ライモンシティ地下ギアステーション。通称地下鉄である。もちろん対戦のための車両だけというわけではなく、カナワ等各地への路線が敷かれていたりする。
「ポケモンへの愛情がどうのといっておきながらwwwww」
論者の声がしんとして丸い地下空間に反響する。
トウコはメラルバを手に抱えて、とある人物を探していた。論者がその後ろを笑いながら追随している。悪目立ちするために、ウルガモスのよーちゃんはボールの中にいた。
「しかしやはりボールの中でも卵は抱えているんですかな? あまりロジカルに考え出すと切りがありませんなwwww」
ライモンはイッシュの中でもかなりの近代的な街並みが広がっており、地下開発も、街の直下を縦横無尽に張り巡らされ、以降面積は増すばかりだった。人々はこぞってこの発展を喜び、同時に囁かれる風評もまた、この広大な地下の暗がりでひっそりと大きくなる。いわく、不気味な影を見た。いわく、かなしばりにあった。いわく、地下に捨てられ一生を土の下で暮らす人間がいる――
「きみ! よかったら、能力が気になるポケモンを ボクにジャッジさせてくださいよ!」
トウコは、この得体の知れないヤツと出会うたびに、そんな事を思った。
なにしろ四六時中からこの場所にいるのだから。
各方面への電車が集まるこの地下空間の中心部には巨大な柱がずんとあって天井を支えている。表面は雑多な色で埋もれている。様々なポスターや告知、それらに混ざった落書きやらの益体もない集まりである。今年のポケモンリーグ全部門の一覧スケジュール告知には、一部の過激なポケモン愛護団体が行ったのか、「絶対反対!」「害悪たる旧時代の象徴」「キノガッサのA種族値」「害悪バトン」といったアジビラがこれみよがしに貼られている。アララギ研究所のトレーナー研修呼びかけ、及びポケモン保護レッドリスト作成運動のポスターも「トモダチ」「プリケツモエルーワ」「ヤドンのしっぽ」といった戦慄の批判が赤々と書き込まれていた。
「やあ、トウコ君。今日はどんな用でしょうか」
「誰とも会話してねーから、ボケたか? アホな事聞くなよ」
「それもそうか。しかしボクはきみが階段を降りる音を聞くたびに――ああ、ちょっとした特技で――不覚にもわくわくするんだよ。何しろきみぐらいボクに有意義な頼み事をしてくる人は中々いなくてね。2v性格一致程度で妥協する輩は見るに堪えないからね。ストレートなきみはとてもいい。さてさて――」
つらつらとよどみなくそう口上を述べたその青年は、そこで言葉尻を切るとトウコの腕の中へと目をやった。
「その子ですか」
「ああ」
言葉少なくトウコが返し、メラルバを突き出す。彼女の手の中でメラルバは、そいつの見定めるような視線を嫌がって、居心地悪そうに身をよじった。
「ふむ……」
「どうやら我はこのパートに役割を持てないようですなwwww おお怖い怖いww」
論者がそう言って肩をすくめ、「
「名称は」
「もうつけた」
「そうですか……」
残念だ、とその表情で物語っていた。
「……一つ世間話をしましょうか。近頃、なにやら怪しげな儀式が流行っているようでしてね。表立ってはいないが――実のところ、もはや色違いはそこまで物珍しいわけでは、ない」
「……知ってるさ」
トウコがメラルバの――プリエールの行く先を暫時案じていた理由の一つでもあった。
――きせきみたいなのに。ギャラドスでもないのに。
どころか、あげくにはトウコ自身が儀式の信奉者と見なされる可能性も、ないとは言い切れなかったのだ。……げる。
「彼らは私に確認を強要する――この私に!」
やおらに語尾を怒らせたジャッジは、どうやら怒っているようだった。
「私が見たいのはもっと違うものだ。私は星が見たい。特性が異なり、♀だから遺伝もできず、しかしステータスは一応理想の数字であるからと、念のため伺いに来たトレーナーたちに、すばらしい5vだと告げてやりたい! ――私は、あの絶望の表情が見たいのです」
「やっぱり最低の動機じゃねーか。諸悪の権化はテメーの方だよ」
「きみの苦悩する姿は、実に大したものでしたよ」
「ハスボーか! ひかえめ雨うけざらで5vだったあの子の事か!」
「今はどうしてます?」
「そのうち雨パの耐久で活躍させる。見てろよ……」
おっと、怖い怖いとジャッジが両手を上げる。
「そもそも、私が言いたいのは、固体に執着するなという事。色違いが何だというのです? ダメだったらどうするのですか。いやいや、きみはきっと育てるのでしょう。お優しい事ですねえ」
唇の端を歪め浮かべた形は笑みのようでもあった。しかし、声音に込められた皮肉の響きは鮮烈で。
