メタルギアソリッドV -THE NAKED-   作:すらららん

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今回のサブタイトルは『ボートを用意しろ』にしようかとも思いましたが、あまりにネタくさいので止めました。再会とは複数の意味を持たせています、誰と誰が再会しているか考えてみてもいいかも知れません。

それはともかくとして。
お待たせしました、月一投稿はギリ守れてます。
今回の話も重めです、全てシリアスです。シリアスですよ。シリアスですね。





再会

「これは……確かなのか?」

「確かです。私も、俄には信じられず……」

 

 医療スタッフから手渡された極秘ファイルの中身、D・D総司令たるビッグボスの検査結果を一通り読み終えたミラーはその結果に慄きながら問うた。二度に及ぶ計測と、三度に渡っての徹底解析の結果ーーーこの結果は疑う余地のない、確かな物であると証明された。

 

「この事を誰かに話したか?」

「いえ。誰にも」

「賢明だ。分かった、ボスには俺から伝えておく」

「ハッ! 失礼します」

 

 退出したスタッフを見送り、現在アフガンで戦車部隊を単身相手取っているスネークへと思いを馳せるーーーいや、正確には1人と“1匹”か。前回の測定時データはおかしく無かった、9年間の昏睡状態にあった事を鑑みれば優秀すぎる程の結果ですらあった。

 それから僅か1ヶ月でこうも変化するものなのか。スネークの検査項目、その殆どに“異常”を示す印が刻まれていた。

 

 

 

 

 

 16:ヒューイ接触

 

 

 

「ようしワン公(DD)、目標はアイツだ」

 

 そう言ってスネークは四角い箱をDDの口に挟ませ走らせた。素直に言うことを訊きしっかりと“目標”の下で箱を置くと、トテトテと主人であるスネークの下へと帰還する。

 その手腕を讃えぐりぐりと頭を撫でると、気持ち良さ気な声を出しながらブンブンと尻尾を振るった。最初は警戒心を窺わせていたというのに随分と慣れたものである。

 

「そら、ココだ。押してみろ」

「ワンっ!」

 

 お手の要領で端末の画面を肉球でプニっと押させる、やや間があって先ほど仕掛けた箱が大爆発を起こし“不幸にも”その上に存在していた戦車が誘爆し大破した。

 巻き込まれた人間は生きていないだろう、痛ましい事だ。

 

「やるなワン公、これで戦果は4だ。勲章ものだぞ? まあウチじゃ薫製しかやれんがな…...ほれ」

 

 山羊の薫製肉をホルダーから取り出しDDの口元へ運ぶ、しかし大きな口を開けて咥えたものの一向に食べようとはせずじっと見つめ返してくるだけ。少し理由を考え、良し、と許可を出すと途端にむしゃぶりついた。

 よく躾けてある、オセロットはトレーナーとしても一流らしい。多芸な男だ。

 

 破壊された戦車から漏れ出した燃料が草木を巻き込んで引火し轟々と燃え広がっている、そこへと近付き胸元から取り出した葉巻を火元へと近付けライター代わりに着火する。

 北から南、西へ東と忙しなく動き回って一服する暇もなかった、口内に含んだ煙の官能的な味わいが全身に広がり疲れが取れていくのが手に取る様に分かる。やはり疲れた時はコレに限る。貧相で下劣なタバコでは到底味わう事の出来ない神秘的な味わい、この旨さを知らないで生きている人間が哀れで仕方がなかった。

 

「フゥー………カズ、今ので確認された戦車部隊は全滅の筈だな?」

 

 相棒(バディ)が食事する横で愛用の葉巻を吸いながらMBで戦況把握に務めていたミラーへと確認を取る。今回スネークが破壊したのは戦車だけではなく予定外の戦闘ヘリも含まれた、派手にやり過ぎてソ連軍に目を付けられた結果の派遣であったものの、その役目を果たすこと無くアフガンの大地に消えていった。

 緊急性の高い依頼と状況でありながら当初の作戦目標よりも多くの目標を破壊した手腕は脱帽だ、ミラーも途中から唸るしかする事が無かった。

 しかもその内の幾つかは犬を使っての破壊工作だ。

 

