そんなミウたん達のやり取りに釣られる様に、今度は他のライバル達が次々とリンクに降りて来る
そしてやはり、異様なリンクに驚きの声を上げる
どよめきと困惑の問い掛けが、そのリンクに木霊し始めていった時、唐突に天井の水銀灯が消えた
「「!!?」」
数秒後、仄暗いリンクの一角にスポットライトが当り、聞き覚えのある声が響いた
「ほっほっほっ リンクに集う美女達を眺めながらのマイクパフォーマンスという贅沢な事をしているが、お許しあれ! ご機嫌は如何かな?」
スポットライトの中に人影が浮かび上がる
それは昨夜、レストランで挨拶したホテルの創設者兼、支配人という男だった
突然の展開に状況が飲み込めないミウたん達は目をしば叩かせる
「おおっと失礼、興奮し過ぎてトランス状態だったわ、お許しあれ… 確か… カーリング選考会… でしたかな? はい、あれは全員合格です、おめでとうございます! それでは全員採用という事で、さっそく実地研修に入りましょう!」
「「??」」
ミウたん達の頭上にクエスチョンマークが浮かぶ
合格と言われても、まだ何もしていないし… 採用? 研修? 何の事なのだろう…?
互いに顔を見回し、不安と不信の感情を高める女性達
そんな中、独り佇むあの女学生が声を上げた
「みんな… どういう事なの…? 何も知らないの…? もしかして… みんなは…… 騙されてきたの……?」
「「えっ!?」」
「だ、騙される!? 誰が? 誰に?」
女学生の言葉に驚く女性達を代表する様に、ミウたんは叫んだ
「私の名前は馬目まどか… 私は父に300万円で売られました…」
女学生は静かに俯きながら言葉を紡いだ
「父の借金の支払いの為… 幼い弟に白いご飯を食べさせる為… 今日からこの… 日本最高峰のラブホテルで… ソープ嬢になるんです…」
「「はぁぁぁ!!?」」
あんぐりと口を開けてフリーズする女性達…
何なのそれ…? 訳がわからないよ…!
「私… てっきり皆さんも似たような事情かと……」
てっきりもこっきりも、何でカーリング選手選考会に応募しただけで、ソープ嬢にならねばならないのだ?
余りのふざけた展開に、全身の血が瞬間湯沸し器に掛けた様に一瞬で沸騰し、怒りで髪が天を突かんばかりのミウたんが支配人を睨みつけ叫んだ
「ちょっと! ふざけないでよ! 私が身体で泡立てる人は多分、この世でたった1人の筈よ! それに大枚が欲しいって言ったって、それはオリンピックを経てのアイドル路線であって、フーゾク関係はアイドルに致命傷なのよ!」
幾分、周囲とピントのずれた自己主張を展開するミウたん
ピントはずれていても大意は皆同じであろう
だが怒りをぶつけられた支配人は嘲笑しながらマイクを口に当てた
「宜しい… それでは昨夜の当ホテルの宿泊代と夕食代、締めて108万円、この場で耳を揃えてお払い頂きましょうか…」
「「!!」」
またしても女性達は度肝を抜かれる
話が違う! 選考会中のそれらは無料の約束ではないか!
