リリカル・デビル・サーガ   作:ロウルス

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「……弱くなったわね、士郎」

 端末の画面に映るかつての男。悪魔に刀を向ける士郎には、かつての技のキレも殺気の冴えもない。余程平和に生きてきたみたいね。それでもあの悪魔となんとか戦えているのは、自分のこどもが呪縛となって闘う意思を放棄出来ないからかしら。

 あの男は、罪を投げ棄てて、楽な生活も、大切な家族も手に入れた。

「……気に入らないわね」

 このまま死んでしまうなんて許せない。

 私は手元の端末へかかる指に、力を込めた。

――――――――――――夏織/海鳴タワーホテル



第16話b 天上666mの激震《弐》

「っ!? この魔力はっ!」

 

 揺れを感じて、クルスはレストランの席から立ち上がった。空間そのものを揺るがす次元震。本来なら空間が不安定な場所を通過する次元航行船にでも乗艦していない限りは直面することのないそれが、すぐホテルの裏手、シェルターの資材搬入口付近で起こったのだ。レストランは強力な魔法結界で保護されており、多少の魔力暴走程度であれば感知することすらできないのだが、この揺れは結界越しにはっきりと分かる。世界そのものを吹き飛ばしかねない脅威に思わずデバイスを握り締めるクルス。

 

「ああ、貴女は知らないのでしたね」

 

 しかし、向かいの席に座っている女性――メシア教徒のなかでも、メイガスと呼ばれる魔術に秀でた集団に属する信徒――は諌めるように言った。

 

「元々、今回の一件はこの地に降り立ったメシアにガイアの徒をぶつけることで覚醒を促すのが目的だったのです。今、ついに目覚めたのでしょう」

 

「次元災害を、このような街中で呼び込んだのですかっ!?」

 

「いえ。まさかメシアの覚醒がここまでのものとは想定外でした。まあ、ガイアが寄越した者がメシアの怒りを買い、裁きを受けたのでしょう」

 

 思わず声をあげるクルスになんでもない風に答えるメイガス。おそらく、彼女の中では異教徒の生死などよりメシアの覚醒の方が重要なのだろう。クルスは眉をひそめて問いかける。

 

「シェルターには社会見学に大勢の小学生が集まっていました。ガイア教徒をぶつけるにしても、もっと他に場所があったのでは?」

 

「いや。メシアが覚醒するには、今日あの場所でなければならないと聞いています」

 

「シェルターで、ですか? 何故?」

 

「いえ。そこまでは……私も詳しくは知らないのですよ」

 

 怒りを含んだ声で詰め寄っても手ごたえがまるでない。クルスはこれ以上聞いても埒が明かないと判断し、質問を変えた。

 

「……メシアとは一体誰なのです?」

 

「さあ……ただ、あの光は間違いなく神が罪人を焼き払う炎です」

 

 本当に知らないのか、話せないような内容なのか。あるいは管理外世界で暮らしているせいで、次元災害への知識と危機感が足りていないのかもしれない。苛立ちを募らせるクルスに、横から声がかかった。

 

「気になるかね?」

 

「えっ? ええ、まあ、私もメシア教徒ですから」

 

 声の主は強い魔力を纏う筋肉質の男性。メシア教会ではスキャナーという特殊な戦闘部隊に属している。もっとも、クルスも階級名のみで実際はどのような基準で選ばれているのかは知らないのだが。

 

「なら、見に行くといい」

 

「っ?! いいんですか?」

 

「警備はここにいる人員で十分だ。それに、我々としても関係ないものを巻き込む意図はない。想定外の事故なら、様子を見に行くのは当然のことだ」

 

 メシアの覚醒と強い魔力の暴発と言う異常事態にも関わらず、いつもと変わらない無表情と平坦な声を崩さないスキャナー。どこか異常者を思わせるその容貌にクルスは一瞬の恐怖と戸惑いを覚えた。それでも何とか頷いて外へと向かう。しかし、レストランの扉をくぐると同時に立ち止った。

 

「これは……ジュエルシード?」

 

 レストランの中に張り巡らされた結界を抜けた途端、小さいながらもこの世界に落ちたロストロギアの魔力を感知したのだ。

 

(まずいな……)

 

 頭に浮かんだのは最悪のシナリオ。ジュエルシードが今の次元震に感応して暴走し、止められなくなるというものだ。クルスは周囲を見渡すと、すぐ近くの窓に目を留める。

 

「S2U・クロス、セットアップッ!」

 

《Set up》

 

 そしてデバイスを起動すると、ガラスを突き破り、外へと飛び出した。

 

 

 † † † †

 

 

「あ、あの、先生? シェルターの中、探すんじゃないんですか?」

 

 時は再びさかのぼり、昼前の地下街。社会見学での自由時間を迎えたなのはは、祐子に連れられて歩きながら疑問の声をあげていた。シェルターの中を見て歩くのかと思いきや、祐子はシェルターの出口から外へと出てしまったのだ。

 

「ええ。でも、元々ジュエルシードは空から降り注いだものでしょう? まずは地下のシェルターより上を見に行った方がいいと思って」

 