『ああ、さすがだボス。ゲリラ達から賞賛の嵐だ、追加報酬に期待出来るぞ』

「そりゃ良かった、コイツ(DD)の餌代に困る事は無さそうだな」

『そうだな、食べ盛りを飢えさせはせんよ』

 

 一頻り肉を食べたDDがマーキングを行うのを横目に手早く銃の手入れを行う。D・D謹製の拳銃とはいえ汎用性を重視した造りのソレは特注品に比べれば性能は遥かに劣る。

 こうした地道な手入れを欠かさなければ弾詰り(ジャム)を防ぐ事が出来るし、目隠しをしていても解体・組立が出来る程に銃を己のモノとする事が可能となる。尤もスネークの場合、そもそも銃を使うよりも肉弾戦の方が強い上に敵に気付かれる事なく接近できるため発砲すること自体が稀だが。

 

『スネーク、さっき“(ヒューイ)”から催促が来た。どうやら相当に切羽詰まっているらしい……』

「放っておけ。どうせ殺されはしまい、それより検査の結果は出たのか?」

 

 この任務に起つ前に行われた身体検査。

 何故か2日も続けて同じ検査が行われたのが不可解ではあったものの、前回の検査では満足のいく結果を出せなかった事もあり今回は徹底的に身体を鍛えて臨んだのだ。

 実を言えばかなり自信がある。

 スカルズとの戦闘以降、右肩上がりに調子が良くなっているのを強く実感している。先程まで相手取っていた戦車部隊や戦闘ヘリを破壊する時もそれは同じだ、息切れする事が減った。

 何より、葉巻も少し旨くなった気がする。

 

『ああ、出ている。全ての検査で異常が診られた』

「ぶふっ、はぁ?!」

 

 自分としては悪くない手応えを感じていたスネークは、ミラーからの予想もしていなかった返しに葉巻を零してしまうほど勢い良く噴き出してしまった。

 まさか、という思いの裏で、そうか、とも思う。

 

(バカな……いや………そうなのかもしれん)

 

 考えてみれば若い頃から無茶ばかりしてきた。

 怪我や骨折したりは日常茶飯事、遂には左腕を失くし9年もの昏睡状態に陥ったーーーこれで正常な状態であると考える事がおかしかったのやもしれない。

 D・D医療班スタッフの能力に疑いは無い、思えば2度も同じ検査を受けた時に気付くべきであった。なんという事だ、よもや自分の身体の異常にも気付けない程に衰えていたとは。

 

『落ち着いて聴いてくれよ』

 

 ミラーの神妙な声が何処か遠い。

 意識してしまうと何だか身体中が怠く、重く感じてしまう。落ちた葉巻を拾って吸い直そうとする気力すら湧いてこない、隣で心配そうに自分を見つめるDDの頭を撫で幾らか気持ちを落ち着けられた。

 不甲斐ない姿を見られてしまった、主人として申し訳ない気分になる。

 

「ああ、分かった」

 

 覚悟を決めミラーからの説明を待つ。

 嘆いた所で現実が変わるワケではない、ならばありのままの結果を受け入れるまでだ。その堂々とした姿は正に伝説の兵士BIGBOSSの名に相応しいものであった。

 

『ボス、今のあんたの身体は、同年代の平均値から見て……とても50代とは思えない程に鍛えられている』

「そうか、俺の身体はそんなにも鍛えられていたのかーーー何だって?」

 

 が。最悪残り1年の命だと告げられる事すら想定していたスネークの想像は、いい意味で裏切られる事となった。

 

『言葉通りの意味だ。特に運動能力に関する項目では20代の若者すら超越していると太鼓判を貰った、昔のあんたの記録とも遜色ないぞ』

「だがお前、異常が見付かったと……」

『ああ、確かに言った。だが、それが別に悪い事だと言った覚えはないぞ? だってそうだろう、こんな結果を見せられては異常と言う言葉しか出てこん』

 

 どうやら、あの思わせ振りな態度はブラフだったらしい。見事に担がれたようだ、そうと分かった途端に身体中の怠さは抜け落ち、活力が漲ってくるのだから……我ながら現金なものだと自嘲する。

 もし気力ゲージなんてものが存在するのなら、4段階のうち3目盛り落ちて直ぐに3目盛り上がった様な気分である。

 

