崖の縁のミウたん   作:新六毛

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河原の仕事人 (2)

「どういう事かしら、須内ミウ…」

「元締めを偽って私達を呼び出すとは、制裁物ですね…」

「ワレラ… お主と違って暇ではゴザラヌ…」

隙間風が蝋燭の炎を揺らすあばら家

燭台の前に正座するミウたんを囲む3つの影…

「これは、私の個人的な依頼… 組織には関係無い… 貴女達の力を借りたいの… 報酬は1人… 諭吉10枚…」

 

「「!! 」」

 

あばら家の空気が微かに動いた

「成る程… 相当大きな山の様ね…」

「私達じゃなきゃ、やれないという訳ですね…」

「その報酬なら、考えなくもないでゴザル…」

「ターゲットは台南無屋の番頭、藤田…」

「「!?」」

ミウたんの声に再びあばら家の空気が震えた

 

 

 

月明かりだけが照らすアスファルトの上を、4つの影が滑る様に進んで行く

犬の遠吠えだけが微かに聞こえる

仲の良い家族だったそうだ

家族の想い出を語るばにらは、それまで見せた事の無い、とても穏やか表情だった

ばにらの両親はプルタブを製造する小さな工場を経営していた

貧しかったが、笑いの絶えない明るい家庭だったそうだ

両親の唯一の楽しみは、週末の低貸しパチンコ

少ない小遣いの中で上手に立ち回っていた

日曜日の夕方には決まって両親が沢山のお菓子をばにらに取って来てくれた

夕食の後に家族でそのお菓子を頬張るのが、何より楽しみだったそうだ

だが、そんな細やかな幸せの日々は、ある日唐突に終演を迎えた

父がパチンコの最中に倒れたのだ

脳溢血…

ばにらが病院に着いた時には既に冷たくなっていた

一家の大黒柱の死は、経済的に残された母娘を苦しめた

工場は閉鎖を余儀なくされ、母はパートの仕事に出る様になった

優しかった母が変わったのはその頃からだった

父はパチンコ屋に殺された…

ある日、母はばにらに語った

ホルコン、遠隔、顔認証… ばにらには何の事か分からなかったが、どうやら母は勤め先で、そのパチンコ屋の闇の噂を聞き付けたらしい

母の話では、父はインチキをされ、甘デジで3000嵌まりを食らい、それが元で脳の血管が切れたとの事だった

明くる日から母はパートをやめ、復讐の鬼となった

父の倒れたパチンコ屋に足しげく通い、それまで打つ事の無かった店の最高レート、2円パチンコに手を出した

爆勝し、店を廃業に追い込む算段だった様だ

だが、所詮は素人と玄人の戦い 母も遠隔という魔物に捻り潰された

沖海3で2500嵌まりからのノーマルリーチハイビスカスフラッシュ…

母の心臓は4つの心室全てが破裂していたそうだ

独りぼっちになったばにら…

誰も信じない… 信じられない… この世の全てを憎んだ

そんな彼女が復讐代行業、仕事人の噂を聞いたのはそれから暫くしてからだった

父の無念を… 母の悲しみを… 一縷の望みをそれに託したが…

そして彼女も鬼となった

どんな手を使ってでもお金を手に入れたかった

復讐代行業者に支払う高額の報酬を得る為に…

 

「依頼者に感情移入するなんて、アンタ仕事人失格ね…」

「着きましたね… 私達が一番乗りの様です…」

「台南無屋… 出来れば避けたい相手だったでゴザル…」

一度は断ったその依頼…

今、私情と高額報酬に引かれた仕事人達が、そのまだ暗い無人の駐車場に居並んだ

 

 

「いらっしゃいませ~」

朝8時半、恭しいお辞儀と共に店の自動ドアが開く

仕置き開始…

先頭を占める4人の仕事人は互いの顔を見合い、無言で頷く

 