 しかし、祐子はなのはの疑問を無視するように、明確な意思をもって進んでいく。クラスメートのいるシェルターから離れ、たどり着いたのはホテルの入口だった。

 

「このホテルはね、ちょうどシェルターの真上にあるの」

 

 地下街との連絡口に立ち、ホテルへと続く廊下に目を向ける祐子。奥の気配を図るように無言のままたたずむ。その表情はいつもの包容力を失わないものの、何処か無機質で氷のような冷たさがあった。一瞬だが長い沈黙。なのはは隠された複雑な感情を読み取ることができず、奇妙な緊張感に襲われる。

 

「せ、先生?」

 

「ええ、そうね。早く見つけに行きましょう」

 

 耐えきれずに声をあげたなのはに、軽く笑って答える祐子。しかし、何処か影のある表情はなのはをむしろ不安にさせた。なのはの周りにいる大人――桃子やほむら、夏織は必ずといっていいほど安心を与えてくれるのだが、祐子にはそれがない。

 

(……ど、どうしよう)

 

 無言のまま廊下を進む。気まずい。なのはとしては歩いている間も何か話しかけようとしたが、普段直接的なつながりが無い先生だと話題も見つからなかった。居辛い空気のままホテルのロビーへと入る。2つあるタワーのそれぞれに設置されているエレベーターのうち、N棟とある方へ。屋上行きのボタンを押す祐子。密室の中でもやはり無言だ。

 

(ほむらさんや夏織さんなら話しかけてくれるのに……)

 

 そんな期待の眼差しで見つめてみても、返ってくるのは微笑だけだ。その微笑にやさしさはあったが、桃子やまどかが見せる、コミュニケーションを促すような柔らかさはない。結局エレベーターの密室でふたり無音に支配されることになる。このまま沈黙の重圧が永久に続くとも思われたが、

 

《火事です。火事です。地下で、火事がありました。避難してください。繰り返します。火事です。火事です……》

 

 警報が鳴り響いた。驚いて声をあげる間もなく、急に車が止まったような衝撃に体がはねる。エレベーターが緊急停止したのだ。

 

「なのはちゃん、こっちよ」

 

「ふ、ふえぇ!?」

 

 開く扉に駆け出す祐子。なのはは急な事態に頭がついていかないまま手を引かれて走った。が、大人の脚と一緒に走るのはやはり苦しい。すぐに息が上がる。必死に追いすがり、心臓の鼓動が悲鳴に変わりはじめたとき、ようやく祐子は止まった。目の前には非常扉。せっかくここまで来たのに避難を優先するのだろうか。なのはは思わず声をあげた。

 

「あ、あの、先生、火事って……」

 

「シェルターが燃えてるのさ。って言っても、大した被害じゃないみたいだけどね」

 

「えっ!? ユーノ君?」

 

 が、それに答えたのはいつの間にか横にちょこんと座っていたユーノだった。床をけって肩に飛び乗りながら、声をあげるなのはに平然と話し始めた。

 

「夏織さんに連れてきてもらったんだ。まあ、彼女は先にジュエルシードを探しに屋上へ行ってるけどね」

 

 周りの警告音と相反する冷静な声になのはは混乱を加速させた。夏織がジュエルシードを一人で? 火事を起こしたシェルターの真上にあるホテルの中を?

 

「は、早く助けに行かなきゃっ!」

 

「なのは。エレベーターはもう止まってるよ?」

 

「あ、そ、そっか……、じゃ、じゃあ扉っ!」

 

 もと来た道を戻ろうとするなのはをユーノの声が遮る。慌てて非常扉へ殺到するなのは。しかし、それは祐子に止められた。

 

「なのはちゃん、落ち着いて?」

 

 いつも授業中に見せる包容力のある、しかし何処か無表情な視線がなのはを覗きこむ。固まるなのは。安心とも恐怖ともつかない奇妙な感情が自分の中で広がるのが分かった。強いて言うならゲームで見る敵か味方か判断がつきにくいキャラクターに抱く感情に近いだろうか。あるいはもう少し経験があれば、祐子に疑問を向け始めている自分に気付いたかもしれない。

 

「なのは、あの炎は魔力でできているみたいなんだ」

 

 が、その感情は再びユーノの言葉によって遮られた。いつの間にかシェルターが見える窓へと飛び上がって外を見ている。それに習い、窓を覗き込むなのは。外からは炎はおろか煙すら見えない。

 

「ま、魔力って……」

 

「誰かが魔法を使ってシェルター全体を火の海にしたって事さ。炎の原因を排除しないと燃え続ける事になるね」

 

「そんなっ! 何で……」

 

「まあ、目的は分からないけど、シェルターに魔力を充満させれば炎を出す事もできるはずだよ」

 

 ホテルの裏手に見えるシェルターの資材搬入口へと視線を向けるユーノ。なのはも同じ場所へと視線を向ける。扉にはなにか不気味な模様――普段ならば遠すぎて認識できないはずの目玉のような模様が、なぜか細部まではっきりと見えた。

 

「今、中は火の海じゃないかな?」

 

 煽るようなユーノの言葉に、その扉の先――つい先程まで見学していたシェルターの光景が浮かぶ。そこに燃える炎が重なった。消えない炎に逃げ惑うクラスメート。その中にはすずかやアリサの姿も見える。

 

「ロストロギアだけあって、よく燃える……なのは、残念だけど、クラスメートはもう……」

 

「っ! そんなっ!」

 

 ユーノの声に火勢が増し、見知ったクラスメートが倒れていく。なのはにとって、それはすでに想像ではなくなっていた。まるで目の前で本当に誰かが死んだかのような錯覚を受ける。

 

(また、誰か死んじゃう……っ!?)