「カズ……お前なぁ」

『すまない、真に受けるとは思っていなかった。俺としては、データなんぞアテにならん、とでも返されると思っていた』

「ったく、何にしろ引退は先延ばしだな」

 

 担がれた事に思うことがなくもないが、それ以上に身体に問題が無かったことに内心安堵していた。それでもまだ“9年前の自分”と同程度でしかないのは業腹だ、まだまだ鍛える必要がある。

 そうと決まれば先ずは一服、落としていた葉巻を拾い上げ咥え直す。よく考えてみれば葉巻を吸ってるのだから不健康な訳が無かった。葉巻を吸えば健康になる、これはもう常識だろう。

 

 そのまま顔をDDへと近付けると、先程まで心配そうに潤んでいた瞳が険しくなり距離を取られてしまった。

 お気に召さなかったらしい。まあ犬にはこの味の良さは分からんか、と無理強いさせる事はしなかった。

 

『だがボス。たとえ本当に身体に異常があったとしても…………引退する気はなかっただろう?』

「当然だ、俺のーーー俺達の居場所は戦場(此処)だけだ」

 

 プカァ……と煙を輪にして放つ、それに興味深そうに手を出し強烈な匂いを嗅ぎ取りジタバタと暴れ出したDDに笑みを零しながら立ち上がる。

 そう言えば、と。義手を一瞥しカチリと指先を外し点火する。これで良し、身体の何処にも問題は無い。

 

「よし、では現地に向かうとしよう。行くぞDD」

「ワン!」

 

 周辺のソ連軍部隊から“借りた”車輌、その助手席にちゃっかりと乗り込んだDDを伴ってアフガンを走る。目的地はセラク発電所ーーーその奥。

 そこに懐かしい男がいる。

 

 

 

 各地に点在する監視所と哨戒の目を掻い潜り長い登り坂を登りきると車輌をその辺に放置して端末を起動、地図と現在地を照らし合わせる。

 かなり奥まった場所にあるセラク発電所、その全貌が見渡せる距離で一旦立ち止まり、切り立った崖の上へ登ると双眼鏡を構え偵察を始めた。

 

「随分と立派な施設だ、不必要な程にな。

それに常駐している兵士も多く、これみよがしに存在する怪しい扉……これでは“何かあります”と大声で言い触らしてる様なものだ」

『奴の利用価値は1つしかない、兵器(メタルギア)だ。となるとあの扉の奥には……』

「ZEKEに相当する何らかの兵器が造られているんだろう。これで何もなければ大した欺瞞だ」

 

 発電所の奥に存在する大きな扉、そこから僅かにだが覗く“人工物”は此処が極一般的な発電施設ではない可能性を匂わせる。

 恐らくは岸壁をくり貫いて造られたその空間は、衛星や偵察機等への対策の一貫だ、スネークの言う通りこれ程までにあからさまでは何も知らない一般人ですら騙せない。とはいえ一般人がこんな所まで来れる筈が無い、いや訓練された兵士であろうとも不可能に近い。

 この場所に来るまでの警戒は、この周辺がソ連軍の制圧圏である事を鑑みても異常な程に厚かった。通常の警備状態では無いという事だ、それはつまり近くに大物(ゲスト)がいる事の証左である。

 ヘタをすれば鉢合わせてしまう可能性だって考えられる。

 

「さて、こういう時にニッポンの諺では……オニが出るかジャガーが出るか、と言うんだったか?」

『誰から習ったボス? 正確には鬼が出るか“(じゃ)”が出るか、だ。(じゃ)と言うのは即ちヘビ、スネークーーーあんたの事だ』

「そうなのか。よし開いた」

 

 カチャカチャとピッキングしながら何の気なしに思い付いた話題をふる、微妙に間違った知識を窘められてしまった。周囲を警戒しながら扉を閉めるとほぼ同時に、ブザーが鳴る。

 まさか見付かったのかと焦り直ぐ近くに体を隠す、閉ざされていた扉が開きトラックがスネークに気付いた素振りは無くただ通り過ぎた。この至近距離まで接近していた事に気付かないとは、容易にここまで潜入出来た事で些か緊張感が欠如していたらしい。

