「やっぱり李里江姉さんが一番似合うわね…」
「や、やめてよ宛子~ 別にこの日の為に隣町までジム通いしてた訳じゃないんだからね! 勘違いしないでよね!」
白装束に身を包んだ姉達は朝からご機嫌だった
"珍満祭"
麗羅の住むこの地で古くから伝わる伝統行事
普段は厚い雪と迫る山嶺に押し潰されたかの様に閉鎖的で息苦しい田舎町が、旧正月のその日は、日頃の鬱憤を晴らすかの様に活気付く
若い男女が白装束で夜通し押しくら饅頭をするという、日本七大奇祭の一つ
この祭は田舎の純朴な男女に、出会いの場を与えるという側面もあるのだ
年頃の姉達が色めき立つのも無理はない
だがそんな田舎町の一大イベントも、麗羅には関係の無い事だ
何時もと同じ様に家事をこなしていく
麗羅は祭りに参加する事は許されないのだ
楽しそうに声を弾ませながら家を後にする姉達
何時もはちょっぴり目頭が熱くなるその瞬間だが、今年は違う
今日は姉達も帰って来ない
プリシラと二人でずっと居られるのだ
一緒にご飯を食べて、一緒にお風呂に入って、一緒にデザートを食べて、一緒にゲームをして、そして眠くなったら一緒にベッドに入ってねんこしよう
麗羅は何時にも増して手際よく家事を済ませると、納屋で首を長くして待っていたプリシラを招き入れた
「ストックタイムです! 右です! 左です! 中です!」
「ぴぴるれにゃん! フルハウスにゃん!」
「麗羅の負けです~ プリシラさん強い!」
暖かいリビングでトランプに興じる麗羅とプリシラ
『グゥ~~』
「にゃにゃん…?」
プリシラのお腹の虫が鳴く
「そろそろ晩御飯にしましょう! 今夜はプロヴァンス風お芋の煮っ転がしですよ!」
何時にも増して腕を振るったご馳走で、プリシラをもてなす麗羅
鼻歌を奏でながら上機嫌でお皿に盛付ける
その背中をプリシラは物憂げな表情で見詰める
「……麗羅にゃんは…… お祭り… 行かないにゃん……?」
湯気が立つ煮っ転がしのお皿をお盆に乗せて、麗羅がやってくる
「麗羅、お祭り何て興味ありません… プリシラさんと一緒のが楽しいのです」
納屋に潜んで居れば家族の会話も聞こえるのだろう
賢いこのプリシラはお祭りを理解出来るのかも知れない
「麗羅の自信作ですよ! さぁ召し上がれ!」
こんなに楽しい食事は、東京でミウお姉さまにご馳走して頂いたあのファミレス以来だ
麗羅の頬が思わず綻ぶ
麗羅は姉達が決して嫌いな訳ではない
少なくとも自分にはそう言い聞かせている
だが、プリシラと囲む夕食は、普段食べるどんなご馳走より美味しかった
「実は麗羅、プリシラさんにプレゼントがあります!」
夕食後のリラックスタイム
麗羅は自分の部屋から小さな包みを持ってきた
「気に入って貰えたら、麗羅感激です!」
包みを解くと、中からカボチャのアップリケが姿を現した
麗羅はそれを安全ピンでプリシラの魔女帽子にくっ付ける
「麗羅の手作りです! 二人の友情の証ですよ!」
「ぴ… ぴ… ぴ… ぴぴるれにゃん!」
どうやらプリシラはとても気に入ってくれた様だ
アップリケを何度も手で撫でながら、クルクルとその場で舞っている
「実は… プリシラも麗羅にゃんに… プレゼントがあるにゃん…」
そう言うと納屋に駆け込むプリシラ
程無く胸元に何かを抱えたプリシラが帰ってくる
「プリシラ… よく分からないにゃん… でも頑張って… 作ったにゃん…」
「!!」
麗羅は思わず両手で口を覆った
麗羅が与えたタオルケットや毛布を裂いて、不器用に組みあげれた其れは、不恰好ではあるが紛う事なき……
「白… 装… 束……!」
「麗羅にゃん! 珍満祭に行くのにゃん!」
『どんな時も~ 貴方が側にいて~ 信じてるの~ ガボチャの馬車で~』
麗羅は暗い雪道疾走していた
遥か先に篝火で浮かび上がる神社
麗羅の大好きな歌
辛い時、悲しい時、何時も心で口ずさみ自分を励ましていたその歌を、今は嬉しい気持ちを堪え切れず大声で歌いながら…
麗羅はプリシラを抱き締めてお礼を言うと、珍満祭に参ずる為、家を後にした
別に祭りに参加したかった訳ではない
ただ嬉しかったのだ 友達の心が…
プリシラが苦労して作った白装束をどうして無碍に出来ようか…