 

 が、その錯覚になのはは固まった。「また」って何だろう? 誰かって誰だろう?

 

――オモイダシテハイケナイ

 

 その疑問をかき消すように頭の中で声が響く。

 

「そういっても、火が外まで出てきてるんだ。ここからでもよく見える」

 

 それにユーノの声が重なった。

 

――ハヤク、消サナケレバ

 

「うん? あの炎の中心にいるの、火を放った元凶じゃないか?」

 

――自分ガコワレテシマウ。

 

 なのはは二重になって迫る声にかき乱されるまま、

 

「っ! うあぁぁぁああああ!」

 

 絶叫と共に遠くで燃え盛る炎に向かってガラス越しに砲撃を撃ち込んだ。

 

 

 † † † †

 

 

「はあ、はあ……」

 

(……ふむ、やはり消耗は激しい、か)

 

 呼吸を荒くして膝をつくなのはをユーノにとり憑いた悪魔は冷徹に観察していた。シェルターの炎もその元凶も、全ては悪魔が見せた幻覚に過ぎない。あの日園子を殺してから、悪魔はなのはの意識へ直接介入するようになった。本来ならば人格をゆがめるほどのトラウマとなる記憶を封印し、都合よく善悪のイメージを刷り込む。その甲斐あってジュエルシード暴走体を前にすれば容赦のない砲撃を連発してくれるようになったし、以前吸血鬼の館で対立した監理局の魔導師も撃退することもできた。だが、無意識ではやはり強い抵抗を持っているらしく、その正義感を刺激して魔法を使ってもらうような状況を幻術で再現しても、効果が確実に発揮できるという状態に持っていくにはかなりの準備が必要とのった。今回もサイレンが鳴り響き、クラスメートが危機にあるという異常がなければどこまで有効だったか知れない。事実、幻術をかけ始めてから現実には数時間が経過している。

 

「はあ、はあ……」

 

 息を荒くするなのは。なのはの中では数分しか経っていない筈だが、実際のところは相当な時間をかけて魔力を放出したのだから当然だろう。

 

(まあ、目標を達成しただけで良しとするか)

 

 割れた窓から遠くに見える魔力光にほくそえむ悪魔。邪魔者はこれで少なくともひとり片付く筈だ。後はなのはを連れて屋上に向かい、メシアをおびき出すと同時に狂人を化け物に変えるべく意図的に暴走させたジュエルシードを封印させるだけである。しかし、

 

「大丈夫っ!?」

 

「あ、はい……あれ?」

 

(む? 少しやり過ぎたか?)

 

 肝心のなのははへばったままなかなか立ち上がろうとしなかった。よほど堪えたらしい。見かねた祐子が声をかけている。ユーノはそれをただ無情に見つめていた。元々使い潰すつもりの人間だ。次第に準備にかけるコストに対する効果も薄くなりつつある。封印処理自体はとり憑いた人間の体でも十分できるし、この後の目的を達成する上ではもはや不用の存在と言えた。

 

(……少し早いが、そろそろ喰うか?)

 

 牙を覗かせ、後ろからなのはに迫るフェレット。が、すぐに足を止める。祐子がなのはの背中越しに鋭い視線を向けているのに気付いたのだ。

 

「なのはちゃん、辛いなら無理しないでいいのよ?」

 

「いえ、大丈夫、大丈夫ですから」

 

 しかし、その視線はすぐなのはを気遣うものに代わる。それに応えようというのか、無理矢理体勢を整えるなのは。

 

(ふんっ……お優しい事だな)

 

 悪魔は苦々しくそれを見ながら平然と言い放った。

 

「なのは、ジュエルシードが発動したの、気づいたかい?」

 

「う、うん。上のほう、だよね?」

 

 よろよろと立ち上がりながら立ち上がる。弱いながらも感じるジュエルシードの魔力に先ほど打ち抜いた窓から外を見上げるなのはとユーノ。反対側の棟にはいつもよりも幾分か弱い光を放つ宝石が見える。そして、

 

「あれ? あの子……」

 

(ほう、あの時の管理局員か)

 

 その青い光に照らされて飛ぶ黒衣の少女が見えた。

 

 

 † † † †

 

 

「須藤竜也なら死んだね……ああ、アイツ等がやったよ……悪魔も不破に殺されたね……」

 

「そう……まあ、生きるだけ無駄な奴等よ。構わないわ……そう、上手くいったみたいね」

 