 

「ふぅ。心臓に悪い」

『すまない、偵察班からこっちに報告が来ていた。あんたなら気付いているとばかり……伝えるべきだった』

「いや、いい。少しばかり気が緩んでいた、いい薬だ」

 

 トラックの接近に気付かなかった事はともかく、人の行き来がある事が確定した以上この先に何も無い空振りの可能性は消えた。トラックが走り抜けた先へと進む、そこは巨大な洞窟が……より的確に表現すらなら倉庫があった。広々とした空間の奥に“巨大な何か”が存在するのが微かに分かる。

 だが最低限の灯りしか存在しない内部を偵察するには些か遠い、かと言って近付き過ぎれば警戒網に掛かる可能性が高まる。慎重に進む事を余儀なくされたスネークが匍匐の体勢を取ったその時、声が響いた。

 

「待ってくれ、話が違う!」

「変更は決定事項だ」

 

 洞窟内で反響する声、どうやら2人の男が言い争いをしているらしい。その両者に聞き覚えがあるものの、肝心の話している内容は残念ながら聴き取れなかった。

 先程のトラックが中央付近で停車している、中からゾロゾロと降りて来た兵士達から見付からない様に慎重に近付いていく、不意に“左腕”が疼いたが無視した。

 

(あの服装、ここからでは良く見えんが……ソ連兵のものではない。だが俺は“知って”いる? 何処の部隊だ、あれはーーーっ!?)

 

「こいつはまだ動かせない、遠隔操縦やAI制御は実用段階になっていない」

「AIは誰も欲しがらん10年前のコールドマンの件があるからな」

「ああ、ただ有人機にするには姿勢制御の改良が必要なんだ……僕も急ぎたいよ」

 

 2人の声が耳に届かない、いや正確に言えば聞き取る余裕がスネークになくなっていた。匍匐から腰を落とした体勢へと変え、不調を訴え始めた左腕を掴み心中で苛立ちの声をあげる。

 

(なんだ……故障か? いや、違う……これは)

 

 止まらない疼きに顔を顰めながら、尚も言い争いを続ける2人の男達へ右手だけを使い双眼鏡を向ける。科学処理され鮮明になった画像は、薄暗くて見え辛くなっていた両者の顔を映し出していた。

 1人はスカルフェイス、間違いない。あんな顔をした人間が何人も居るとは考えたくない。そしてもう1人、知っている。あの頃(9年前)よりも年を重ねて窶れているものの、ボサボサの髪に無精髭を生やした姿は“懐かしさ”を感じさせる。

 ヒューイ、今回の救出任務の依頼主であるエメリッヒ博士が其処には居た。

 

 スカルフェイス、それからヒューイは尚も話を続けーーー兵士から何事かを耳打ちされたスカルフェイスが階段からヒューイを突き落とす。

 そこまでを見届けたスネークに、耐え難くなった疼き……“幻肢痛”が激しく“痛み”を訴え始めた。気を抜けば声が漏れそうな程の激痛、この痛みは今まで受けたありとあらゆる拷問をも超えているのではと感じる程に酷いものだった。

 だが、今この場で叫ぼうものなら武器すらマトモに握る自信のない今見付かってしまえば……結末は1つしかない。

 

「カズ……すまん、奴らの会話を聞き逃すな。くっ」

『スネーク?』

 

 声を抑える為に気配を殺し完全に潜伏する、必要な情報は周音機越しにミラー達が入手する事を祈るしか無かった。脂汗を滲ませ奥歯を噛み砕かん程に力を込める、酷い酩酊状態の様な感覚に吐き気も催した。

 時間の流れが酷くゆっくりしたものに思える。

 

「ーーーサヘラントロプスはーーー」

 

「ーーーー!」

 

「お前とーーーー裏切りーーー」

 

 倒れ込んだヒューイを小型の二足歩行機械がつまみ上げて洞窟から立ち去った。スカルフェイスの指示に従い洞窟内に居た殆どの者達がトラックに乗り込むと順次セラク発電所を後にしていく。

