三つ子はあまりにも似過ぎていた。顔も体格も同じように産まれ、両親から同じだけの愛情を受け、同じ環境で育った。同じ刺激を受け、同じように成長し、同じ性格になった。そして、三人同じく野球を愛した。同じ走塁、同じ打撃でチームを盛り立て、守備位置も外野を三人で分けた。三人同じ人を好きになったせいで取り合いをする事態になったこともあった。どこまでもそっくりな兄弟だった。
だから自分が三つ子の内の誰なのかを他の人に分かってもらえているのか、彼らはいつも気にしていた。
「親父」
代表で一人が父親の元へ向かった。三つ子の前髪は唯一見ただけで区別がつくトレードマークになっていた。それをわざと崩し、間違いを誘おうとする。
「どうした?」
「俺は誰でしょう?」
途端に父親の表情が曇った。突拍子のない質問だったが意図は理解してくれたらしい、前髪をじっと見つめていた。
「右京?」
「違う」
「あぁ、左京か」
「違う」
父親は苦笑いを浮かべた。
「参ったな、上京だったか」
「違う」
「違わないだろう。なら誰なんだ」
「親父は分からないのかよ」
「うちは三人兄弟だからな。三人の誰でもないっていうのならお手上げさ」
「ドラマとかで見る父親はちゃんと見分けてくれるもんだけどな。どれだけそっくりでもさ」
「よくできた父親でないとドラマには出られないからな」
だんだんと父親は視線を逸らしていった。適当にやり過ごそうとしている様子が伺える。本当に区別がついていないようだった。
彼は複雑な気持ちになった。間違いを誘ったのはこちらとはいえ、父親に名前を間違えられるのは想像していた以上に辛かった。尋ねるまでは反応が全く予想できず、楽しみでもあったが、正解を答えてほしかったのだと初めて気が付く。親父にとっては誰が誰でも問題ないことなのかもしれない、と思わずにはいられなかった。
「もういいよ、分かった」
不機嫌さを抑えきれず、ぶっきらぼうに吐き捨てると部屋から出て行こうとする。
「ちょっと待て」父親は目を見開いて呼び止めた。「悪かったよ上京」
「俺は上京じゃないよ」
「いいや、お前は上京だ。だろう?」
はっきりと断言した声は、低く、どこか自信があるようだった。だが未だに間違えていた。何とかフォローしようと、安心させようと、必死に取り繕ったのかもしれない。本当に区別がついていない証拠だと捕らえられ、余計に彼を怒らせてしまう。
「親父は何も分かってないんだな」
「ふてくされるなよ。俺はお前達のことは何でも分かっているつもりだ。誰よりもお前達を見てきた。お前は上京で間違いない」
「いや違うし」
「違うと思ってるんだったら、お前が自分の名前を勘違いしているんだな」
「どういうこと?」
「俺はお前達の区別ははっきりとつく、これは本当だ。でも、とても似ているからたまに間違えてしまったこともあっただろう。上京のことをうっかり右京とか左京とか呼んでしまったこともあったかもしれない。それをお前は覚えてしまったんだ。間違えたままな。他の兄弟もそれに合わせて自分の名前を訂正してきたから、お前は今まで自分の名前を訂正できずにここまできてしまった、という訳だな」
言い訳にしては苦しすぎた。まるで現実味がない、妄想のように感じられた。そんな話で息子の信用が取り戻せるとでも思ったのだろうか。彼はもはや怒る気力も失い、呆れ果てていた。
「アホくさ」
父親の顔を見る気にもなれず、彼はそのまま部屋を出て行った。