リリカル・デビル・サーガ   作:ロウルス

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閑話2 吸血鬼のすずか

 家に帰ってきた。心配するお姉ちゃんやメイドのファリンを振り切って、部屋の扉を閉める。ベットに飛び込むと、声が聞こえてきた。

 

「化け物!」

 

 アリサちゃんが放った言葉。

 

 それは、いつか真っ赤に広がった血の前で聞いた言葉と重なった。

 

 

――化け物!

 

 

 あの頃はまだ夜の一族って何なのかよく分からなかった。お母さんとお父さんがいて、お姉ちゃんがいて、メイドのノエルがいて。今思えば、まだ学校に通ってなかったから、そんなに人と触れあう事もなかったのが良かったのかもしれない。

 

「すずかちゃん。この子、預かってくれないかしら?」

 

 そんなある日、おんなじ夜の一族の綺堂さんが訪ねてきた。お姉ちゃんとノエルと暫く部屋で喋っていたみたいだけど、出てきた時には猫を抱えていた。

 

「良かったの?」

 

「ええ、ファリンの調整が遅れてるから、せめてと思って」

 

 お姉ちゃんと綺堂さんが話している横で、私はその子猫、ゾウイと遊んでいた。本当は子猫じゃなくて、猫型のペットロボット。何でも、「夜の一族の失われた技術である自動人形の技術を使って造った」とかどうとか……。よく分からなかったけど、とにかく本物の猫そっくりのゾウイは、すぐに大事な友達になった。他に遊び相手もいなかったし。

 

 

 

 そんなある日、ゾウイが屋敷に上がり込んだネズミを追いかけて外に出ていった。こんなところまで本物そっくりじゃなくていいのに。そう思いながら、私はすぐに探しに外へ出た。

 

「あっ、ゾウイ!」

 

 ゾウイは公園にいた。男の子と女の子がゾウイに手を伸ばしている。警戒しているのか、ゾウイは毛を逆立てて後ずさり。

 

「あ、あの! そ、その猫……」

 

 外の子と話すのは初めてだったから、ビクビクしながら声をかけた。ゾウイはこっちに走ってきた。抱き上げる。

 

「何? そいつ、ゾウイっていうの?」

 

「えっ?! あ、うん……。わ、私の猫で……」

 

「お姉ちゃんの? なあんだ」

 

 隣の女の子が残念そうに言う。男の子がそれを慰めてた。

 

「まあ、猫なんて他のを飼えばいいだろ」

 

「そうだけどぉ。この子みたいなのが良かったの!」

 

 なんだか居心地が悪くなった私は、楽しそうな2人の声を何処か遠くに聞きながら、ゾウイを抱いてじっとしていた。

 

 

 

「なあ、この公園にはよく来るのか?」

 

「えっ?! 今日が初めてかな?」

 

 でも、公園からの帰り道、突然男の子が話しかけてきた。

 

「だったら、明日も遊ぼう。ゾウイも連れてきてくれ」

 

「えっ? う、うん。いいよ」

 

「やった! ゾウイ、また遊べるね!」

 

 楽しそうにする女の子に、ゾウイはにゃあと鳴いて答える。なんだか私も楽しくなった。

 

 

 † † † †

 

 

 それから、私達は3人でよく遊ぶようになった。後で教えてもらったけど、男の子はカズミくん、女の子はメイちゃんという名前だった。2人は兄妹で、いつも一緒だった。あの頃は本当に楽しかった。

 

「……すずか、なんだか楽しそうね」

 

 それが伝わったのか、公園に行く私にお姉ちゃんが声をかける。

 

「そ、そうかな?」

 

「ええ、またお友達のところ?」

 

 そう聞かれて私は迷うことなく返事をした。

 

「うん!」

 

「……そう、気をつけてね?」

 

 お姉ちゃんはなんだか複雑そうだった。その時はなんでか分からなかったけど、今ならはっきりと分かる。お姉ちゃんは、私が夜の一族だとばれるのを心配していたんだ。もしばれたらきっと嫌な目で見られるだろうから。でも、あの時の私はそれに気づかず、そのままゾウイを連れて公園へ向かった。

 

「あれ?」

 

 公園へ行ってみると、カズミくんもメイちゃんもいなかった。周りを探そうとすると、急にゾウイが駆け出した。

 