 それに気付いたスネークは、激しい痛みを堪えながら洞窟内部を大胆にも全身を晒け出しつつ奥へと進んだ。その甲斐はあった、洞窟の更に奥……奥深くへと格納されて行く“巨大な兵器”の姿を見届ける事が出来たのだから。

 

『今のは……いや、それよりもスネーク! どうしたんだ!』

 

 だが、さしものスネークをして出来たのはそこまでだった。崩れ落ちる様にその場に座り込むと、そのまま何も出来ず左腕を押さえ込み痛みが治まるのを待つしか無かった。

 

 

 

「っーーーはぁ、はあ。カズ、奴らは何処へ行った?」

『もう大丈夫なのか!?』

「ああ、心配を掛けた。突然、腕が痛んでな……」

 

 痛みが治まり、ようやく人心地つく事の出来たスネークはこの突然の幻肢痛の原因を探るべく意識を傾けた。目覚めてから今の今まで、これ程に唐突で強烈な幻肢痛を感じた事は無い。

 何か切っ掛けがある筈なのだ、失くした腕が疼き始めた切っ掛けが。振り返るとどうも、最初に痛みを覚えたのはトラックから降りて来た者達の服装を見た時である事に思い至る。感じたのは指先の僅かな痛み。恐らくだがこれが原因に違いないだろう、またも疼き始めた左腕が何よりの証拠だった。

 

(原因は分かった、だが理由はなんだ? 俺の左腕が何かを訴えたがっているとでも……?)

 

 奴らを見た時に感じた僅かな引っ掛かり、これを放置していてはならないと半ば強迫観念に近い確信を覚えながら記憶の残滓を手繰りーーー沈み行くMBと倒れていった仲間達の姿を“幻視”した。

 誕生会でふざけ合った笑い声が、共に戦場を駆け抜けた仲間達の勇姿が、腕の中で息絶えていく兵士達の無念の声が、爆弾を遠ざけるため飛び降りた少女の決意の表情が、自らの身体を盾にして爆風に呑まれ死んでいった男の後ろ姿が。

 次々と浮かんでは消えていき、最後に……“髑髏”が残った。

 

(……そうか)

 

 全てが繋がった。

 あの兵士達の装備は、9年前にMSFを襲撃した者達と同じだった。XOF、当時は知る由も無かったサイファー直下の戦闘集団。嘗てゼロが創設し、あの髑髏顔の男(スカルフェイス)が率いている部隊。

 何時しか左腕の疼きは止まっていた。

 

『奴を回収したいのは山々だが、あんたの無事に比べられる事では無い。任務を中止するか?』

「いやいい」

『しかし……!』

「もう収まった。大丈夫だ、ああ。問題はない、行くぞDDーーーDD?」

 

 体調不良を心配するミラーの問い掛けに適当に返事をして傍らのDDへと視線を送る。

 何処か不安げな表情で見つめていたDDだったが、振り向いたスネークの顔を見た途端その態度が急変する、身を竦ませ唸り声を上げながら後ずさった。その様子を訝しむスネークだったが、付いて来いと指示を出し一足早く発電所入り口へと向かって走り出した。

 その後ろ姿が見えなくなった頃、DDはようやく動き始め後を追う。壁に隠れているスネークに追い付くとおずおずと身を寄せ擦り付け、左腕をペロペロと舐め始めた。

 

「何だ、どうした?」

 

 その問い掛けに答えずDDはひたすらに、何処か慈しむ様な、慰める様な仕草で舐め続けた。疑問に思うものの、なかなか離れようとはしない上に見張りの配置が悪い。暫くは動けそうにないので好きにさせる事にした。

 この時は誰も気付く事は無かった、いや……傍にいた“1匹”だけが気付いていた。スネークの顔に僅かに浮かんでいた感情を、怒りと憎しみの発露を。

 DDは言葉を解さない、だが。もしDDがその時に見たスネークの表情を言葉で現す事が出来たとしたらとーーーきっと“鬼のような”顔と言っただろう。

 

 

 

 

 

 17:仲間を売った男

 

 

 

 セラク発電所から北西に位置するソ連軍ベースキャンプ。そこへ移送されたヒューイを追い掛ける、発電所内に残されていた情報から大凡の居場所は判明済みだ。恐らくは監禁状態、接触は困難かも知れない。

