「オラオラ~ お前らの救世主はどうした~ 何で助けに来ないんだ~?」
「ブホッ!」
ゴリラの様な風貌の大男
その体躯から繰り出される強烈なアッパーが、慢性的栄養失調状態にあるフリーランサーの身体を木葉の様に吹き飛ばす
河原特有の丸石が隙間無く大地を埋める、通称丸石畳
人面石の宝庫としても一部に知られるその河原に、葦藁とベニヤ板で誂えられた特設リング
高架会の面々は、その上で繰り広げられる処刑遊戯に熱狂していた
一方的な暴力 正に処刑遊戯
リングの傍らにはピクリとも動かないフリーランサー達の姿…
今、止めの一撃を受けた1人がその仲間に加わった
「あのゴリラが高架会の章なの…?」
その様に両手を上げて歓声を叫ぶ男は、背後の声に振り向く
「何だ… おま…ヒベッ!?」
そして短い悲鳴を上げて卒倒した
「き、来やがったぞ!!」
「ミウだ! 桃幇のミウだ!!」
遅れて登場した救世主の姿に、高架会の構成員達は蜂の巣を突ついた様な騒ぎとなる
「貴様がミウか~ こんな小娘に~ お前ら、やっちまえ!」
リングの上のゴリラ男の合図で統制を取り戻した高架会の面々が、ミウたんに襲いかかる
ミウたんは両手に巻いた麻布を勢いよく解き放つ
「吐苦途百烈拳!」
その掛け声と共に無数の正拳突きを襲い来る男達に繰り出すミウたん
「ヒベッ!?」
「グワッ!!」
「クセッ!!」
ミウたんの拳が放つ闘気の前に、男達は泥人形の様に次々と倒れていく
「吐苦途四方斬!」
そのまま一気に駆け出すミウたん
「グブッ!?」
「ゲゲェ~ッ!!」
文字通り四方の男達がこれまた卒倒していく
「クククッ 吐苦途心拳… 極限まで悪化させた体臭で、触らずして相手を屠ふる暗殺拳… まさか、浮浪者究極の奥義をお前の様な小娘が…」
「あとは貴方だけよ… 章…」
「フフ… 俺の名は伍作… 章さんに会いたくば、俺を倒して行きな!」
言い終わると同時に、伍作と名乗る男の強烈な右ストレートがミウたんのこめかみを掠める
拳が風を切る音が、ミウたんの鼓膜を刺激する
「人違い見たいね… じゃあ、そうさせて貰うわ…」
ミウたんは両手の掌を口に当てて、息を吹き込む
「吐苦途剛息波!」
1ヶ月に渡り歯磨きをせず、ニラとネギで鍛え上げた口臭
それを掌に集め、一気に伍作へ向け突き放つ
それを正面からモロに浴びる伍作
「フッフッフッ…」
「………?」
確かに直撃した筈の伍作だが、何故か不敵な笑みを浮かべ、何事も無い様にファイティングポーズを見せる
「吐苦途心拳など、所詮は体臭… 鼻を塞げばどうという事はない…」
そう語る伍作の鼻の穴には確かに白い詰め物が見えた
「ふふふっ…」
それを見たミウたんが今度は薄ら笑いを浮かべた
「……? 何が可笑しい? 気でも触れたか?」
「まだ、使ってないわよ…」
「何!?」
「已經死了…」
謎の言葉をミウたんが放つと同時に、伍作の表情が突如歪んだ
「ぐ…… わ……」
『ピ~ゴロゴロ… 』
伍作の下腹から何が激しく駆け巡る轟音が響いた
「私の口臭を受けた時… ウィルスに罹患した事に気づかなかった様ね…」
滝の様な汗を滴らせて伍作は遂に膝を付く
「相手を体内から破壊するのが吐苦途心拳の骨頂…」
「ど… 何処まで汚い女なんだ… 息だけで食中毒になるなんて… だが、所詮お前も… 章さんの前では…… グブッ!!」
『ブババババババッ! 』
豪快な濁音を尻から響かせて、伍作は泡を吹きリングに沈んだ
「……よくも部下達をやってくれたな… 貴様のせいで高架会は壊滅だ…!」
ミウたんの背後から野太い声がした
「臭い… 臭過ぎる… 鼻が曲がりそうだわ…」
ミウたんはゆっくりと振り向き、川の中州に聳立する大男…
高架会御大に向かって吐き捨てた
「貴様も十分臭いだろ…!」
遂に対峙する、宿命を背負った二人のホームレス… 元い、フリーランサー…
恰も、天がその対決に興奮したかの様に、大粒の雨がポツリポツリと零れてきた
「来い! 吐苦途心拳伝承者ミウ!」 「言われなくても行くわよ… 章…!」
『激闘乱舞 in中州~』
二人の戦いのゴングの様に偶然に鳴り響いたサイレンは、土手や橋下駄に反響して、そんなインチキ外人の叫び声に聞こえた
この川そのものも、二人の対決に興奮しているのかもしれない
