メタルギアソリッドV -THE NAKED-   作:すらららん

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※諸注意
全てのSIDE OPSは本編とは関係の無い、或いは薄い、若しくはメタ視点です。ご注意ください。




接敵

 10:蜜蜂はどこで眠る

 

 

 アフガニスタン:カブール北方

 

 

 D・Dは組織として未成熟だ。

 最低限の資源や人材を揃え新たに本拠地を手に入れたものの、嘗てのMSFの規模にすら遠く及ばない。それでもひっきりなしに依頼が来るのはいくつかの理由があった。

 傭兵集団ーーP(プライベ-ト)F(フォ-ス)ーーが必要とされる時代である事、ミラーが9年間掛けて培ったコネクション、そして何よりも重大な要素……BIGBOSSのネームバリュー。

 サイファーは元より世界各国の諜報機関は既に彼の復活を嗅ぎ付けている。末端の兵士達にこそ伝わっていないが、それも時間の問題でしかない。彼の復活が周知されれば、彼の下で戦いたいと思う者は数知れないだろう……しかしそれは“何れ”の話であり、今では無い。

 

 CIAからの依頼を受けたものの、慢性的な人員不足により諜報活動は困難を極めた。

 これは何もD・Dメンバーの能力が不足しているからでは無い、そもそもソ連の勢力圏内でありながら気軽に彷徨けるスネークが異常なのだ。それでも懸命に働き、情報を収集したが……一向に“目的”の所在を掴む事は叶わなかった。

 アフガンは今や不気味な程の沈黙に包まれており、嵐の前の静けさを思わせる。

 

 それから数日後。

 目立った動きを見せなかったソ連兵が、目に見えて慌ただしさを増した。暗号化された通信がひっきりなしに行われ、その中の1つにとある男が注目する。

 つい先日までソ連軍に所属し、ロシア語と英語の同時通訳を担当していた男だ。言語特技兵として長期に渡ってその任に就いていたからこそ分かる一種の言葉遊びの様な暗号。

 一見すれば只の食糧配達ルート指示の中に巧妙に隠されていた情報を紐解く事に成功し、ミラーの下へと走った。

 

「失礼します、ミラー副司令! これを…」

 

 休憩室で仮眠を取ろうとしていたミラーだったが、手渡された資料を読み瞳を光らせる。この内容が真実なら寝ている暇などない。

 

「……ふむ……良し、早速ボスへ報告しよう。残りの解析も頼んだ」

「ハッ!」

 

 休憩室から男が退室すると、ベッド側に掛けてあった杖を手に司令室へと向かう。何とか復調したミラーの足取りは、義足である事を差し引けば健康そのものなしっかりしたものだ。

 もう二度と戦場で戦う事は叶わない身体だが、元より戦闘者としては2流止まり。スネークが帰還した今、彼の留守を預かりD・Dの組織力を拡充し裏方として支えていく事こそが本分である。

 

 出迎えた兵士へ軽く一礼し無線機の前に座る。

 一秒でも早くスネークへと報せたい所ではあるが、物事には順序というものがある。スネークと同じくアフガンで諜報任務に当たっているオセロットへと無線を繋いだ。

 

「聞こえるかオセロット。こっちで有力な情報を掴んだ、現地での諜報は十分だろう、撤収してくれていい」

『分かった……ボスに伝えてくれ、どうやらソ連軍以外の“何者か”がアフガンで動いている。恐らくはXOF。

俺もヘリと合流し次第ボスの支援に向かう』

 

 表向きにはスペツナズの精鋭中の精鋭。

 裏では各国と密接な繋がりを持つ多重スパイ。

 然してその実態は、BIGBOSS個人の為だけに動く忠義の戦士。

 

「っ! 了解した、必ず伝える」

 

 そんな彼が独自の諜報網を駆使して“不穏”な動きを掴んだ、その信頼性は郡を抜く。

 そうそう感情を表には見せない彼だが、XOFに対してミラーを含めた旧MSFメンバーの持つ怒りや憎しみと同等以上のモノを胸に秘めていた。もし仮に、スネークが9年前に死んでいれば今頃XOFは壊滅していた筈だ……他ならぬオセロットの手によって。

 

 切断された無線機から手を離し、今はもう存在しない右拳を力強く握り締める。

 

「そうか、奴らが…」

 

 爪が掌に食い込み血が流れる感覚が、ジワジワと腕を這い上がり消える事なく疼き続ける。これは単なる幻肢痛などではない、ミラーを通して無念の内に死んでいった仲間達の怒りや憎しみが“奴ら”への報復心として現われたもの。

 少なくともミラーはそう思っている。

 

「待っていてくれ、お前達。絶対に奴らを地獄に叩き込んでやる……」

 

 ミラーの脳裏に9年前の出来事が過る。

 誰もが気のいい奴らだった、バカな事も沢山した、短い付き合いになってしまったものも居たがーーー今でも忘れない。

 忘れられるものか。

 あの日、あの時に奪われた全てを取り戻す事は叶わない。だから、せめて。先に地獄で待っている仲間達の元へ“奴ら”を叩き堕としてみせる。

 それだけが、復讐鬼と成ったミラーに残された最後の“人間らしい”感情だった。

 

 

 

『スネーク、待たせたな。情報収集が終了した。

どうやら連中、近くに“蜂の巣(生き残り)”を見付けたらしい』

「通りで慌ただしいワケだ」

 

 身を隠しながら近隣の監視所を伺っていたスネークもまた、この蜂の巣を突っついた様なソ連兵達の騒ぎを気に掛けていた。

 何人か捕まえて情報を吐かせようとしたが、誰もが強情で口を割ることはしない。思えばその気勢の強さは“蜜蜂”の被害に逢った者達との深い繋がりを感じさせた。

 

