崖の縁のミウたん   作:新六毛

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光の国のワンダラー (1)

真っ赤な苺の冠を載せたショートケーキをラムネは目で追っていた

ゴクリと生唾を飲み込むが、ショートケーキはラムネに愛想を振る舞う事も無く、奧のテーブルへと運ばれて行った

「お待たせしました… それでご希望の物件は…」

その声の主は、筆を束ねた様な長い白髪眉毛の下の老眼鏡越しに、穏やかながらも貫禄を蓄えた瞳をラムネに向ける

「……これ~………」

「2DK… 駅、徒歩5分… コンビニ直近… 築6年… 家賃七万五千円… 」

ラムネの指差すカタログのデータを読み上げる初老の男

下町の老舗不動産屋の主である

「これだよ~!」

鼻の穴を大きく広げてドヤ顔のラムネは、その主の目の前に広げた万札の束を見せつける

その数、十数枚 成る程、野生の幼女には不釣り合いの大金である

主は小さなため息をつくと、老眼鏡の位置を指で整え、ラムネに噛んで含める様に語り掛けた…

 

 

 

赤いコートの裾を引き摺って、公園の一角で鳩と戯れていたラムネは、視界の隅に相方の姿を見つけると、弾む様に駆け寄って行く

嘗ての病弱な姿はもう其処には無かった

「ちょっと… いいみたい…?」

「ダメみた~い……」

頭を掻きながら渋い表情を見せる、不動産屋帰りのラムネ

廃倉庫の片隅で半野良生活を送っていた二人が人間の様に住まいを求めたのは、今は居ない彼女達の友人の影響かもしれない

事実、ラムネが不動産屋に突き付けた万札の束は、その友人が二人に残した物であり、彼女達にその価値を教えたのもその人であった

公園の隅の生垣の隙間に、段ボールを引き寄り添う二人…

先日の事、彼女達が住み慣れた廃倉庫が、近所の不良の溜まり場となった

初めは新しい友人の登場と、先住人として歓迎の意思を示したラムネ達だったが、不良達は彼女達を汚ない溝鼠程度にしか認識していなかった

突如振るわれる謂れのない暴力

大事な思い出の詰まった居住スペースが破壊されていく…

面白半分で性的辱しめを受けるコートラムネを、渾身の体当りで救出し、逃げる様にこの公園に辿り着いたのは2日前の事だった

新しい安住の地を求めたが叶わず、今は嘗ての野良生活に戻った二人…

だが二人で寄り添えば、どんな寒さや辛さにもめげる事は無かった…

 

「こんな所に居やがったのか~」

突如、生垣の上から覗み込む男

生来低知能で天真爛漫な性質のラムネが、 不動産屋から出てきた自分の後をつける者の存在に気付く筈は無かった

「ちょっと戦場ヶ原ちゃんをprprしたくてねぇ… さっきの金、恵んでくんねぇ~? 」

そんなラムネでも、目の前に現れた男が友好的な存在でない事は理解できた

数少ない宝物の入った麻袋をぎゅっと握りしめる

だが所詮、野生の幼女の力で抗う事など叶う筈もなかった

1分後には顔面痣だらけのラムネが大の字に伸びていた

「手こずらせやがって…!」

「ぐべらっ!!」

捨て台詞と供に放たれた男の蹴りが、ラムネの脇腹に吸い込まれる

コートラムネが倒れたラムネの上に覆い被さり、無言で慈悲を求める

男は足元の麻袋から万札の束を鷲掴みすると、そんな彼女に唾を吐きかけ、繁華街へと消えて行った

 

「…だ、ダメみたい!?」

「ふ… 普通だよ…」

鼻血を拭いながら強がるラムネ

だがその目は虚ろで力は無かった

住まいを追われ、暴力を振るわれ、そして今、友人が残した大事なお金を奪わた

何時の間にか夜の戸張が降りて、遠く繁華街のネオンが憔悴する二人を仄かに照らしていた

夕食の獲得に出る元気も無いのか、何時までも寄り添う二人…

「!?」

不意にそんな彼女達の肩を叩く者が現れた

暴力の記憶が甦る二人は飛び退き身構える

だがその目に映ったのは…

栗色のおかっぱ頭と背中の大きなリボンが特徴の野生幼女、雛菊だった

通常自然界で、野良幼女が異種間でコミュニケーションを取る事は無い

同種間でさえ生存の為敵対するのが普通である

人間では無いとは言え、突然現れた異種族に警戒するのは自然の成り行きだった

だがそんな二人は直ぐに自分達を取り巻く影に気付く

敵は目の前だけでは無かった

二人を取り囲む幼女の群れ…

雛菊にティナ、プリシラに同じラムネまで…

常識ではあり得ない光景に、恐怖と戦慄が二人の身体を走る

 

「お~か~ね~」

だが、目の前の雛菊が次に取った行動は意外な物だった

彼女の手には万札の束 其をラムネ達に差し出す

顔を見合わせる二人

其が先程奪われたお金だと理解するのに幾らも掛からなかった

理由と方法は分からない

だが目の前の雛菊達は 二人の為に、お金を取り戻してくれたらしい

「だ… 大好きだよ…」

ラムネは雛菊に礼を述べた

雛菊はそれに笑顔で応えると、二人に目配せをした

何処かへ誘っている様だ

大事なお金を取り戻してくれた事実と、敵対的では無いとは言え、大勢に取り囲まれている現状から、二人はそれに大人しく従った

公園を後にする野生幼女の集団

最後尾を行くプリシラの1人が、血の付いた角材を茂みに放り投げた事を、ラムネ達は気付く事は無かった

 

 

 

高い湿気とカビの匂いが支配する闇の空間

その一面に浮かび上がる幾つものディスプレイ

バックライトの淡い光の中、何体もの小さな影がキーボードを叩く音だけが木霊する

その部屋の中央で、後ろ手を組み直立する魔女帽子

その視線がディスプレイの1に注がれた

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