メタルギアソリッドV -THE NAKED-   作:すらららん

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予定していたよりは早く更新。
今回の話はメインミッション3つ分を纏めて書き上げました。

また、今回のルートはMGSVで実際にミッションをこなして行く流れで書き上げました。
ヘリに乗らずに任務を続けるなら、この順番が移動距離が少なくて済むと思います。





回収

 5:恐るべき獣

 

 

 アフガニスタン:カブール北方

 空中

 

 

 ワク・シンド分屯地へ向かう道中のヘリ内。

 手持ち無沙汰で暇を持て余したスネークは、忙しなく操縦中の青年へ話し掛ける。

 何とも迷惑な行為だが、当の本人は喜んでいるのだから問題は無いのだろう。

 

「お前、ウチに来てどのぐらいだ?」

「は、はい! もう3年ほどになります、ボス。貴方と同じ部隊に居られるなんて……光栄です!」

 

 それは忘れもしない、3年前の冬の日。

 かの『伝説の男』の部隊、MSFで副指令を務めていた男・ミラーと戦場で出会い勧誘を受けた。

 しかし青年は若さを持て余し、増長していた。

 

 ーー自分に勝てるなら入ってやるーー

 

 そう言って一対一の格闘戦を持ち掛けた。

 伝説の男ならともかく、所詮は腰巾着。自分が負ける筈が無い……と侮っていたミラーに何をされたのかも分からない内に無力化され敗北、己の未熟さを知った。

 それからは真摯に己の未熟さと向き合い、ひたすらに任務をこなした。入れ替わりの多い業界である、青年が古参とも言える立場になった頃だ。

 思わぬ吉報が齎される。

 

 伝説の男・BIGBOSSの帰還。

 

「カズが言っていた。お前はウチの中でも優秀で、特にヘリの操縦に関しては右に出るものはいないーーーと。頼りにさせてもらおう」

「ハッ! 光栄です、ボス!」

 

 何を隠そう、兵士を志したのは彼に憧れたからだ。

 そんな相手に自分の実力が何処まで通じるか、どんな事を学べるのだろうか。帰還を祝って行われた催しで、ほんの少し手解きを受ける事となった時は天にも昇る気持ちになった。

 かつてミラーに成す術もなく無力化された頃の自分とは違うのだと、驕りではなく確かな努力に裏打ちされた自信を持って挑みーーー結局は、訳もわからない内に無力化された。

 

 伝説の男は今も尚、健在だった。

 そして自分はその男の下で戦える。

 そればかりか、彼の足替わりとなって他の隊員たちより身近で役に立てる。

 

「どんな場所へも安全に送り届けてみせます、ボス!」

 

 それが何より嬉しく、誇らしかった。

 

 

 

 目的地から南西のエリア。

 警戒網に掛からず無事に着いた事を確認し、離れて行くヘリに別れの言葉を告げる。

 

「暫くこっち(アフガン)で動く。お前は帰投しろ」

『了解。ボス、お気をつけて!』

 

 バラララ……と甲高い音を立てながら遠ざかるヘリを見送り、端末を開きながら無線を起動する。

 事前情報によれば件の開発者は捕虜として拘束されているようだが、裏切り者に対してどんな行いがされるかーーー想像するに難くない。

 

「カズ、起きてるか?」

『もちろんだ。追加の情報が幾つかある、端末で確認してくれ』

「分かった」

 

 ワク・シンド分屯地は山を利用した天然の城塞だ。

 山肌には鉄板の防護柵、各処に設けられた見張り小屋、常駐している兵も見回りも多く正面からの突破はまず不可能と思っていいだろう。

 如何に見張りを欺くかが肝心となる、今までの肩慣らしと同じ様にはいかない。

 

 だが、今回のスネークには強力な“装備”が支給されている。

 

『俺達ダイアモンド・ドッグズ(以下D・D)を大きくしていく為に人材は幾らあっても足りん、そっち(アフガン)で気に入った奴を見つけたら回収してくれ。

潜入の手助けにもなる』

偵察(スカウト)ならぬ回収(スカウト)という訳だ。任せろ、得意分野だ」

 

 D・D謹製のフルトン回収装置。

 最大の特徴は一般品とは大きく異なり可及的速やかに対象を空の旅へと招待する事が可能な点だ。戦場で心身を疲労した兵士達には、きっと心地良いレクリエーションとなる事だろう。

 マザーベース(以下MB)に所属した後、この時に漏らしたかどうかを揶揄うまでがワンセットとなる。

 心温まるおもてなしというやつだ。

 

『今回のターゲットの技術者、その技術力の高さ、才能はあんたも実感してる通りだ。殺されるには惜しい男だ、助け出そう』

「もちろんだ。何としてでも助け出し、ライターを仕込んでもらう」

『……そんな理由だったのか?』

 

 呆れ声のミラーを尻目に火を点ける。

 今日も元気だ葉巻が旨い、この一服の為に生きている。戦場で実感する特別な感情……今のスネークをかつてのコブラ部隊風のコードネームで表すならば【ザ・スモーク】と言ったところか。

 

「そう言うなカズ。義手にライターを仕込めば、持ち歩かなくて済むだろう? 余計な重量(デッドウェイト)を無くせる、銃を構えながら素早く葉巻に着火できる! どうだ、素晴らしいじゃないか」

『…………』

 

 ライターを持ち運ぼうが仕込もうが、重量はさほど変わらないのではないか? そもそも、銃を構えながら葉巻を吸うとはどんな状況だ?