『ああ、奴らは“蜜蜂(Honey Bee)”による被害に悩まされていたからな。蜂の巣を駆除すれば蜜蜂からの被害を失くすだけでなく、その中身……“ハチミツ(西側の最新技術)”を味わえる。

その高い栄養価(戦闘力)でソ連兵の士気は高まる事になるが、蜜蜂が乱獲されれば生態系(戦力差)は狂い自然への(戦争は)被害が増える(泥沼化する)事にも繋がる』

人間(ソ連)が蜜蜂に手を出せば、それを餌に(供給)している(CIA)からの恨みを買う事だろう。凄絶な殺し合いにまで発展するやもしれん」

『その前に俺達が蜂の巣と蜜蜂を処理してやろうじゃないか。無論、多少は“ハチミツ”の味も確かめてな。

……スネーク、場所はスマセ砦から南西の方角にある山岳中継基地だ。用心してくれ、オセロットから報告が来ている……“奴ら”が近くで動いているらしい』

 

 途切れた無線から意識を外し、葉巻の火を消すと立ち上がる。岩陰に隠していた車のエンジンを噴かしソ連軍の専有道路近くの道なき道をひた走る。

 この数日間の探索で馬の脚を使い過ぎた事が悔やまれる、岩場や段差の多いアフガンでは幾ら軍仕様の頑強な車体と言えども快適なドライブには程遠い。ガタガタと揺られながらも悪路を走破し順調に目的地へと近付く、監視所を交わした頃ヘリから緊急通信が届いた。

 

「どうしたピークォド、急用か?」

『いえ、彼ではありません。私ですボス』

「オセロットか……なんだ」

『既にミラーから伝わっているでしょうが、奴らの動きを察知しました。私も支援を行います、狙撃銃は得意ではないがーーーそうも言っていられない』

 

 遥か上空でスネークを追随しているヘリ内部で長々距離用の重狙撃銃を展開・固定し、狙撃体勢を維持しているオセロット。

 彼の最も得意とするリボルバーの速撃ちとはあまりに勝手が違うが、その技量はD・D兵士達の練度を容易く上回る。一流と呼ばれる狙撃手達と比べても、簡単に遅れは取らない程に。

 

「いいのか? お前の立場が危うくなるぞ」

『幾らでも替えの利く立場(役割)に未練などありません。ボス、敵は強大です……用心に越したことはない』

 

 長らくサイファーの元で動いてきたオセロットだからこそ、サイファーの長であるゼロ直属の配下であったスカルフェイス率いるXOFの強大さを知っている。

 ゼロが姿と意思を見せなくなった今、どれだけサイファー内部の“力”を侵食している事か。嘗てカリブ海で襲撃して来た頃以上の戦力を抱え込んでいるだろうことは想像に難くない。

 

『それに、周囲を哨戒しているヘリも見えます。幾ら貴方とてヘリを正面から相手取るのは厳しい筈だ、邪魔になるようでしたら此方で排除しましょう』

「そりゃいい。いざとなったら頼む」

『了解。それにしても、新型誘導兵器のコードネームが蜜蜂……か、ザ・ペインを思い出す。意識して名付けた訳ではないでしょうが、これは正に彼の得意とした戦術そのものだ』

 

 コブラ部隊。

 第二次世界大戦期に特殊部隊の母と呼ばれた英雄ザ・ボスによって設立された部隊。戦場で多大な戦果を挙げ名声を欲しいままにした彼らを支えた物こそが、文字通りその特殊能力。

 中でもザ・ペインの蜂を利用した戦術は多様性に富んだ、身に纏えば無敵の盾となり銃弾の嵐を防ぎ、見た目を完全にコピーした偽者を作り出し撹乱しーーー爆発物を正確に敵の懐へと叩き込む。

 現代の最先端技術の結晶である誘導兵器と同等の能力と戦果を20年以上前に個人が奮っていたのだ。

 

 スネークがザ・ペインらと対峙した時、彼らは己の能力が最大限に発揮できる場所を敢えて選ばずその身を曝け出し戦った。もし少しでも状況が違っていればスネークは勝利する事が叶わなかったかも知れないーーー今となっては確かめようの無い“もしも”の話だが。

 

「懐かしい名だ……」

『伝説のコブラ部隊の絶技も、今は誰でも携行可能な誘導兵器にとって代わられた。もはや一兵士が戦局を左右する時代では無くなった……いや、もしかすれば兵士すら不必要な時代になるのでしょうか』

「…………」

 

 近代における科学技術の進歩は異常だ。

 その過渡期を戦場で過ごしたスネークだからこそ誰よりも肌で感じている。銃器一つを取っても小型化や高性能化が進んだ、大型兵器も多機能化を極め、人工知能などは概要を理解するのも億劫なほど劇的に進化を遂げた。

 ーーー人間の人格を再現してしまう程に。

 

 これから先も科学技術は止まること無く成長を続けていくだろう、その成長に何時か人間が追い付かなくなる日が来る。或いは既に、人間は科学技術という存在に取り憑かれているのかも知れない。

 戦争も形を変えていくだろう。

 機械的に戦い、何時までも続いていく終わりの見えない戦いの世界。

 

「……そんな未来に、俺達の居場所は存在しない」

 

 それはスネークが目指す戦士達の未来の形とは決定的に違う。

 

 

 

 

 

 

 11:腸を蠢く

 

 

 路肩に停車し、C4を仕掛け崖を降りる。

 中腹で双眼鏡を構え偵察を行ったスネークは直ぐにその騒ぎに気付いた、多数の兵士が代わる代わる地べたに座らされている男へと拳や銃床を叩き付けている。

 最大望遠でも男の顔は朧げにしか見えず、内蔵されている集音装置も射程外。だが、男に対し何をして何と言っているかは容易に想像できた。

 