 ホテルの屋上。普段ならば立入禁止のそこで、夏織は高層の風に吹かれながら携帯の通話を終えた。冷静を通り過ぎて冷酷な声と共に携帯の通話終了のボタンを押す。通話相手を知らせる画面にはユンパオと表示されていた。それを見て一瞬表情を歪ませるも、すぐに目を閉じて煮えたぎる心を抑えこむ。

 

(……ここまで来た……もう少し、もう少し耐えれば終わる……)

 

 だから、感情を爆発させるのはいましばらく先でいい。今はすぐそこに控える課題を解決するのが先決だ。そう思い直して後ろを向く。視線の先には反対側のタワーの屋上。そこには、

 

 青い光を発するジュエルシードが宙に浮いていた。

 

(状態は……半暴走、か)

 

 携帯の画面を切り替え、特殊なプログラムを表示させる。「JS制御プログラム」とある画面には、黄色のゲージに細かい数値が羅列されていた。夏織はしばらく画面を眺めていたが、やがて顔をあげる。視線の先には、黒い渦があった。それは見る間に姿を変え、

 

「フッフッフ。上手くいっているようですネ」

 

 シドが出てきた。怪しげな神父の格好のまま、狂気が張り付いたように歪んだ笑みを浮かべる。

 

「一度、夜の一族相手に成功させているんだから当たり前よ?」

 

「しかし、その時使った翼を持った猫は死んでいるでしょウ? 悪魔をイケニエに力を得るとハ、やはりアナタは美しイ」

 

 人間とは思えない笑い声が響く。夏織はそれを平然と聞き流して再度画面に目を向けた。先日、吸血鬼の屋敷で黒猫の悪魔によってなされた実験では暴走して近くにいたすずかを巻き込んだに過ぎないが、今度は上手くなのは達がいる座標へと魔力を飛ばする事に成功していた。その画面から目を反らさずに、夏織はシドに問いかける。

 

「そういう貴方の方はどうなの? あの4体にお楽しみを持ってかれても知らないわよ?」

 

「フッフッフ。手がかりハ、掴みましたヨ。封印は、すぐに壊してご覧にいれまス」

 

 それに薄気味悪い笑みで答えるシド。が、途中でシェルターの方へと目を向ける。

 

「来たようですネ。デハ、私はアナタの活躍を応援していますヨ?」

 

 そんな言葉を残して消えるシド。夏織はしばらくその影を見ていたが、やがてホテルの裏へと向き直る。先程桃色の閃光が夜の闇を貫いたのを見ると、あの悪魔はなのはをたらしこむのに成功したようだ。どういう原理かは分からないが、断片的に聞いた話では強制的に発動させたジュエルシードの魔力をなのはのいる廊下の窓に集めて「情報」を構築し、それを砲撃魔法で撃ち抜かせることで狂人へと届けるのだという。この後、「情報」に精神と肉体を汚染された狂人がメシアとやらを目覚めさせると聞いているが、ガイア・メシアの2大トンデモ宗教が抱える化け物同士の激突などどうでもいい。受けた依頼はこの危険物制御装置の実験と魔力を失ったジュエルシードの回収のみだ。さっさとなのはに封印して貰い、ずらかるとしよう。今後の算段を考えていると、シドが言ったようにこちらに飛ぶ人影が見えて来た。次第にそれは大きくなる。しかし、ジュエルシードの光が照らしだしたのはなのはの白いバリアジャケットではなく、

 

「あら?」

 

「えっ!?」

 

 以前自分を母と呼んだ黒衣の少女だった。

 

 

 † † † †

 

 

 数分前、孔に化け物を任せたフェイトは空を駆けていた。目指すは魔力反応があるホテルの屋上。暮れかかった空をまっすぐに翔ぶ。ジュエルシードまであと少し。そこには萌生を撃った魔導士も来ている筈だ。怒りと共に速度を上げるフェイト。しかし、

 

――ザン

 

「っ!?」

 

 前方でガラスが割れるような音と魔力を感じて慌てて身を翻した。鎌鼬の様な鋭い魔力の刃が飛んできたその方向には、

 

「アオーン、オマエ、オレサマ、マルカジリッ!」

 

 巨大な怪鳥の軍団がいた。派手な色彩の羽に尻尾には鋭いトゲ。耳障りな獣の声が虚空に響く。

 

「な、何、あれ……」

 

 思わず声を漏らす。が、その答えは思いがけず後ろから返ってきた。

 

「さあな。悪魔じゃないのか」

 

 振り返るフェイト。修だ。まったく魔力も気配も感じさせずにフェイトの後ろに浮いている。手元には巨大な雷の塊がバチバチと音を立てていた。

 

「俺は今、機嫌悪いんだ」

 

 酷く冷淡な修の声が響く。

 

「だから、寄ってくんじゃねえっ!」

 

 そして、それを開放した。雷光が瞬時に夕焼けの空を満たす。獣の悲鳴を上げて落ちて行く怪鳥。フェイトはそれを唖然として見ていた。詠唱もない上に魔力をまったく感知できないが、視界いっぱいに広がる雷の威力は最上位の広域殲滅魔法そのものだ。