「あ、待って! ゾウイ!」

 

 慌てて後を追った。でも、ゾウイは茂みのなかに入ってしまい、結局見失ってしまう。

 

「ゾウイ! ゾウイィ!」

 

 私は名前を呼んでゾウイを探した。でも見つからない。そうこうしているうちに、日が暮れかかってきた。

 

(ど、どうしよう……)

 

 一旦家に帰って、お姉ちゃんに相談しようかと思い始めた頃、ゾウイが鳴く声が聞こえた。私はそっちに向かう。その途中、何処か甘い匂いを感じていた。茂みの奥、声の聞こえた方に進む。段々と強まるその匂いに惹き付けられるように、私は走った。開けた場所に出る。

 

 そこには、私を見て鳴くゾウイと、血を流して倒れるカズミくんがいた。

 

 

 アリサちゃんなら驚いて叫ぶだろうか。それとも今日みたいに吐いちゃう? そんなに気持ち悪い死体じゃなかったから、それはないか。じゃあ、救急車を呼ぶ、かな。それが普通だろう。でも、私は、その時の私は、さっき嗅いだ甘い匂いが血の匂いだと分かってしまった。誘われるようにカズミくんの腕から流れる血に口をつける。自分のなかに眠る化け物の血が騒いだのがはっきりと分かった。初めて覚える吸血に興奮しているのが分かる。

 

 タリナイ……モット……

 

 気がつくと私は、血まみれになってカズミくんの首に牙を突き立てていた。

 

「き、きゃぁぁぁぁあああ! ば、化け物!」

 

 カズミくんのお母さんに見つかるまで。

 

 

 † † † †

 

 

「そんな! 警察の発表も見たでしょう? 死因は刃物だと。すずかはそんなもの持っていなかったし、第一、あんな重症を負わすなんて幼いすずかには無理です!」

 

「幼いっていっても、人を殺せる夜の一族でしょう? 出来るんじゃないの!」

 

 綺堂さんとカズミくんのお母さんが言い争いをしている。この時まで知らなかったけど、カズミくんのお母さんは夜の一族と繋がりがあった。といっても、吸血鬼という訳じゃなく、お兄さんが夜の一族の人と結婚したらしい。「普通の」人でも、夜の一族が認めて、誓いを立てれば秘密を共有して一族に迎え入れられる。でも、

 

「だいたい、カズミの血を吸っておいて……それで無罪だなんて……」

 

「ですから、すずかはカズミ君が怪我をしたと思って、傷口を舐めていただけで……」

 

「それが異常だっていってるのよ!」

 

 カズミくんのお母さんは私がどれだけ異常か並び立てた。誓いは大切な人としか立てない。夜の一族が認めた人。その人が私を異常だと言っている。化け物だと言っている。私は、泣きながら部屋に戻った。胃の中のモノを戻した。血を吐き出そうとしたけど、そんなものは出なかった。

 

 

 † † † †

 

 

 それからしばらくの間、私は部屋に閉じ籠って過ごした。ゾウイは時々外に出てるみたいだけど、とても追いかける気になれない。

 

 一度、カズミくんのお母さんのお兄さんが訪ねてきた事がある。

 

「君がカズミを殺したんじゃないって事はわかっている。でも、犯人を知っていたら教えてほしい」

 

 そんな事を言われた。妹が取り乱して悪かった、カズミを失って混乱してるんだ、とも。でも、私が化け物である事は否定してくれなかった。

 

 

 

 そんなある日、カズミくんのお母さんが公園で殺されたと綺堂さんに教えられた。

 

「すずかちゃんはここにずっといたのよね? じゃあ、犯人じゃないわ」

 

「はあ、ま、一安心ね」

 

 綺堂さんとお姉ちゃんが喋ってる。

 

 一安心――ああ、そうか。

 

 私はこの2人にも疑われてたんだ。

 

 

 † † † †

 

 

「すずか、たまには温泉に行こうと思うんだけど、どう?」

 

 相変わらず部屋で過ごしていると、両親に温泉へと誘われた。家に閉じ籠ってばかりの私を心配してくれたんだろう。鳴き声を上げるゾウイを抱えて、声をかけてくれる。

 

「ほら、ゾウイもこう言ってるし、ね」

 