『どうやらあれがハミド隊の生き残りのようだ』

「尋問の最中か……流石に距離があり過ぎる、見張りも多い」

『奴らも、そう簡単に殺しはしない筈だ。

是が非でも蜜蜂が欲しいだろうからな……その分、尋問は過激さを増す』

「見ていて気持ちいいものではないな」

 

 蜜蜂によって同胞の命を奪われ続けた彼らの元に、その元凶が存在しているのだ。

 誰かが先走って撃ち殺してもおかしく無い程の憎しみが、離れて観察しているスネークの身体にすら突き刺さる。渦中の男が感じている恐怖は如何程のものか。

 

 集音装置を男達の方角へ固定し慎重に岩場の影から影へと移動して接近する。普段ならば見つかる可能性が高い移動法であったが、周囲を哨戒している者達も隠し切れない怒りや憎しみを抱えており意識が尋問中の男へと向いてしまっており何とか見付からず近付けた。

 無線機からノイズ混じりで聴こえていた殴打音がハッキリとしてきた位置で停止し、兵士達の尋問の声から情報を得る為に全神経を耳へと傾けた。

 

「チッ! あくまで吐く気は無いってか」

「……どうやら本当に喋れないみたいだな、クソ!」

 

 元から喋れないのか、尋問による怪我の影響か、はたまた自分で舌を切ったか。理由は定かではないが情報を吐かせる事は不可能と感じた兵士はCPへと指示を仰ぎ、直接“隠し場所”へと案内させる為スマセ砦へと向かう事が決まった。

 直ぐに車が用意され、その後部に男が乱雑に積み込まれる。取り囲む様に兵士達も乗り込みスマセ砦内部に隠されている“蜜蜂”を見つけ出す為に発進した。

 それを見送る兵士達の声は怒りに満ちている。必ず見つけ出してくれ、仲間の仇を、ぶっ殺してやれ! それに応えるかの様に手を振り上げた兵士へ、耳を劈くような歓声が響いた。

 

 一連のやり取りを聞き終えスネークは端末を開き、男が連行されるスマセ砦の位置を確認し舌打ちする。

 

「スマセ砦までかなりの距離がある。監視所も多い……」

『蜜蜂が隠されている場所は未だ発見されてはいない、それだけ巧妙なのだろう。見付けるまで死なせるワケにはいかない、案内させるにしても慎重になる筈だ。

しかし発見すれば、始末される。スネーク、ハミド隊壊滅の原因は不透明で怪しい、何があったか知りたい。出来れば死なせず回収してくれ』

「ムチャを言う」

 

 慎重に進んでいては間に合わない可能性が高い、ある程度大胆に動かなくてはならない。未だ鳴り止まない歓声に顔を顰めつつ崖下から這い上がり山岳中継基地東部へと辿り着くと、端末から起爆指示を送った。

 起爆したC4は車に搭載されたガソリンに反応し大爆発を起こす。その爆音に反射的に振り向いた兵士達の意識の裏を突いて物陰から飛び出したスネークは、単身アフガンの大地を疾走する。

 スタミナにはまだ自信は無いが、移動手段を潰してしまった以上は仕方ないだろう。不安定な地面に脚を取られながらも、けして速度は落とさない。直ぐに息遣いが荒くなり、己の体力の低下を思い知らされる。

 

 目覚めてから解決の目処が立たない“2つ”の事柄の内、スタミナの低下は長期的な運動によってしか解決し得ない事だ。薬物によるドーピングを使えば一時しのぎにはなるだろうが、そんなモノに頼るほど落ちぶれてはいない。

 この苦行を体力作りの一環と思い我慢するしかない。そう割り切って一切の休憩を挟まず100m約12秒のペースを保って走り続けた。

 

 

 

 捕虜となったハミド隊最後の生き残りである男の心中は、当初の決意は欠片もなく負け犬のそれであった。

 日常的に厳しい訓練を積んできた、戦士として1人前になりベテランと言っていいだけの年月を息抜き戦果を挙げた。こうして捕虜にされる事も想定してきた、耐えられる筈だった。

 その筈だったのだ。

 

 ある日、仲間が奇妙な死に方をした。1人、また1人と苦しみ悶え息絶えていく仲間達……その数は加速度的に増え、やがて男だけを除き全滅した。

 誰もが無事な男へと訴え掛けた、死にたくないと、助けてくれと、何でお前だけ無事なんだと。ああ! ああ! それなのに男はただ、仲間達の死を見届ける事しか出来なかったのだ。

 原因不明の死を迎えた仲間達を諸共に埋葬してスマセ砦から逃げ出した、自分も何時か彼等の様に酷たらしく死んでいくのでは無いかという恐怖だけが身体を突き動かしていた。

 

 どうやって、何処へと逃げたのか、混乱の極みに陥っていた男の頭を冷静に戻したのは……皮肉にも男を捕らえ尋問を行ったソ連兵達であった。

 肉体の痛みよりも、仲間を失った心が痛む。何度となく殴られ、蹴られ、ありとあらゆる手段で拷問されながらも……思う事は死んで逝った仲間達の事だけだった。あんな死に方をするぐらいなら、こうやって嬲り殺される方がマシだった。

 そんな風に生きる事を諦めていた男の態度に業を煮やしたのだろう、何やら周りの者達が話し始めた。それを他人事のように聴いていた男だったが、スマセ砦と言う名前が出た時には激しく動揺した。

 彼処は呪われた地だ。

 仲間達が原因不明の死を遂げた、忌まわしき場所。

 必死に逃げて、結局は彼処へと連れ戻されるというのか。

 

(仲間達よ……俺も、共に逝こう)

 

 恐らくは隠してある武器を渡せば自分は殺されるだろう。そう確信しながらも、男には隠し立てや抵抗する気力は最初から無かった。欲しければくれてやる。

 だから早く、殺してくれ。

 

 

 

