崖の縁のミウたん   作:新六毛

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ミウたんのホントにあった怖い話 (2)

「お姉〜〜ちゃん!」

「よいしょ… よいしょ…」

子供達が続々と公園に戻って来る

ボウルやお鍋を小さな手に抱き、ミウたんの元にやって来る

「お姉ちゃん、お素麺、お地蔵様にあげて」

「お汁も持ってきたよ〜」

「みんな偉いわね! じゃあ、お地蔵に流し素麺をご馳走しようか!」

1人1人の持参した量は大した事はないが、それらを金盥に1つにまとめれば、そこはたちまち無数の白蛇が蠢く混沌のと魔沼と化す

それをかき混ぜるミウたんは、恰も今から一世一代の大魔術を披露せんとする深森の古魔女にも見えた

「それじゃ行くわよ〜 お地蔵様〜 召し上がれ〜」

杖代わりの菜箸を振るうと、命を吹き込まれたかの様に素麺の束が宙を踊る

そして自らの意思であるかの如く、竹樋を下る流れの中に華麗にダイブした

水飲み場をスタート地点に計算され尽くした緩やかな勾配を、たおやかに滑って行くお素麺

見る者全てに一服の清涼をもたらしながら、次々とこけし地蔵の前を通り過ぎて行く

軽い緊張感を孕んだの沈黙と、十数の視線を浴びながら、それはそのまま垣根の向こうに消えて行った

 

「みんな、本当にありがとう お地蔵様も喜んでいたよ〜」

「「やった〜!」」

「ねぇ、お地蔵様達はこれからどうするの〜?」

「大丈夫、私がお地蔵達のお家まで送り届けるから! みんなももう遅いから早くお家にお帰り! きっとそのうち良い事があるよ! 」

「やった~!」

「またね〜 お姉〜ちゃん」

用済みの子供達を体よくあしらうミウたん

その姿が道の向こうに消えるのを確認すると、勢い良く躑躅の垣根に飛び込んだ

「ヒャッハ〜〜〜!! 大漁! 大勝利!」

竹樋の終点の先、バケツに据え付けられた笊の中にこんもりと積み上がる素麺の山

それを目にしたミウたんの顔がだらしなく綻ぶ

久方ぶりに鱈腹炭水化物にむしゃぶりつけそうだ

早速、ポケットから取り出したスーパーのビニール袋に笊ごと素麺をぶち込みむと、溢れる涎を拭いながら、全力疾走でミウたんハウスへの帰路に着くのだった

 

 

 

時は来た、ただそれだけだ… とばかりに半年ぶりの揚げ物、屑野菜のかき揚げを作り、

その夜のディナーはミウたん的には贅を尽くした物になった

「ムニャ… ムニャ… もう食べられない…」

漫画の様な寝言を呟きながら、凡そ年頃の娘とは思えぬはしたない寝姿をIKEAベッドの上で晒すミウたん

 

『トン… トン… トン…』

 

そんなミウたんが玄関先から聞こえる異音に気付く事は無かった…

 

『こけし様… こけし様… 余った麺で良かったら… どうぞ… むしゃぶり… くりゃしゃんせ… 少しは… 飢えも… 凌げましょう…』

 

その夜、ミウたんのあばら家の前で踊る7つの小さな影…

 

 

 

「ふぁ〜〜 良く寝た〜〜」

久方ぶりの満腹は上質な眠りをもミウたんにプレゼントした

大きく伸びをし、カーテンを開け、朝とは些か言い難い力強い日射しを浴びるミウたん

「ん〜〜〜 んん… んっ!?」

太陽の光に馴染ませながら、ゆっくりと開けたその瞳に異様な光景が飛び込んで来た

「な、なんじゃありゃ!?」

弾かれた様に寝室を飛び出し、一目散に玄関へと向かう

寝癖の妖怪アンテナが向かい風に靡く

 

『バタンッ! 』

勢い良くそのベニア板に限り無く近い薄いドアを押し開ける

 

「ひべっ!?」

 

と同時に凄まじい悪臭がミウたんの鼻腔を刺激した

「げぇげぇ…? 何なのこれぇ…!?」

鼻を押さえながら、既に涙目のミウたんは絞り出す様に声をあげた

魚の頭… 野菜の皮… 卵の殻に何かのミンチ…

それは堆く積まれた生ゴミの山だった

全体を覆う得体の知れない液体が、夏の強烈な陽の光に鈍く輝く

それが更に黒い靄に包まれ、強烈な刺激臭を放ち鎮座する

「だ… 誰がこんな事を…」

呆然と立ち尽くすミウたんの脇を、生ゴミを覆う謎の靄がすり抜けた

 

『ブゥゥゥ… 』

「ひゃぁっ!?」

 

微かな羽音と風圧でその正体に気付く

「わぁぁぁっ! ダメ〜! 入っちゃダメ〜!!」

黒い靄に見えた物… それはハエの大群であった

まるで生ゴミより旨そうな物を見つけたと言わんばかりに、ミウたんハウスの中を蹂躙して行く

慌てその後を追うミウたん

その開け放たれた玄関から、別動隊が進入を開始する

地を這う、黒光りの一団が…

 

 

 

一体誰が何の為にこんな嫌がらせを…

その答えが出ぬまま、その嫌がらせはそれからも続いた

どれだけ目を凝らして犯人を待ち続けても、その姿を捉える事は出来なかった

そしていつの間にか、庭の片隅に鎮座する大量の生ゴミ…

ミウたんハウスのピンクの外壁が、蠢く謎の漆黒に染め上げられる頃、漸くその嫌がらせは終わったという…

 

 

 

ミウたんが体験した、世にも恐ろしい出来事である…

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