麗羅が珍満祭の会場である神社の境内にたどり着いた時、祭りはまさに最高潮に達していた
篝火に照らされ、掛け声と共に数百人の男女が押しくら饅頭に興ずる
激しいスキンシップに劣情した者達は、物陰で卑猥なプライベート押しくらに走る
麗羅は初めて見る珍満祭の熱気に気を呑まれていた
「!?」
そんな麗羅の手を何者かが引く
見れば年の頃、麗羅に近い少年
彼は、はにかみながら麗羅に語り掛けてきた
「き、君もこの祭り初めて? 僕もなんだ… 良かったら一緒に参加しない…?」
真面目そうだが中々のイケメン
麗羅は頬を染めながら小さく頷いた
初々しい二人の初珍満祭は極めて道徳的に、お行儀良く進行した
それでも麗羅は束の間の幻想に辛い日常を忘れ、心の底から祭を楽しんだ
「もう、行かないといけません…」
東の空が白む頃、名残惜しそうに少年に別れを告げる麗羅
「待って… 僕、君の事が…!」
少年は麗羅の抱き寄せる
「駄目です! 麗羅の事は忘れて下さい!」
麗羅は少年の手を解くと、山門の先の階段を下りて行った
これでいいのだ
今日からまた何時もの麗羅だ
灰被りに色恋沙汰など不要なのだ
一夜限りのアバンチュールに終止符を打ち、階段をかけ下りる麗羅の目から雫が流れた
お姉さま達に気付かれないうちにベッドに潜り込まなくては…
息急き切って玄関に滑り込む麗羅
途中、台所から納屋に向かって小声で語り掛けた
「プリシラさん、今日はとっても楽しかったです プリシラさんのお陰です ありがとう…」
既に寝入っているのか返事はない
だが麗羅は納屋に向かって今一度、深い感謝のお辞儀をしてから自分の寝室に姿を消した
「いやぁぁぁっ! みんな起きてぇぇぇっ!!」
真理亜姉さんの絶叫に、寝入ったばかりの麗羅は叩き起こされた
他の姉達も声のする
リビングに下りて行くのが分かる
麗羅も眠い目を擦りながら階段を下りて行った
「……やられたわね……」
「ちょっと麗羅~ アンタ何にも気付かなかったの!?」
麗羅は目を見開いたまま固まっていた
一家の憩いの場リビング
昨日まで其処にあった筈のテレビ、パソコン、DVDレコーダー…
その他、諸々、綺麗さっぱり無くなっているではないか!
「……泥棒ね……」
ガランとした空間に立ち尽くす四人の姉
その視線が麗羅に注がれる
(!!)
その時になって漸く、麗羅の脳裏におぞましい光景が過った
(プ、プリシラさん、まさか泥棒さんと鉢合わせして…!)
可能性は限り無く高い
冷静に考えれば、幼女一人で留守番など危険極まりない
「ちょっと、何処行くのよ!」
真理亜姉さんの声を無視し、麗羅は台所の先の納屋に飛び込んだ
(どうか寝ていて!)
だが麗羅の願いも空しく、納屋はもぬけの空だった
「あぁ……」
その場にへたり込む麗羅
自分のせいだ
やはり自分は祭りに行くべきではなかったのだ
自分の刹那の楽しみの為に、友達を危険な目に…
『ピンポ~ン ピンポ~ン』
その時、玄関の呼鈴が鳴った
宛子姉さんが返事をして玄関に向かう
「早くからすみません、警察の者です」
事件は急転直下解決した
早朝、珍満祭の警備上がりの警官が、リアカーに家電製品を積んで路肩を進む怪しい人影を発見
職務質問しようとした所、逃走を図った為、公務執行妨害で逮捕
尋問からリアカー内の家電製品を麗羅の家から盗んだ事を自白
犯人はガボチャのアップリケの付いた魔女帽子のプリシラだった……
「このプリシラに面識はありませんか?」
手錠を嵌められたプリシラを引き連れ、警官が面通しをする
互いに首を振り合う姉達の目が、自ずとに麗羅に集中する
「…………れ、麗羅知りません! 泥棒のプリシラさんなんて知りません!」
麗羅は裏切られた怒りから、プイと顔を背ける
そんな麗羅をプリシラは手錠の嵌まった手で指差す
「麗羅…… マイ…… フレンド……」
「「!!!!!」」
凍りつく空気……
「麗羅…… マイ……フレンド……」
姉達の怒りに震える視線が、麗羅の細い身体を滅多刺しにしていた……
一方その頃ミウたんは、ネットで見つけた"珍満祭"という奇祭のネーミングから、無限のイマジネーションを膨らませていた