昨年奮発して購入したピカチュウのかき氷機は今年も大活躍
練乳浸る淡雪の様なそれを頬張りながら、つくづく良い買い物をしたと悦に入るミウたん
コレさえあれば茹だる様な夏の暑さの中に、一時の癒しパラダイスを無限コンテニューで生み出す事が出来る
この時期、ミウたん家の冷蔵庫の冷凍室は製氷皿で埋め尽くされている
水道代に電気代、練乳やシロップ代を考慮しても、アイスを買うより遥かに経済的だ
更にお盆の頃には墓場に大量の餡子が放置されており、それらを獲得、冷凍保存すれば味のアクセントにも事欠かない
ピカチュウのかき氷機は清貧生活を強いられ、エアコンすら使えないミウたんにとってまさに夏の救世主である
『グウゥゥ〜〜…… 』
ミウたんするの腹の虫が力無い鳴き声をあげる
ミウたんは昨夏からの経験で1つ学んだ事がある
【かき氷は腹の足しにならない 】
ミウたんの基本的生活サイクルに於いて、食事は朝と夜の2回だけである
3食などブルジョアのやる事である
一応は食べ盛りの隅に名を連ねる彼女にとって、それは決して生半可な縛りではない
イスラム教徒でさえ苦行とするそれを、東方の光教徒のミウたんは1年を通して行っているのだ
無論、宗教的事情では無いが…
そんなミウたんが空腹を紛らわす為に、空の器を再びピカチュウの足元に供える
『ジャコジャコジャコ… 』
頭に生えたハンドルを回すとピカチュウの股の間から白い塊が零れ落ちる
それを皿の底に残った練乳にスプーンでまぶして口に運ぶ
微かな甘味と冷たい刺激を残して、たちどころにそれは元の水道水に姿を変える
一服の清涼感…
だがこれでは腹は満たされないのだ
『グウゥゥウゥ…… 』
皮肉にもこの連日のかき氷が、粗食に慣れていたミウたんの胃を覚醒させていた
(夜御飯までまだ時間はあるし… 仕方ない、久しぶりにあれをやるか… )
余りの空腹に耐えきれず、遂に何かを決意したミウたんは勢い良く立ち上がると、その姿をガレージの奥へと消すのだった
昼下がりの公園、焼け付く様な日射しの中、そのオブジェは姿を表す
「なんだろうあれ〜!?」
「面白そ〜!」
三々五々、昼休憩を終えた子供達が彼らの午後の業をこなす為、公園の門を潜る
そして唐突に姿を現したそれに驚きの声をあげる
公園のシンボル、山桜の木陰にある水飲み場からここの一番の人気プレイス、ジャングルジムの立体の中を突っ切り、柵代わりの躑躅の垣根まで伸びるそれ…
近づいて見れば、それが水飲み場の蛇口から溢れる水を流れとして生み出す、竹の樋である事に気付く
だが子供達の注目を集めたのは、その竹樋の向こうに等間隔で居並ぶ7体の地蔵…… に良く似た大きなこけし達であった
1体が幼児の背丈程あるそれは、一様に赤いよだれ掛けを首に巻き、その下には木鉢が備え着けられていた
「お地蔵さん… かなぁ?」
「何してるんだろ?」
「ちょっとコワ〜い…」
軽い興奮を含ませながら、子供達はこけしと竹樋からなるオブジェの前に集まる
「どうしたの、みんな?」
滑り台の陰で頃合いを見計らっていたミウたんは、満を持してその子供達の背後に現れる
「あのね〜 変な物があるの〜」
「午前中は無かったのに〜 」
人は老若男女問わず、相手が若い女というだけで警戒心を失う 子供ならば言わずもがな
よもやこのオブジェの制作者が目の前のお姉さんとは想像だに出来ない子供達は、自分達のテリトリーに起こった不思議なサプライズを少し自慢気に説明する
大人であるお姉さんならこの不思議の種明かしをしてくれる、そう思ったのかもしれない
