「ふぁあぁぁ……。ん、起きたの、ハメ太郎? なんか、うなされてたみたいだけど」
「ハメェ……。こわーい夢を、見たハメェ……」
朝。昨日の大波乱から一夜明けた、朝。
成美の部屋には、大量のぬいぐるみと大量のファンシーなグッズが飾られていた。いかにも女の子の部屋っぽいが、そのどれもが用途が定かではない。その部屋で成美と一緒に寝ているぬいぐるみのように見える何かこそ、用途がもっとも定かではない「何か」であり、この世界においてその真の姿を知っているものは誰も――成美以外は――いなかった。
命からがら逃げてきたハメ太郎は、あまりの疲れにすぐに眠ってしまった。そして寝ている最中も、ハメ美から聞いた長ったらしい歴史の講釈を思い出して、さらにうなされてしまった。その夢の終わりがどうなったか、ハメ太郎は覚えていない。残っているのは、ハメランド開闢から今に至るまでの長いながーいお話のつながりだけだった。でも、それもすぐに忘れてしまいそうな、とてもつまらないものだった。
「……そう。……でもハメ太郎、そんなときは、ごはん食べて元気だしなよ!」
「……そうするハメェ」
成美が部屋を出ていくと、ハメ太郎はじっと閉まったドアを見つめていた。
「……ハメランドに戻るハメ」
朝食後。無言のままに食べていたハメ太郎が、食べ終わった途端に、唐突に、核心的なことを、ボソリとつぶやいた。
「え?」
「……ハメランドに戻って、ハメランドを取り戻すハメ!!」
「へっ、もう行くの?! 朝ごはん、食べたばっかりじゃない!」
「ナルミ、〈
「そりゃあ……ね。でもねハメ太郎、こういうものには、順序とお約束が……」
「行くハメ、行くハメ、行くハメ、行くハメェッ!!」
「わ、わかった、わかったわよ……ンもう、朝からお盛んなんだからぁ……」
「それじゃあ、さっそく出発ハメ! ハメランドを取り戻すハメ! 最後の戦いハメ!」
「……しゅっぱ~~つ……」
「……それでナルミ、ハメランドにはどこから戻るハメ?」
数分後、二人?は薄暗い路地の前にいた。成美はそこで立ち止まると、周囲が誰も見てないのを確認してから、バッグから勢いよくハメ太郎を取り出し、その狭い路地の奥へ奥へと入り込んでいった。そのあやしげな路地は奥が見えず、どこまで続いているか全く分からず、そして歩き進めるうちに、徐々に確実にジメジメしてきた。さらには、得体のしれないゴミがあったり、得体のしれない暗がりが見えたり、得体のしれない鳴き声が聞こえてきたり、得体のしれない何かが同じような得体のしれない何かを食っていたりしたあと、今まで無言だったハメ太郎が口を開いた。
「ナルミ、ほんとにこっちでいいハメェ…… とっても……怖いハメェ……」
「なによー、行く前からもう怖気づいたの? それにね、ハメ太郎、たいてい、ファンタジーでメルヒェンな扉や道っていうのはね、こういう、誰も通らないような誰も知らないような、暗くて狭いところにあるモンなの。それがね、ハメ太郎、お約束ってものなのよ。お約束。お・や・く・そ・く。分かる? あるでしょお約束、ハメランドにも」
「わかんないハメェ……」
「ンもう。……とにかく、大丈夫よ。私を信じなさい、伝説の戦士たるこの二之瀬成美たるもの、道をたがえることはないわ!」
「ハメェ……」
「それにね、『世界が危機に瀕して、そのとき伝説の戦士があらわれた! あなたはそれと一緒に戦いなさい!』……なんて、お約束以外の何ものでもないじゃない! それはどーなのよ、ハメ太郎」
「ハメェ。難しくてよくわかんないハメェ。でも、ここの道は何か違うハメェ。なんでこの怖い道がハメランドにつながってるハメェ? 何かおかしいハメ……」
「ないない、そんなことない、ないの。大丈夫。大丈夫よ、ハメ太郎」
とはいうものの、その路地はどんどんと胡散臭くなっていく。まるで何か怪物が出そうな
この世のものとは思えない巨大でさらに不穏な影が、暗い路地をさらに薄暗くするかのように、成美とハメ太郎、ふたりの前に立ちはだかっていた!
「おじょうちゃん、それに、それ。あんたら二人をこの先に通すわけにゃー、いかないなァ。何せ、この先は……」
「出た、出たっ、出たハメッ!!!」
「そんなことより変身よ、ハメ太郎!!!」
成美は、どこからともなくハメ・スティックを取り出した。手にしっかりと握ったそれを、天高くを掲げた。
「キープ・ドリーム! ハーメリア! ……虹の戦士、レインボー・メリア!! ……ハーメリアァァァァァァァァーーーー・ミラクルッッッッッッ・シューーーーーーーーーーーートッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!」
「グオォォォォッッッッッ……」
「ハメェ!! やっつけたハメェ?!」
「もう、って。ンもうハメ太郎、〈
「ハメェ」
爆散した敵の煙が晴れたその向こう側、いかにもな扉が見えた。
「あれハメ?」
「あれ、ね」
この狭くて薄暗くて湿った路地には全然似つかわしくない、丁寧な装飾が施された豪華な扉だった。路地のこちら側とむこう側、それを隔てるように、堂々と、そして場違いなほど立派に、その扉は置かれていた。
「そうね……。行くわよ、ハメ太郎。覚悟はいい?!」
「ハメ!!!」