崖の縁のミウたん   作:新六毛

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秘密の墓園

裏路地の更に奥まった角、聞いた事もない様なドマイナーなファーストフード店

本業のこけしアーティストでは食べて行けないミウたんは、そこのアルバイトでなんとか生計を立てている

持ち前の明るい性格と天使の様な笑顔

多いとは言えない客だが、ミウたんに魅力に惹き付けられるかの如く、今日も彼女の持つカウンターに列をなす

まさにミウたんはお店のアイドルなのだ

 

そんなミウたんは毎月1日を"自分の日"と決めている

最近いろいろと辛い事が多い毎日

仕事とお金に追われ、家に帰れば疲れてただ寝るだけ…

休みの日は更に泥の様に寝るだけ…

そんな毎日に少しでもアクセントをつけたい

そうして生まれたのが"自分の日"だ

その日は一ヶ月頑張った自分へのご褒美として、可能な限りの贅沢をすると決めているのだ

ココスで今月の "自分の日" のご馳走、煮込みハンバーグセットを頬張り、蕩ける様な笑顔を見せるミウたん

明日からまた頑張ろう… 久しぶりのお肉の食感に、蓄積した疲労が吹き飛ぶのを感じるミウたんだった

 

 

 

そんな微かに豊かな時期も今や昔……

 

 

 

「出来ないな~……」

愛車ピンクミウたん号が鎮座するガレージの片隅を、工具棚で仕切っただけの一角、通称 "製作ステージ"

その大半を占める大きな作業テーブルの上に肘をつき独りごちるミウたん…

ここは本来、ミウたんのライフワークであるこけし作りの為に設けたスペースだ

だが、今ミウたんが製作に没頭しているのはそのこけしではない…

 

ミウたんの生活は輪をかけて貧窮を極めていた

物価の高騰、古い家屋の修繕費、スイーパーの引退、"月刊こけし世界"の無慈悲な値上げ、我慢出来ずに手を出したサーティワン…

臨時出費の数々はボディーブローの様にミウたんの財政を圧迫して行った

ミウたんは悲しい程に貧しかった…

年頃の娘にもかかわらず外出着は一張羅

水とトイレットペーパー節約の為、基本的に自宅では大便はしない

自動販売機のつり銭口を漁るのも抵抗が無くなった

嘗て惨めな自分を慰める為に作った"自分の日"も、最近はまるまつの白身魚フライ定食が限界になりつつあり、より一層惨めさを味わう結果になっていた

 

そんな現状を打破する為、ミウたんはアルバイトの他に内職を始めたのだった

今日、初めて渡された仕事が某三流パチスロメーカーの促販グッズである蛙の箸置きである

こけし作りで手先の器用さには自信があったミウたんだが、見本の蛙の造形の余りの苛立たしさに、ついぞ集中出来ず辟易としていたのだった…

こんな物を貰って誰か喜ぶのだろうか…?

疲れとイライラが溜まったミウたんは、無意識に見本の蛙の人形にゆっくりと錐を突き刺していった…

深く… 何処までも深く…

「はっ!?」

ミウたんは思わず手の物を投げ捨てた

自分のおぞましい笑顔が、鐫の刃に反射して見えたのだ

(ダメ…! 悪魔に心を売っちゃダメ!!)

満たされない不遇の日々… 極貧生活… 全てを御破算にして、人生を精算したい…

最近、時折心の奥底に現れる悪魔… その甘味な囁きがミウたんを暗黒面に誘うのだ

ミウたんは頭を振って誘惑を蹴散らす

(負けちゃダメ… この苦難の先に、きっと幸せが待っている筈…!)