 

「よお、大丈夫か?」

 

「う、うん……シュウ、今のは?」

 

「だから、レアスキルみたいなもんだって言っただろ? それより……」

 

 相変わらず露骨にはぐらかす修。だが、続く言葉にフェイトの疑問は吹き飛んだ。

 

「今度こそ高町を取っ捕まえてやる」

 

「っ!? シュウ、タカマチがあの砲撃を撃ったって、何で知ってるの?」

 

 思わず声を上げるフェイトを、修は虚を突かれた様子でじっと見返す。が、やがて重々しく口を開いた。

 

「そうか、お前は知らないんだったな……」

 

 そして、話し始めた。数日前の園子が死んだ現場にいた事。園子が死んだのはビルの倒壊などではなく、砲撃魔法だった事。それを撃ったのは高町なのはらしい事――。

 

「どうして……どうして言ってくれなかったのっ!?」

 

「悪かった。でもな、巻き込むといけないと思ったんだよ」

 

「そんなのっ! 私だって友達なのにっ!」

 

 感情を抑えずに叫ぶフェイト。ようやく得た友達である園子の死の真相を知らされずに来たという事実は到底受け入れられるものではなかったのだ。しかし、

 

「プレシアさんにもお前巻き込むなって言われたんだ。断れなかったんだよ」

 

「っ!? 母さんが?」

 

 その一言で少しだけ冷静さを取り戻す。温泉の時にようやく娘として見てくれた母。もう犯罪者に関わらないで欲しいというその気持ちは、あの時の謝罪の言葉と共に確かに求め続けていた愛情として理解できるものだった。しかし、納得いくかと言われると別問題である。その愛情を得るために園子と萌生はどのくらい力になってくれただろうか。

 

「それに、まだ高町って決まったわけじゃない。完全な証拠もないんだ」

 

「証拠ならあるよっ!」

 

 やりきれなさを抱えながら、今度はフェイトが修に語り始めた。月村の家でロストロギアを見つけた事、そこで助けようとしたら逆になのはに襲われた事、それを記録に納めた事――。続けるうちに、修の表情が曇っていくのがはっきりと分かった。

 

「……やっぱさっさと締め上げときゃ良かったんだ」

 

 苛立ちを隠さずにホテルへと目を向ける修。そこに普段の余裕はない。ただ怒りを含んだ低い声と憎悪の視線のまま黙り込む。激情に身を任せているように思えたが、

 

「俺は高町を捕まえにいく。お前はその証拠をプレシアさんに渡しに行け」

 

「っ!? 私も行くっ!」

 

「証拠、壊れたらどうすんだ?」

 

 きっちりと考えた指示がとんできた。感情的になりながらも意外なところへ頭が回る修に感心しながらも、フェイトは言い返す。

 

「大丈夫だよ。家のメンテナンス用のデータベースにもバックアップはあるし。それに……アイツのせいで、モブが傷ついたんだ!」

 

「……そうか。じゃ、仕方ねえな」

 

 ほとんど叫ぶように言うフェイトに修は短く答える。

 

「俺はアレ片付けるから、先に行ってろ」

 

 そして、杖を向けた先には、

 

「そこの魔導師、止まりなさい」

 

 天使がいた。背中の羽に社会の授業で見るような中世の騎士甲冑。両手には盾と槍。その姿はあの得体の知れない教師、江戸川の授業で出てきた下級天使そのままだ。

 

「どけよ……っ! ブチ殺すぞっ! 悪魔がぁ!」

 

 天使の警告に修の怒声が重なる。同時に打ち出される電撃。フェイトは光が走ると同時に駆け出した。先ほどの怪鳥も雷に盾を構えるあの天使も、修に悪魔と呼ばれていた。その単語を聞いたのは、初めてではない。以前、リニスが言っていた危険な「魔法生物のようなモノ」。それはおそらく、あの狂人とともに現れた化け物と同種の、意図的に呼び出された存在だろう。そうでなければ、こうも連続で管理外世界に魔力を持つ生物が出てくるはずがない。その呼び出された化け物は何者かの意思によって母を襲い、萌生に重症を負わせ、そして今、高町なのはを守っている。

 

(……許さない)

 

 憎悪と激怒をのせて、フェイトは翔んだ。ロストロギアの反応がある屋上へとかけ上がる。しかし、そこにいたのは、

 

「あら?」

 

「えっ!?」

 

 以前出会った母親を思わせる女性だった。一瞬驚いたような表情を見せたものの、すぐに余裕のある笑みで空中にいる此方を見上げる。

 

「こんな所で会うなんて、奇遇ね? 驚いたわ。貴方も魔導師だったなんて」

 

「え、ええっと……そのっ!」

 

 何故こんな所にいるのか、何故魔導師を知っているのか、何故ジュエルシードを前に平然としているのか。様々な疑問が頭の中を駆け巡り、言葉が上手く出てこない。夏織はそんなフェイトをしばらく眺めていたが、

 

