メタルギアソリッドV -THE NAKED-   作:すらららん

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少しずつ原作と変わっています。
その差異は後書きで載せておきますので、よければ御確認下さい。

また、次回更新は今回より長めに開きます。
ご了承下さい。






第一章 報復
帰還


 1:幻肢

 

 

 

 アフガニスタン:カブール北方

 ウィアロ村落(ダ・ウィアロ・カレイ)

 

 

 数日前にミラーは、ウィアロ村落を通ってからワンデイ集落へと移送された。その際に、何らかの“情報”がウィアロ村落内に残されている可能性が高い。

 凡そ10名のソ連兵による警戒網を掻い潜り、あるかどうかも分からない情報の存在する場所に辿り着ければーーーの話だが。

 

「おい」

 

 ピタリ。

 その声が聴こえた瞬間、僅かな動きや呼吸音・存在感を極限まで押さえ込んで『何者か』は壁へと張り付いた。

 

 その声の主であるソ連兵は眼光鋭く、慎重な足取りで何者かが潜んでいる壁の真裏まで近付いて来る。

 それでも何者かは動かず、ただじっと気配を殺して聞き耳を立てる。その間もソ連兵は近付いており、遂には壁の直ぐ近くまで来ると……壁を背にして眠りこけていた同僚に声を掛けた。

 

「あ? あ、あぁいや。寝てないぞ?」

「いや、違うってーーータバコ持ってないか?」

「なんだよ……驚かすな」

 

 ハハハ、と互いに苦笑する。

 その声に混じって『何者か』は既に別の壁へと張り付いて安全を確保し、素早く廃屋の中に紛れ込んだ。 

 

「またか。お前吸いすぎだぞ」

「仕方ないだろ。前線と違って此処は優雅なもんさ、休める内に休んどかないと身体が保たない」

「そりゃそうだ。ほら、貸しだからな」

「すまんな」

 

 戦火を免れる為に村人は既に離村しており、今はソ連第40軍の兵士が駐留しているのみ。あとは野生化した羊などの野生動物。

 それにしても戦場の只中であるというのに見張り達は草臥れた様に休みがちで、こうして煙草を吸ったり居眠りしたりと、だらけている者が目立つ。

 何故か?

 

 元々ソ連によるアフガン進行は呆気なく片が付くと思われていたーーーソ連側の勝利で。

 その前評判は覆った。

 ムジャヒディンと呼ばれる現地勢力との戦闘は、今や終わりの見えない泥沼の戦場と化していた。

 何処からともなく現れる敵への監視・敵地への斥候、度重なる派兵に強行軍、全土で行われる執拗なまでのゲリラ戦への対応。

 報復の連鎖は止まない。

 

 そんな極限状態に於いては、例え訓練された軍人と言えども正気を保ち続けられはしない。

 幸いこの地域はソ連軍が勢力圏を確保している。突然の急襲を警戒して眠れぬ夜を過ごす事も無い。

 此処は、そう言った精神に問題を抱え始めた者達へ『暫しの休息』を提供し癒す場所となっている。無論、ある程度の哨戒はこなさねばならないが……多少の“息抜き”は黙認されている。

 

 だからこそ気付けない。

 彼らの杜撰な警戒をすり抜け、或いは堂々と後ろを通り過ぎ、地面へと這い蹲り視界から逃れ、廃墟から廃墟へと身を隠し移動していく『何者か』の存在を。

 9年ぶりとはいえ、感覚的には一月前に潜入任務をこなしたばかり。肉体はともかく、その感覚(センス)には些かの衰えも無い。

 何者かーーースネークは容易にウィアロ村落、中央部への潜入を果たした。

 

「罠かとも思ったが、どうやら想像以上にソ連軍は疲弊しているらしいな」

『そのようで。私の部下なら1ヶ月は再訓練ものだが、この状況では有り難い。

遠慮なく情報(インテリジェンス・ファイル)を頂くとしましょう』

「そうしよう、解読までどのぐらいだ?」

『5分もあれば。一服するには丁度いいでしょう』

 

