崖の縁のミウたん   作:新六毛

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光の国のワンダラー (2)

「誰!?」

「お~は~な~」

それが合言葉なのだろうか、先頭を行く雛菊が、その冷蔵庫からの問いかけに返事をすると、冷蔵庫の扉が開き、中から別の雛菊が顔を覗かせた

公園から少し離れた街外れの一角、赤茶げたスチール板に囲まれた産廃処分場

一見、只の粗大ゴミに見える冷蔵庫から、その雛菊が這い出ると、その背後にぽっかりと闇への入り口が現れた

先頭の雛菊が目配せする

どうやら中に入れと言う意味らしい

ラムネ達は不安そうに顔を見合わせるが、後続に背中を押される様に冷蔵庫の中へ潜り込んで行った

中は狭く急な階段だった 闇の中を転げる様に進んで行く

暫く進むと開けた空間へと辿り着いた

小さな白熱灯が1つ、ぼんやりと辺りを照らしていた

剥き出しの土壁と、其処を縦横に走る木の梁

ラムネ達はそんな異空間をキョロキョロと眺める

「ここで… 待っていて…」

後ろから来た、桃色の髪が特徴のティナが二人に話掛けてきた

彼女は其だけを言うと、後続のメンバーと供に更に奥の細い通路に消えて行った

程無くして、先導役者の雛菊が降りて来た

二人を見て頷くと、ティナ達とは反対側の奥へと彼女達を誘った

「此れから~ 総統に会う~ 言葉解る~?」

細い通路を進みながら先導する雛菊が語り掛けてきた

黄色い大きなリボンが 背中で揺れている

「ちょっと… いいみたい…」

その答えに振り向かずに頷くと、右手に現れた空間に指を向ける

「お~菓~子~」

ラムネ達はその部屋を見遣る

中では幼女種が数体、テーブルに向かい黙々と作業をしている

壁一面に設えた棚には、所狭しと様々な物品が並んでいる

「「チャンスみた~い!」」

ラムネ達は其がお菓子の山だと直ぐに気付いた

今まで貴重なお金と交換しなければ手に入らなかったお菓子の数々が、同じ幼女種の手によって次々と産み出される光景に、 二人は思わず驚嘆の声を上げた

溢れ出る涎を堪えながら、羨望の眼差しを向けるラムネ達

先導の雛菊が何時の間にか先を進んでいるに気付いて、慌てその後を追った

 

「修業~」

今度は左手を指刺した

先程のお菓子工房より広く、奥行きのある部屋の中では、数十体の幼女達が激しく身体をぶつけ合っていた

「か~く~ご~!」

「ぴぴるれにゃん!」

木の棒が弾き合う乾いた音と、幼女達の力強い足音が響く

ラムネ達は人間に振るわれた暴力を思い出したのか、首を竦めて雛菊の背中に張り付いた

更に暫く歩くと目の前に大きなドアが現れた

雛菊は立ち止まると、ラムネ達を振り返った

「指令室~ 粗相の無いように~」

そう言うとドアをノックし、ノブを回した

 

 

 

「ようこそにゃん! 歓迎するにゃん!」

忙しなく点滅を繰り返す光の壁を背景に、1体のプリシラが右手を差し出してきた

「だ… 大好きだよ…」

ラムネ達はプリシラと握手を交わす

仄暗い闇の中に浮かび上がるプリシラの顔を見て、ラムネ達は思わず息を飲んだ

「これにゃん? …人間達にやられたにゃん…」

ラムネ達の視線に気付いたのか、プリシラは浅黒く変色して開かない潰れた左目の跡を撫でた

「プリシラ達はいつも虐げられていたにゃん…… 」

隻眼のプリシラは手を後ろに組み直すと、広くはない部屋の中を歩き始めた

「プリシラはずっと見てきたにゃん…」

 

隻眼のプリシラは語り始めた

産まれ育ったのは郊外の廃工場の敷地だった

其処は様々な野良幼女が肩を寄せ合って暮らす、貧しいながらも平和なコロニーだった

他の個体より幾分賢かった彼女は、薬草を煮詰めて薬を作ったり、他の個体の生産や狩猟を陰ながら支えたりと、コミュニティの中で欠かせない存分であった

そんなプリシラは夜になると、そこで一番高い冷却塔の上に登って、遠くに広がる光の海に想いを馳せた

あの光の国に人間がいる

いつか自分はあの国に行って、人間達と友達になりたい

人間と人間世界に対する淡い憧れ… 其れは彼女の高い知性の故なのかも知れない…

だがそんな彼女の無邪気な憧れは、無惨に打ち壊される

その日突如、作業着姿の人間達がプリシラのコロニーに乱入してきた

挨拶をして友好の意思を示す幼女達

だが、それに対する人間達の答えはダイアモンド鶴嘴だった

「ぶひゃっ!」

先頭に立って人間達を出迎えたティナの頭が、スイカの様に粉砕される

沸き上がる悲鳴

それを合図に人間達による無慈悲な殺戮が開始された

人間達は工場の再稼働の為、敷地に住み着いた害獣の駆除に訪れたのだった

逃げ惑う幼女達を人間達が追い回す

顔を潰され、種族の判別の出来ない骸…

内臓の飛び出た腹部を押さえてのた打つ雛菊…

塀の隅に追い詰められた一団を、火炎放射器が舐め回す

薬草の調達から帰ったプリシラは、目の前の光景に絶叫を上げた

痣だらけで倒れたラムネ

今まさにそれに木刀を降り下ろさんとする1人の人間の前に、プリシラは飛び出していた

(何でこんな事するにゃん…! 仲良くしなくちゃダメにゃん…! )

何かを必死に叫ぶプリシラの左目を、人間が持つ木刀の先が貫いた

経験した事の無い激痛が走り、プリシラは意識を失った

気が付いた時、プリシラはトラックの荷台で揺られていた

彼女の下にはもう動かない、仲間達の血まみれの姿があった

赤信号でトラックが止まった隙に、プリシラは荷台から這い降りた

皮肉にも、その時から憧れの人間界での暮らしが始まった

野良幼女として暮らす人間界は、プリシラの想像とは一片も重なる所は無かった

そこで見た物は、人間達に迫害され、虐待され、殺されていく仲間達の姿だった

何時しかプリシラの人間への憧れは、激しい憎しみへと姿を変えた

プリシラは近郊の野良幼女達を束ね、文字通り地下組織を作り上げた

卓逸した彼女の知性は、非力な野良幼女達に武装と団結を持って、人間へ対抗する術を授けたのだった

 

「…と言う訳にゃん… 蜂起の時は近いにゃん… 二人も力を貸して欲しいにゃん…」

概ね話の9割が理解出来なかったラムネ達だったが、力を貸してくれと言うニュアンスだけは感じ取った

恩返しとばかりに大きく頷く

そんな二人を満足気に見詰めるプリシラは、案内役の雛菊に二人の面倒を見る様に指示を出すと、再び犇めくディスプレイを見遣る

市内の防犯カメラをハッキングした其には、何も知らぬ平和な人間達の日常が映し出されていた

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