 そんな風に思ったミラーであったが……それを指摘するのは止めた。

 

 昔からこの男は喫煙に関する事ならば、ありとあらゆる手段を用いて正当化してくるのだ。

 一々真に受けていてもしょうがない。

 

『……分かった、スネーク。そうそう忘れる所だった、環境NGOから依頼があってな? 野生動物を保護して欲しいそうだ』

「保護? 知らなかったな、俺達は何時から飼育係(キーパー)になったんだ?」

『茶化すなよ、大事なクライアントだ。数に限らず一律に支払いをしてくれるそうだ。

こいつは太いぞ、回収すればする程に我がD・Dの財政が潤う計算だ……まぁ、任務の合間にでも気に掛けておいてくれ』

 

(保護ねぇ……)

 

 ふと昔を思い出す。

 そう言えば、あの時絶対に持ち帰れと嘗ての仲間達(変人ども)に言われた珍しい動物の名は……何と言っただろうか?

 結局は持ち帰る事が出来ず、あからさまに落胆され舌打ちや陰口を叩かれた事は今でもハッキリと思い出せると言うのに。

 月日が経つのは、かくも残酷な事か。

 

 最近は加齢を実感する事が多い。

 身体はまだ動くが、どうにも昔ほどの力強さは感じない。こうして前線で動けるのもあと10年かそこら程度だろう。

 あの珍しい動物の事も……もうウマかった事しか覚えていない。

 

(ん……?)

 

 のっそり。

 

 弛緩しながらも警戒を怠ってはいなかったスネークの視界に、岩場の陰から現れた“存在”が映る。

 葉巻を仕舞い双眼鏡で確認する。

 その瞬間、背筋をゾクゾクと“確信”が走った。

 どうやら見間違いでは無いようだが、この出会いは果たして凶となるか吉となるか……。

 

「おいカズ、さっきの依頼……種類に制限はあるのか?」

『いや、先方は特に指定はしていない。どんな動物でも引き取るそうだぞ。どうしたスネーク、珍しいのでも見付けたのか?』

「いいや、珍しくはないな……アレは」

 

 そう言ってスネークが双眼鏡越しに送って来た映像に映っていたのは、黒い巨躯。

 最初は何だか理解出来なかったミラーだったが、鮮明に加工された映像からその正体を悟る。

 

『クマ……?』

『あれはヒグマだ』

 

 すかさずオセロットからフォローが入った。

 振り向くと、何時の間にか用意していた現地の動植物に関する資料集を片手に呑気にコーヒーを飲んでいる。微かに酒の匂いもした。

 異様に厚い書類の中から素早く目的のモノを見つけ出す手腕には感心する。が、そんな細かい違いまで指摘する必要があるとは思えなかった。

 相手はクマなのだから。

 

『……種類などどうでもいいだろう、危険だ。無視していい』

「ああ、分かった」

 

 ミラーからの指摘を聞きつつ、コキコキと首を捻って凝りを解す。未だ此方に気付いていないヒグマを視界から外さない様に捉えつつ、ゆったりと肩を回して関節を和らげる。

 何度か屈伸をして柔軟を終え弾倉を確認、近くにあった岩場に向けて発砲。

 微調整を終えたスネークは馬を遠ざけるとーーーあろう事かヒグマに向かって歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 6:歴戦の戦士

 

 

『おい、まさかとは思うが……』

「なに、いい加減“勘”を取り戻しておかないとな。そら、こっちだ!」

 

 静止しようとするミラーの声を無視し、ヒグマへと全力疾走を開始する。

 その足音に気付いたヒグマが振り返った瞬間に素早くヘッドショット! 人間ならばこれ一発でグッスリと寝てしまうのだが……ヒグマには不十分。

 不快感を顕にしたヒグマは、その獰猛な牙と爪をスネークへと向ける。

 

「そうだこっちだ、来い!」

 

 唐突に始まった人間対ヒグマの異種戦、いや蛇対ヒグマと言った方が正しいだろうか?

 どちらにしろヒグマ側が圧倒的に有利だ。

 

 その巨躯から生み出されるパワーは冗談抜きに人間の身体を宙へと吹き飛ばし、その牙は易々と肌を貫き骨をも砕く。

 銃を持っていても人間が正面から相対するには力不足だろう。

 

 加えてスネークが所持しているのは麻酔銃。

 その麻酔量は大型動物用に調整されてはいない。効果を発揮するには何発か撃ち込む必要がある。

 もはやこの状況は不利なんて生優しいレベルではない、積極的な自殺に等しい。

 

『スネーク! 応答しろ、スネーク! スネーーク!!』

 

 ミラーは無線に向かって幾度も叫んだ、しかし返事は無い。こんな事態になるとは思ってなかった。

 確かに動物保護を頼んだのは自分だ。

 しかし、それは羊とかヤギとかの小動物を意識しての事。何れは大物を捕獲するのも考慮はしていたが、まだまだ先の事と考えていた。

 

 それはそうだろう。

 まさか初っ端からヒグマという大型……それも肉食動物を捕獲しようとする者が居るなど普通は考えない。

 流石に、予想しろと言うのが無茶だ。

 

「ーーーーズーー」

『っ! スネーク、どうした? 大丈夫なのか!』

 

 雑音が酷いが、声が届く。

 

「ーーーああーーーー腕ー」

『腕? 腕がどうした、やられたのか!?』

 