 村中央の建造物、指揮所への潜入を果たし捕虜の移送計画書ーー恐らくはミラーの居所ーーを発見。

 その情報解析が終わるほんの僅かな時間を潰す為、通信所として使用する為に増築されたパラボラアンテナのある屋上へと向かった。

 そこに詰まれた土嚢の傍らに腰掛けたスネークは、周囲にソ連兵が居る状況でありながら落ち着き払った態度で葉巻に火を点ける。

 周囲の警戒は全て指揮所から外へ向いており、隠れるには絶好の居場所。

 

「フゥー…………」

 

 明らかに人員が居ない場所から煙が立ち上っていると言うのに誰も気付かない。と言うよりも、上空への監視が緩い。誰も彼もが項垂れ下ばかりを見ている。

 ソ連軍の実情を端的に現しているかのようだ。

 

(この超大国も、永くは無いのだろうな)

 

 それにしても。

 葉巻が旨い。

 いや、違う……これはそんな言葉で片付けられる事ではない。

 そう、この葉巻の味はーーー

 

(う ま す ぎ る !)

 

 当人の主観からすれば1ヶ月程の禁煙生活。

 だが実際は9年もの歳月を禁煙していたのだ、この『模範的ヘビースモーカー』が。

 肉体からはとっくに健康に害を与える物質は消え去り、点滴のみとはいえ十分な栄養素を与えられていた肉体は、多少の運動不足を考慮しなければ『非常に健康的』な肉体に変わったと言える。

 そう、今のスネークの肉体は同年代の水準から見て『理想的な肉体』となったのだ。

 

 勿論そんな理屈などクソくらえである。

 

 スネークにとって喫煙とは、人間が息をする様に『生きていく上で必要不可欠』なものなのだ。

 それを、9年! 9年も欠いてしまった!!

 どれだけ重要な任務でも、自らの師からの忠告すら耳を貸さずに吸い続けた程の偏執的なまでの執着。

 つい先日、9年ぶりとなる感動の再会を果たして以来、暇さえあればこうして『命の補給』を繰り返している。

 

 が……此処にきてスネークは、葉巻の持つ新たな可能性に直面してしまった。

 

(吸えば吸う程に旨さを増していくようだ。

俺の身体に足りなかった何かが満たされていく様な、えも言えぬ感覚……あぁ、天国の外側(アウターヘブン)に堕ちた筈の俺が、まるで天国に居るかの様な幸福感を…………)

 

 九死に一生を得た事による人生観の変化だろうか?

 禁煙生活からの脱却による精神的高揚か?

 理由こそ定かではないが、暫しスネークは敵地のど真ん中である事すら忘れて至福の一服を堪能するのだった。

 

『ーーーお待たせしました、ミラーの居場所が判明。端末に反映します』

 

 オセロットからの報告に一瞬で臨戦態勢へと肉体と思考を戻す。

 葉巻の火を消して灰を回収し、一切の痕跡を遺さない……どれだけ気が緩んでいても成すべき事を成すべき時に確実に成せる。

 これがスネーク。

 これこそが伝説の傭兵。

 9年の時を経て還って来たヘビースモーカー。

 

「ああ、わかっ……アレはーーー」

 

 村の入り口、南東の方角から現れた一台のトラックが指揮所を少しだけ通り過ぎた所に停車する。

 降りて来た運転手は近くに居た歩哨の元に向かい、共に煙草を吸いながら何やら話始めた。内容はスネークの位置からは聴き取れないが、雰囲気から察するに世間話。

 

 どうやら各拠点間を巡回する配送係の様だが、荷台から補給物資を下ろす気配は感じられない。

 途中で見掛けた食糧庫の中身を思い起こす、2・3日は十分に賄える量が貯蓄されていた。

 となれば……。

 

「ふぅむ」

 