始めに動いたのは蒼いロングヘアー、クレマンのアミヤ…

表の顔はNHKの集金人、だがその実態は、ロングコートの袖口に隠した金属板でパチスロ機から不正集コインする、裏社会の集金人

今、人も疎らなバラエティーコーナーの一角、撫子侍に鎮座し、遊戯のふりをしながら器用に裾の金属板をコイン投入口に差し込んで行く

(このメーカーはクレマン対策が甘いのよね… )

 

次に動いたのは病弱眼鏡、火打石のエマ…

元エンジニアで、その知識と技術を生かし改造した電子ライターで、パチンコ、パチスロ問わず、その制御プログラムにエラーを生じさせる

彼女が狙ったのはVIVA2

画面に手を近付ける事が不自然で無い筐体は、電子ライターの格好の餌食である

(この役物、卑猥で好きじゃないんですよね… )

 

紅毛碧眼、欧州出身の仕事人、釘林の魔術師ミラも動く

その強靭な握力でパチンコのハンドルを押し引きし、台を僅かに傾け、更に小気味良い台パンで銀玉を自在にコントロールするその様は、まさに魔術師

店員の注意は

「日本語ワカリマセ~ン、パチンコタノシイデ~ス、イッツジャパニーズドリーム」

でほぼ完全にやり過ごせる

正に裏稼業が天職

早速、サムライガールズの島からリズミカルな打撃音が聞こえてくる

「コイツラ、刀の握りがシロートでゴザ~ル…」

 

自販機脇の長椅子に腰掛け、店内の様子見回していたミウたん

スタッフルームから出てきた男の姿を認め、ゆっくりと近付いて行く

「いらっしゃいませ…」

「貴方が番頭… 店長の藤田さん?」

「左様ですが、何かございましたか?」

「……いいえ何も…… ただ、これから地獄に落ちる人の顔を、よく見ておきたいと思ってね…」

「…………はい?」

「んふふ…… 今日は楽しませて貰うわよ……」

不敵な笑みを残して、ミウたんはキープ済みの狙い台、アイジャクの内角へと歩を進めた

 

 

 

「ちょっと~ 何かリールの動きがおかしいんですげど~」

「申し訳ありません 中を確認させて下さい」

呼び出しボタンでやって来た店員に筐体の扉を開けさせる所から、ミウたんの仕置きは始まる

 

『フッ… 』

 

「特に異常はございません また起こる様でしたら、お呼び下さい」

「は~~い」

店員は全く気付かない

扉を閉じる寸前、その内部にミウたんのおちょぼ口から金属片が発射された事を…

吹き矢のミウ…

文字通り吹き矢で慣らした横隔膜の力で、竹筒が無くとも数メートルの距離なら必中である

何事も無い様に着席するミウたん

店員の姿が見えなくなった所で、台の下をまさぐる

 

あった…

 

それは針金… 台の内部に撃ち込まれた金属片に付着してあった物だ

そしてその金属片は、正確にある入力端子の1つを捉えていた

ミウたんは針金を手繰り寄せ、ポケットの中から取り出した小型の端末に接続する

スマホに似せたそれは、エマから2年ローンで購入した、夢の大当たり信号発信機である

遠隔操作には直接操作で…

これぞミウたんの必殺仕置き技なのである

あくまでスマホを操作している体 頃合いを見てその機械から信号を送る

そしてミウたんがレバーを叩いた瞬間

 

『ペカッ ! 』

 

今回も抜かりはない

否、今回だけは抜かる訳にはいかない

15G後…

 

『ペカッ! 』

 

7G後…

 

『ガコッ! 』

 

怪しまれない様、あくまで自然なジャグ連の体で…

31G後…

 

『ペカッ! 』

 

(藤田さん、手前様も相当阿漕な商売をなさってた様ですね… )

 

『ガコッ! 』

 

(こちとら… 手前様に何の恨みもございませんが… )

 

『ガコッ! 』

 

(…………死んで頂きやす! )