 スマセ砦近くの崖まで辿り着いたスネークだったが、その呼吸は荒く肩を激しく上下に揺らしていた。流石にこの状態では葉巻を吸って落ち着く事も出来ないだろう、絶対にむせてしまう。

 常に余裕を持って振る舞うスネークが見せた事も無い姿に、ミラーも気が気でない。これは全て自分達の責任なのだ。

 

『……大丈夫なのか?』

 

 幾らスタミナに難があったとしてもスネークの身体能力は並ではない。たかだか数km程度の全力疾走でこれ程までに消耗したのは、この数日間アフガン中を駆け回って独自に情報を収集していたからに他ならない。

 D・Dの至らぬ所をボス自らがカバーしてくれた、その事に申し訳なさが募る。諜報班の設立を急がなくては。

 

「ああ……いい運動になった……はぁ……。知ってたか、カズ? 運動した後はな、葉巻が、うまいんだ」

 

 息を切らしながらも葉巻への情熱を忘れていないのは流石と言っていいだろう。軽口が叩ける程には回復したらしく、普段よりも震える手で双眼鏡を覗きスマセ砦内を偵察する。

 捕虜を運んだらしい車両こそ発見出来たが、到着に5分も差があれば当然それに乗っていた者達は影も形も見当たらない。砦内にはソ連兵の見廻りが多く見える、簡単に見つかる場所ならばとっくに彼らが見つけている事だろう。

 となれば隠し場所の候補は一つに絞られる。洞窟だ。

 

『捕虜が見当たらないか、恐らくはその洞窟の奥だろう。行けるか?』

 

 不運な事に洞窟近くで屯している兵士が多い。恐らくは蜜蜂の回収を待ち侘びているのだろう、仕切りに洞窟内へと視線が向いている。

 この状況では潜入したとしても、蜜蜂と捕虜を抱えての脱出は困難を極めるだろう。

 

「……行くしかないだろう」

 

 その場でしゃがみ、呼吸を落ち着ける。

 洞窟内へと潜入しハミド隊の生き残りと蜜蜂を回収する、残された時間は僅かだ。最悪でも蜜蜂だけは確保しなければならない。

 

 

 

 洞窟内は寒々としており、僅かに差し込む陽の光りもどこか頼りなく思える。縦横無尽に広がる道は方向感覚を奪い自分が進んでいるのか戻っているのか判らなくしてしまうだろう。

 本来ならばそう言った効果を狙って作られただろう洞窟だったが、ソ連兵によるマッピングと要所に配置された見張りの存在により台無しだ。だがスネークにとっては好都合。

 壁際を這う様に進みながらふと、こぼれ落ちた破片を拾い上げ観察する。サラサラと手の中で分解されて、大した力を込めていないにも関わらず砂となってしまった。

 

「随分と脆い、衝撃で簡単に崩落しそうだ」

『蜜蜂を見付けたとしても、奴らに気付かれれば生き埋めにされかねんな。慎重に頼む』

「ああ、化石になって未来人達に笑われたくはない」

 

 奥へ奥へ、下へ下へと進んで行く。

 時折遭遇する見張りを慎重に無力化し、何処までも続いていく細長い道を……巨大な生物の腹の中へと転がり落ちて行く様な錯覚に囚われながら進んだ。やがて天井が抜け落ち光が差し込む広間へと出た所で、捕虜を連れた集団の後ろ姿を捉える。

 ようやく追い付いつく事が出来た。

 

「さあ言え、隠し場所はどこだ!」

 

 広間から更に進んだ先の小部屋で兵士が捕虜へと指示を出す。捕虜はフラフラと覚束無い足取りで歩き出し、その後ろを兵士が追従する。

 とある一室の手前まで歩くと捕虜は壁近くにある箱の辺りに視線を向け顎でしゃくった、その意図を汲み箱の近くまで歩き周囲を見渡す。

 

(……何処だ……いや、そうか……!)

 

 それらしきものは見当たらなかったが、直感に従って箱を破壊した。バラバラになった箱が置いてあった壁際に横穴が空いている事に気付き、屈んで穴の中を覗き込み遂に、見つけた。

 

「あったぞ!」

 

 喜びの声を上げ穴から引きずり出し意気揚々と兵士は外で待つ仲間の元へ向かった、これで死んでいった同胞達の死も報われる。そんな風に考えながら。

 ピシュッ。首元でそんな音がしたような気がしたと同時に心地よい眠気に襲われる、視界がボヤけ身体から力が抜けていくのを感じながら倒れ込んでいった。

 

 兵士が倒れた拍子に転がった蜜蜂を抱えて広間へと戻ってきたスネークは、一足先に救出した捕虜の隣まで移動して座り込み無線機を起動する。

 

「蜜蜂を確保した、捕虜もな。幸い天井が空いている、彼処から……」

『流石だ。後は回収するだけだが……蜜蜂のフルトン回収はやめてくれ、万が一失敗した場合を考えるとリスクが高過ぎる』

「……そう言うと思ってたよ」

 

 捕虜を天井の穴からフルトン回収し蜜蜂を背負う。後は外で蜜蜂の発見は今か今かと待ち侘びているソ連兵達の警戒網をどうやって潜るかだ。

 その時、今まで微風すら吹いていなかった洞窟内に突風が巻き起こり頬を撫でて通り過ぎていった。イヤに生暖かかった。

 

 それはまるで、これから起こる“何か”の前触れの様に思えた。

 

 

 

 おかしい。

 

 つい先程下ってきた道を戻りながら、妙な違和感を覚えた。具体的に何と表現していいか分からない感覚だが、少なくとも身体はこの違和感の正体に覚えが有るらしい。ピリピリとした感覚が肌にまとわりついて離れない。

 自然と強ばる身体を意識的に解しながら、慎重に進んでーーー霧が出ている事に気付く。

 