 あんまり気が乗らなかったけど、心配してくれるお父さんとお母さんが嬉しくて、一緒に行くことにした。

 

 

 

 温泉は本当に楽しかった。温泉っていっても、いろんなゲームやプールがあって、遊園地みたいになっていた。それに、他の場所へ泊りに行くのはやっぱり楽しい。お姉ちゃんと一緒にはしゃいで、お母さんやノエル、ゾウイともいろんな店を見て回った。途中、

 

「……あ、綺麗……」

 

 お土産屋さんで白いヘアバンドが目に留まった。

 

「あら、それ、すずかに似合いそうね」

 

 思わず呟いたのが聞こえたのか、お母さんはそのヘアバンドを買ってくれた。頭に着けてくれる。

 

「ありがとう、お母さん!」

 

「うん、やっぱり似合うわよ? きっとお父さんもびっくりするわ」

 

 笑いながら言ってくれる。私も久し振りに笑った気がした。やっぱりお母さんは私のお母さんだった。

 

 

 † † † †

 

 

「楽しかったね……すずか? 寝ちゃった?」

 

 帰り、車の中で、私はお姉ちゃんに寄りかかってうつらうつらしていた。はしゃぎすぎたせいだろうか。心地よい疲れに身を任せていると、

 

「ふぎゃぁぁああああ!」

 

 突然足元のゾウイが叫んだ。ビックリして目が覚める。体を起こそうとすると、強い衝撃が走った。

 

 

 

 気がつくと、お姉ちゃんに抱き留められていた。目の前には、ガードレールにぶつかった車。お父さんが乗っていた運転席とお母さんが乗っていた助手席はへしゃげて、そこから血が……

 

「い、嫌ぁぁぁあああああ!」

 

 お父さんもお母さんもその事故で死んだ。乗り出してきた対向車を避けようとして、そのままガードレールにぶつかったらしい。

 

 そっか、夜の一族っていっても、簡単に死んじゃうんだ。

 

 どうせ化け物なら、本に出てくる不死身のモンスターなら良かったのに。

 

 

 † † † †

 

 

「何で此方に遺産がこねぇんだ!」

 

「だから、遺書があったんだから仕方ないでしょう?」

 

 それから、私の家にはいろんな人が来るようになった。細かくは分からなかったけど、みんなお金の話をして、それを綺堂さんとお姉ちゃんが追い返している。中でも、安次郎さんは毎日のように来ていた。殆どお姉ちゃんか綺堂さんが相手をしていたけど、一度だけ話した事がある。たしか、その日は前もって安次郎さんが来るから部屋にいるよう言われていた。

 

「またあの守銭奴の相手をするの?」

 

「まあ、裁判で確定するまでよ。それに、あの事故、ブレーキの跡が無かったんでしょう? 怪しい所もはっきりさせとかないと」

 

 時々聞こえてくるお姉ちゃんと綺堂さんのやり取りを聞きながら、私は2階のベランダでゾウイと遊んでいた。安次郎さんとは会うこともなく終わるはずだった。でも、何を見つけたのか、ゾウイはベランダから飛び降りたんだ。その下にはちょうど訪ねてきた安次郎さんがいた。私は慌てて謝りに下へ降りる。

 

「ご、ごめんなさいっ!」

 

 ゾウイを抱き抱えて頭を下げる私に、ゾウイがじゃれるようにして鳴いた。ふざけていると思ったのか、安次郎さんは手を振り上げる。

 

「このガキ……!」

 

「やめなさいっ! その子に暴力を振るったらよけいに立場が悪くなるわよ!」

 

 顔をあげると、綺堂さんが安次郎さんの手を掴んでいた。後ろでお姉ちゃんがにやにやと笑っている。見ると、安次郎さんの顔やスーツには引っ掻き傷があった。ゾウイの爪で引っ掻かれたみたいだ。

 

「……ちっ! スーツが傷ついただろうが! 弁償しろっ!」

 

「そんなの傷に入らないでしょ。いちゃもんつけるのだけは立派ね」

 

「うるせえ! 親が死んでタップリカネ貰ったんだろ! そのガキも!」

 

 お金。ここのところ来る人はみんなそれだ。何で誰も泣かないんだろう? お母さんもお父さんも死んだのに、何で誰も悲しまないんだろう?

