メタルギアソリッドV -THE NAKED-   作:すらららん

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個人的にはヴェノムの存在は肯定的です。
ただまぁ、こうだったらどうなんだろう? って言うのが二次創作の醍醐味だと思うので書いてみました。
10話ぐらいの構成は既に出来上がっているのですが生憎と時間が無いので更新ペースはゆったりです。





序章
GROUND ZEROES


 1964年。

 ソ連に所属する1人の軍人が居た。

 特殊な生い立ちと複雑な立場に身を置き続けていた男は、如才なく己に課された使命を遂行していく。

 しかし、優れた才覚を持ち合わせながらも歳相応の危うさが垣間見える程度には未熟でもあった。

 そんな青年期の半ばだ。

 とある任務中『偉大な男』に出会い、その生き様に魅了されたのは。

 

 それから早20年。

 壮年期となった男は落ち着きと熟達した能力を手にし、生まれ持った才覚に驕ること無く不断の努力を重ねた。今では敵味方、誰もが認める超一流の戦士へと成長していた。

 そんな風に男を変えた『偉大な男』が姿を消してから……いや、深い眠りに就いて(暫しの別れ)から随分と時が経ってしまった。

 

 凡そ10年。

 

 長い年月だ、記憶の中で“彼”と言葉を交わした思い出が風化してしまい兼ねない程に。

 無論、今でも男の中に“彼”の言葉や意思は鮮烈に存在している。例え死ぬ直前になろうとも“彼”からの言葉や教えを忘れる事は無いと確信すらする程に。

 それでも“彼”の居ない今を生きる事に、例え様も無い言い知れぬ不安を覚える時があった。

 

「本当か!? 確かなんだな、おい!」

 

 男……最近ではシャラシャーシカとも呼ばれる事もある男は秘匿回線越しからの一報に柄にも無く狼狽してしまう。

 さもありなん、この瞬間をどれだけ待ち侘びた事か。

 電話口の“医者”から興奮混じりで伝わってくる報せは昨日まで……いや、つい先程まで僅かながらに抱いていた不安や恐れを吹き飛ばすには十分な内容で、知らず手に汗を握ってしまう。

 

『はい、つい先程! 残念ながら直ぐに意識を失われたので重要な検査は後回しですが、意識レベルは正常値にあります、加えてーーーー』

 

 それからの事はあまり記憶に残っていない。

 よくよく思い返せば医者の話を聞き流し色々と手回しをしてから“彼”の元へと向かった……そこまでは何となく思い出せるのだが、それが自分自身の経験と繋がらない。

 思い出せるのは最速でアフガニスタンからキプロス島へと渡り、とある病院の敷地に辿り着いてからだ。

 

 待ち構えていた看護士……に扮した“協力者”を見付け人目を忍びながら裏口へと回り込む。

 此処は“こちらの領域”だが、それでも用心に越した事はなく真実を識る関係者は少ない方が良い。

 

「こちらです、どうぞ」

「ああ」

 

 逸る気持ちを抑える事が出来ず早足気味に移動する。

 心臓は今にも飛び出さんばかりに存在を訴えており、まるで憧れのヒーローと会える事を楽しみにしている少年の様な……或いは恋焦がれている相手に会う前の少女の様な心持ちだ。

 その拍動は高鳴るばかり。

 

 階段を一足飛びに省略しながら掛け登り目的地の存在する階へと辿り着いた。

 普段は物寂しい程に静かな病室がにわかに騒がしい、そこから出て来た医者と視線が合いーーー病室の中へと視線を移した。

 その間も止まる事なく動き続けていた身体、耳が、目が。その病室のベッドで横たわり続けていた男が僅かながらに動いている事を“感覚で理解”した。

 

「ボス!」

 

 その感覚を脳が理解するよりも早く、自然に声が漏れた。

 

「…………?」

 

 未だ各種ケーブルを身体に繋げたままの男は、胡乱気な視線を闖入者へと向けた。

 青い瞳がぼぅ……っと焦点の定まり切らない様子で二度三度瞬きをしながら、漸く合点がいったのか少しだけ驚いた様に表情を変えた。

 