「……おいカズ、これは」

『ああ、こちらも確認した。どうやらスマセ砦周辺に局地的に霧が発生している、だが自然現象とは思えん……つまりーーー今の銃声は?!』

 

 唐突に発生した霧と時を同じくして、スマセ砦内に銃声が轟く。反射的に身を隠したスネークだが、どうやら発見されたワケでは無いらしく一発の銃弾も襲っては来なかった。

 断続的に続く銃声に混じり悲鳴が木霊し……やがて、静寂が訪れた。

 

「…………」

 

 周囲を更に警戒しながら進むものの、人の気配が全くしない。先ほど確かに洞窟内で無効化した筈の見張りすら誰1人としていない、数分前まであった人の営みが一切感じられず、まるで一瞬で長年放置され廃墟と化した様な不気味な雰囲気に変わっている。

 

 洞窟から外に出ても、やはり人の気配は無い。

 立ち込める霧により数歩先すらロクに見えず、五里霧中の状態。端末による方位測定により大まかな方角だけを頼りに進み……足元に転がっていた銃器を見付けた。

 拾い上げ銃身を確かめる、僅かに熱が篭っており先の銃声が空耳で無かった事を証明してくれた。

 

「……」

 

 それは同時に何らかの非常事態が起こった事も証明していた。

 慎重に慎重を重ね、1歩ずつすり足で出口へと向かう。暫くして、前方に思いも寄らぬ大きな“影”が現れ道を塞いだ。ルートを外れた事に気付かず壁に突き当たったのだろうと端末を開き、進行方向を確認しようと手元に視線を落としーーー此処が四方に壁が“存在しない”拓けた場所だという事に気付く。

 

「っ…………!」

 

 反射的に勢い良く首を上げたスネークの目は“影”が急速に大きさを増し自分へと迫っている光景を捉えた。後方へ跳躍出来たのは幸運だった、無意識に身体が動いていた、考えて間に合うタイミングでは無かった。

 間一髪逃れることに成功したが、着地を考えず跳んだ事で尻もちを付いてしまった。慌てて態勢を整え銃を構えてーーそれが“巨大な人影”であった事に気付く。

 

「巨人……?」

 

 霧に紛れ輪郭は歪みその姿はハッキリとしないが、全長は優に20mを超えている。これだけ巨大で、且つ二足歩行が可能な動物は確認されていない。となれば、これが現実とすれば歴史的な大発見となる事だろう……幻覚でなければ。

 その懸念は、人影が動き出し地面を踏み締めた際に発生する衝撃により否定された。紛れもなく現実だ。ガリバーを見付けた小人はこんな気持ちだったのだろうか、そんな考えが頭を過ぎる。

 

『なんだアレは……』

 

 端末越しにミラーの元へと送られる不鮮明な画像の中でも巨人は確かな存在感を見せ付けていた、その異様さに暫し呼吸する事すら忘れる程に。やがて、見上げなければ視界に収まらない程に接近した巨人の足下から1人の男が歩み出る。

 全身を黒色の服で纏め上げた男はゆったりとした動作で近付き、霧の中でも互いの姿が正確に視認できる距離まで近付くと止まった。

 

「よく眠った様だな……ボス」

 

 親近感と嫌悪感を同時に覚える様な声色で男は語り掛けた。その胸元に見覚えの無い“よく知っている”マークの刻まれたエンブレムが飾られている、狐をモチーフにしたシルエットに三文字の言葉。

 

 XにO。

 それにF。

 

「自己紹介は必要かね?」

 

 そう言って男は目深に被っていた帽子を脱ぎ、素顔を顕にした。

 知っている。

 会った事は無い、顔に覚えもない、いやそもそもーーーこの男には“顔”が存在していない。

 

 だからこそ知っている。

 

「スカル……フェイス!」

 

 あまりにも堂々と。

 全ての元凶たる男がその姿を現した。

 

 

 

 

 

 12:因縁の出会い

 

 

『ッ、スネェーク!』

「ッ!!」

 

 ミラーの怒りを滲ませた叫びが無線越しに響く。

 同時に無言で突撃銃を目の前の男の急所へと掃射する。狙い違わずスカルフェイスへと着弾する手前、甲高い“金属音”を奏でながら“何も無い空中”で弾丸が停止した。

 そのまま何も無い空間からおどろおどろしい液体が溢れ出し、カラカラと弾丸が落ちる。

 

「御挨拶だな。

いやはや危ない所だった、彼らが居なければ私の人生は此処で……終わっていた。お互い頼り甲斐のある仲間に恵まれたようだ。大事にしろよ、2度と()くさない様にな?」

 

 くつくつと笑みを浮かべ語る。

 その周辺、何も無い筈の空間から“髑髏”が浮かび上がり、スカルフェイスを護るように4つの人影が姿を現した。一体どういう理屈かは分からないが、姿を消していたこの者達によって銃弾は防がれたらしい。

 更に不思議なことに、彼らには既に傷跡が“存在していない”のだ。

 

『霧の部隊……スカルズかっ!』

 

 一斉に銃口を向けたスカルズ達からの発砲を避けながら手早くリロードし、壁際へと身を隠す。

 拙い動きを見せていた以前の時とは違い俊敏な動きでスカルズは霧の立ち込めるスマセ砦内に散らばった。その身体能力は異常という他ない。

 

「いったい奴らは……!」

 

 強烈な悪寒に突き動かされ緊急回避を行う。

 数瞬遅れて弾丸の嵐が吹き荒れた、あと僅かでも回避が遅ければ蜂の巣にされていた所だ。蜜蜂を取りに来て自分が蜂の巣になるなどとは、笑い話にもならない。

 

『スネーク! 無事か!?』

「ああ。カズ、そっちで何か分かるか」

『ダメだ、解像度が低く奴らの動きが速過ぎる……こちらでは姿すら捉えられない。何なんだ奴らは……ッ!』

 