 

『ジャンジャンバリバリ… 』

 

 

 

 

 

「ありがとございました またのご来店をお待ちしております!」

カウンターでロボットの様な造り笑いを浮かべる藤田

内心は絶望に打ち震えているであろう彼に、端玉で得た缶コーヒーを渡すミウたん

「!?」

「三途の川の渡し賃よ… 取っておきな…」

そい言って不敵な笑みを浮かべ、藤田を一瞥すると、仲間が待つ換金所へと軽やかな足取りで向かうのだった

 

 

 

アミヤ…

熟練のクレマン捌きで都合1800枚を集コイン

途中、1000嵌まりを二度食らうも、最後なんとか天国ループで最終差枚+900枚

 

エマ…

電子ライター効果か、朝イチのレグからアマゾンに入って伸びまくり

ビリータッチは3/9だったが、ここぞという時に決まり最終差枚+4500枚

 

ミラ…

サムライは結局回らず甘海に移動

結果、これが成功だった

2回転目に魚群が出て当たり、これが15連荘

その持ち玉でバラ甘を蟹歩き

結局6000投資で17000玉GET

 

駐車場隅の幟の影から、ミウたんの姿を見つけたばにらが駆け寄る

「晴らせぬ恨み… 確かに晴らしてあげたわよ…」

ミウたんは端玉で得たお菓子の袋をばにらの前に差し出す

「こんなので良かったら、何時でも持って来てあげるわよ だからもう、誰かを恨むのは止めて…」

「…………お姉ちゃん……!」

ばにらは大粒の涙を溢すと同時に後ろを振り向く

「お姉ちゃん… お菓子は自分で働いて手に入れるよ… もう、お姉ちゃんの前にも現れない… でも…… これからも、お姉ちゃんって… 呼んでいていい?」

「…………うん……」

「お姉ちゃん…… ありがとう……」

声を詰まらせて精一杯のお礼を言うと、ばにらは夜の街に駆けて行った

 

 

 

「三万九千円になりま~す ありがとうございました~」

「……えっ ……はい?」

ミウたんは換金された一味の収益を手にし、文字通りフリーズした

「須内ミウ… 約束の諭吉10枚、頂こうかしら?」

アミヤが報酬の催促をする

仕事が終わればそれまでの関係だ

「……いや、あの…… 換金所、計算間違ってる…… ちょっと文句言ってくる!」

「間違ってませんよ… そんな単純な計算も出来ないのですか…?」

エマが眼鏡のフレームを弄りながら、苛つきを顕にする

「いやいや… あれだけ出して4万は無いでしょ!?」

「低貸し店である事を忘れたでゴサルか…? 既に等価ですらないでゴサル…」

ミラが筒腕組みしながら冷たい視線を向けてくる

「……………………」

ミウたんは背中に冷たい物が流れるのを感じた

そうだった… ここは低貸し店だった…

1人諭吉10枚…? 30万!? 牛蛙一万匹分……

膝が震え始めたミウたんはポツリと呟いた

「私は…… 私は一体、何の為に生きているの…?」

「そりゃ、食べる為じゃない…?」

それにアミヤが冷たく言い放った

 

 

 

魑魅魍魎渦巻くパチンコ業界…

数多の欲望や怨念が渦巻くこの世界で、晴らせぬ恨みを晴らす仕事人、ミウたん…

彼女もまた、その1人なのである…




浮世を離れ、早数ヵ月…
草蒸す河原の洞穴で雌伏の時を過ごしたミウたんに再び転機が訪れる

それは極限の貧窮が見せる悲しい幻想なのか…?
それとも今までこそが現実逃避の妄想だったのか…?
最早、ミウたんはその"生"自体が臨死体験と言って良かった…
果たして彼女はその先で何を見るのか…?





次 回 予 告

『崖の縁のミウたん ~望郷流転編~』


……よく見てなさい! 私が体裁に拘る大人かどうか!
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