 ヨロヨロと頼りない手付きで口元のマスクを引き剥がそうともがく仕草で、腕に付いている機器が外れ機械が警告音を発し病室中に鳴り響く。

 慌ただしく動き出いていた医者や看護士は、いったい何があったかと悲鳴を上げるも当の本人は何処吹く風。

 感慨深げに、一言発してから入口で棒立ちを続ける滑稽な姿を眺めながらニヤリと口元を歪ませ9年ぶりとなる言葉を発した。

 

「久しぶりだな……オセロット…………おまえ、老けたなぁ……」

「……ッ」

 

 その声はとても小さく、か細い、弱弱しさすら感じさせた。かつての張りや威厳を感じさせる雄々しい声とはあまりにも掛け離れており年月の残酷さをひしひしと感じさせる。

 それでも男には、オセロットには違った。

 

「……ええ、お久しぶりです。BIG BOSS」

 

 あの“忌まわしき日”から。

 

 実に9年もの時を経て。

 

 彼が目覚めた(V Has Come To)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 序章

 GROUND ZEROES

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1:MSF壊滅

 

 

 

 とある国。とある収容施設。

 そこではあらゆる国の法律が適用されず、捕虜の扱いは非人道的なものが横行。キューバの中のアメリカという特殊な環境の収容施設、通称『キャンプ・オメガ』に囚われた“チコ”と“パス”の両名を救出する。

 この任務をスネークーーBIG BOSSと呼ばれた英雄ーーは、たった1人で遂行する事と相成った。

 

 サイファーと呼ばれる非政府諜報機関、その長とされる“ゼロ”と接触し、潜伏している場所を唯一知っているパスと呼ばれる少女。

 死んだと思われていた彼女が生きている事を知った少年チコは単身キャンプ・オメガへと潜入し、囚われてしまった。

 只でさえ核査察を直前に控えていたMSFはいっそう慌ただしさを増していた。

 

「ボス、準備が整った。現地到着時刻はおよそ2300、天候が荒れ始めているので多少は遅れるだろう」

「フゥ……そうか」

 

 特殊加工の施された漆黒のスーツに身を包み葉巻を燻らせ微睡んでいたスネークは立ち上がり、ヘリポートへと歩き始めた。

 並んで歩く男からの簡単な説明を受けながら、見送りの為に集まった普段より“少ない”警備員達の列を抜ける。

 

「久し振りの単独潜入となる訳だが、不安は?」

「誰に言ってる」

「はは、すまない。だが安心してくれ、対象の2名がどれだけの重傷でも対応出来るよう医療班から腕利きを同行させる」

「あいつか……それは頼もしい」

 

 MSFは総勢300人を誇る大所帯だ、その中でも今回の任務に同行する人物はスネークをして“一番高い能力”を誇る。

 増援こそ叶わないが、彼が控えているのならば後顧の憂い無く任務に集中する事が可能となる。

 心強いバックアップだ。

 

「分かった。それじゃあ行くとしよう……カズ、留守を頼む」

 

 小規模とはいえアメリカ軍が駐留している基地内への潜入など、本来は自殺行為だ。そう、本来なら……いや“普通”の兵士ならば。

 しかしその任務を託されたのはBIG BOSSという『伝説の傭兵』だ。その手腕を誰も疑わない。

 

 飛び立って行ったヘリが水平線の彼方に消えるまで一同で見送り、カズーーカズヒラ・ミラー副指令ーーは隣にいる車椅子の男へと向き直った。

 苛立たしげな態度を隠しもせずに接するミラーに比べると随分とあっけらかんとした態度の男。

 

「ヒューイ、俺はボスへの無線支援を行う。査察団の対応はお前が中心となってやれ、いいな? 絶対にボロを出すんじゃあないぞ」

「分かっている、任せてくれ」

 