ミウたん頼りなしと見たのか、真宵がませた理論を展開する
「それは法的に無効な請求ですね! 広告には宿代、食事代は無料とありますよ!」
「ほっほっほっ 当ホテルがその該当に当たるとは一言もありませんよ… さぁ 払いなさい…! 払えなければ働くのです!」
途中から支配人の語調が明らかに変わった
支配人が右手を上げると、消えていた照明が再び灯り、広いリンクが明るさを取り戻す
「「ヒャッハ~~!!」」
それを待っていたかの様に突如響き渡る奇声
次の瞬間、周囲の観客席の奥から、棘付き肩パットを装着したモヒカン軍団が乱入してきた
「「キャァァァァ!!」」
突然の世紀末軍団の来訪に悲鳴を上げる女性達
忽ちシャチに追われる鰯の群れの如く、リンクの中央に追い詰められる
「テレビで見て簡単そうだから私にも出来る筈… ふふん… 如何にも御頭が弱そうな雌豚の発想ですね~… 良いでしょう カーリング選手にお成りなさい 但し、滑るのはストーンではなく貴女達ですよ! それも氷の上ではなく、殿方の身体の上をね!」
支配人は中央に固まる女性達の元にゆっくり近付く
「月額1000円で好きなソープ嬢と遊び放題… 本番行為も忠実に再現… 里見スリーセブンタウンズホテル専属ソープ嬢ユニット、クリスタルジャパンとして別の意味で金メダルを目指すのです! 皆様を最高の風俗嬢に致します事… お許しあれ (;^_^A 」
「「いゃあぁぁ……」」
最早、力無く呻き声を上げるだけの女性達
支配人は己の顎を撫でながら、舐める様な眼差しで怯える彼女達を見回す
「なぁに、心配は入りません この私が今から直々に手取り足取り、宵越しサバチャンを仕込んで差し上げますよ… ご堪能あれ!」
その下卑た微笑みに、追い詰められた女性達が遂に反抗する
「支配人さん! どうしてこんな酷い事をするの! こんなやり方は卑怯です! 私、警察に行きます! 全てを話して、終わりにします! お金なら返します!」
「馬目まどか……様 残念ながら、貴女との契約は終了しております 我々と契約して風俗少女になった以上、貴女も我々の仲間です お姉さんがソープ嬢と知ったら、弟さんはどんな気持ちでしょうね~ お許しあれ (;^_^A 」
「こっちに来ないで下さい! 私は貴方の事が嫌いです!」
「八十寺真宵……様 世のロリコン程、金に糸目をつけぬ生き物は居りませぬ… たっぷり可愛がって貰うと良いですよ~ お許しあれ (;^_^A 」
「パイが無いから素無いパイ… でも素無いパイって言うな~! 小さくても感度は最高なのよ!」
「須内ミウ……様 ロリでも無いのに貧乳とは… お車とお土産を用意させます… お代は結構ですので、どうかお引き取り下さい…」
「あう~~ ピンチだよ~~ もうヤダ~~ お家に帰りた~~い!」
「小波アリス……様 貴女はクリスタルジャパンのエース候補ですぞ 殿方のパンプキンをどっかんさせて、粗利No.1の実力を発揮下さい! 期待して居ります、お許しあれ (;^_^A 」
彼女達の悲痛な抗議は軽く聞き流される
方々で絶望の悲鳴と嗚咽が上がる
そんな喧騒の中、耳の穴を人差し指で掻くミウたん
何故だか急激な聴力の減退を感じていた
「取り敢えず前菜はこの辺りから……」
舌舐め擦りしながら品定めする支配人
見詰められた女性達が再度、悲壮な抵抗を見せる
「さ、下がれ! 無礼であろう! 下賤の分際でわらわに触るな!」
「芦利ヨシテル……様 貴女様がお〇んぽに弱いのは、最早周知の事実… お許しあれ (;^_^A 」
「いや~! 触らないで~! セレモーションが~!」
「鷹岡至……様 貴女は変身なさる時、履いていないそうですね… 純粋そうな顔をしてとんだ変態ですね お許しあれ (;^_^A 」
「え~~♪ 私が叩かれるの~~♪ やだ~~♪ 結構、激しくてもいいのよ~~♪」
「須内ミウ……様 まだお帰りではなかったのですか? 外で車が待っております 今直ぐお立ち退き下さい…」
「ちょっと! いい加減にしないと酷い目に合わせるわよ!」
「伊勢崎綾……様 勝ち気な女性をデレさせるのも一興 プラトニックラブでお許しあれ (;^_^A」
「さぁ 萌えスロのヒロインの如き美女の方々を、私のブラウザ(私室)にお連れしろ!」
「「ヒャッハ~~!」」
「「キャァァァァッ!」」
支配人の合図でモヒカン軍団に連行される女性達
たった独り… ミウたんだけが、その一団から取り残された…
ミウたんは天井の水銀灯の1つを眺めていた
(あの夏の日の太陽みたい……)
ミウたんは遠い昔を思い出していた
油蝉の鳴き声と草いきれ、一陣の涼風が縁側を吹き抜け、待ち焦がれた日没の訪れを告げる
その風に乗って微かな祭囃子が聞こえた
それに誘われる様に、幼い日のミウたんは玄関を飛び出す
手にはこの日の為に3ヶ月貯めた200円 …
父が母の形見の着物から仕立て直したという、白地に大きな赤いMの字が描かれた浴衣を纏い、夏祭りの会場である神社を目指した
境内に至る道の両側には様々な出店屋台が軒を並べ、行き交う人々と共に、普段とはまるで違う活気に満ちた空気を醸し出していた
「そこの可愛いお嬢ちゃん、寄ってきな!」
不意に誰かが声を掛けてきた
反射的にその声の主を見遣る それは型抜き屋台の主だった
その主と目が合う
ミウたんは周囲を見回すが、近くに自分の他は居ない
ミウたんは自分の鼻先を右手で指差し、小首を傾げる
「そうだよ、そこのマルハン浴衣を着た可愛いお嬢ちゃん! 遊んで行きなよ!」
ミウたんは自分の頭と心の中に、色鮮やかな花畑が広がって行くのを感じた
(可愛い…? 私、可愛いんだ… 可愛いかったんだ!)