 どうにも無線機の調子が安定しない。

 ハードな動作でも耐えうる様に無線機の構造は強化してあるのに関わらずだ、それだけスネークが激しい挙動をしたという事の証左だろう。

 さもありなん、クマと争って生きているだけで儲けものなのだ。

 

「ーーきこーーえーなら、こーーでーーー……よし、聴こえるかカズ。オセロットでも良い、急いで確認してもらいたい事がある」

『何だ?!』

『どうしました?』

 

 機器の調子に気付いたスネークは接触不良を直して無線機を手早く復旧させた。こういった技術も潜入諜報員の必須スキルと言えよう。

 眠りこけているヒグマ、その無防備な姿を真剣な表情で眺めながら重々しく口を開いた。

 

「いやな……ヒグマは、ウマいのか?」

『…………っはぁ?』

 

 ミラーの心配を他所に、スネークは割とあっさりヒグマを無力化していた。

 確かにパワーやスピードは大したものだ。

 だが、言ってみれば驚異となるのはそれ“だけ”だ。

 今まで散々(惨々)大型兵器と一対一を繰り広げて来たスネークからすれば、ヒグマ如き問題にすらならない。

 

『ボス、どうやらヒグマの肉は柔らかくて甘く濃い味をしているようです。食用に適しているでしょう』

「そうかっ! いやな、一目見た時から感じてたんだ……コイツは他の動物とは違う(ウマい)ってな。まだまだ勘は衰えていないらしい」

『そのようで。焼くだけでも十分に旨いらしいですが、折角なら香草をーーー』

 

『…………』

 

 呆れてモノも言えないミラー。

 そんな彼と違い、特に疑問を挟むことなく淡々とヒグマの味を報告し終えたオセロットは、続いて現地の料理法について語り出していた。

 

(こいつ……こんな奴だったのか?)

 

 ミラーがオセロットと知り合ったのは、スネークが昏睡状態に陥ってから暫くしての事だ。

 特に親しい付き合いはしていない、あくまでもビジネスパートナーとしての薄い繋がりだが……互いに同じ男に惚れた者同士、ある程度の人となりは把握していた。

 筈だった。

 

 筈なんだけどなぁ。

 

『……ゴホン、あー……スネークにオセロット。盛り上がってるところすまないが、肉体の一部でも失ってしまってはヒグマとはいえフルトン回収の衝撃に耐えられるとは思えん。今回は諦めてくれ』

「それもそうか……はぁ。仕方ないな、回収する」

『そうしてくれ……』

 

 渋々と言った感じのスネークの声は酷く沈んでいる、諦めきれないのだろう。上昇していく気球に吊られているヒグマを名残惜しそうに見つめ続けるその瞳は寂しげだった。

 まるで少年が自分の小遣いでは手の届かない商品をケース越しに眺めている様ないたいけさで。

 

 スネークが時折見せる、こういった変な部分(こだわり)にミラーはどうも慣れない。

 

(緊張しているよりは良いが……あんたはしなさ過ぎだ、ボス)

 

 

 

「さて、それじゃ任務に……ん?」

 

 不意に、足元に衝撃を感じた。

 視線を下ろすと小さくモコモコな“何か”が存在していた。短い手足は先程のヒグマとは違い何ら脅威にはならないだろう、殺意を滲ませていた瞳ではなく円で可愛らしい瞳をしていた。

 

 その存在が何であるか確認し終え、ミラーへと無線を繋ぐ。

 

「なぁカズ」

『今度は何だ? ツキノワグマでも出たか? それともホッキョクグマか? ん? 何でも構わんがな、食べるのはやめておけ』

「そうじゃない、カズ。子犬がじゃれついてきてるんだが、こいつは『回収しろスネーク! 今直ぐにだ!! 絶対に食うんじゃないぞ!!』……おう」

 

 くぅーん。

 フワリと気球に回収されていった子犬を見送る、暫くすると無線越しに『いやっほぉおおおおう!』とか何とかミラーのはしゃぐ声がアフガンに木霊した。

 さっきのヒグマの時とは別人の様にはしゃいでいる。

 

『いいぞボス、この調子だ。どんどん回収してくれ!』

「…………ああ」

 

 変な奴め。

 内心そう思ったスネーク。

 だが、彼は知らなかった。

 

 本物の変人は。

 

 自分が変人であると。

 

 気が付かないのだと。

 

 

 

 

 

 7:バイオニクスの権威

 

 

 アフガニスタン:カブール北方

 ワク・シンド分屯地

 

 

 山を利用して作られた天然の城塞は、それ故に構造的な欠陥をも抱えていた。正門から両側の岸壁からの侵入に弱いという欠陥を。

 と言ってもこんな垂直の崖を武装して登り切るなど“普通”は無理だ、よって崖の近くに一応の見張りこそ居たが……今まで侵入者は皆無だった。

 

「退屈だねぇ……ったく」

 

 脱走を企てた技術者が移送されてから補充された男は、久々の休養日を潰され不機嫌を顕にしていた。

 アフガンに来るのも何度目か分からないが、いつ来ても此処は心休まらない。終わりの見えない戦いに駆り出される生活にほとほと嫌気が差している。

 

 だから今、檻で仲間達に“手厚く歓迎”されている技術者にも同情気味だった。

 

(はぁ……)

 

 亡命者は年々、増加の一途だ。

 中には成功して新しい人生をモノにする奴も居るだろう……大抵は、こうして捕縛され収容所送りにされてしまうのだが。

 そんなリスクを負ってでも亡命するだけの価値がある、いや……そんなリスクを負ってでも“この国から逃げ出したい”者が多い。

 