 厳重に封印された扉の奥、そこに消えていった謎の兵器も気になる所ではあったが……開閉装置らしきものも見当たらず諦めるしかなかった。有ったとしても動かせるかどうか疑問だが。

 

 言い争いの途中で漏れ聞こえたヒューイの言葉を信じるならば今はまだ未完成の謎の兵器、だがXOFを……スカルフェイスを追うならば近い将来交戦は避けられまい。その時までに片が付けばいいのだが。

 今はそんな心配よりもヒューイを回収することが先決だ、この男の科学知識は役に立つ。兵器の詳細も聞き出せる。だがベースキャンプ周辺の警備は厳重極まりない、小回りの利く戦闘ヘリが常に哨戒し地上からだけではなく上空から見張っている。

 

「よし、いいだろう。行け」

 

 補給物資を積載したトラックの運転手は、通行許可を受け橋を渡る。その上空を大きく旋回しベースキャンプ中央部へと移動していくヘリを眺め大きく溜息を吐き助手席の男へと話し掛けた。

 

「規則とはいえ、いちいち味方のヘリに狙われるってのは良い感じしないな」

「しょうがないさ。お偉い方ご執心の研究施設に行こうってんだからな」

「あの門の先に何があるってのかねぇ?」

「おい、あんまり詮索すんなよ。あの中を見た奴は人知れず始末される……って噂、お前も聞いたことあるだろ?」

「ああ、すまん。っと、忘れる所だった。えっと、ここの荷物はーーー」

 

 ガサゴソと、大量の荷物が所狭しと押し込まれている荷台から目的の物を引き出す。かなり重い荷物だ、この大きさといい配送書の注意書きといいかなり高級な機械部品か何かだろう。

 万が一にも壊してしまうと弁償しなくてはならなくなる可能性が高い、おっかなびっくり抱えて無事に降ろして運転席へと戻った。

 

「待たせた、行くか」

「ああ。早く終わらせて寝ようぜ」

 

 ゴオォォォとエンジンを噴かしてベースキャンプを抜けたトラックは北東にある“施設”前の検問所に向かって走り出した。

 もう直ぐ陽が暮れる、走り慣れた道とはいえ夜道を走るのは独特の緊張感があって好きではない。荷物はトラックごと回収されるので今日は近くに設置してあるテント内で朝まで過ごし、朝には返却されるトラックでまた長距離を走らなくてはならない。

 何を造ってるか知らないが、さっさと終わってくれ。そう願いながらハンドルを切る運転手の頭に、先程降ろした“荷物”の事は既に忘却の彼方だった。

 

 

 

『周囲に敵影なし……いいぞボス』

「了解」

 

 1つだけポツンと置かれている段ボール箱、その下部から太く鍛え上げられた脚が伸びた。僅かに覗く隙間から周囲を警戒しつつ近場の建物の裏へと回り込む。

 それからいそいそと段ボール箱を脱ぎ、近くの見張り台へと上がり双眼鏡を構え何時ものように偵察を始めた。この数ヶ月ですっかりトラックの荷台に紛れ込む事に味を占めていたスネークは、今日も今日とてヒッソリと荷物の中に紛れ込んで厳重な警戒をすり抜けベースキャンプ東部へと潜入を果たしていた。

 

「ワンっ!」

 

 山肌を駆け抜けて来たDDと合流し、備えは万全である。

 

『いけそうか?』

「戦闘ヘリに見付かれば厄介だな、それだけだ。変わった機械(オモチャ)があるが……問題ない。要は見つからなければいい」

『任せた』

 

 外からの侵入に対して偏重している警戒網は、内部からの潜入に対しあまりにも無力だった。壁沿いに進むだけで殆どの敵兵と相対することもなく目的地付近へと辿りつけた、上手く行き過ぎて誘いを疑った程だ。

 その道中で見付けた美女のポスターを丁寧に剥ぎ取りバックパックに大事に仕舞い込んだスネーク。これはソ連軍秘密兵器の設計図が一見すると関係の無い物に紛れて隠されているかも知れないから行った諜報活動の一環である事は語るまでも無いだ。

 

「目的地に到着した。接触を図る」

 