「この ポケモンは そうとう 優秀な 能力を もっている
そんなふうに ジャッジ できますね」
始まった。
トウコの、メラルバを抱える腕に少しだけ力が入る。
「ちなみに一番いい感じなのは……“防御”でしょうか」
「オウフwwww」
「……あと“すばやさ”もいい感じですね。最高の力を持っている、そんなふうにジャッジできました!」
メラルバ(色違い)
H,22
A,24
B,v
C,6
D,25
S,v
その無機質な字記号の羅列が、プリエールと名付けられたある一匹のメラルバへの、冷徹で声高な、どこまでも絶対的な評価だった。
※ ※ ※ ※ ※ ※
ポケモントレーナーの知られざる
しかし、慣れとは恐ろしいもので。
各種メディアへの露出もことごとく拒否して我が道をひた走る現在の彼女には、どうにもこれらは騒がしすぎた。根が風流人なのさと本人はうそぶいているが、十代の半ばとしての価値観の変動にはやや極端に思える部分でもあった。おそらく、そこには、彼女が今まで歩んだ旅路で遭遇した全てが積み重なった、その行き着く結論があるのだろう。その奇譚は、いずれまたどこかで語る機会があるのかもしれない。
しかしそのライモンにあって、設立された理由もわからぬ施設がある。
トレーナー検定所だとか、そんな名前だった。
ブライアンは職務の合間を縫ってバトルに勤しむ極々善良な一般人だった。
その腕前は、やや自惚れかも知れないが、中々のものだと自負していた。ポケモンを育てるのと合わせ、元々才能があったのかどうか、そこらの素人にちょっと毛が生えた程度の連中では相手にもならなかった。ならばジムを訪ねてバッチを集め、ゆくゆくはリーグへ――といわれそうなものであるが、主要都市のジムはともかく、地方まで一々訪ね歩くにも費用や時間がかかる。試験とか、形式ばったところも好みではなかった。彼に限らずそういった層はある程度存在していたのだ。
ならば必然的に、“その手の連中”が集いあいしのぎを削りあう、いわば集会所のようなもの――リーグ協会はこの手の団結をあまり良く見ていない。一定数のトレーナーの中で、振興を最も大にするためまずはジムに行け、が口癖のようなヤツらであるため、黙認というよりは無視、そして裏から圧力をかけているのが現状――が持ち上がる。バトル好きの連中の暗部、ないし
彼自身はただ一トレーナーとして参加するに留まっているが、風に聞くところでは、観客がいて、顧客がつき、金が動いている……とか、なんとか。なんの事はない。用向きの似たギアステーションとの違いは、表か裏かというようなイメージであり、つまり裏側というだけで見込まれる景色も効果もまったく異なるという事だった。
そもそも受付の白衣を着込んだ男からして怪しいと彼は睨んでいる。待合にはパソコン環境まで一通り揃っている。これは、あまり深く考えると薮蛇に近いが、そういう事だろう。
いつものようにまずは手慣らしで数試合をこなし、次の相手を待っている時である。
そのトレーナーは、少女は、腕の中に虫タイプのポケモンを抱えていた。短パン小僧ならぬ短パン小娘とはいかに、ややもすると不埒な思考は少女の膝裏辺りに吸い寄せられ、年甲斐もなく生唾を飲み込んだ。
受付とやや話し込んでいるようである。いつもそうだ。何遍とまったく同じセリフを繰り返すあの男。頭おかしいんじゃないかと彼は疑っていた。
少しもめているようだった。男が、珍しく、定型文以外の事を口にしている。内容からすると、少女の選出を咎めているようだった。
「また、レベル1ですか。何度も何度も申しておりますが」
「いいから、いいから。今回は降参しないで真面目にやるからさ」
「いや……」
「まあそういう事でさ」
最後には一方的であったようだが、ともかく終わったようだ。
ブライアンと向かい合って、所定の位置についた少女は、にかりと笑って「よろしく」と言ってきた。なんだ、礼儀はまともみたいじゃないか。内心で肩をすくめつつも彼はそう思い浮かべた。しかし、何を考えているのか、レベル1とは! 若い子の――とりわけ女性の機微は、生憎さっぱりだ。ここにこうしている以上、ある程度の水準には達しているはずだがな。
娘には及ばずとも、見た目は結構可愛らしい歳若い少女に、どこか浮かれていたのかもしれない。ベルトのボールがカタカタと震え、中の相棒が叱咤してきた。見ると既に向こうも構えている。出遅れたようだった。
いかんな、と首を振って、油断を戒める。バトルには何が起こるかわからない。ありふれた言葉だが、真理だ。あるいはまひるみでノコッチが確20のシュバルゴを沈めるかもしれない。勝負事とは常にそうした笑えない事態がついて回るものだから。