 天幕から顔を覗かせ見張りの位置を再確認する、3、4……5人。

 指揮所周辺に居る誰もがおざなりな警戒しかしておらず、ほんの数m圏内に侵入者が隠れ潜んでいる事に気付く様子は無い。トラックに注視している人物はドライバーを含めても0だ。

 これなら例え、荷台に見知らぬ“荷物”が紛れ込んでいたとしても気付きはしないだろう。

 

『どうされました?』

「おい、あの輸送トラックの経路は分かるか」

『ん? ええ、少しお待ちを……』

 

 よく意味の分からない質問であったが、そこは忠義の男オセロット。

 直ぐに“不正”入手した補給経路と担当地区を照らし合わせ、その意図を察して口元を歪めた。

 

『……ああ、成程。あなたの予想通りです、どうしますか?』

「そうだな、俺も歳だ。若い連中に送って(エスコートして)貰うとしよう」

『ご冗談を』

 

 オセロットとの通信を終え、スネークはなんと二階ほどの段差から勢い良く身を投げ出した。空中で身体を捻り回転する事で衝撃を受け流し、音を立てる事なく華麗に着地を決める。

 とても50歳前後の人間の動きでは無かった。

 

 悠々とトラックの荷台へと潜り込むと、その場にあったシートを被り身を潜める。

 そのまま静かに時が過ぎるのを待った。

 

 

 

 

 

 

 2:再会

 

 

 

 アフガニスタン:カブール北方

 ワンデイ集落(ダ・ワンデイ・ハー)

 

 

 ウィアロ村落を出発した輸送トラックは道中ワク・シンド分屯地で休憩を挟み、ワンデイ集落へと到着した。見知らぬ“荷物”を運んで。

 端末ーーiDROIDーーで地図と現在地を照らし合わせながら荷台の上に潜んでいたスネークは、ワンデイ集落手前で走行中の荷台から顔を覗かせると周囲を確認し、草むらへと飛び降りた。

 そのまま集落の周辺にある小高い丘の上まで回り道しながら駆け登り、岩場の陰に身を隠す。

 双眼鏡を取り出し偵察を開始、目的地は近い。

 

「こちら“イシュメール”、目的地に到着した」

『了解。その中にミラーが囚われている場所がある筈です、そうーーーそこです。その建物に、ミラーが囚われている』

 

 双眼鏡と連動して端末越しに送られてくる映像を確認しながらオセロットは、ミラーの居所をスネークへと伝える。

 敵兵の数は先程の分屯地よりも少な目だが、ウィアロ村落よりも多く……その動きは活発だ。捕虜であるミラーが存在しているからだろうか、その警戒に明確な隙間は見当たらない。

 これは先程までと同じだと思っていると痛い目を見るーーーそう直感する。

 

「さっきと違って警備が厚いな。ようやく“肩慣らし”が出来そうだ」

『もうじき陽が落ちます。絶好のタイミングかと』

 

 交代要員がチラホラと顔を見せては所定の位置へと向かって行く様を備に観察する。直に訪れる“好機”を逃さない為に。

 今は、焦らずじっくりと“待つ”時間だ。

 

 

 

(どうやら今日も、生き残れたらしいな……)

 

 ソ連兵との“楽しいお喋り”の時間が過ぎてから気を失っていたミラーは、肌に刺す陽射しが弱まり肌寒さを覚え意識を取り戻した。

 頭部には布が被せてあり息をするのも苦しい、途切れそうになる意識を舌を噛む事で何とか繋げているが……もう捕まってから何日経ったのかすら定かではない。

 だが、限界が近い。

 

(……ザマぁないな……ボスが目覚めて……これからって時に…………くく)

 

 スネークが目覚めた。

 その報せはミラーの下にも即座に伝わった。だが、だからこそ彼はスネークの居場所……キプロスから遠ざかる事を決めた。

 いずれ世界中がBIGBOSSの帰還を知る事になるだろうがーーーその為には、時間が必要となる。

 

 その為に派手に動いた。

 世界中の監視網に引っ掛かる様に露骨に、注目を集める様に。今まで隠れ潜んでいたミラーの唐突なアクション、諜報員達は面白いように釣られ思惑通り“本命”のキプロスから目を反らせた。

 しかし、やり過ぎた。

 引き際を誤った結果、こうしてヘマをしてしまった。

 

(……俺はもうダメか……だが、あんたは…………あんただけは……骸骨……逃げろ……ボス…………ボス……ッ!)