 IAEAからの唐突な核査察の受け入れ。

 元はと言えば、このヒューイと呼ばれた男が勝手に査察団からの要請を受諾したのが原因だ。

 本来ならばスネークもミラーも査察を受け容れる気は毛頭なかった、MSFの本拠地であるマザーベースは洋上プラント施設を母体としている組織だ。

 通常は“国家”に対して行われる査察を受けなくてはならない理由は存在しない。

 これはサイファーからの教唆を受けた故の行動であろうとカズは読んでいた。

 

 既に武装は解除し重要な兵器や不必要な人員はマザーベースから遠ざけてある、査察団への対応は無性に張り切っているヒューイに任せ危険地へと単身潜入しているスネークのサポートを優先したミラーの選択に間違いは無かった。

 そう間違った判断はしていなかった。

 しかし後に、この時の選択を生涯悔やむ事となるとは想像だにしていなかった……。

 

 

 

 爆炎。

 チコとパスを見事に救出し、パスの腹部に仕掛けられていた爆弾をも排除して帰途に就いていたスネーク達の目に映ったのはーー沈み始めているマザーベースの姿だった。

 

 何故?

 

 どうして?

 

 どうやって?

 

 そんな風に絶えず湧いてくる疑問に答えを導き出す前に先ず行動しなくてはならない。

 事態は一刻の猶予すら存在しない。

 旋回し着地点を探していたヘリのパイロットがいち早く敵部隊からの猛攻を凌ぎつつ、ミラーを逃がそうとしている集団に気付く。

 

「下がっていろチコ。パイロット、このまま寄せろ! 緊急着陸だ!!」

『了解!』

 

 援護射撃を開始したスネークは直ぐ近くに居た敵ヘリのローター部分へと弾丸を集中させ破壊、撃沈する。

 一時的に制空権を確保する事に成功し、この隙に無事緊急着陸を果たしたヘリから既に傾き始めた甲板へと飛び降り、スネークもまた激しい銃撃戦に加わった。

 

「ボス!」

「動ける奴は負傷者を回収しろ! ヘリに急げ、ムーブ!」

「ボスが戻って来たぞ、ふんばれっ!」

「うぉおおお!」

 

 精神的主柱であるスネークの帰還に士気を取り戻したMSF隊員、しかし状況は既に多勢に無勢。

 豊富な銃火器と人員で攻め立てる敵部隊と違い、MSFは“査察対策の為に”ほぼ全ての武装や人員を解除してしまっていた。

 それでも尚MSFの兵士は十二分に対抗し、副指令であるミラーの身を護る事が出来ていた。

 もし万全な装備、或いは満足な人員。

 そのどちらかが満たされていれば結果は変わっていただろう。

 それだけMSFは高い練度を誇る部隊だった。

 

 

 ーーーだからこそ、敵は“このタイミング”での襲撃を行った。

 

 

「ぐぁあ!」

「おいっ! ……くっ、急げぇ!」

「俺が盾になります、お早く!」

 

 一際大きな音を立て甲板が揺らぐ。

 爆発物で破壊されながらも何とか支えていた脚部が戦闘の衝撃に耐え切れず、遂に崩壊してしまった。

 

 1人、また1人と仲間が死んでいく。

 何とかヘリに辿り着いたミラーだったが、護衛として着いて来ていた半数以上が死に、今もまた目の前で頭部を撃ち抜かれ即死した仲間の姿に激しい怒りと憎悪を滾らせーーーそれ以上の危機感に駆られ殿として敵兵に銃撃を続けるスネークへと大声をあげた。

 

「っ! スネーーク!!」

 

 このままでは彼が死ぬ、それは……それだけは例えMSF全員の命と引換にしたとしても避けなければならない最悪の事態。

 必死の声に弾倉を撃ち尽くし進退窮まったスネークが気付き振り向く。ほんの僅か逡巡し、伸ばされた手に腕を伸ばした。

 最後の生存者である彼を載せたヘリは緊急浮上を開始する。出力は最大、沈み行くマザーベースの上層部構造に巻き込まれない様に巧みな操縦で難を逃れた。

 