作業テーブルに手を付き、ヨロヨロと立ち上がる

時計を見れば、18時半… ミウたんは力無い足取りで玄関を出て行った

 

 

 

毎週日曜日の夜、ミウたんはその寺院で夕食をとるのが慣例となっている

夕食をとると言っても、住職のもてなしを受ける訳ではない…

晩秋のか弱い太陽が吸われる様に西の地平に消えて、夜の戸張が落ちる頃、ミウたんはそのお寺の門を潜る…

そのまま本殿を素通りした彼女は、一旦立ち止まって辺りを見回すと、墓地へと続く階段を登って行く…

人っ子一人いない真っ暗な墓地、不気味な雰囲気を漂わせるその空間にうら若き乙女が一人…

ミウたんは慣れた手つきでポケットから蝋燭を取り出すと、ライターで火を着けた

暗闇にぼうっと白いミウたんのお顔が浮かぶ…

もし何も知らぬ者がこの光景を目の当たりにすれば、恐らく悲鳴をあげ腰を抜かすであろう

だが、今からこの墓地で繰り広げられるのは、スプラッターショーでもなければホラーショーでもない…

ミウたんは蝋燭の灯りを頼りに、入り組んだ墓地の合間をすり抜けて行く

そして、ある墓石の前で遂にお目当ての物を見つけた

「ターゲット確認… いっただきっま~す…」

ミウたんは御供物のおはぎを手にすると、大きなお口を開けて一口に頬張った

毎週日曜日の夜にこの墓地で繰り広げられるのは、ミウたんのディナーショー

貧しい彼女が、手軽に無料でお腹一杯になれる夢のフードパーク、それが此処なのだ!

どうせ後は腐って処分されるか、動物のエサになるだけだ

ならば自分が美味しく頂いてあげよう

そしてその方がきっと、お墓で寝んこしている方々も喜ぶだろう!

いつの間にか夜空に輝く三日月を背景に、ミウたんは次々と墓石を回りディナーを進めて行く…

 

(今夜も来られたか… )

そんなミウたんの影を、本堂の軒先から住職が見詰める

あの様な若い娘子が… 余程の理由があるのだろう…

住職は哀れな墓荒らしに、慈悲の心で手を合わせるのだった

 

 

 

その夜の事ーーーーー

 

寝苦しそうにベッドの上で何度も寝返りを打つミウたん

心なしか呼吸も荒い 深夜2時を回った頃、遂にミウたんは喩え様の無い悪心を覚えて目を覚ました

起き抜けにゲップが頻繁する 胃がムカムカする…

なんか…お腹が…痛い様な気がする…

いや、痛い… 相当痛い! ヤバい… 何か変だ

食べ過ぎ? いや、そんな生易し痛みじゃない!

ト、トイレに… おトイレに……! 今まで経験した事の無い痛みに冷や汗を滲ませながら、ミウたんはお腹を押さえ小走りで廁に向かう

ミウたんが青い顔をしながらトイレのノブに手を掛ける

だが、ノブは何故か空回り

"ど、どうして開かないの~!"

何度ノブを捻っても空回りするばかり

引いても揺すってもびくともしない

絶望がミウたんの青い頬を赤く染めて行く

"ぎゅるるるるるぅ!!"

今まで聞いた事も無い異音がミウたんの下腹部から響いた

熱い物がミウたんの体内を駆け下りてくる

未だかつてないパワーと質量を備えて…

"わ、私… ど、どうしちゃたの~ "

腹痛と悪心、そして開かないトイレのドア

ノロウィルスロストバージンしたてのミウたんがパニックになるのは当然だろう

"そうだ… お風呂場で…"

緊急事態だ ミウたんは下腹部で暴れ廻る禍々しい何かから逃れる様に、浴室へと向かう

既に駆けて行く余裕はなく、今にもパンティをぶち破って溢れる出しそうな何かを必死に内股で押さえ、そろそろと壁に寄りかかりながら進んで行く

この時、ミウたんは猛烈な吐き気にも襲われていた

体温も39℃に急上昇し、ミウたんの体力を容赦なく奪って行く

やっとの事で浴室にたどり着くミウたん 最早形振り構っていられない

熱から来る悪寒と悪心で震える手でパンティを探り、ネグリジェの裾を捲り上げる

あり得ない爆音を浴室響かせると同時に、ミウたんの意識は遠退いていった…

 

 

 

悪魔の誘惑ははね除けたミウたんだが、おはぎの誘惑には勝てず、こっ酷い仏罰を受けるのだった…

以後ミウたんは心を入れ替え、必ずヤクルトを飲用してからお墓ディナーを堪能する様になったという…

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