次の瞬間、男の手に握られたチェーンソーが、つい一秒前までミウたんが屈んでいた芝生を蹂躙する
「きゃっ!?」
男の目が赤く光り、ミウたんを睨む
男の手に握られていると思ったチェーンソー、それは男の右腕そのものだった
「いゃぁぁぁぁぁぁっ!!」
再び全力で疾走するミウたん
前方に見覚えのある空中ブランコが見えてきた
(そうだ、確かあの影に…!)
空中ブランコから洋館の見えた左手を見渡す
だが、其処には暗い森が広がるだけだった
(い、一体…… 何が起こったの……?)
ミウたんは混乱する頭と、憔悴しきった心で必死に答えを探した
「!!」
不意に、ミウたんの肩を誰かが優しく叩く
振り向くとそこにアカネが立っていた
「どうされました… さぁ… 宴の続きを致しましょう…」
そう言うアカネの笑顔がボロボロと泥人形の様に崩れていく
「いゃぁっ!! いゃぁぁぁっ!!」
「愚かなお方… あれ程寄り道はいけないと…」
涙を尿を垂れ流し、発狂寸前のミウたんの腰は完全に抜けていた
「でも… 怖がる事は… 無いのですよ… 皆が必ず通る場所… なのですから…」
「!?」
ボロボロに崩れたアカネの顔の下から、またアカネの美しい顔が現れた
女神の様に優しい微笑みが、ミウたんの痙攣を止める
「貴女は… まだ… 早すぎる様ですね…」
アカネはゆっくりと振り返る
「ここは… 役目を終えた… 遊具の墓場なのです… 人に魂を与えられ… 人に喜ばれ… 人と共に生き… そして人に魂を奪われる… 人成らざる物達の墓場…」
「!!」
ミウたんは目を見張った
アカネの見詰めるその先には、ガラクタだった筈の遊具達が光り輝き、楽しげに乱舞する姿があった
「お行きなさい… 貴女にはまだ必要としてくれる人がいるようです…」
アカネは入場口の方を指差す
すると七色の電飾で鮮やかに飾り付けられた玩具の草花が、音も無く魔法の様に生えてきた
恰も、ミウたんを誘う様に…
恰も、在りし日のセレモニーの様に…
ミウたんはゆっくり立ち上がると、涙と鼻水を袖で拭い、光の絨毯の上を駆け出す
少し進んだ所で、ミウたんはアカネに振り向いた
アカネは何も言わず黙ってミウたんを見詰めている
「初めて来たけど… この遊園地…… 楽しかったよ……」
そう言うと、再びミウたんは駆け出した
ジェットコースターのレールを潜り、カートコースの脇を抜け、メリーゴーランドに差し掛かった時、その白馬に独り股がり、光りと輪舞するあの少年と目があった
「良かったね… 間に合いそうだ…」
「貴方は… お馬さんだったのね…」
少年はもうミウたんの声など聞こえないように、楽しそうにいつまでも白馬に揺られていた…
再び、掠れた金属音を響かせてミウたんは柵門から飛び出した
途端に、背後の喧騒が掻き消える
振り向くと其処はもう漆黒の世界
「!!」
ミウたんは柵門の上に懸かる看板を見て息を飲んだ
【山之中産廃処分場】
昼間には無かったその看板
柵門の向こうの闇に目を凝らせば、何時の間にか其処は、ガラクタの山が幾つも連なる廃材置場になっていた
ミウたんは先日見た、夢のラストシーンを思い出していた
「いつか…… また… 会いに来るね……」
そう呟くと帰宅の途に着いた
「ハイ、カァーーーーーット!」
突然の怒号と共にスポットライトの光りがミウたんを包む
「いや~~~ いい演技だったよ~~~」
セーターの袖を結び、マントの様に羽織るチョビ髭の男が、メガホンを叩きながら近付いて来る
「まさかデモテープでこの出来とは~ 君のお陰できっと明日の本番は、君の先輩がもっと可愛くセクシーに演じてくれる筈だよ! ハイ、謝礼ね! 少し弾んといたよ! じゃあ! お疲れ! 撤収!」
マシンガンの様に一方的に捲り立てると、唖然とするミウたんを独り残し、撮影隊は闇の中へ消えて行った…
この直後、ミウたんは露出狂の大群に遭遇し、心がガラクタになってしまうが、それはまた、別の物語である…