 

「……もう一度言ったら、2度とここに来れないようにするわよ?」

 

「……ぐうっ?! ……けっ! お前ら化け物と違って、こっちは大した力も泣けりゃ、見た目も悪い。カネが必要なんだよ」

 

 怒ったお姉ちゃんの言葉に何処か怯えながら、安次郎さんは帰っていった。

 

「はんっ! そっちも同じ夜の一族でしょうに……! お金の話ばかりして!」

 

 当たり散らすお姉ちゃんを横に、私は何処か納得していた。

 

 ああ、そうか。

 

 化け物が死んだって、誰も悲しくないんだ。

 

 

 † † † †

 

 

 そのうち、そういった人たちも来なくなった。裁判が終わったらしい。裁判って何って聞くと、

 

「ああ、悪者を罰する所よ?」

 

 笑いながらお姉ちゃんがそう答えた。楽しそうに学校へ行く準備をしてる。

 

「お姉ちゃん、何だか楽しそうだね?」

 

「えっ? そ、そう? うん、まあ、そうかもね」

 

「忍お嬢様には学校で大切な人が……」

 

「わぁー! ノエル、ストップ、ストップ!」

 

「これは失礼しました」

 

 何だかよく分からないけど、学校で楽しいことがあったみたい。そのせいか、お姉ちゃんは私にも気を使ってくれるようになった。私がゾウイを気に入ってるのを見て、猫をいっぱい飼ってくれたりした。どの子もかわいかったし、何より家族が増えたみたいで嬉しかった。私を受け入れてくれるのは家族しかいなかったから。やっと嫌な事が終わったと思えた。

 

 

 † † † †

 

 

 でも、すぐになんにも終わっていなかったと気づいた。お姉ちゃんが血を流して、男の人に抱えられて帰ってきたんだ。お父さんとお母さんが遺してくれたお金を奪いに、安次郎さんが自動人形を使ってお姉ちゃんと私を殺そうとしたそうだ。慌ただしく動きまわるノエルやその男の人、恭也さんの邪魔にならないよう、私はゾウイを抱いて部屋で震えていた。

 

 なんで?

 

 なんでみんな私の大切な人を殺そうとするの?

 

 化け物だから?

 

 私がカズミくんの血を吸った化け物だから?

 

 そう、きっと、殺そうとするのは……、

 

 私ガ憎イ化ケ物デ、ミンナハオ金ノホウガ大切ダカラ。

 

 

「……ぁ」

 

 

 気がつくと、ゾウイが顔を舐めていた。流れる涙を舌で舐めとってくれている。嬉しかった。優しくしてくれるのが嬉しかった。拒まないのが嬉しかった。ちょっとだけ、ほほが緩むのが分かった。そんなとき、ガチャリと音を立ててドアが開いた。思わずゾウイを抱き締める。この子だけは守らないと……。

 

「良かった。すずかちゃん、無事だったのね?」

 

 でも、入ってきたのは綺堂さんとノエルと同じメイドの格好をした女の人だった。

 

「あ、あの、その人は?」

 

「ああ、この子は……」

 

「は、はじめまして。メイドのファリンです。えっと、よろしくお願いします」

 

「ファリンはノエルと同じ自動人形なのよ。すずかちゃんの護衛にと思って、慌てて連れてきたの」

 

 まあ、結局必要なかったみたいだけどね。と付け足す綺堂さん。後から、お姉ちゃんと恭也さんも入ってきた。

 

 

 † † † †

 

 

「それで、あの男はどうなったの?」

 

「追放よ。誓約の逆ね。同族に自動人形をけしかけた上、しかもその自動人形のレストアにかかる費用で破産したのよ? 一族には百害あって一利無しと思われたみたいね」

 

「……哀れだな。まあ、自業自得だが」

 

 お姉ちゃんと綺堂さん、恭也さんの話を聞きながら、私は学校に向かう。バスの時間もあり、いつも先に私が出ていた。

 

「行ってきます」

 

「はい、行ってらっしゃい」

 

 学校へ行く私をファリンが見送る。お姉ちゃんは学校が本当に楽しそうだ。あの恭也さんがお姉ちゃんを受け入れてくれたから。拒まない人がいるって、すごく大事なんだ。お姉ちゃんは

 

「すずかも友達ぐらい出来るわよ」

 