 

 今頃は合流地点に自分が居ない事に気付いたオセロットが“本拠地”に連絡を取り、スネークを招いている頃だろう。

 それでいい。

 重要なのは彼が生きている事、その点に関してだけは“ゼロ”と同じ意見だ。ただ、心残りがある。

 あの日、喪った全てを返す事が……自分の手で彼の手助けとなれない事が、復讐を果たせなかった事が。

 

(スネーク………………俺は…………)

 

 ギィ……。

 ここ数日で聴き慣れた扉の軋む音に、闇の中に沈み掛けていたミラーの意識は浮かび上がる。

 近づいて来る足音。

 察する、とうとう“終わり”の時が来たのだ。

 

(そうか…………やっと、か……)

 

 ミラーは屈しなかった。

 ありとあらゆる手段を以て情報を吐かせようとしたソ連兵達が、逆に根を上げる程に頑なに口を噤んだ。

 その行為の全ては午前中、陽の高い頃に行われていた。それが今、夜に現れた。

 

 とうとう痺れを切らしたのだろう。

 とっくに腹を括っていたミラーからすれば……無駄な時間を過ごしたソ連兵共が滑稽で仕方が無い。

 さあ、最後の仕上げだ。

 せいぜい口が動く限り神経を逆なでしてやり、苦々しい記憶として彼らのプライドに傷を付けてやろう。話術で相手を言いくるめるのは、昔から“得意分野”だ。

 

 頭部の布を剥がされる。

 普段よりもその動作が丁寧な事には気付かなかった。

 

「そろそろ、用済みか?」

 

 皮肉げに尋ねた言葉。

 一体どんな風に『ロシア語』で捲し立てられるのか。いっそ楽しみにすらしていたミラーの耳に届いた言葉は、ソ連に捕獲されてから行われた全ての出来事が吹き飛ぶ程の衝撃を伴って、正しく伝わった。

 

「その様だ。どいつもこいつも日頃の無理が祟ったんだろう、ぐっすり“眠って”いるよ」

 

 一瞬、思考が止まった。

 それは普段ソ連兵達が喋るロシア語でも、同時通訳された拙い英語でも無かった。

 その声は随分と聴き慣れた……それでいて狂おしいまでの懐かしさを感じさせる、流暢な『英語』だったのだ。

 まさか。

 心中に浮かんだ疑問符に促される様に、口が“彼の名”を呼んだ。

 

「スネーク……?」

「ああ。俺だ、カズ。助けに来た」

「……夢、なのか」

 

 信じられなかった。

 目の前にスネークが居る……生憎と目を傷めてしまい、ぼんやりとしか見えないが確かに存在している。

 夢だとしたら、なんて残酷な内容か。

 こんな夢を見させられてしまえば、生きたくなってしまうではないか。

 

「夢か……生憎と9年眠っていたからな、もう夢は十分だ。何より夢じゃ葉巻を吸えないしな」

 

 左腕に繋がれていた手錠が外され何かを手渡される。

 愛用する“ソレ”の感触は、これが夢でないという事を実感させる一品。自身のトレンドマークであるサングラス。

 呆然としながら、無線で会話を続けるスネークの声に耳を傾けた。

 

「オセロット、ヘリを寄越せ。対象を確保した」

『了解です、イシュメール。近くの合流地点(LZ)を端末で御確認下さい』

「分かった……ほら、カズ。掴まっていろ」

「あ、ああ」

 