 手に入れた情報から算出した場所にあった蒲鉾形の建物、この中にヒューイが居る筈だ。なだらかな坂になっている外壁を登る、天井付近に開いている通風口から慎重に中を覗き込んだ。そこには捕縛されているだろうという予想に反し元気そうな姿で施設内を“歩いて”いる目標の姿があった。 

 

『エメリッヒ……いたな。ボス、接触してくれ』

 

 今回の任務においてミラーは極力感情を抑えて事にあたっている、それでも長い付き合いのスネークからすれば隠し切れない昂揚めいたものを感じさせる声であった。内部での待ち伏せを警戒し、そのまま偵察を続けていたスネークの目が“ある物”を見つけた。瞬間、ドクンと心臓が跳ねる。

 双眼鏡越しにその正体に感づいたミラーもまた、不思議そうな声で呟いた。

 

『ピースウォーカーに搭載していた電子頭脳(AI)か?』

「ーーーいや、分からん。あの時にピースウォーカーは……“彼女”は沈んだ、だが」

『ああ。だがボス、今はエメリッヒの回収を優先してくれ、奴に聞く方が手っ取り早い』

「……そうしよう」

 

 偵察を切り上げ、入り口に居た2人の見張りを同時に昏倒させ、更に万全を期す為に周囲の見張りを一人残らず無力化する。その中でいい動きを見せた何人かをフルトン回収し、他の者には夢の中へと旅立って貰った。明日の朝までグッスリと眠る事だろう。

 暗視ゴーグルを起動させ罠を警戒しつつ扉を潜る。陽が落ちて来た事とは無関係に薄暗い場所だ、先程ざっと確認したものの何処に伏兵が潜んでいてもおかしくはない。慎重にクリアリングしつつ1歩ずつ慎重に踏み出していたスネーク、その歩みは思いがない“声”により妨げられた。

 

『誰?』

 

 1秒。

 戦場において完全に集中を切らせるなど有ってはならない、そんな事をした瞬間に何処かから撃たれ死んでもおかしくないからだ。休むにしても神経は鋭敏にしておくのが戦士の常……伝説の兵士とまで謳われるスネークもまた、当り前に持ち合わせている技能だ。

 にも関わらずだ。1秒、ぴったり1秒ほど忘我する程の衝撃を覚えスネークは立ち止まっていた。その危険性に気付き直ぐに銃を“声”のした方向へと構えるものの、その銃口は定まらず新兵の様に震えていた。

 

『スネーク…?』

 

 構えていた銃を下ろす。その声の主の全形を視界に捉えた、固く冷たい金属製の円筒状の機械越しにーーー白いスニーキングスーツを着込んだ“彼女”の幻覚が見えた気がした。

 何度か瞬きをすると幻覚は消えていた、当然だ、彼女はもうこの世の何処にも存在していない。この機械が造られた9年前のピースウォーカー事件、それよりも更に10年以上前に彼女は死んでいる。

 殺したのだ、自らの手で。 

 

『元気そうね、ジャック』

 

 これは彼女の思考を再現したAI。

 既に種が割れた手品だ、それは何処までいっても所詮は再現された“偽物”に過ぎない。そうだ、理解している。目の前の機械は只のーーーザ・ボスを“完全”に再現しただけの機械なのだ。

 だからその声に答える必要は無い、その意志を受け継いだ最愛の師とは既に袂は別たれている。だと言うのに、そんなスネークの意思に反して唇が動き。

 

「……ボス」

 

 気付けば、そう呼んでいた。

 声がする、あの一面の花畑で交わした言葉が脳裏に蘇えっていった。

 

 

 

   綺麗でしょ?