「俺も西側に行ってみてぇなぁ……」

 

 男には命を掛けてまで亡命を試みる度胸は無い。

 だからこうして大人しく従っている。

 

 正直に言えば、別に西側に大して憧れてはいない。

 ただ漠然と、イヤイヤ命令に従って過ごすより……自分自身で選んだ生き方をしたいと願っていた。

 

「本当か?」

「ああ、行けるもんな……っ! 誰どぅ、わぶはっ?!」

 

 虚を突かれ、しかし反応は俊敏だった。

 すかさず振り返り一撃を与えようとしてーーーだが、襲撃者は勢い良く振りかぶった“左腕”で既に狙いを定めていた。

 抵抗する事も叶わず、男は意識を刈り取られる。

 

 倒れた男に歩み寄った何者かは“とある装置”を背部へと取り付た。フワリ……気球に吊るされ上空へ誘われていく男。

 彼の望みは期せずして果たされる事となった。

 尤も、生憎と行き先は希望通り西側ではなくーーー天国の外側だ。

 それでもきっと男は感謝する事だろう。

 

「反応はなかなか悪くない、仲間になれば心強いだろう」

『その様だな。任せろ』

 

 見張りを回収したスネークは崖登り……クライムを始める、亀裂があれば登るのも容易いが、無くとも問題は無い。ほぼ直角の壁を器用に登るその姿を捉える者はもう誰も居なかった。

 悠々と登りきり、ワク・シンド分屯地西部からの侵入を果たす。

 

 スネークの目に先ず映ったのは作り掛けの建物。

 この地方では先ず基礎を建てて後から建て増ししていく作り方がよく見られる、特に不審な点は見当たらないが出入りしている兵士の頻度を見るに頻繁に“使われ”ているらしい。

 対象が居る可能性は高い。

 

 次に東側、警備兵の詰所。

 ちょうど昼時だからか炊き出しが行われている、随分と人手が多いようだ。

 こちらに対象が居る可能性は低いだろう、人間の心理的に捕虜などの“身分の低い”者と同じ場所で過ごすという事は考え辛い。

 

 それにしても旨そうな匂いが鼻をくすぐる。

 どうやら腕のいい“兵士”が居るらしい、誰かは知らないが未だにソ連が崩壊しない要因の一つをこの兵士が担っているのは確かだろう。

 寝る場所と旨い食事さえあれば、人間はどんな悪環境でも割と耐えられるのだ。

 

「ふっ!」

 

 カラカラ……と空マガジンが派手な音を立て建物の近くに転がる。

 不審な物音の正体を確認する為に地下から兵士が現れるも、空マガジンの存在には気付けなかった。何度か周囲を見渡し、特に異常がない事を確認し終えると下で待っている“仲間”へと告げた。

 

「なんでもなかった」

「わかった」

 

 (2人……いや、3? 声が聴こえた場所以外に足音が1つ、2つ……)

 

 人が動けば必ずそこに“何らかの痕跡”が残されるものだ、それをスネークは残らず見定める。ある程度の人数や配置は絞り込めたが、確実さを重視するならばもう1つほど確たる情報が欲しいところだ。

 そう、例えば内部情報を知っている“誰か”から情報を得られるならば心強いだろう。

 

「やっぱ外はいいな、空気が違うぜ……っと、どこ仕舞ってたっけか…………」

 

 外に出てきた兵士は室内での見張りに嫌気が差していたのだろう、これ幸いと持ち場を離れ懐を探りタバコを取り出そうとしていた。

 これはいけない。

 あまりにも無用心だ。

 物騒な世の中だ、一歩外に出れば何があるのか分からない。ヒグマに襲われるかも知れないし、仲間の車に轢かれてしまうかも知れない。

 

 或いは……“蛇”に捕食されるかも知れないと言うのに。

 

「動くな。そうだ、そのまま……知っている事を全て吐くか、此処で死ぬか。お前が選べ」

「ヒッ!」

 

 何時の間にか近付いていた何者かから後ろ手に拘束され、身動き一つ出来なくなる。何とか拘束を崩そうともがくも、喉元にナイフをチラつかされーーー口を割った。

 

 

 

『居たな、その男がターゲットだ。回収してくれ』

 

 如何に鉄壁の守備を誇る要塞であろうとも、内部を詳らかにされればその限りではない。ましてや、たった数人しか居ない廃屋など語るまでもない。

 死角から急襲し連続CQCで纏めて無力化し目的の人物を見つけ出した。

 グッタリとしているが、息はある。

 

「待ってろ、騒ぐなよ。今出してやる」

 

 グッタリとしている技術者は騒ぐ気力ももはや無いのだろう、只じっと自分を救助に来た男の顔を見て……嬉しそうに笑った。

 自分で依頼したものの、本当に来てくれるとは思っていなかった。あまりにも分の悪い、賭けの様な依頼だった。

 だが、どうやら此処一番で当たりを引いたらしい。

 

「随分と酷い面だ、よほどの“歓迎”を受けたらしいな?」

「そうでもない。手荒な真似は控える様、厳命されていて……まるで子供のイジメのようだった、ぐふっ、げほ、げほ……ッ!」

 

