「当たらないわよ…」
炬燵の上に無造作に散らばるスクラッチくじの残骸と銀色の屑…
アミヤは最後の一枚を削り終えると、それと百円玉を傍らに放り、大の字に寝そべった
「当たらないわよ…」
人も疎らなマイジャグの島 レバーを叩く手に思わず力が籠る
その端正な顔を紅潮させるアミヤの頭上のデータカウンターは四桁を刻んでいた
「当たらないわよ…」
最近ハマったソーシャルゲーム"萌えスロコレクション"
【SR・晴れ着で初詣~八九寺真宵】狙いで課金ガチャを回すが、三万円を賭けて出てきたのは【鬱病末期~ローズマリー】と【整形失敗~今川ヨシモト】だけだった
当たらない… 思い起こせばアミヤはいつも不遇だった
子供の頃からくじ運がなかった
掃除当番をくじで決めれば、アミヤは誰もが嫌がる鶏小屋になる
お祭り屋台のスピードくじで、光るブレスレット欲しさにお小遣いを全ツすれば、着色料満点の風船ガム30個に化ける
大人になっても《引き》は弱かった
コンビニで700円以上お買い上げで当たる物と言えば、七味唐辛子が関の山
今だかつて使い切った事など一度もない
2chにスレ立てしようとすればタイミングがどーたらこーたら…
会社を出れば雨が降り、家に着くと雨があがる
電車に乗ればガラガラの車列で、何故か自分の車両だけ搭乗率300%…
車を運転すれば、信号待ちの最前列はおかしなまでに、常に自分…
1/30は当然引けず、1/10に滑り込む事など無く、1/2も当てられない
だけど、不運の1/100は恐ろしい程自分に吸い込まれる…
アミヤは思う
人間には《運力》があるのだと
《握力》や《視力》の様なそれは、今の科学では証明出来ないだけで確実に存在し、人間の運命を左右しているのだと…
そう、この世はより運力を持つ者が、より幸せを勝ち取るという単純明快なシステムでなりたっているのだと…
「……!!」
炬燵で大の字になっていたアミヤは何かを閃いた様に飛び起きる
運力が《力》の一種なら、それは筋力の様に鍛える事が出来るのではないか!?
根拠は無いが、試してみる価値はあるかも…
明くる日から、アミヤの特訓は始まった
アミヤは大福餅を3つ用意する
1つを手に取りチューブワサビをぶっ刺す
ワサビ大福の完成だ
目を瞑ってそれをシャッフルする
「2/3… 継続率66%、ミドルタイプ… 当たらないわよっ!」
右端の大福を手に取り、勝利への気合いと共にに大口を開けて食らいつく
「………ぶべらっ!」
ジオングを彷彿とさせる壮大な大福粒子砲をかますアミヤ
側に転がっていたノンアルビールのタブを慌て抜いて口内に流し込む
「はぁ……ひぃ……ふぅ………」
いつものアミヤならこの時点で不貞腐れ、投げ出すところだろう
だが、今日のアミヤは違う
明晰な彼女の頭脳が、冷静に状況を分析する
今のは全般に中途半端だった
もっと厳しく、スリリングに自分を追い込めば何かが見えてくる筈…
アミヤは本気だった
今度は大福の数を5つに増やす
その代わり、当たり(外れ?)の1つには更にペナルティを加える
大福の餡を抜きワサビチューブまるごと一本、そこにコンビニで貰った七味と消費期限切れのフリスクをブレンドした
「4/5… 継続率80%MAXタイプ… 絶対に当たらないわよ!」
祈りにも似た決意を述べて、アミヤは真ん中の大福を手に取った
一瞬の間をおいてから、それを一気に口の中に押し込んでいく
「…………ん? …………セーフ? …よし、初戦突ベベベベベベっぐぁっ…………!!」
猛烈な衝撃はやや遅れてきた
もんどりを打ってのたうち回るアミヤ
幸運の8割は引けないのに、不幸の2割は外れない…
(運って何なの… )
薄れ行く意識の中で、アミヤはこの宇宙を創造した神に語りかけていた
それからもアミヤの運修行は続いた
ある日の夕食ではサイコロを用いた
ご飯、味噌汁、漬物、佃煮、海老フライ、サラダ… メニューの書かれたサイコロの出目が、アミヤの箸の行方になる
結局、白米を茶碗三杯とサラダ一口で吐き気を催し夕食は終了した
手付かずの車海老フライを、コンポストに廃棄するアミヤの目には悔し涙が溢れた
買い物帰りのある日はトランプを用いた
