崖の縁のミウたん   作:新六毛

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涅槃の再会 (3)

「えっ!?」

ミウたんが驚きの声を上げると同時に、母の姿は煙の様にその場から掻き消えた

「お、お母さん!? お母さん、何処!? イヤ! ちょっと、お母さんを返して!」

ミウたんは母を奪ったであろう冥王に食い掛かる

冥王はそれに答えず、巨大なその右腕をゆっくりと掲げた

「!?」

その手の先の空間が歪み、何処かの景色が浮かび上がった

其処に母の姿があった

「お母さん! お母さーん!!」

ミウたんは声を張り上げるが、届かないのか、母は何も答えない

「!!」

次の瞬間、母の姿は沸き上がる業火に包まれた

苦悶の絶叫を上げて炎の中を躍る母

「イャァァァァァッ! お母さーーん!!」

ミウたんの悲鳴が広間に木霊する

 

「………大熱地獄…… 己の罪が灰になるまで業火に焼かれる…… 」

 

「ど、どうして!? お母さんは何も悪い事してないよ! お母さんを返せ!」

「汝の母は、汝に代わりて咎を負っておる…… 母を救いたくば汝の罪を認めよ!」

「……わたしの罪!? わたし何もしてないよ! ホントだよ!!」

ミウたんは声を張り上げ抗議する

「………お前は…… 盲目を偽り… 他人を騙し… 富と名声を得ようとした…… 忘れたとは言わせぬぞ!!」

冥王の怒号が辺りの空気を振動させた

「!!」

ミウたんは思わず両手で口を押さえた

言わせぬと言われても、実際に忘れていた

いや、罪の意識が無かったという方が正確かも知れない

その嘘が誰かを傷付ける訳でも無いし、人々を感動させられるなら寧ろ善行ではないか、とさえ思っていた

だが… 確かにそれは、人を騙すという事であった

偽りで富と名声を得ようとする行為であった

「それが …… わたしの罪……」

ミウたんはその場に崩れ落ちた

母が此処に来る途中に語った言葉と、見せた表情が脳裏を過った

 

私の魂は… ちっとも善良じゃなかった…

 

私はお母さんの期待を裏切り、そしてお母さんは私の代わりに罰を受けている

ミウたんの瞳から透明な滴が垂れた

「お母さん、ごめんなさい! ミウは悪い娘です! 新聞記者さんを騙して、有名になろうとしました! お母さん、ごめんなさい! ごめんなさい!」

 

「分かりましたか……」

 

「!?」

突如聞こえた優しい声 母に似てはいるが母ではない

ミウたんは顔を上げた

「!!」

其処には、あの厳つい冥王の姿は無かった

代わりに立っていたのは、母に似た長い髪の美しい女性だった

「……あ、貴女は……?」

「私の名は、ペルセポネ…… 冥府に慈悲をもたらす者…… ミウよ…… お前が此処に来たのは…… 他ならぬお前の母の頼みだったのです……」

「? ……お母さんの頼み?」

「お前の母は憂いていました…… お前の不真面目で強欲で不誠実な生様を…… お前がこのまま罪を重ね、業を積んでいく事を……」

ミウたんは歪んだ空間で未だ焼かれる母の姿に視線を向けた

「お母さん…… イヤ! お母さんを助けて!」

「お前の母は私に願いました…… お前を改心させる為に、芝居を打ってくれと…… だが、あれは芝居ではありません…… 今のお前の業を背負っているのです……」

「やだ! 助けて! お母さんを助けて!」

「救いたくば懺悔するのです…… お前が今まで犯した罪を悔い改めるのです…… あの母の姿は幻ではありません…… お前の罪を償っているのです…… 救いたくば、大声で罪を懺悔するのです!」

「ごめんなさい! 新聞記者さんを騙してごめんなさい!」

その声に反応して、母を包む炎がほんの少し勢いを無くした

「まだまだ足りません…… 全て懺悔するのです……!」

「ごめんなさい! 買う気も無いのに、いっぱい試食してごめんなさい!」

その声に反応して、火勢は僅かに衰えた

「ごめんなさい! スーパーのトマトを指で潰してごめんなさい!」

再び、ほんの僅かに炎が弱まる

「お前の罪はその程度では収まらない様です…… 炎を消したければ、全てを正直に懺悔するのです…… 」

「うぅ…… ごめんなさい! ネット掲示板で知り合った姉歯さんに、検査書類を偽装して金儲けする様に唆してごめんなさい!」

炎はこれまでに無い程、勢力を落とした

「あれはお前が原因ですか…… 続けなさい……」

「うぅ…… ごめんなさい! ムシャクシャして、マクドナルドの異物混入をでっち上げてごめんなさい!」

今度も炎は大きく勢力を落とした

「あれはお前の虚言ですか……!? いい加減にしなさい! まだありますね?」

「うぅ…… ごめんなさい! チャットで知り合った小保方さんに嫉妬して、STEP細胞が完成した様に実験結果を書き換えてごめんなさい!」

いよいよ炎は勢いを無くし、母の姿が顕になってくる

「お前は恐ろしい女ですね…… もう、何もかも白状しなさい!」

「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさーい!!」

ミウたんは両手を胸の前で合わせ、必死に謝罪の言葉を紡ぐ

ミウたんが謝罪の言葉を発する度、母を包む炎は鎮まり、そして遂にそれは母の側から消え去った

 