 そう言ってくれたけど、私は学校じゃひとりだった。また、化け物と言われるのが怖かったから。

 

 

 

「ちょっと貸しなさいよ?」

 

 そんな時、アリサちゃんと出会った。お母さんのヘアバンドに手を伸ばすのを見て、

 

「えっ? い、嫌!」

 

 思わず嫌だって叫んでしまい、喧嘩になっちゃった。でも、止めにきた折井くんの質問に、

 

「綺麗だったからよ!」

 

 と言われたのは嬉しかった。それから、一緒に帰ることになって、

 

「さっきはごめんなさいね。それにしても、そのヘアバンド、やっぱり綺麗ね。どこに売ってるの?」

 

「えっ? ええっと、前にいった温泉で……」

 

 事故の事を思い出して、途中でどもってしまった。でも、アリサちゃんは気にせずに話しを続ける。

 

「ふーん、じゃあ、今度案内しなさいよ」

 

「えっ?! でも、遠いよ?」

 

「大丈夫よ、家から車で送ってもらえば。すずかの家、どこにあるの?」

 

「ええっと、この近くだよ? もうすぐ着くけど……」

 

「なんだ。うちと近いんじゃない。じゃあ、今度遊びに行くわ」

 

「えっ? うん、いいよ!」

 

 積極的に話しかけてくれるアリサちゃんが嬉しかった。お姉ちゃんと同じように、学校で友達が出来たから。受け入れてくれる人ができたから。あの頃みたいに楽しい日が戻ってきたと思ったから。そう、私がカズミくんの血を吸う前のあの頃と同じ日が……。

 

 

 † † † †

 

 

「化け物!」

 

 でも、それは今日勘違いだったと気付かされた。卯月くんが、私の幻想を壊してしまった。卯月くんは何もしてない。助けてくれた。だから悪くないのは知ってる。でも、あの安次郎さんにも、化け物と呼ばれていた。アリサちゃんにも前から嫌われていた。私もなんだか苦手だった。それはきっと、卯月くんが私と同じ化け物だから。

 

アノ嫌ナ感ジノスル卯月クンガ、私ト同ジ……

 

 気がつくと、あの時みたいにゾウイが涙を舐めとってくれていた。私はゾウイを抱きかかえる。

 

「明日から、どうしよう?」

 

 問いかける私に、何だかよく分からないと言った感じで鳴くゾウイ。私はそんなゾウイを撫でながらつぶやく。

 

「うん、分からないよね……。ごめんね、ゾウイ……」

 

 きっと、アリサちゃんはいつも通り気にせず遊んでくれるだろう。でも、それは人間だから。化け物だってばれてないから。もしばれたら、卯月くんと同じように嫌われて……

 

「い、嫌!」

 

「何が?」

 

「ひゃあ!」

 

 気がつくと、ドアの所にお姉ちゃんが立っていた。

 

「もう、晩御飯よって、さっきから呼んでるのに……。すずか、ホントに大丈夫? 何かあったの?」

 

「だ、大丈夫だよ。アリサちゃんにヘアバンド売ってた温泉に行きたいって言われて、私、すぐ無理って言っちゃったから……」

 

「……そう。ヘアバンド……。ごめんね、変なこと聞いて」

 

 早く降りて来なさいね。そう付け加えてお姉ちゃんはドアを閉める。月明かりの部屋でゾウイとふたり。私は、いつまで周りを誤魔化せるんだろう? いつまで友達でいられるんだろう? いつひとりになるんだろう?

 

 ねえゾウイ、どうすればいいと思う?

 

 




――悪魔全書――――――

夜魔 月村すずか
※本作独自設定
 地球に古くから存在する“夜の一族”の血を引く少女。夜の一族は個体によって差があるものの、通常の人間よりも高い身体能力や催眠術、知能を有する。但し、その代償として生き血を吸う必要があり、そのため人間から迫害を受けた歴史をもつ。月村家は夜の一族の中でも名家であり、財力も名声も高い。すずかは幼くして遺産をめぐる争いに巻き込まれ、精神的な傷を負うこととなり、自分が夜の一族であることに強いコンプレックスを抱いている。それを誤魔化すように多数の猫を飼っており、中でも猫好きになるきっかけとなった猫型のペットロボット、ゾウイを心の拠り所としている。

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