 激しく咳き込む彼の髪は水浸しで顔色は酷く赤い、周囲には吐瀉物が散らばっていた。

 いや、よく見れば身動きできない背中部分までべったり残飯が付着している。この吐瀉物に見える水や残飯は、誰かが“振舞って”くれたのだろう。

 

「なるほど、食事と水分には困らなかったらしい。待ってろ、雑巾を持ってくる」

 

 そう言ってスネークは先ほど意識を奪い無力化していた兵士から服を剥ぎ取ると汚れを丁寧に拭った。

 直接的な暴力・殴る蹴る等はされていなかったらしく痣は見当たらないが、顔や身体には火傷が幾つも見られた。

 

「その熱じゃ、おちおち寝てもいられなかっただろう。麻酔を打つ。起きたら養生しろ」

「すまんな。そして……ありがとう」

「ようこそD・Dへ」

 

 頭部に麻酔銃を充てがい、撃つ。

 意識を失った男を抱えて地下から外へと向かう、まだ誰も異常に気付いていない。

 目的は既に果たした、もう此処に用はない。

 

 

 

 

 

 8:スペツナズの英雄

 

 

 アフガニスタン:カブール北方

 シャゴ村落(ダ・シャゴ・カレイ) 北西部

 

 

 ワク・シンド分屯地を西に脱出したスネーク。

 技術者をフルトン回収し、無事に収容された事を確認し次の依頼を片付ける為そのまま西へと馬を走らせる。 

 道中にある監視所を馬に隠れ素通りし、砂丘へと向かう。目的地は此処から更に南。

 

「アレは何て種類()だ?」

『極一般的な狼でしょう、強力な肉食獣です。ご注意を。因みに、味は悪くないようです』

「ほぅ」

 

 動物愛護に目覚めたスネークは、オセロットから逐一情報を聴きつつ見掛けた動植物(食糧)を回収しながら広大な砂丘を進む。

 目指すはスペツナズの支隊長が居るとされる、シャゴ村落。

 

 ムジャヒディンの中でも特に精強で知られるハミド隊。その彼らを一夜で全滅させたと噂されるその手腕は、敵味方問わず広く知られている。

 優れた兵士だ。

 元来、戦意高揚の為に戦果を過剰に言い触らす事は珍しくはないが、今回は信頼度が高い。

 何せこのハミド隊壊滅を重く見たムジャヒディンのスポンサーであるCIA直々の抹殺依頼なのだ。

 

「そろそろ村が見える」

『随分と射線が通り易い、狙撃に適している……それは敵側も同じだ。注意してくれ』

 

 村の中央部に一際頑丈そうな造りの建物が見える、周辺に通信機とレーダーが設置されていた。

 他に目ぼしい建物は見当たらない以上、此処に目標が立て篭っている可能性が高い。

 見張りもこの建物を中心に巡回している。

 

 村を囲う様に葡萄畑の“畝”が並んでおり身を隠すには十分な高さと数がある、これを利用すれば建物への接近は容易く思える。

 しかし近くに農作物を干す為の高い“室”が存在する。ここからなら周囲がよく見渡せ、それは畝も例外ではないだろう。

 

 潜入はかなりの難度だ。

 

「出来ればウチに回収したいところだが……骨が折れそうだ。警備の動きを見ても分かる、高い統率力。山猫部隊を思い出すな」

『私としても、彼らと正面から戦うのはお勧めしません。が……山猫部隊より優れているかどうかは疑わしい』

「気に障ったか?」

『いえ。事実を言った迄です』 

 

 分かり易い反応に苦笑しつつ端末から補給を要請する、困った時にはコレだ。

 思い返せば昔から随分と助けられて来た。

 長年連れ添った“相棒”と言っても過言ではない存在、潜入工作員にとってもはや標準とすら言えるマストアイテム!

 コレ無しにBIGBOSSは存在しなかっただろう。

 

「何度見ても惚れ惚れする……んん、頼んだぞ相棒!」

 

 新たに市街地迷彩が施されたダンボール箱を受領、さっそく頭から被ったスネークはシャゴ村落への潜入を開始する。

 頼もしい相棒と共に。

 

 

 

 スネークがダンボール箱と運命の出会いを果たしてから凡そ20年。

 当時はソ連領内で限定的に用いられていた最新鋭の品であったが、今や世界中に拡散し一般にも広く流通している。何処にあっても不思議ではなく、不思議で無いが故に警戒を欺けるのだ。

 

 現に、その前を兵士達は気付かず素通りしている。 

 

「隊長も、真面目っていうかさ……融通が利かないよな」

「ああ、確かに。軍人としてはどうかと思うが……俺はあの人の下で良かったと思ってるよ」

「それは俺もさ」

 

(随分と慕われているらしい……)

 

 夜の帳が降り始めた。

 やって来た交代要員と交わされる何気ない会話から支隊長の人物像が浮かび上がって来る。

 かなり高潔な人物の様だ。

 もともとCIAの依頼通りに事を成す気のなかったスネークだが、此処に来てその気持ちを一層深めた。

 是非とも仲間に加えたい。

 

 ムクリ。

 

 唐突にダンボール箱が変形し、縦型に変わる。

 そのままノソノソと動き出すと、交代の際ほんの少しだけ生じた隙を突き中央部の庭へと配達(潜入)を果たした。

 これこそが全自動配達機能を搭載した次世代型特殊ダンボール箱! ……という訳では、ない。

 単にスネークが潜んでいるのだ。

 

 ダンボール箱の隙間から双眼鏡を使用し庭の隅から観察を続ける、辛抱強く待った甲斐もあり窓際を通り過ぎた“目標”を視認する事が出来た。

 