 頼りにならない言葉だが、文句を言うつもりは無い。目の前で戦っている自分ですら敵の動きを把握できないのだ、遠く離れた海上に居るミラーに何が出来る筈もない。

 ならば頼りになりそうなのは、この男を於いて他には居ないだろう。今は共に同じアフガンの地に居るこの男しか。

 

『ボス、こちらで援護します。貴方の現在地から半径5m以上外へ牽制を行う……この霧ではそれが限界だ』

 

 尤も、正確には空に居るのだが……それは些細な問題だ。何処に潜んでいるか分からないスカルズだが、その実体は幽霊ではなく確かに存在している。四方八方へと上空から撃ち込まれる弾丸は彼らの動きを確実に牽制し、スネークへの集中砲火を防いでくれた。 

 

「充分だ、助かる」

『いえ』

 

 それでも尚、霧に紛れスカルズは跋扈する。

 人間を軽く超越した身体能力での跳躍で何処からともなく降り注ぐ銃弾を回避、ないしは致命傷を回避しながら次第にスネークの下へ射撃を行う。

 恐ろしい程の対応能力だ。何度か避けた隙を突き命中させるも、直ぐに掻き消え居所を絞らせない。姿を捉えても瞬きをする間に消え、先程まで確かに居たのに気付けば何処にもいない。

 

 正に霧そのものとも言える存在に対し、スネークも突破口を掴めずにいた。

 

『霧が更に濃く……それに、あれは?』

「ここらのソ連兵か」

 

 意思を感じさせない不気味な相貌と覚束無い足取りでソ連兵達がスネークの下へと近付いて行く、スカルズによる何らかの手段によって行動を支配されているのだろう。まるで傀儡だ。

 試しに数発ほど手足に銃撃するも、全く意に返さず撃ち返してくる。スカルズ同様、この深い霧の中でありながらスネークの位置を正確に認識し近付いて来る。

 

 気付けばスカルズからの銃撃は止み、スネークを取り囲む様に近付いて行く傀儡兵達が迫る。恐らくはその中に紛れて仕掛ける腹積もりだろう、ひしひしと肌に突き刺さる殺気がその予想を肯定していた。

 

(……このままじゃ埒があかん、か。仕掛けるしかない)

 

 1人ずつならどうとでもなる相手ばかりだが数が厄介だ、CQCならば問題なく対応可能だが……その隙をスカルズは見逃さないだろう。これ以上後手に回っていては“死ぬ”と経験則が導き出す。

 覚悟を決め、背負っていた蜜蜂を降ろして身軽になると、暗視ゴーグルを起動させ敵位置を確かめる。フラフラとした覚束無い足取りで近付くソ連兵達、その中で僅かに規則めいた足取りで動いている人影へと歩み寄る。

 

 手榴弾を空中へと放り投げて暗視ゴーグルを外し、拳銃とナイフを同時に構えながら心中で起爆までの秒読みを行う。

 

(3…2…1…ッ!)

 

 上空の爆発で霧が僅かに晴れ人影の正体を顕にした、やはりスカルズだ。素早く頭部と心臓部へ連射するも、スネークの接近に逸早く気付いていたスカルズは悠々と弾丸を避けた。

 そのままの勢いで彼我の距離凡そ10mを跳躍すると、一気に接近し短剣を振り下ろした。

 

 

 

 姿を晦まし唐突に目の前に現れ斬撃を加える。

 スカルズの基本的な攻撃手段であり、最も確実な暗殺法だ。今まで何度となく成功してきた手段。今日もまた刃が正確に無防備な対象を切断した感覚が、人間をその刃で手に掛けた時に感じる肉を裂き骨を絶った感触がーーーしない。

 

「っ?!」

 

 己の失敗に気づいた瞬間、顔面へと鋼鉄の“義手”が叩き付けられる。同時に喉笛を掻き斬られ噴出した血液越しに……目が合った。

 青く、蒼い、その吸い込まれそうな程に透き通った空を思い起こさせる碧い瞳の奥深くにーーー地獄の亡者すら恐れを抱く様な“怒り”を滲ませた瞳と。

 

「ふっ……っ!」

 

 銃身を斬り裂かれ、切断面から“腐蝕”していく拳銃を捨て突撃銃に持ち替え至近距離で乱射する。

 何処までも冷徹に、自らの死が目前に迫っても尚、最大限の能力を発揮する様に鍛え上げられたスネークの身体はスカルズによる不意打ちに意識が反応する前に動き出し、一瞬の攻防を征した。

 それは同時に、スネークの抱えていた“ある問題”を解決する結果へと繋がる。

 

 肉体と精神との間に存在していた埋め難い(ブランク)。この溝が、ヒグマと対峙した時にすら覚えなかった死の予感に直面し綺麗に塞がった。パズルの最後のピースがハマった時の様に、しっくりとくる。

 最盛期の状態に限りなく戻りつつあるスネークにとって、もはやスカルズは“何の驚異”にも値しない相手へと成り下がった。

 

『スカルズを無力化したのか!』

「退路は塞がれているからな、さっさと全滅させて奴の元へ向かう。あの巨人が何なのか分からんがーーーふっ! なぁに、奴に聞くとしよう、っ!」

 

 会話をしながらも鋭敏さを増していく感覚に従い新たなスカルズからの不意打ちの刺突を、今度は“ハッキリ”と知覚して躱し、伸び切ったスカルズの肘を固定して関節を破壊。

 抵抗が弱まった瞬間に腰を支点に大きく横回転させ、勢いそのまま頭部を地面に叩き付ける。ほぼ同時に逆方向から追撃の蹴りを頸部へと打ち込んだ。

 ゴキリ、と確かに首を圧し折った感触。念の為に手榴弾を仕掛け、身を翻し洞窟内へと駆け込む。

 

 ゴォオン!!