 逃げ遅れた敵が海に沈んでいく様が少しだけ痛快だった。

 

「……あ……」

 

 それは誰の声だったか。

 マザーベースは一部だけを残しーーそれもまた時間の問題だが、海へと沈んで行く。

 夜の闇に染まることなく赤々と燃え続ける“我が家”と“家族達”の最後を瞼に焼き付け、MSFは『敗走』を開始した。

 

 

 

 

 

 2:ブランク

 

 

 

 1984年3月某日

 キプロス島 病室

 

 

 沈み行くマザーベースから飛び立った。

 そこまでを話し終えたスネークは口の渇きを癒す為にコップを口元に運ぶ。

 様々な薬効植物やプロテインなどが絶妙に混ぜられたドス黒い液体は、その見た目からは想像も付かない程の爽やかな飲み心地を実現している。

 隠し味のハチミツが効いているのだろうか? そんな事で飲みやすくなるぐらいならこの世にレーションなんてものは存在しないだろう。

 

「ご記憶は確かな様で、安心しました」

「人を病人扱いするんじゃない」

「クッ……いや、失礼。確かに貴方には何て事はないのでしょう」

 

 不満げな顔で呟いた言葉に思わず噴き出してしまう。

 まるで『体調を少し崩しただけだ』とでも言いたげなその一言を、病人どころか少し前まで重病人だった人物が言っているのだ。

 強がりなどではないだろう。

 嘗ては心身共に疲労困憊の状況でありながら『スネークイーター作戦』を完遂させた程の男なのだから。

 

「……おい」

 

 そんなオセロットの態度が気に触ったのか。

 ほんの少し怒気を孕んだ呟きに冷や汗が浮かぶ。慌てて謝罪を述べようと顔色を窺い、その真意に気付き破顔する。

 

「もう一週間だぞ……いや、9年か? とにかく医者共はまるで言う事を聞かん。やれ健康に触るだの、体調に良くないだのと入れ代わり立ち代わり説教してくる。

ヤブ医者どもめ」

 

 人差し指と中指の間を僅かに空けて突き立て親指を添え、クイッと口元へと近付ける。

 短くない付き合いだ、彼が何を要求しているのかなど考える迄もない。未だ満足に身体を動かせない身でありながら、その一連の動作だけは妙に洗練されている。

 

「しかしですね」

「医者の言う事を聞いていたら死んでしまう。それじゃあ、9年ぶりに目覚めた甲斐が無い」

 

 それを言われると弱い。

 マッサージや微弱電流など、肉体を健康に保つ為にあらゆる治療を行って来た。とはいえ9年という歳月はーーーどうしようも無い程に長かった。

 歴戦の戦士とも言えたスネークの身体能力は往事の半分程度にまで落ち込んでいる。

 無論、その程度で済んでいる事自体が奇跡的だ。

 

 年齢的な問題もある。

 9年の間にピークを過ぎ衰えた肉体と、それを知覚すること無く眠り続けていた精神との間に生じる差異ーーーブランクは計り知れない。

 失った“左腕”も問題だ。

 これからのリハビリ生活を支えるのは、何よりも本人の強い意思に他ならない。その意思を挫かす要因など有ってはならない事だ。

 

「ーー次に会う時までに用意しておきます。今は御容赦下さい」

「そうか! いやぁ、ようやく生きている実感が湧いてきた。さて、何処まで話したか……ああ、そうだ。カズと数人を拾い上げて逃走を開始した俺達だったが、仕掛けられていた“もう一つの爆弾”に気付いていなかった」

 

 あのタイミングでパスがヘリから身を投げなければ爆発の直撃でヘリごと吹き飛んでいた……再び語り出したスネークは淡々と当時の状況を話した。

 

 パスに仕掛けられていた“2つ目”の爆弾。

 

 ヘリから身を投げ出したパスと、その間に割り込んだ男の身体。

 