「死合」……
この対決が命のやり取りとなる事はミウたんも覚悟していた
目の当たりにするこの大男は、確かに今までの連中とは格が違い過ぎる
湿度と気温の上昇と共に勢いを増す己の体臭…
フリーランサーの宿命とはいえ、一応うら若き乙女であるミウたんには耐え難き恥辱であった
そんなミウたんの体臭に光を見出だしてくれた師匠…
同じ河原で暮らす仲間の為に立ち上がり、傷ついて行った朋友達…
ミウたんにはこの戦いに命を懸けるだけの理由があった
「……1つだけ聞こうミウよ… 貴様がそこまでして戦う理由は何だ… 所詮、我らフリーランサーに助け合いの情など無い筈… 」
「ただ… 義の為に…」
そのやり取りを合図に、二人は一気に間を詰める
互いの瞳の中に映る己の姿…
二人の臭… 闘気が辺りの温度を急上昇させる
「死ねぇぇぇぇぇっ!!」
「食らえぇぇぇぇぇっ!!」
渾身の一撃を繰り出す両者!
だが、その攻撃が相手に届く事は無かった…
『ドババババババッ!! 』
「ゲッ!!?」
「キャ!!?」
突如二人を飲み込む濁流
褐色の氾流が、先程まで穏やかだった大川の様子を一変させる
二人は気付かなかった
先程のサイレンは、ダムの緊急放水の警報だったのだ
冷静に考えれば分かる
ホームレスの喧嘩等に、天や川が興奮する 道理が無いと…
寧ろ怒り… それは大自然の鉄槌であろう…
『Would you really feel the same if all the sounds and memories were gone 心を…』
(助けて… ボコボコ…!)
『Would you really care for me if everything was blown away 信じて今… 蒼く深いこの空を飛んで想いをこめて…』
(……死にたくない! 助けて!)
『Searching for the answers and bearing all the pressure the truth must be found And I tell you it's time for you to see And shape your destiny I'm shining on you Shining on you You're the one…』
(やだ!……ボコボコ…… 神様!)
『Would you really be the same if all the sounds and souvenirs were gone その時 Would you really wait for me if I could toss the coin away 気づいた… 』
(お母さん! お父さん! 莉緒先輩~!)
『遠く 彷徨う魂 気高き証し 揺らぐ事無く looking for the answers and relieved of the pressure your true self is back… 』
(苦しい…! 怖い…! もう殺して~!)
『And I tell you it's time for you to see And shape your destiny I'm shining on you Shining on you You're the one And I tell you to burst and contemplate the goodness you create I'll be shining on you shining on you all the time… 』
(ブクブクブクブ…)
『And I tell you it's time for you to see And shape your destiny I'm shining on you Shining on you You're the one And I tell you to burst and contemplate the goodness you create I'll be shining on you shining on you all the time… 』
余談だが、ミウたんは今回の臨死体験で、超時空ライブを成功させたという