「……お母さん!」

ミウたんが目を開けた時、玉座の傍らに倒れ込む母の姿が見えた

「ふぅ…… どうやら母を救えた様ですね…… 行っておやりなさい……」

ペルセポネの言葉が言い終わる前に、ミウたんは母の元に駆け出していた

「お母さん! ごめんなさい! あたしの為に……!」

ミウたんは倒れた母にすがり付き、初めて会った時より更に痩せた様に見える、その華奢な身体を抱き抱えた

「…………ミウ…………」

母はうっすらと瞼を開けてミウたんを見詰めた

「………お母さん…………」

ミウたんの瞳からは大粒の涙が溢れた

 

「ぐべぇぇぇぇっ!?」

 

次の瞬間、母の細い両手がミウたんの頚を目一杯絞め上げた

「貴女という者は……!! まさか、これ程の悪業を……! 最早、世間様に顔向け出来ません! 製造者責任です! この母が貴女を殺して、一緒に死にます!!」

「く、苦ちぃぃぃっ! 死んじゃう……! お母たん……! ミウほんちょにちんじゃう!」

突然の不意討ちに目を白黒させるミウたん

「お前がこうなったのも母の責任! 一緒に死んであげます!」

ミウたんの頚を絞める力が一層強くなる

「お母たん…… もう…… 死んでる…… でちょお……!」

突然の骨肉の争いに慌てたのはペルセポネだった

「理佐? お母さん!? 落ち着いて! 業ですよ! 子殺しは業ですよ!!」

必死に母を背中から羽交い締めにし、ミウたんから引き離す

「……ミウよ! あれに見える鐘を鳴らすのです! その音色がお前を現世に連れ戻すでしょう! さぁ 早く!」

「うひぃぃぃぃっ!!」

漸く母の絞首刑から逃れたミウたんは、言われるがままに何もかもが巨大な広間の隅に鎮座する、ただ1つそれだけが小さい鐘台の中の金色を拳で突くのだった

「お母さん、ごめんなさ~~い!!」

 

 

 

 

 

『ジリリリリリリリッ……』

耳をつん裂く金属音

ミウたんは条件反射に飛び起き、目覚まし時計に手を伸ばす

「ふぇ? ………………夢?」

そこは何時もの湿気を帯びた寝室だった

薄い煎餅布団の中、気だるい起き抜けの意識が徐々に鮮明になる

「ふぅ…………」

ミウたんは大きく深呼吸すると立ち上がり、トイレに向かった

嫌な夢だった 何であんな夢を見たのだろう…

自分の中の良心が、盲目を偽る罪悪感を感じているのだろうか…?

『ゴボゴボゴボッ………』

霞みがかかった様な重い頭を撫でながら、トイレを済まして洗面台に立つ

 

「ヒィッ!?」

 

ミウたんは目を見開いた

鏡に写る自分の頚元に、鮮明な人の手形が赤々と浮かんでいたからだった

「……夢だったけど ……夢じゃ無かった!」

何処かで聞いたそんな台詞を呟くミウたん

慌てて寝室に戻ると、枕元の携帯電話で先日の新聞記者に電話を入れた

「………はい ………すみません、そう言う事です…… 騙してごめんなさい…… 分かってた? ……そうですか……… あの…… それで実は……私 ……盲目じゃ無くて…… 本当は…… 宇宙人なんです! てへっ!!」

 

 

 

 

 

果たしてミウたんに母の想いが伝わる日が来るのか、それは誰にも分からない……

そして因果応報か、ミウたんはこの後、人生の坂道を急速に転がり落ちて行く事になる……

よもや己が、更に身を落とせる高みに居たとは、この時のミウたんは知る由もなかった……

 




こけしに魅せられた少女、ミウたん
厳しい社会の荒波に揉まれ、大都会の人混みに弾かれ、彼女が流れ着いたのは産業道路が跨ぐ大川の畔…
新たな出会い、そして紡ぎ始める新たな物語…



次 回 予 告

『崖の縁のミウたん ~大川激闘編~』



……パイは無くても、愛は大きかったのよ!
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