 爆風に巻き込まれ制御を失い墜落するヘリ。

 

 そして9年の昏睡と、目覚め。

 

「……俺がこうして生きているのは、あいつが“盾”になってくれたからだ」

「当時、救出されたのは僅かな人数でした。半数はあなた方を護る為に囮となり……半数は病院へと運ばれた。

誰もが重症だった」

「ああ、俺も……ヘリが墜落した辺りから記憶が無い」

 

 病院へと搬送されたのは3名。

 比較的軽傷であり意識も混濁する事の無かったミラー。

 彼が横たわるベッドの隣、意識不明、脈拍低下、遂には心停止にまで陥ったスネーク。

 そしてもう1人……。

 

「あいつは……どうなった」

「……爆弾によってパスという女の身体は内部から爆散、無数の肉片や骨片に機械部品が“彼”の肉体を散弾の様に襲いました。

医者が言うには、その……人間かどうかも分からない有り様だったと」

「………」

「搬送直後は奇跡的に生きていましたが、頭部に刺さった破片が脳を圧迫し意識は混濁。心停止しかけたあなたの拍動が回復するのと同時刻に容体が急変……死亡しました」

「……そうか」

 

 敵の策略は完璧だった。

 査察団を装っての急襲、最大戦力でありMSFの要であるスネークの陽動、二段構えの爆弾という魔手。

 待機部隊の招集は間に合わず、執拗に行われた残党狩りで嘗ての仲間は散り散りとなった。

 

 本来ならばあの日、スネークは死んでいてもおかしくは無かった。

 

 それでも今、こうしてスネークは生きている。

 9年という歳月と多くの死んで逝った者達の想いが彼を生かしたのだ。

 誰もが彼の無事を願い行動し、彼の為に身を呈した。

 忠を捧げたのだ。

 

「…………俺達を襲撃した奴らの居所。目星は付いているんだろう」

 

 手を眼前に掲げる。

 痩せ細り頼りない右腕と、肘から先が存在しない“左腕”を交互に見やり……掌を“重ね合わせ”た。

 

 『奇跡的に生き残った』

 

 誰もがそう語ったが、それは違う。

 あの日、確かにスネークは死んだ。

 そして地獄へと墜ちた。

 だが。

 それを由しとしない者達の“手”でスネークは地獄から引き揚げられた。

 これは、その対価。

 身体に刻まれた幾つもの()の1つだ。

 

「ええ。しかし……危険です。あなたの再起が整う迄は表に出るべきではありません」

「そうかもな」

「ならば、なぜ?」

 

 はっきりと言えばサイファーへの対抗手段、それらを得る為に9年前の襲撃者達に関わっている“暇は”無い。

 オセロットからの情報により、襲撃者とサイファーの間に直接的な繋がりは存在しない事が判明している。

 それでも尚。

 スネークが戦場へと舞い戻る理由ーーーそれは彼にしか理解しえない事柄だ。

 

「お前にも何時か分かるさ、ジュニア」

 

 

 

 

 

 3:伝説の帰還

 

 

 

 1984年3月21日

 アフガニスタン カブール北方

 

 

 荒涼とした大地に吹き荒れる砂嵐。

 力強い歩みで大地を踏み締める2頭の馬が、その真っ只中を進み続けていた。

 その背に2人の男を乗せて。

 

「この先から、ソ連の実効制圧圏になります。ミラーが捕まってから既に10日以上……残り時間は僅かです。っと、どうやら砂嵐が去ります」

 

 小型の端末を操作し天候の変化を知ったオセロットは防塵マスクを外して腰に備え付けていた水筒を取り出し一口だけ飲むと、隣の“男”へと手渡した。

 男は器用に“機械の左腕”でそれを受け取ると勢い良く美味そうに飲み干した。

 

「っはぁ……生き返るな」

「ええ。それに、随分と“慣れ”ましたね」

「2週間も時間があれば誰でも慣れる、それに……悪くない」

 