 

 洞窟内に反響する爆発音。

 その音に紛れて接近してきたスカルズへと振り向き様に突撃銃を捨てナイフだけを構える。洞窟内ならば敵の動きはかなり限定される、ナイフの方が有利だ。銃を手放し逃げ場も無くなってしまったが……何一つ問題はない無い。

 要は倒せば済む話だ。

 

「どうした、掛かって来い。それともこっちから行こうか?」

「………………!」

 

 挑発に乗ったワケではないだろうが、先手を取る事に決めたスカルズは壁の端から端へと高速で動き出す。次第に不規則な動きとなり風に揺れる木の葉の様な軽やかさを見せ付ける、襲撃のタイミングを計らせないよう撹乱しているのだ。

 

 スネークは敵の姿を目で追うのを止め、全身を脱力させて来たるべき時を待つ。

 やがて何の前触れもなく飛び出したスカルズの攻撃を……スネークは完全に捉えた。互いの武器が交錯する一瞬、ナイフの表面で刃をいなし払い除けると、返す刀で喉元へと突き立てる。

 

 しかしナイフは途中で“崩れ落ち”てしまい、十分な殺傷効果を挙げる事が出来なかった。どうやら先ほど短剣に触れた部分から腐食し始めているらしく、その侵食は徐々に刃全体へと達するだろう。

 

(どういう手段かまでは分からんが、武器は破壊される。だが……!)

 

 半ばから崩れながらも、ナイフによる打撃はスカルズの体勢を崩す事に成功していた。

 反動でスカルズが取りこぼした短剣を体勢を立て直すよりも僅かに速く拾い上げ、ナイフによって出来た小さな傷口へと数ミリの誤差も無く刺し込む。殆ど抵抗なく後部へと貫通し、そのまま刃だけを手前へと引くと同時に腹部を思い切り蹴り飛ばす。

 

 グチュン。

 刃に沿って首の半分が切断されたスカルズを引き寄せ、そのまま銃撃の盾とする。絶妙なタイミングの援護射撃であったが、スネークの不意をつくには至らなかった。

 

『3体目……! スネーク……ッ!』

「よく訓練されてはいるが狙いが素直過ぎる、動きに慣れればこんなものだ」

 

 不意打ちの失敗を悟った最後のスカルズは、スネークの視線が遮られている今の内に“仲間の身体ごと”短剣で串刺しにする為、一直線に迫る。その速さはこれまでの次元ではなく、霞んで見える程の神速の動きだったが……。

 

「言った筈だ、もう慣れたと」

 

 一流のボクサーが極限の集中の果てに稀に相手のパンチが止まったように見える事があるという。

 伝説の傭兵とまで称されたスネークは、その“絶技”を極自然に行った。ゆっくりとした体感時間の中、僅かな動きだけで軸をずらし短剣を奪い取ると、擦れ違いざま義手を頭部へと打ち込み地面へと叩き付ける。

 

 間髪入れず奪った短剣を背部から刺し地面へと縫いつけると、無造作にC4を放って洞窟から出た。興奮冷めやらぬミラーは、憎きスカルズの死とそれを成し得たスネークの能力へ惜しみない賛辞を送る。

 

『スカルズの無力化を確認……凄い、凄すぎる。あんた一体何なんだ!』

 

 ピッ。

 端末を操作し起爆したC4が崩落を誘発する。身動きの取れないスカルズは爆破の直撃を受けた上で、岩盤に押し潰される事だろう。仮に息があったとしても助かる見込みは無い。

 

「手品の種は尽きた様だな」

 

 最初の時のように姿を消し隠れている伏兵の存在を警戒していたものの、糸が切れた操り人形の様に地面に倒れ伏してい動かないソ連兵達を見て考えを改める。先ず持って伏兵は居ない、居たとしても問題なく反撃出来ると判断しスカルフェイスの下へと近付く。

 

 その予想は正しく、もはやこの場で動いている“人間”はスカルフェイスとスネークの2人だけとなっていた。だが、スカルズ達が無力化され無防備になったというのにスカルフェイスに焦りの色は見えない。

 寧ろスネークの戦いを讃えるようにゆったりとした速さで拍手を打ち始めた。

 

「流石……」

 

 ソ連兵が落とした銃を拾い上げて手早く調子を確かめると間髪入れずスカルフェイスの足元へと撃ち込む。ほんの僅かに狙いとズレた場所に着弾し、命中した岩が弾け飛んでスカルフェイスの頬を切り割き傷を与えた。

 流れ出る血を指で拭って舐め取る、その表情は最初に出会った時から変わらず薄ら笑いを浮かべている。

 

「ふ……お前達っ! もういい、お膳立ては十分だ」

 

 その言葉を意に介さず銃弾を撃ち込もうとしたその時、スカルフェイスの側へと複数の人影が現れた事に気付き距離を取った。

 油断なく銃を構え、その影の正体を確かめーーーそれが無力化した筈のスカルズ達である事に驚愕する。

 

『バカな! どうして奴らは生きている!?』

「分からん、だが確かに手応えはあった。少なくとも、幽霊ではないらしいが……人間とも思えん」

 

 首に大きな切り傷がある者、全身が焼き焦げていながらも動き、千切れた手を宛てがい……繋がる。その現実離れした光景は、まるで3流ホラームービーがそのまま現実になったかの様だ。流れ続ける血が別のおぞましい“何か”に思えてしまう。

 

 パチパチ……と、続けていた拍手を止めてスカルフェイスは大袈裟に手を左右に開いた。その動作に従う様に盾となるよう立ち塞がっていたスカルズ達が離れ、側に控えた。

 