ミウたんがチョコバナナ欲しさに3ヶ月貯めた200円は、オニムカデとハリセンボンというあり得ない無理ゲーの前に1分で溶けたが、ミウたんは少しも後悔は無かった
私は可愛い…
その日からその思いがミウたんの思考を支配し、全ての行動原理となったのだった…
ミウたんの中で、何かが弾けた……
「ウォォォォォォォッ!!!」
ミウたんの怒りの咆哮がリンクに木霊した
「な、何ですか!?」
振り返る支配人の目に、深紅の闘気を纏ったミウたんが疾走して来る様が映る
「何ですかあれは! お前達、止めるのです!」
「ヒャッハ~! ここは通さないぜ~!」
モヒカン軍団がミウたんの前に立ち塞がる
だが、弾丸の如き速度で疾走するミウたんは一瞬でその間をすり抜ける
「あべしっ!!」
「たわばっ!!」
何が起きたのか、短い断末魔を残してモヒカン達は倒れる
「な、な、な、何なのです!? やめ… お止めなさい…!」
青ざめた支配人が両手を突き出しながら後退りする
「貴様に~ 明日を生きる~ 資格はねぇ~!!」
ミウたんを包む闘気が一際勢いを増し、ブラウスのボタンを弾き飛ばす
「お許しあれ! お許しあれ! お許しあれ~!!」
「あぁぁぁぁたたたたたたたたたたたっ!!」
ミウたんが繰り出す無数の拳が支配人の全身にめり込んでいく
「あべっ! びしっ! おえっ! にゃも! ぐはっ!」
「おわぁぁぁたっ! 北斗残悔拳! …貴様には地獄すら生温い!!」
止めの一撃を脳天に叩き込み、クルリと背中を向けて決め台詞を吐き捨てるミウたん
ドサリッ、と音を立てて支配人はコンクリートの上に崩れ落ちた
「ミウたんさん、凄いです!」
「チャンスだよ~! 今のうちに逃げ出そ~!」
ミウたんの活躍に、解放された女性陣から歓声が上がる
「死にたい奴から前に出ろ…!」
「「えっ!?」」
「ミウより可愛い萌え娘など存在しねぇ!! 貴様らにも… 明日を生きる資格はねぇ!!」
「「いっ、嫌ぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」
最高裁判所第二小法廷で開かれた上告審で、東京都の自称カーリング選手、須内ミウ被告に対し無期懲役の判決が言い渡され結審した
須内被告は昨年2月、スマートフォンで偶然にアクセスに成功したネット貨幣取引所のパソコンのデータを不正に操作し、ネット貨幣"ビットコイン"を大量に騙し取った疑いで指名手配され、更に逃亡潜伏先の奥多摩地方の某ホテルで従業員や宿泊客に暴行を働き、18人に重軽傷を負わせ、詐欺や傷害、強制猥褻等、23の罪で逮捕、起訴されていた
須内被告は法廷に於いて
「自分は北斗神拳の継承者」「愛など要らぬ」 「悲しみを背負う事が出来た」「ミウより優れた萌え娘など存在しねぇ」 「ウンチがビチャビチャ」
等、不規則発言を繰り返し、弁護側は重度の精神障害の疑いを主張していたが、其を退ける形の判決となった
それから四年後…
平昌冬季五輪で真宵を中心としたネオ・クリスタルジャパンは見事金メダルを獲得し、その映像を雑居房で見たミウたんを発狂させ、精神病棟送りにするが、それは又、別の化物語である…
そんな夢を見て……ry