 ゆっくりと担ぎ上げられ監禁場所から外へと運ばれる。

 道中、道端に転がっているソ連兵達が視界に映る。何と言う手際か、意識がハッキリしていなかったとはいえ何の物音も聴こえはしなかった。

 腕は衰えていないらしい。

 何よりだ。

 

「……すまない、スネーク…………」

「気にするな。舌を噛むぞ、黙ってろ」

「そうじゃない……俺は…………俺は」

「サイファーとの事だろう? 気にするな、俺は気にしていない。それでも何か言いたいのならそうだな、酒の席で訊いてやる。今は寝てろ」

 

 核心を突いたその言葉。

 不思議と、驚きはしなかった。

 薄々は気付いていたのだろう、それでも敢えて触れて来なかったサイファーとの繋がりに関してスネークはカズを問い質す事はしなかった。

 言外に、許すとすら宣言して。

 

 その気遣いが、無くした腕や脚よりも……ずっと痛かった。

 

 

 

 

 

 3:髑髏

 

 

 

『イシュメール、聞こえるか? こちらピークォド。

ガスが急速に増大中、降下できません! 一旦退避します!』

「……ガス?」

 

 合流地点に辿り着いたスネーク達だったが、何時の間にか周囲を霧状のガスが覆っている。

 その無線内容を聞いたミラーは、微睡み掛けていた意識に浮かんだ凄惨な光景を思い起こしスネークへと忠告する。

 

「奴らだ、ボス気を付けろ。髑髏が来る……! 奴らに見つかるな!」

「髑髏……?」

 

 訝しむスネークの、歴戦の戦士の“勘”が激しく警鐘を鳴らした。

 素早くかがみ込んで岩場に身を潜め暗視ゴーグルを起動させ、ワンデイ集落の方向へと双眼鏡を向けた。

 そこから人影が近寄って来ている。

 

『イシュメール、あなた達の周りにだけ妙な霧が立ち込めています。霧が濃く此方からは何も見えない、合流地点を霧の外へと変更します。そこへ向かって下さい、ヘリを待機させておきます』

「分かった。少し“遅れる”と伝えておけ」

『っ! 了解しました。イシュメール……いえ、ボス。お気を付けて』

 

 切断された無線機の前で、オセロットは少しばかり焦りを覚える。遅れる、確かにそう言った。

 現在時刻は2330。

 もう直ぐ日付が変わる時間帯だが、合流地点までの移動距離から考えても十分“今日中”に片が付く時間。

 それなのにスネークは遅れる、と。

 

 それは『1日で片を付ける』と宣言していた彼をして、不可能と思わせる難事が起きたという証明に他ならない。

 そもそもオセロットは、ミラーの護衛が全滅した事を不可解に思っていたのだ。全員が腕利きだ、同人数のソ連軍と戦闘したとしても、贔屓目なしに負ける筈など有り得なかった。

 それが一方的に全滅した。

 ミラーだけを残し……そして、そのミラーの救出のタイミングを見計らったかの様に現れた髑髏達。

 

 ここまで情報が揃っていれば、敵の狙いは自ずとわかる。

 

「……そうか狙いは最初からボスか。くそっ! 俺も残るべきだった。なんて迂闊な」

 

 後悔、時既に遅し。

 今はスネーク達の生存を、遠く離れた海上で祈るしかなかった。

 

 

 

「さて、カズ。困った事になったな」

「……随分と、余裕そうに見えるぞ……?」

 

 ミラーをなだらかな岩壁に横たわらせたスネークは、双眼鏡で髑髏達を監視しながら脱出経路を脳内で幾つもシミュレートしていた。

 器用に機械の左腕だけで火を点けた葉巻を銜えながら。随分と手馴れている、まるで十年来の愛用品かの如く。

 

「お前も吸うか?」

「遠慮しておく……それより、何か…………対策を」

「心配するな。敵は4、伏兵は……速度が…………反応は素早いな、なら…………装備なし? バカな…………」

 