スーパーを出て家までの帰り道、歩道に敷かれたブロックをマスに見立て、引いたトランプの数字だけ進むのだ
ただし進めるのは絵札だけで数札は後戻りする
結局二日後、40メートル後退した所で意識を失い倒れ、救急車で搬送された
1メートルも前に進めなかったのも悔しかったが、気づいた所が精神病院という事も、アミヤを深く傷つけた
それでも徐々にではあるが、アミヤは自分の運力が鍛えられていくのを実感していた
ゴミ捨ての際に近所の住民に出合う確率は確実に減少したし、駅のトイレの個室が綺麗なまま空いている確率も、以前より明らかに増えた
遂には"萌えスロコレクション"で念願のSR【江戸のちょい悪岡っ引~水無月遥】を二万の投資でGETしたのだ
事ここに至り、いよいよ自分の運力の上昇を確信したアミヤは腕試しとばかりに、久々に仮の職場の1つ、"ヘルシティ"への出社を決めたのだった
凄腕NHK受信料徴収人としての肩書きを持つアミヤだが、基本、徴収人としての業務は月10日程度しかない
デキるキャリアウーマンとしては、無知なご近所からあらぬ勘繰りをされたくはない
その為、月に10日は仮の職場に出勤して、世間の目を欺くのだ
その1つ「ヘルシティ 」には先日のマイジャク1400ハマり以来出社していない
延滞している給料を受け取る時は来た
アミヤはシャワーを浴びて身を清めると、 白いコートに青いマフラーを纏い、颯爽と地獄の門を潜るのだった
普段はハナジャグ等、告知系しかやらないアミヤ
だがせっかくの運試し、ここは1つ爆裂AT機にでも…
メイン通路に面した新台、看板機種コーナーを練り歩く
吉宗、獣王、北斗… アミヤも聞いた事のある人気機種達だが、いまいち気が乗らない まず、打ってる人達がいかにも玄人っぽい
あの間で目押しも覚束ない自分が打つのは気が引ける
それに何だか皆イライラしていて人相も怖い
あんな島に若くて美人な自分が入って行ったら、あの狂った獣供に昇天するまで大盤振る舞いされてしまうかもしれない…
身勝手で卑猥な妄想に身震いしながら、アミヤはバラエティーコーナーにやって来た
(こっちのが人が少なくて良いわね… )
先程の島とは大分客層が違うバラエティーコーナー
ある台の前でアミヤの足がピタリと止まった
"麻雀物語2"
「こ、これは……!?」
アミヤはスマホを立ち上げ"萌えコレ"にアクセスする
キャンペーンページのリンクを踏むと、それは現れた
「間違いないわね! これね!」
【SR・不妊治療~風上あやか】
"萌えコレ"マニア垂涎の的、実機で万枚を出さなければ手に入らない、激レアカードの1つ
普段のアミヤなら意識もしないそれが、今日の自分なら手が届きそうな気がする
アミヤは躊躇なく麻雀物語に腰を下ろすと、コインサンドに万札を突っ込んだ
その日のアミヤはやはり何時もとは違った
いきなり投資2Kから集中ステージを経てAT当選
それは単発で終わるが、天国128Gで引き戻す
そこでボーナスとラッシュが絡み220G乗せ
消化中、直乗せ3連発が来た時は思わず軽く失禁した
終わったかと思っても、裏乗せ裏乗せで終わる気配無し
止めはロングパトランチャンスで300G乗せ
アミヤ震える手でドル箱にコインを詰めて行く
時間はまだ昼を過ぎたばかりだ
これは… 本当に… イッちゃうのか…!
……からの-80K
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
夜7時を回る頃、錯乱状態のアミヤがバラエティーコーナーからふらつきながら出てきた
訳の分からない譫言を呟きながら、仮面ライダーの小冊子を破いて口に詰めていく
店員に抱えられ、到着した黄色い救急車で何処かへ運ばれるアミヤ
その後、彼女の姿を見た者はいない…
「へへっ…… へへへっ…… 大勝利だよ……」
虚ろな瞳でスマホを眺めるミウたん
念願のSR【ネガティブアルピニスト~由利鎌之助】を獲得する事に成功したが、投資70Kはミウたんの生命維持活動に致命的であった
この後、ミウたんはコンビニの廃棄弁当を啄み、見事胃腸に大当りするが、それはまた、別の物語である…