「ああ……寝惚けてはいないらしい。心配していたが、余計なお世話だったようだ」

「お陰さんでな、いい夢を見させてもらった。今度はお前が眠るか、それとも迷い出た亡霊か?」

「いいや、こう見えても人間だとも。

だが、あながち間違ってはいない……実は、今日こうしてお前に会いに来たのはーーーー私では“ない”んだ」

 

 霧が晴れていく。

 スカルフェイスの背後に居た“巨人”が何時の間にか消え失せており、スカルズ達も蜘蛛の子を散らす様にスカルフェイスの下から離れていく。

 今スカルフェイスは完全に無防備だ。にも関わらずスネークは引鉄を引かない……いや、引けなかった。全身に感じる濃密な殺気が不用意な行動を取らせるのを許さなかった。

 そしてそれは、正しかった。

 

「! こいつは……」

「来たぞ……いや、本当にお前の体調が万全な様で安心した。そうでなければ“彼”も、お前と会う甲斐がないというものだからな」

 

 ニタリと笑みを深め、スカルフェイスは芝居掛かった動作で空のとある方角へ向かい手を指し示す。その先には太陽がーーー“2つ”昇っていた。

 いや、違う。太陽が2つある筈が無い、では一体アレは……何だというのだ。その答えを知っているただ1人の男は、訝しむスネークに向けて告げた。

 

「その無線機越しにシャラシャーシカも聴いているのだろう……? 20年ぶりの再会だ、積もる話も有るだろう。私はここでお暇させて貰う、後は君達“3”人で……ごゆっくり」

 

 身を翻したスカルフェイスの姿が残されていた僅かな霧の奥に掻き消えると同時に、太陽の1つがその輝きを増しつつ地面へと高速で迫る。

 燃え盛る火の玉が大きく揺らぎ、何時しか羽の生えた“燃える馬”へと変わりその羽ばたきによって火の粉が舞う。燃える馬はそのまま滑空を続けスネークの下に近付き、急制動をかけ空で立ち止まった。

 

「……」

 

 スネークの視線は先程から、ただ1点に集中していた。燃える馬の背で、その手綱を操り強烈な殺気を放ち続けている“燃える男”へと。

 脳裏に幾つもの言葉が過ぎる、20年、再会、任務、スネークイーター作戦、核、賢者の遺産、愛国者、作戦、偽装亡命、CIA、狂人、蛇。

 

『燃える男……やはり生きていたか!』

 

 オセロットの声。

 それを切っ掛けにより深く記憶の底へと埋没する……雷を身に纏い、幾度と無く立ち塞がってきた“ある男”を思い浮かべる。その姿が燃える男の顔と重なり……完全に一致した。

 

「ヴォルギン……か」 

 

 名を呼ばれ、燃える男ーーーヴォルギンは声にならない“怒りの声”を上げ全身から勢い良く炎を噴き出した。チリチリと、その熱気に煽られ空気が熱を孕む。

 スネークの左眼、その碧い瞳の中に己の姿が映っていることを理解して燃える男の炎は天上知らずに噴き上がる。炎そのものが意識を持つかのようにスネークの側を取り囲んでいた。

 けして逃がしはしない、と。

 

 嘗ての任務。

 大恩ある師……ザ・ボスを自らの手で抹殺せねばならない事態へと運命を捻じ曲げた因縁の相手が、全身から炎を噴き出す異様と成り果て現れた。

 

 

 

 

 

 

 SIDE OPS:でりばりー

 

 

「段ボール配送……?」

 

 蜜蜂の情報収集に明け暮れていたスネークはふと、特定の監視所にだけ設置されていた段ボールの配送所の存在に気付いた、

 どうやら特定の場所への伝票を貼っていればそこへ届けてくれるらしい、9年前にはあまり見なかった文化がこうしてアフガンに根付いている事は素晴らしい事だ。

 

『おいおい、スネーク。まさかとは思うが配達してもらう気か?』

 

 配送所にて段ボールを被ったスネークへ揶揄いの無線が入る。大真面目にそのつもりなスネークからすれば何を当たり前の事を言うんだ? としか感じない。

 しかし配達は何時になるのやらと端末で時刻を確認しようとしたその時ーーー端末に新たなアイコンが表示されているのに気付いた。

 

「……?」

 

 よく分からないものは取り敢えず押す。

 今までもそうやってきたスネークは躊躇せずそのアイコンを押すと、端末にアフガンの地図が表示された。それは普段使っている地図機能とは少し異なり、配送所だけを指定して決定する事ができるように構成されていた。

 

「…………おお!」

 

 試しに近くの配送所指定すると、フワリとした浮遊感と共に何時の間にかその場所に移動している事に気付いた。

 先程ミラーが言っていたのはこういう事だったのかと納得する。

 

「なるほどな、カズ。こういう機能があるなら先に言っておいてくれ」

『あ? ああ、すまな……い?』

 

 何処か釈然としない物を感じながら、ミラーはスネークが本当に敵のトラックで配達された事に感心していいやら呆れればいいやら判断が付かなかった。

 と言うか何があったというのだろうか、急に端末を弄ったかと思えばこちらからの通信に一切応えなくなったのは。

 

 なにか気付いてはいけないもの(システム上の仕様)に気付きかけたような感覚を覚えつつ、スネークへの無線支援を続ける。

 この世界はまだまだ未知で出来ているのだ。

 

 

 




 話の要点

・時系列は前話から数日後
 これからもミッションによっては日にちが飛びます


・バディ:オセロット
 信頼度最初から最大。武装により近中遠距離でボスを強力にサポートするぞ!


・対スカルズ
 ヴェノムの出来る事は基本的にボスも出来る設定(但し体力で劣る)
 今回のスカルズ戦は、メタ視点で見るとボス戦でのCQC返しのレクチャー


・燃える男
 キプロスで出会うことの無かったこの男がアフガンの地にやってきた! 水が存在しない有利な場という絶好のコンディション、今回の真のボス戦


・次回更新
 わかんねーです
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