「いってくれ、コジョンド!」
投げたボールから飛び出したのは白い影。涼しげにスカーフをたなびかせた武術の申し子は、トレーナーと共に眼前の敵を見据え、そして――
「バンギラス、ゴー!!」
「GGGGGGUUURRRHHHHHH!!」
決して広くはない対戦場を端まで揺らすかのような重量感。出てきた瞬間に、その場の空気が一変した。
低く腹に響く咆哮。暗緑色に擦り切れ、刺々しい表皮。
彼が喉に得体の知れぬいがらっぽさを感じた時、そのポケモンの周囲から巻き上がる砂が――辺りを吹き荒び宙に満ちた。
砂嵐である。
彼のコジョンドが指示を求めて顔を向ける。しかし果たして、どういう決断を下したものか。格闘は通りそうだが、なにやら不気味だった。コジョンドの火力と素早さならば大抵は先手を取って沈められる。それは向こうもわかっているだろう。つまり、読みあいだ。特にスカーフを巻いている以上、温存しておけば意表をつける――可能性もある。ああ、しかし。
情報とはやはり重要だな。そう彼は結論を下した。知らぬポケモン相手にいくら考えを巡らせたところで、半ば徒労に近い。ならば思考放棄、いや、安定行動だ。格闘に弱いならば、引っ込めてくるか。交代先に負担をかけられる技。あるいはコジョンドの火力を舐めてかかってくるなら、そのまま返り討ちに。そう決めた。
先手はやはりコジョンドが取った。
替えてこないのか。胸内で呟く。
「――飛び膝蹴りだ!」
吹き荒れる砂嵐の中で、コジョンドは見事相手を捉えた。風のような助走、跳躍、そして渾身の飛び膝蹴りが深々と巨躯に突き刺さった。
「バンギラス! よし、よし! 襷だから! ガンバレ!」
「GGGGGGUUURRRHHHHHH!!」
大きく、仰け反った。明らかに、瀕死、確一の威力は出ていた。しかし耐える。瀬戸際で踏みとどまった。やや力なくも、再度床に両の足で立ち竦む。
バンギラスは轟々と猛り狂った。
「よし、よし! 向こうの襷はスリップで落ちるから! 地震!!」
「GGGGGGUUURRRHHHHHH!!」
二年ぐらい前ならばあるいは不謹慎とされただろうか。
ブライアンの推測したようにそいつは物理の、しかも高火力アタッカーのようだった。怒りを込めて、視界が、フィールドごと揺さぶられる。優遇された攻撃面のステータスの反面、紙のような耐久力しか持たぬコジョンドが耐えられるはずもなかった。
「すまない、よくやってくれた。そして、行ってくれ、ムクホーク!」
スカーフこっちに巻かせろよと突っ込まれるかもしれない。しかしまあそんな時もあるだろうと彼は思った。
鋭く一声
「石火ぐらいかわせよ! 気合だって! やればできる自分を信じろ! いしづき!!」
「GGGGGGUUURRRHHHHHH!!」
バンギラスは轟々と猛り狂った。
もちろん、無茶な注文だった。
細かく砂が打ち付ける。いつまでこの迷惑な現象は続くんだろうとブライアンは思った。細めたまぶたにちりちりと当たるのだ。ムクホークの襷も潰れてしまった。
「しかし、そっちはレベル1が一体、つまりは実質あと一体だけだ。勝負は見えてきたと思うよ、僕。ポリスだからね」
「え? なに? なんだって?」
少女はボールを掴んだ手を耳に当てて、大袈裟な仕草でそう聞き返してきた。その間も砂嵐は吹き続けている。
「今なんていったんだ……? ひろいに行け? ひろいに行けだって~~?」
もちろんそんな事は一言だって言っていない。
「その必要はない! ひろいに、もとい、もう二体を繰り出す必要はぜんぜんねーのよ!!」
さっき投げたボール・クラッカーにもう一個が回転しながらひっかかって……なんて事もなかった。少女は普通に投げ込んだ。
しかし、その中から出てきたポケモン。
そいつをブライアンは知っていた。
「さあ、頼んだぜ……リュリュ!」
「RRRRRRUUUHHHHHHHYYY!!」
砂嵐下で特性すなかきを発動させ、脅威の速度から放つ攻撃種族値135のタイプ一致地震で対戦相手を全抜きする事もしばしばである。その他、物理135族といえば、ギガイアス、メタグロス、ボーマンダ辺りだろうか。ちなみにそれぞれの高さは順に1.7m、1.6m、1.5mであり、それらの中0.7mとして屹立するドリュウズはこう、小さいながらも相当なポケモンに見えた。
「岩なだれ!!」
「ノー!」
「グレイシア!」
「地震!!」
「ノー!」
多分なんかポリスの名前とか口調はおおよそ違うと思います。思うだけ。
※計算し直した所A特化でもコジョンドじしん確定2発じゃないですかー。
HB個体値が相当低いかマイナス補正かかると確定1~高乱数入るみたいです。