「さっきピンクのビームを撃ったのも、貴方かしら?」

 

「っ! ち、違いますっ! その砲撃にモブが撃たれてっ! 私はそれでっ!」

 

 とんでもないことを言い始めた。慌てて否定するフェイト。あんな次元犯罪者等と一緒にされてはたまらない。必死にここまで翔んできた理由を並べ立てていると、夏織はそれを遮るように言った。

 

「冗談よ。貴方が撃ったのなら、そっちから翔んでくるのはおかしいもの」

 

 柔らかく笑う夏織。母が笑うとこんな感じだろうか。いつもアリシアに向けられているプレシアの顔が重なる。が、今はそれに浸る時間はない。

 

「あのっ! あそこにあるのは!」

 

「暴走しかけのジュエルシードね。まあ、私は魔力がないからどうしようもないんだけど」

 

 ちらりとジュエルシードを見る。一瞬、余裕が表情から消えるのがフェイトにもはっきりと分かった。フェイトは思わず叫んでいた。

 

「私、封印してきますっ!」

 

「危険よ? 止めておきなさい」

 

「大丈夫ですっ! あのくらいっ!」

 

 当然のように止める夏織にバルディッシュを構えるフェイト。夏織はそんなフェイトに問いかけた。

 

「わざわざ貴方が相手をしなくても、誰も傷つかないわよ? ホテルにいる人だって、火災騒ぎでみんな避難しているわ。時空管理局のマニュアルでも、対処は可能な範囲だけで無理せず逃げるように書いてあるでしょう?」

 

「それはっ!」

 

 冷静に理由を並べられ、フェイトは言葉に詰まった。夏織は漆黒の目で此方をじっと見ている。

 

(やっぱり、似てる)

 

 改めて思った。ロストロギアからフェイトを護るように立ち、ただ優しく笑ってくれるその姿は、かつて夢の中で見た魔力の暴走から自分を護ろうとする母そのままだった。何度も見た夢なのでよく覚えている。まだプレシアが働いていて、自分は広い部屋で留守番をしているときの夢だ。寂しさを紛らわすため猫のリニスと遊んでいると、急に遠くで魔力炉が暴走を起こしたかのような揺れと衝撃が走り、慌ててプレシアが駆けつけるという夢。迫り来る魔力にプレシアはフェイトを守るように抱きしめ、

 

(でも、その後は……)

 

 魔力に吹き飛ばされるのだ。フェイト自身も呑み込まれ、何もかもが消えていく。その光景は鮮明に焼き付いていた。

 

「かあさんが……あなたがいますっ! 私は、あなたに傷ついてほしくない!」

 

 叫ぶフェイト。夏織は驚いたように目を見開く。が、一瞬の沈黙の後、

 

「……そう。なら、止めてきてくれるかしら? でも、危ないと思ったら逃げるのよ?」

 

 静かにそう言った。間違いなく自分を見つめて言ってくれた言葉は、「命令」ではなく「願い」。自分を必要としてくれているというその事実が、

 

「はいっ! 止めて見せますっ!」

 

 フェイトを前へと突き動かした。バルディッシュを構え、ロストロギアへと向き直る。放出されている魔力はバルディッシュに記録されたデータに比べると大幅に小さい。まだ完全な暴走状態に達していない状態だ。このまま遠距離から封印しようとすると、砲撃のためにチャージした魔力と反応する危険性がある。

 

(それならっ!)

 

《Scythe form, Setup》

 

 主人の意思に反応して愛機は鎌状の形態へと姿を変えた。自身の魔力を最小限に抑えて接近し、至近距離から封印しようというのだ。魔力刃を展開し、そのまま一気に距離を詰めるフェイト。目前のロストロギアに斬りかかり、

 

《Coution!》

 

「っ!?」

 

 しかし、バルディッシュの警告で進路を変えた。すぐ横を桃色の砲撃が通り過ぎる。

 

「っ! タカマチッ!」「フェイトちゃんっ!」

 

 互いを呼ぶ声が重なる。だがその口調はまるで違っていた。フェイトがなのはに向かってあげた声には友人を奪い傷つけた憎悪が、なのはがフェイトに問いかけた言葉には今度こそ話をしようという決意があった。

 

「待って、話を聞いてっ!」

 

「ふざけるなぁ!」

 

 が、なのはの想いは届かない。フェイトにとって目の前の白い魔導師はようやく得た居場所を奪おうとした存在であり、その点においてあの狂人と何ら変わりがなかった。

 

《Thunder Smasher》

 

 故に、容赦なくなのはに砲撃を撃ち込む事となる。しかし、それはことごとく分厚いシールドに弾かれてしまった。

 

「っ! なら、私が勝ったら、話をっ!」

 

「黙れっ!」

 

 攻撃を防ぎながらしきりに話をしようと呼び掛けるなのはを電撃と怒声で遮るフェイト。フェイトからしてみれば、なのはの問いかけは隙を作ろうという策略にしか見えなかった。シェルターの地下であの狂人が見せた、目が眩んだと思わせたのと同じブラフ。それはフェイトになのはと須藤を重ねさせるには十分だ。

 

(この前と同じ、強力なシールドと砲撃……典型的な、遠中距離のアーチャータイプッ!)