 スネークは兵士として生きて長い。

 昏睡していた9年を含めなければ、優に人生の8割以上を戦場の中で過ごしてきた計算だ。

 それだけあれば、一風“変わった”敵と戦った経験も自然と多くなるものだ。

 

 そんなスネークの経験値から見て、この髑髏はきな臭い。怪し過ぎる、マトモではないと初見で看破するには十分な程に。

 しかし自分1人ならまだ、対処は可能だろうという予感もする。9年の衰えを考慮に入れても、撤退戦ならば問題無い。

 総合的に判断すればまぁ『それなり』に厄介な敵……といった所か。

 

「オセロット、霧の範囲は?」

『およそ1キロ四方といったところです』

「広いな。だが、それだけあれば撒く事も不可能ではない……か。よし、カズ行くぞ」

 

 返事を待つ事なく抱え上げて指笛で馬を呼び寄せる、その背中に乗せると静かに髑髏達から背を向くと歩き始める。

 アフガンは広い……見付かる危険を犯してまで中央突破するよりも、回り道しながら合流地点へと着けば良いのだ。

 移動出来る区画が制限されているなど現実には有り得ないのだから。

 

 幸いにも敵の索敵能力は低い。

 慎重に馬を操作するスネークは暗視ゴーグルで視界を確保しつつ、ゆっくりと合流地点へと向かう。

 たっぷり1時間以上は使って慎重に霧の中を脱出する、その頃には体力の限界によりミラーは眠っており危機を脱した事に気付きはしなかった。

 

『ボス、霧が晴れました。敵影ありません、今の内です』

「……」

『ボス?』

「さっきの奴ら、サイファーの部隊か?」

『……恐らくは。しかし、あんな奴らの情報は聴いた事もありません』

 

 オセロットは、その特殊な立場上“ゼロ”とも深い繋がりがあった。サイファーの内部事情、特にお抱えの部隊であり9年前の“襲撃者”である『XOF』に関しても。

 だからこそ妙だ。

 あんな髑髏の部隊は知らない。

 だが、髑髏を象徴する様な“奴”の事は知り過ぎている。この9年、スネークの安全を保守していなければーー.ー世界中を捜してでも殺していたであろう相手を。

 

「では、やはり?」

『ええ。やはりこのアフガンの何処かに存在している、9年前あなた方を襲撃したサイファーの部隊……サイファーの配下でありながら、その支配を掻い潜り蠢く者。

スカルフェイスが、居る』 

 

 

 

 

 

 4:ホーム

 

 

 

 セーシェル近海:マザーベース

 司令部プラットフォーム。

 

 

「ここ、は……」

「ミラー副指令! お目覚めになりましたか、良かった」

「俺は……そうか、スネークに……」

 

 全身を心地良い倦怠感が支配している。

 何時の間に眠っていたのか覚えていないが、自覚する事すら億劫だった痛みをハッキリと感じている。どうやら随分と“治って”きているようだ。

 

 起き上がろうとするも、流石に医療スタッフに止められる。まだまだ絶対安静が必要な身。

 確かに、スネークに救出される直前は……今考えるとだいぶ思考がヤケ気味になっていた気がする。

 

「起きたか」

 

 暫くそうしてぼんやりと過ごしていると病室の扉が開き、この“新しいマザーベース”の主が顔を見せる。

 スネークだ。

 

「……ふ、少し前まであんたがベッドで寝ていたってのにな。今じゃ、俺の方がこのザマだ」

「人生とはそんなものだ」

「ああ。あんたが言うんなら、その通りなんだろうな」

 

 他愛ない会話。

 それが、そんな事が出来ている事が嬉しくて堪らない。9年前、搬送された病院で目を覚ました時の絶望と、それからの長かった雌伏の時ーーーその全てが報われる。

 

 同時に、9年間溜め込んだやり場のない“怒り”と“憎しみ”が疼く。無くした身体の、死んでいった仲間達の。

 “傷”が疼く。

 

「ボス、その……ここは病室でして」

「分かってるよ。今消すところだ、ほら……ったく。マザーベースも小煩くなったもんだ。大体だな、禁止なのはタバコであってコレは葉巻なんだがーーー」

「ーーーー」

「ーーーー」

 