「目標を確認。やはり建物の中に居る、が……人目につかず近付くのは難しいな。警備が厚い」

 

 緻密に組まれた配置により侵入する隙が見当たらない、どうしても誰か1人に姿を晒さなければならないだろう。

 

『なに、焦る事は無い。それに、悪い事に天候の変化を確認した、暫くは動かないほうが良いだろう』

「いや、待て。それは砂嵐か? 何時だ?」

 

 無線機越しにミラーが部下へ指示を出す声が響く。まだD・Dの練度はそれ程高くは無い。

 詳しく調べるには時間が掛かった。

 

『ーーーすまない、待たせた。砂嵐の兆候を確認、一時間以内とは思うが……』

「それだけ分かれば十分だ。自然を味方に付けるとしよう」

 

 端末を取り出し気象の変化を見定める。

 かなり広範囲に渡って発生するようだが、始まるのも終わるのも唐突な砂嵐の合間に事を成すには素早さが求められる。

 僅かな機会を確実に掴む……腕の見せ所だ。

 

 慌てず、ただ静かにその時を待つ。

 

 

 

 ヒュゴォ……!

 

 

 

 待ちに待った瞬間が訪れた。

 

 吹き荒れる風と巻き上がる砂粒が視界を著しく遮り、数m先の人物の顔すらも判別するのが難しい。

 巡回していた1人の兵士が目元を腕で抑え死角が出来た瞬間、ダンボール箱を放り投げ音もなく接近。

 その勢いのまま地面へと叩き付ける。

 

『マズいぞ、スネーク。予想よりも砂嵐が過ぎるのが早い!』

 

 ミラーからの忠告を聞きつつも足は止めない。

 窓から侵入し此方の気配に気付かれない内に支隊長を拘束。そのまま首を締め気管と血流を遮り昏倒させると、手早く担ぎ上げた。

 砂嵐は依然として強く吹き荒れているが、勢力圏から抜け出すまで続く保障は無い。恐らくその前に気絶させた兵士が目覚め異変に気付き、幾ばくもしない内に支隊長の不在が知れ渡るだろう。

 

 大胆に入口から外へ出る。

 近くに待機させていた馬を呼び寄せ支隊長を乗せ南東部に向かって全力疾走させた。

 

「ん……?」

 

 この時、ある見張りが砂嵐の中を突き進む馬を見掛けた。だが、その背に誰が乗っているかを瞬間的に判別する事が叶わず……結果的に逃亡者を見逃してしまう。

 それから5分もしない内に侵入者の痕跡が発覚、同時に支隊長の不在が明らかとなる。

 見張りの証言により馬の逃げた方向へと捜索隊が送られたが……発見する事は叶わなかった。

 

 支隊長の突然の失踪。

 

 敵勢力による仕業と噂が広がり、彼を慕っていた部下達は失意に暮れ……何故か半月も経たない内に彼らの消息も途絶えた。

 誰かが言った、彼らは亡霊に誘われたのだと。

 

 

 

 

 

 9:通信網破壊指令

 

 

 アフガニスタン:カブール北方

 スプグマイ離宮 崖上

 

 

『朝になった、どうだスネーク? 疲れは取れたか』

 

 スプグマイ離宮近くの崖上で一夜を明かしたスネークは残り僅かとなった水筒の中身を口に含み、ガラガラとすすぎ一気に吐き出す。

 寝ている間に砂嵐が来たのだろう、スカーフがズレて口の中が砂利まみれだ。念の為にゴーグルを付けていたのは正解だった。

 

「……テントの開発を指示しておけ、おちおち眠ってもいられん」

『分かった。俺もアフガンで何度か野営した事はある、あれはキツかったな。因みに今はベッドで熟睡だ』

「そうか……んんっ! …………はぁ」

 

 馬の腹部を枕代わりにしていたので思ったより寝心地は悪くなかった。それでも身体は強ばっている。

 無理の効く歳では無いのだ、今後はサバイバリティな行為は控えるべきかも知れない。

 

 そう反省しながら火を起こし、岩で囲って台を作り近くの監視所から借りて(盗んで)きた鉄板を敷く。

 寝ている間に粗方の血抜きを終えた羊肉を更に解体し、オセロットのアドバイスを元に厳選した香草を載せ鉄板の上に置いた。

 いい匂いだ……ゴクリと喉が鳴る。

 昔は生で何でも食べていたが、今では最低限の調理を行う事にしている。

 

 本人としては随分と文化的になったと思っているが、これは十分にサバイバルの領域である。

 

『あんたが寝てる間に丁度いい依頼が来た、内容について話しておく。そろそろ補給物資も届く頃だ、水と携帯食糧……それから酒も入れてある。飲み食いしながらでも聞いてくれ』

「有難い。心遣い感謝しよう」

 

 空から飛来してきたダンボール箱を開き、中身をより分ける。水を水筒に入れ替え、詰め物は処分する。携帯食糧は……捨てるかどうか迷ったが、一応パックに詰めた。

 そしてお待ちかね、酒瓶を片手に羊肉をナイフで刺して裏返す。

 

(いい色合いだ)

 

『この依頼は西側も支援しているアラビア系ゲリラ支援組織からのものだが、ソ連側の通信網が途切れる事は俺達の利益にも繋がるーーー』

 