 

 だがフェイトは決して感情に身を任せている訳ではない。牽制に撃った電撃への対応を観察しながら、相手を冷静に分析する。なのはの基本的な戦い方は以前と変わらず、シールドで防ぎつつ砲撃により相手を打ち落とす戦闘スタイル。天性の膨大な魔力保有量があってこそ取れる手段だ。

 

(でも、あの変なバインドをかけてくるイタチの使い魔がいない……それならっ!)

 

《Photon lancer, Full auto fire》

 

 フェイトは電撃を連続でぶつけた。手数でもって多方向から時間差で襲いかかる砲撃に、なのはは避けきれずシールドを展開する。

 

「わたしが勝ったら、ちゃんとお話聞いてくれるっ!?」

 

 防ぎきると同時、なのはの声が響いた。目に見えるほど杖に魔力を収束している。

 

「ディバインバスター!」

 

 ついで砲撃。想いが乗った声とともに打ち出されたその一撃を、しかしフェイトは醒めた目で見つめていた。

 

「バルディッシュッ!」

 

《Bliz action》

 

 選択した――否、用意していたのは高速移動魔法。フェイトは始めから砲撃の撃ち合いではパワー負けする事を見越して、あえて小規模な砲撃を浴びせかける事で相手を煽り、反撃を誘ったのだ。読み通り、相手が撃ってきたのは膨大な魔力による砲撃魔法。構えてから魔力を放出した瞬間、大きく隙ができる。

 

「お前は、ソノコを殺して、モブを傷つけたっ!」

 

 使い慣れた魔法での加速は砲撃の来るその方向。狙うのはガードが下がったその一瞬。

 

「ソノコとモブを……! 返せぇぇぇぇえっ!」

 

「っ?!」

 

 魔力刃を振り抜いた。本来なら非殺傷設定をカットして斬り殺すところだが、コイツには一生かかっても償いきれない罪を分からせなければならないし、母親を襲った悪魔のことも聞き出さなければならない。今は、

 

「あぁぁぁあああ!」

 

 体を両断する痛みだけで我慢しよう。絶叫をあげて堕ちていく白い魔導師を冷酷な目で見下ろしながら、フェイトは術式を組み始めた。狙うはなのはの堕ちる先。移転魔法で家の地下にある牢獄に放り込もうというのだ。

 

「それは困るな」

 

「っ! あの使い魔っ!」

 

 が、その前にイタチの使い魔がなのはの下へと移転してくる。緑色の魔力光とともに展開される魔方陣。逃げるつもりらしい。

 

「待てっ!」

 

 慌てて砲撃魔法を打ち込むフェイト。しかし、それが届く前に、

 

「ふん。貴様の相手は向こうだ」

 

 イタチはあさっての方向へ魔力弾を撃って消えた。その先には、暴走しかけのジュエルシード。

 

(そんなっ! 暴走させる気っ!?)

 

 そう思う間もなく、魔力弾はロストロギアへと迫り、

 

 掻き消えた。

 

 否。空間ごと揺るがす凶悪な魔力の爆発に魔力弾が吹き飛ばされたのだ。

 

「っ!? この魔力はっ!?」

 

 フェイトはその爆発に覚えがあった。以前、時の庭園でプレシアとリニス、そしてあの不気味な博士が作っていたデバイス、それを孔が起動した時。その時に感じた爆風と、今体に吹き付ける魔力の風はなんら変わりがなかった。

 

(っ! 次元震!?)

 

 次いで感じたのは激しい振動。空間ごと揺らすその衝撃に目を見開くフェイト。だが、反対側から強い光を感じて青くなった。

 

(いけないっ!)

 

 暴走途中のジュエルシードが魔力に感応したのだ。急激に膨らむジュエルシードの魔力。それは次元震と相まって、この世界を破壊尽くさんとするばかりに強く輝く。

 

「バ、バルディッシュッ!」

 

《Yes, Sir!》

 

 デバイスを構えるフェイト。そして、

 

「うわぁぁぁあああ!」

 

 絶叫とともにジュエルシードの輝きの中へと突っ込んだ。

 

 凶悪な魔力が体を焦がす。

 

 それでもフェイトは前へ進み続けた。この世界には、母も萌生も修もいる。リニスやアルフもだ。それに、

 

(まだ、アイツらに勝ってない……!)