 それはきっと、目の前の男も一緒な筈だ。

 朗らかに医療スタッフとタバコと葉巻の違いに付いて蘊蓄を語り続けるスネークの、その心中に隠されている激情たるや。

 どれ程のものか。

 想像がつかない。

 

「大方はオセロットから訊いた。今は身体を休めてろ」

「…………ボス」

「部隊名、いい名前じゃないか。ダイアモンド・ドッグズ、お前が付けたんだろう?」

「ああ。俺は、俺達は世界中のありとあらゆる仕事を受けた。掃き溜めで餌を探す犬に成り下がったんだ……それももう終わりだ。

あんたが還ってきたんだからな」

 

 あの日から9年。

 この日が来ると信じて待ち続けた。

 

「それだけ口が利けるんなら心配ないな、俺は出るぞ」

「何処に?」

「ワク・シンド分屯地……そこに、この義手を開発した科学者が居るらしい。最重要任務だ、1秒でも早く救出する必要がある」

「……そうか」

 

 それ程までに緊急性のある依頼が来ていた覚えはないが、恐らく捕縛されている間に舞い込んだのだろう。確かに科学者を救出するのは理に適っている。

 ダイアモンド・ドッグズを大きくする為に優秀な人材はどれだけ居ても足りないし、義手の能力を向上させて装着者への負担を軽減する事にも繋がる。

 一石二鳥だ。

 

「分かった、なら俺はあんたが現地に入る迄に情報を揃えておこう。こんな身体だがな、無線支援なら行える……」

「ああ。期待しておこう」

 

 

 

 

 

 SIDE OPS:オセロット教室

 

 

 遥か上空へと浮かんでいく気球を見送りながら、スネークはふと疑問に思った事を口にした。

 

「なぁ、オセロット」

「何でしょう?」

「わざわざマザーベース内でフルトン回収の練習をする意味が有ったのか?」

「ボス…………細かい事を気にしてはいけません。それより、今ので研究開発班に必要な人材が揃いました、端末を開けてみてください」

 

 言われた通りに端末を開き、特別製のダンボール箱の開発を指示する。1秒もかからずに開発が終わった。

 そのまま補給を指示し、凡そ30秒ほど待つと上空から『ダンボール箱』に入れられた『ダンボール箱』が届いた。

 

「……! これはっ……!!」

 

 届いたダンボール箱をしげしげと眺め、触り、嗅ぐ。

 素晴らしい一品だ。

 9年の歳月が過ぎた事に驚く事は数あれど、これ程までに驚愕した事は無かった。その驚愕の度合いは、葉巻の火を消して放り投げダンボール箱に夢中……と言えば伝わるだろう。

 

「ミラーは、ボスなら分かると言っていましたがーーーどうやらお気に召されたようで」

「ああ! こいつは凄い、まさかあのラブダンボールを上回る一品が存在したとはな……流石はカズ、いいセンスだ」

 

 ニコニコと被っては歩き、バッと飛び出して銃を構えたり、下り坂で滑ったりするスネークを満足げに見つめるオセロット。

 その周りで敬礼をしながら伝説の傭兵への畏怖を更に強くし、忠誠心を増すスタッフ達。

 

 散々使い潰してしまい、型紙が破れてしまったダンボール箱を丁寧に抱えてスネークは立ち上がり呟いた。

 

「いい時代になったもんだ」

 

  




原作との差異

・カズの捕まった経緯、および怪我の具合
 (片腕・片脚の欠損はそのまま)

・燃える男との接触は未だ無し。
 64年組の同窓会は後のお楽しみ

・マップの移動制限なし。
 これこそが“自由”潜入。

・自主的に任務を選んでいくスタイル。
 何故これを真っ先に選んだか、その答えは……(ヒント:ザドルノフ)

・ファントムシガー?
 そんなものは葉巻ではない。


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