 油を引かなかったが、羊の脂だけで表面はカリっとした歯応えに仕上がりレアに近い中身からは羊の持つ特有の風味が口いっぱいに広がる。

 牛よりもクセがあるが、それがまたいい。

 香草で臭みを中和された事で食べ続けても味に嫌味がない。

 

 流石はシャラシャーシカ流調理法。

 畏ろしい男に成長しものだと舌を巻く、いいセンスだ。

 

『ーーーサイファーを持ち出すまでもないが、情報を制する者はミッションを制する。東部通信所に向かい通信設備を特定、排除してーーー』

 

 酒に特別な思い入れは無いが、羊肉との組み合わせは中々どうして……悪くなかった。

 強いアルコールが肉の熱でほんのり煽られ豊かな薫りが口から鼻に抜け……充足感を与えてくれる。

 

 夢中で食べ進める。

 何かさっきから耳元でゴチャゴチャうるさいが、何時しかそれも気にならなくなった。

 仕方がない、これが目覚めてから初めてとなるウマい食事だったのだから。

 

『ーーーと、以上になるが。何か質問はあるか?』

「……ん、何か言ったかカズ?」

『いや、今までの話に質問は無いのか? という意味だが…………まさかとは思うが。あんた、聞いていなかったのか?』

「あ……い、いや…………」

 

 その通りだ。

 などと正直に言う訳にもいかないだろう。

 まして、食事に夢中で聞いていませんでした、など笑い話にもならない。

 

「……いや大丈夫だ。任せろ。問題ない、ああ問題ないとも! 本当だ!」

『? まあいい、頼んだぞ』

 

 不審げに無線を切ったミラー。

 何とか誤魔化すことに成功したが、さてこれからどうしたものか。

 

 朧げに耳に届いていた言葉を思い出そうと必死に思考を巡らせたが、結局思い出す事は叶わない。

 ミラーから呆れ声と共に再度説明を受ける事となった。

 

 

 

 東部通信所、南部。

 その名の通り東部に存在する通信の要、その規模に反し見張りが多く伺える。それが輸送トラックの荷台でダンボール箱に隠れながら零距離偵察を終えた率直な感想だ。

 しかし位置が悪く偵察し切れない部分もある、やはり当初の“予定”通りに事を運んだ方が良いだろう。

 

「おい、こいつも乗っけてくれ!」

 

 兵士の1人が乱暴に荷物を放り投げ、その荷物がダンボール箱に当たり角が僅かに凹んだ。

 その事に激しい苛立ちを感じつつも手が出せないジレンマを抱えながら発車するのを待つ。

 配達先の点検を終えた運転手が乗り込み出発するまでの間、けして長くは無かったが……心配で気が気でなかった。

 

 角を曲がり東部通信所を僅かに過ぎた辺りで荷台から飛び降り、崖の上へ急いで駆け登る。

 ダンボール箱の調子を確かめ、大事無いことを確認し安堵の溜め息をつく。

 

(ふぅ、良かった。これならまだ使えるな……)

 

 愛おしく撫でて大切に仕舞う。

 不意打ち気味に襲って来た狼を八つ当たり気味の鋭い一撃で気絶させフルトン回収しつつ、道中の監視所で尋問し聞き出しておいた東部通信所の“裏口”へと辿り着いた。

 

『スネーク、何度言ったか忘れたがソ連軍各拠点間の通信網に穴を開けるのが今回の任務だ。

通信設備を見付けて、排除してくれ。

分 か っ た か ?』

「ああ、任せろ」

 

 腹はすっかり満たされ食後の運動もバッチリ、体内のアルコールも殆ど分解されている。

 コンディションは万全だ。

 

 通信所を上方から見渡せるこの場所は偵察にはもってこいだ、アドバンテージは計り知れない。僅かに顔だけを覗かせ様子を伺う。

 トラックからは見えなかった兵士の位置、及び3基の通信用アンテナを特定する事に成功。後は如何なる手段を以て破壊するかを決めるだけ。

 

『ボス、アンテナではなく通信機器そのものを破壊するのも手です。手間が1つで済む……どうするかはあなた次第です』

 

 3ヶ所のアンテナを狙うならば、移動しなくてはならない以上どうしても発見される可能性が高まる。

 その代わり場所の特定が済んでいる。

 通信機器を狙うならば発見される可能性は低くなる。しかし場所が不明だ、探している時間や手間が余計に掛かる目算が高い。

 

 どちらを狙うにしても、まず動かなければ話にならない。手早く警戒の薄い崖から滑り降り身を隠すため近場の建造物に忍び込んだ。

 其処で思わぬ物を見付ける。

 

『それが通信機器に間違いない、探す手間が省けたな? スネーク』

「その様だ。後は脱出するだけか……」

 

 

 

 運良く通信機器の設置されている場所への潜入を果たしたスネーク。

 C4を底部へ仕込み、入り口からほど近い所で数多くの見張りが屯している方向へ空マガジンを放り投げた。その音に釣られた兵士が確認に向かったのを見計らい、無防備な後頭部へと麻酔弾を撃ち込む。

 

「っ! おい、どうしたっ!?」

 

 突然ばったりと倒れ込んだ兵士を心配して駆け寄る仲間達。

 目論見通りに彼らの視線を逸らすことに成功し、その警戒網の隙間を掻い潜る様に通信所北側へと抜け出る。周囲に人影が存在しない事を確認すると、路肩に停車してあった車輌を強奪し悠々と走り出した。

 

「おい、起きろ……っ痛!