「う、うわぁ〜〜 こ、これは〜〜!」
そんな子供達の純粋な瞳を受けながらミウたんはあからさまなオーバーリアクションをとる
「みんな〜 これは笠こけしだよ〜!」
「「笠こけし〜?」」
「みんな、笠地蔵のお話は知ってる?」
まるでNHKの児童向け番組を見ているかの様な猿芝居
そのプロデューサー兼、主演のミウたんの問い掛けに、子供は何処までも純真に反応する
「知ってる〜 絵本持ってる」
「笠のお礼にお地蔵さんがご馳走や宝物をくれるの〜」
「そうだね〜 みんな偉いぞ〜」
ミウたんもその気になって、いよいよNHKのお姉さん口調になっていく
「このこけしさん達は、お腹が空き過ぎてみんなの前に現れたんだよ〜!」
「「え〜〜!? 」」
そんなこけしなどいるか…
幸いにもそこにはそんな突っ込みを入れる者は居なかった
「みんな、こけしさん達の前にあるこれが何だか分かる?」
ミウたんはこけし達の前を通る竹樋を指差す
「ん〜〜〜?」
「私知ってる〜 流し素麺〜」
「その通り、どうやらこけしさん達は流し素麺が食べたいみたいね〜」
公園の脇の道を行く乗用車のドライバーが、不思議そうな視線をミウたん達に向けて行った
「きっとお素麺を流せば、こけしさん達がお礼してくれるよ」
「僕んち、お昼素麺だった まだ余ってるかも…」
「じゃあ、僕もお母さんに聞いて来る〜」
完璧に想定通り… ミウたんは思わずほくそ笑む
「じゃあ、みんな気をつけてね 私は流し素麺の準備をしてるから!」
その声に背中を押される様に、子供達は散り散りに公園を後にして行く
これぞミウたんのこけしアーティストとしてのスキルが編み出した食費のマル秘節約術、"こけし地蔵"なのだ
ある時、たまたま玄関先に置いていた廃棄予定の失敗作の前に、何者かが備えた草団子…
初めは誰かのイタズラかとも思ったが、その新鮮こね立て作り上げ立ての草団子は、明らかにその日こけしに捧げる為にこさえられた物である事は明白であった
いったい誰が…
得体の知れない犯人と目的を探る為、明くる日も玄関先に放置したこけしを引き戸の奥から観察する
するとどうだ、程無くして1人の老婆がとぼとぼと現れ、こけしの前にかしずく
そしてこけしの前で手を合わせると、懐からみたらし団子を取り出し、こけしの前に供えたのだ
そこでミウたんは漸く状況が飲み込める
地蔵だ… 地蔵に勘違いされてるのだ…
確かに武骨で荒削りな一品とは言え、自身のこけしアートを理解されないのは釈然としない物があった
だが、結果的に貴重な甘物を手に入れられた事もまた事実だった
それがその時だけの出来事ならば、己の表現力の無さを恥じ入るだけのほろ苦い思い出になる筈だった
だがそれからしばらくして、絵の具を乾燥させる為に庭に干していたこけしが失踪する事件がおこる
ミウたん久々の自信作であり、窃盗を確信し警察沙汰に発展する大騒ぎとなった
だが、こけしは直ぐに発見される
ミウたんのあばら家から少し離れた空き地の隅、真新しい小さな祠の中にそれは鎮座していた
赤いよだれ掛けと赤い帽子…
何者かが打ち捨てられた地蔵と勘違いして、祠まで築いて…
「もう地蔵でよくね…? そこまで言うなら地蔵アーティストでよくね…!?」
ミウたんのこけしアーティストとしての薄っぺらいプライドは粉々に砕け散った
自嘲と自虐を込めた皮肉を心の中で何度も反復した
そこまで地蔵に見えるなら、とことん利用してやろう…
秘術"こけし地蔵"誕生の瞬間であった