 

 コウとアリシアという、乗り越えるべき壁を越えていない。魔導師として負けたまま、家族として母と時間を過ごしていないまま終わるなど耐えられるものではない。

 

「うっ……くぅっ!」

 

 苦痛に喘ぎながらも、輝きを増すジュエルシードにデバイスを伸ばす。

 

 バルディッシュにヒビが入った。

 

 手には血が滲んでいる。

 

 それでも、術式は届く。

 

 視界を埋める青に黄色が走り、

 

《Se, Sealing...》

 

 バルディッシュの声とともに視界は闇を取り戻した。

 

「はあ、はあ……お、終わった、の?」

 

 息を荒げるフェイト。目の前には、バルディッシュに吸い込まれていく力を失った青い宝石。

 

「……ぁ、良かっ……」

 

 だが、フェイトもただではすまない。魔力は苦手な障壁に回し続けたせいでゼロだ。力尽きたように堕ちていく。

 

(と、飛ばなきゃ……)

 

 そう思いながらも魔法は展開できない。身体にかかる落下感は増大し、

 

「大丈夫っ!?」

 

 急に上へ引っ張られた。

 

「か、母さんっ!?」

 

「っ!? ……しっかり捕まってなさい」

 

 そういうと、一気に引き上げられる。フェイトを抱えあげるプレシア。否。プレシアではなかった。月村邸で出会い、つい先程はジュエルシードの封印を依頼された女性――その母親とよく似た女性が、片手に持ったワイヤーを屋上に繋いでビルにぶら下がっていた。もう片方の手でフェイトをしっかりと抱き抱えたまま、ビルの外壁を蹴って器用に上へと登っていく。やがて屋上の固いコンクリートへと下ろされた。

 

「あ、す、すみませんっ! そのっ!」

 

「あら? もう母さんって呼んでくれないの?」

 

 からかうように笑いながら、慌てて立ち上がろうとするフェイトを優しく押し留め、怪我をした手に布を巻いてくれる。

 

「はい、もう大丈夫よ?」

 

「あ、あの……ありがとうございまっ?」

 

 傷の手当てに礼を言おうとするフェイトだったが、言い終わらないうちに頭をポンポンと軽く叩かれた。

 

「もう、危なくなったら逃げなさいって言ったでしょう?」

 

「ご、ごめんなさい……。でも、母さんやみんなが、巻き込まれたらって思って……」

 

 慌てて謝るフェイト。それに目を細める夏織。いつの間にか叩いていた手が頭を撫でている。

 

「なら、貴女も巻き込まれないようにしなさい。こんな荒事に手を出しちゃダメよ?」

 

 言い聞かせるように言うと、夏織は立ち上がった。それに続こうとするフェイト。しかし、

 

「いつっ……!」

 

 全身の痛みで座りこんだ。さっきの魔力の奔流にやられたのだろう。

 

「ダメよ無理しちゃ。ここでじっとしてなさい。お迎えも来たみたいだし」

 

 優しく笑って、シェルターの方の空を指差す。そこには、

 

「フェイトッ! 大丈夫ですか?!」

 

 リニスと、それに続く修とコウ、そして監理局の制服に身を包んだ女の子がいた。

 

「貴女は、ガイア教徒のっ!」

 

「フェイトに何しやがった!」

 

 その女の子が剣を構えて叫ぶ。修も雷をまとい臨戦態勢だ。フェイトは慌てて声を張り上げた。

 

「違うのっ! この人、私を助けようとしてくれ……痛っ!」

 

「もういいから、早く治してもらいなさい」

 

 が、勢いこんでまた立ち上がろうとしたため、また痛い思いをすることになる。それに苦笑しつつフェイトを受け止める夏織。しかし、その温もりはすぐに離れる。そして、

 

「それじゃあ、フェイト、また会いましょう。そこのメシアくんもね」

 

 フェイト、次いで孔に視線を送ると、屋上から飛び降りた。

 

「っ! 待てっ!」

 

 駆け寄る孔。フェイトも身体を引きずってどうにか手すりまで這いより身を乗り出す。しかし、夏織の姿はすでになく、そこには黄昏に染まった空き地と、奈落へ続く様な穴がただ広がっているだけだった。

 




――Result―――――――
・厄災 ジュエルシード暴走体ⅩⅣ 封印
・堕天使 シャックス 刀により斬殺
・妖獣 チン 電撃により消滅

――悪魔全書――――――

妖獣 チン
 中国の伝承に登場する毒鳥。鴆(あるいは酖)。赤銅色の嘴に紫と緑の鮮やかな羽を持った巨体で描かれる。毒蛇を主食としているため、その羽には猛毒が宿り、飛んだ場所の草木は枯死する。その毒は無味無臭無色で、羽を浸して作った毒酒が暗殺に用いられたため、皇帝に駆除されたという。

厄災 ジュエルシード暴走体ⅩⅣ
※本作独自設定
 願望を実現するロストロギア、ジュエルシードの暴走体。落下した際にホテルの屋上に引っかかっていた。発見当時は暴走状態でなかったが、夏織達に見つけられたことで策謀に利用される。ジュエルシードはシリアルナンバーが振られており、この暴走体の元になったジュエルシードはⅩⅣ。

――元ネタ全書―――――

シェルター扉の目玉のような模様
 ペルソナ2罰より、須藤の病室に書かれた落書き。前作との関連を示す重要なイベントだったので、今回元ネタに起用しました。

メイガス/スキャナー
 真・女神転生Ⅰ。ザコ敵として出現するメシア教徒。もちろん仲魔にすることも可能。そして悪魔合体に使うことも可能。しかも有用。何人生贄にされた事やら……。

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