何だこれ、針……侵入者か! 侵入者の痕跡を発見した、誰かCPに連絡しろ!」

 

 倒れた兵士に駆け寄った男が頭部から麻酔針を発見し、周囲へ警戒を促した。

 その指示に従い無線機を取り出した兵士と同じタイミングで、スネークも端末を取り出す。

 そして見張りがCPへと連絡を入れるよりも僅かに早く起爆させたスネークの背後、通信所の一角で爆発が起こった。

 

「うわぁあああっっ!!!!」

 

 哀れな事に、警戒状態に移行して持ち場を離れていた兵士が1人その爆発に巻き込まれた。

 その兵士の装備にも容赦なく爆発の余波が及び、手榴弾が誤作動し起爆状態となってーーーそのまま武器庫の方角へと吹き飛ばされていった。

 

『ミッション完了だなスネーク。緊急の依頼が来ているがどうする? CIAからだ』

「分かった、ちょっと待て…………フゥ、よし。いいぞ、どんな依頼だ?」

『ああ、ハミド隊が全滅した件は話したな? 実は、彼らへと極秘理に供与していた新型兵器がーーー』

 

 片手で運転をしながら葉巻に火を点け、依頼内容に耳を傾けつつ、ふと……サイドミラー越しに東部通信所の方角を見る。

 どうやら運悪く武器庫にでも誘爆したのだろう。

 爆発音と悲鳴が木霊し、空に向かって立ち昇る巨大な黒煙がその被害の規模を如実に現していた。

 

 通信網どころか、これでは通信所そのものが機能しなくなる事だろう。

 

 

 

 余談だが。

 

 最初に爆発に巻き込まれ、東部通信所壊滅の一因を担った兵士はーーースネークの隠れていたダンボール箱に乱暴に荷物を投げ入れた男だった。

 ならばこの惨事は偶然では無いのかもしれない。

 ダンボール箱への粗略な扱いをした者へ起きた、必然の出来事だったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 SIDE OPS:復讐の為に

 

 

 これは東部通信所へ向かう前日、その夜での出来事である。

 

(いかんな、腹が減った)

 

 アフガンでしなければならない事は、これから山程ある。

 ここいらで休息を入れ心身をリフレッシュする事も任務を円滑にこなす為には必要だろう。

 そう判断したスネークは、スプグマイ離宮で野営の準備を始めていた。

 

「……カズ、ラーメンを送ってくれ。マテ茶もな。急いでたんでレーション(ゴミ)しか食ってない」

 

 思い返せば、どうにも目覚めてからロクな食べ物を口にしていない。

 

 キプロス島での食事はプロテインジュース以外、何故か異様にマズかった。

 イギリス主権領域とはいえ、なにも飯のクオリティまでイギリスに合わせなくとも良かったというのに。聞く所によれば、どうやら病院の出資者が生粋のイギリス人らしい。

 見た事もない人物だが、どうせロクな奴ではないなと思った。イギリス人は料理に口を出さず黙って紅茶とスコーンでも食ってれば良いのだ。

 

 その点、D・Dならば安心である。

 D・Dの前進たるMSF、その圧倒的美食のノウハウは9年経った今では一体どれほどにまで成長しているだろうか。

 しかしミラーからの返答は、その予想を大きく裏切るものであった。

 

『すまない……無理なんだ』

「な……何故だ?!」

 

 想定外の言葉。

 らしくなく取り乱すスネークを落ち着かせる為ミラーは努めて冷静に、しかし爆発しそうな感情を抑えながらありのままを語った。

 あの日から続く不幸の連鎖、その一端を。

 

『糧食関連の技術は9年前に散逸してしまったんだ。

スタッフ達も殆どが死んだ、噂では惨劇の生存者として今も恐怖に駆られ逃亡し続けている者も居るらしいがーーー確たる証拠もない。

俺も何とかしようと考えてはいたんだが、昔に比べると……すまない、スネーク。すまない……っ!』

 

 ミラーの声は徐々に怒りを滲ませ、最後には嗚咽混じりでスネークへと謝罪を述べた。

 

「くっ! ……何て事だ」

 

 ギシ……ッ!

 奥歯が砕けてしまいそうな程に強く噛みしめる。そうでもしなければ、あまりの怒りにどうにかなってしまいそうだった。

 右手を、左手を握り込む。

 まるで今もそこに“ある”かのように……しかし握った手が感じるのは“痛み”だけだった。

 

 亡くした痛み……幻肢痛がスネークとミラーの感情を強く揺さぶった。

 

 

 ドリ〇ス……

 

 

 マウン〇ンデュー……

 

 

 ペプ〇NEX!

 

 

 さぞ無念だった事だろう。

 今は海の底へと消えてしまった仲間達(糧食)を想い、哀悼の意を捧げる。だが決して、彼らの無念を海の藻屑にはしない。

 

「ーーーカズ。必ずだ、必ず俺達はサイファーをこの世界から消す!」

『ああ、もちろんだ。やろう……スネーク!』

 

 今ここに。

 2人の“鬼”が生まれた。

 

 

 

 




話の要点

・モブとの会話は多めに
 そうする事で、例えば極限環境微生物などで話が深まります

・で、味は?
 これを描くのは大事でしょう

・回収した動物達
 DDようこそ、本編と違い彼には非常食の役割もあります

・ダンボール箱
 粗略な扱いは許さんぞ(ブチ切れ)




次回は約1ヶ月後。
真心を込めてお待ち下されば幸いです。
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