 ニヤリと口元を歪ませ新しくなった左腕を太陽へと翳し、チキチキと駆動音を立てながら握り締める。

 まだ以前の感覚が抜け切らないが、その内どうにかなるだろう。

 整備性や拡張性に欠けるのはどうかと思うが、開発者が相当に変わり者で“こだわりの”一点もの故に当人がいない現状では解決する余地が無い。

 致し方無い。

 

9年(GZ)ぶりの現場となりますね。ソ連軍主力地上部隊への単独潜入……まあ、肩慣らし(Open World体験)には丁度いいでしょう」

 

 ソ連内でも有数の実力者であるオセロットの発言とは言え、随分と軽く見られたモノだ。

 が、それも仕方が無い。

 ニヤニヤと義手を眺めながら「ライターを仕込んでみるか」と敵地の目前でありながら飄々とした態度を崩さないこの男に比べれば、あらゆる軍人が三流以下に成り下がるのだから。

 

「ミラーの体力も限界に近い、保ってもあと3日……」

「いや、十分だ。それだけあれば昼寝も出来るな」

「それは何より。しかし下調べも無しにワンデイ集落(監禁場所)に入るのは流石に危険です、まずは“偵察”をするべきでしょう。その双眼鏡はどうです?」

「いい感度だ。だが9年も眠っていた割には大して性能に違いがないな」

 

 スネークが所属していたMSF謹製の双眼鏡は、9年経った現在の技術力をしても同格以上の性能を誇っていた。

 オーバーテクノロジーの宝庫とも言われたMSF開発班の装備、その殆どは海底に沈んだ。しかし僅かに残された装備や技術と話術だけでミラーはこの9年間を生き延びてこれたのだ。

 そのミラーが、スネークとの合流前に捕縛された。

 

 MSF副官であったミラーは9年間、世界中からマークされ続けていた。

 まことしやかに囁かれる『伝説の男の死』を真に受けた大多数の者達と、その生存を疑う極一部の者達。

 監視は世界規模に及んでいたが、遂ぞ……その真実には辿りつけなかった。

 しかしスネークが目覚めてから2週間。

 一体どのような手段に寄るものか、その覚醒が洩れてしまった。だが一足先にキプロス島から脱出したスネーク達は、海路と空路を使いその消息を断つ事に成功した。

 

 合流地であるアフガニスタンーーーそこへ到着の数日前だ、情報を遮断していたスネーク達の下に『ミラーが捕縛された』という報せが入って来たのは。

 

「ここから先は、あなた1人。戦場の連中にとって、あなたは『伝説の傭兵』です……だからこれは、あなた1人でやり抜かねばなりません」

「俺の復活を、全世界に標榜する」

「そう……『BIG BOSS』の復活。

当初の予定は狂いましたが、これはこれで悪くはない。9年という時を越えて、あなたが還って来た事を……奴らにも見せ付けられる」

 

 オセロットから端末とミラーのサングラスを受け取り表示された地図を頭に叩き込む。

 それから徐に懐から取り出した葉巻を銜えながら一度だけ深く息を吐き、瞑想する。

 

「……」

 

 ゆっくりと開かれた瞳、その青い眼の奥深くに……まるで地獄の業火の如き“憎しみ”を僅かに覗かせ傍らに控えているオセロットへと振り向いた。

 

「1日で片を付ける。ヘリの用意をしておけ!」

 

 馬の手綱を強く握り締め走り出す。

 直ぐに見えなくなったスネークの後ろ姿を眺めていたオセロットの瞳からは、一筋の涙が零れ落ちている。

 その事に気付くことなく、離脱用の専用フルトン装置を身に纏いながら感慨深く呟く。

 

「仰せのままに……ジョン」

 

 上昇を始めた気球に吊られながらオセロットは『伝説の帰還』を目の当たりにした高揚感を噛み締め、宙への旅路を楽しんだ。

 

 何れ世界中が知る事となるだろう。

 

 BIGBOSSの帰還を。

 

 

 




会話部分を楽しんで書いていきたいと思ってます。
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