 

 

   生命の終わりは

 

 

   切ない程に

 

 

 

「やあ……それは、ただの機械(AI)だ」

 

 その声に正気を取り戻す。

 咄嗟に振り向きながら銃を構える、もう先程の様に震えてはいなかった。声の主は折り畳まれた腰部の機械を伸長し、恐らくは外を彷徨いている二足歩行兵器と同様の技術で造られたソレを使って歩いている。その機械は正しく脚代わりとして機能しているのだ。

 ヒューイ、嘗てMSFに所属していた男。しかし現在の彼はーーー裏切りの容疑者。だが当の本人はそんな風に思われているとは露ほども思っていないのだろう、久し振りに見るスネークの顔に破顔しながら二コやかに声を掛けてきたのだから。

 

「遅かったじゃないかスネーク……わっ! な、何をするんだ?!」

 

 そんな彼の態度が鼻に付いたのは確かだ。

 だが、それだけでは無かった。本人は決して認めようとはしないだろうが、ザ・ボスとの邂逅に無遠慮な言葉を投げ掛けられた事に対して自覚する事の無い苛立ちを感じていた。

 だからこそ、ヒューイの話を取り合うことなく素早く機械の脚の“自由”を奪う行為へと自然に身体が動いた。

 

「放してくれ!」

 

 頭部を袋で覆い背部の配線をナイフで斬り落とす、沈黙した機械部分を軸に抱き抱えて上手くバランスを取った。想像していたよりもずっと義足は軽かった、確かな技術力を感じさせる仕上がりに技術者としてのヒューイの能力は確かな物である事を改めて認める。

 だから信用していた。それはあの日もそうだ、だと言うのに……。

 

「降ろしてくれ! 僕の脚を返せ!」

 

 此処で語り合うつもりは更々ない、話し合い(拷問)について“それなり”の知識は持っているがオセロット(専門家)には流石に遅れを取る。そもそも、事の真偽はどうあれこの男に煩っている暇はない。

 加えて今は速やかにこの場から距離を置きたかった、だが。

 

『ジャック』

 

 それを押し留めたのは、その要因たる彼女(ザ・ボス)だった。

 

 

 

 反射的に振り返ったスネークの眼にはもう、在りし日の彼女の姿は見えなかった。赤く明滅するランプと共に合成音声が言葉を発する、然してその内容はあまりにも判然としないものであった

 

『来なさい。あなたになら“彼女”を託せる』

「彼……女?」

 

 何を言っているのか訝しむスネークに対し、その言葉の意味を咄嗟に理解した者の反応は劇的だった。それまでは抵抗の言葉を発しながらも抵抗らしい抵抗を見せなかったヒューイが暴れだす。

 

「っ! や、やめろ! はな、放せっ!」

 

 抱えられた姿勢のままでジタバタと抵抗を始めたヒューイ。しかし幾ら暴れようとも所詮は科学者、鍛え上げられた肉体を持つスネークをどうこうする事は出来ない。それでも勝手に動かれてはバランスを取り辛い、あくまでも優しく……しかし強く締め付けてその動きを止めた。

 かなりの痛みを感じているのだろう、抵抗は弱まった。それでも尚、震える声で静止を求めるヒューイの問い掛けを無視して、重い足取りでポッドへと近づく。

 

『ハッチを開き、中を確かめなさい』

 

 その言葉に、より一層の抵抗を始めたヒューイを冷たく見下ろす。よほどこの“中”を見られたくないのだろうが、その抵抗は逆効果だった。

 本来は確認する気の無かったスネークの考えが変わる、ふつふつと湧いてきた興味に突き動かされヒューイをその場に降ろした。一連の騒ぎを聴いていたミラーもまた、その“中身”への強い興味を感じている。

 

『ボス、奴がこれ程までに動揺するものだ。確かめておいて損はないだろう』

「……」

 

 ミラーからの無線の声、それが最後の後押しとなりポッドの鎮座する階段へとスネークの脚を動かせた。近くでよく見ると様々な写真が張り付けられていたのに気付く、そのどれもが酷く懐かしさを感じさせーーーズキリとほんの少し左腕が痛んだ。

 僅かな取っ掛かりを頼りによじ登り固く閉ざされていたポッドのハッチを解放する、密封されていた空気が放出され……その匂いに顔を顰めた。

 毒ガスか? そう警戒して口や鼻を押さえながら中を覗いた。

 

「……」

『なんだ、何があるんだボス?』

「……遺体だ」

 

 ミラーの問い掛けにそれだけ答え中を検分する、毒ガスでは無かったが……その方がマシだったやも知れない。ポッドの中、そこには1つのーーーとても“誰であるか”判別する事さえ難しい程に変わり果てた遺体があった。

 だがスネークは直感する。

 この遺体が誰であるかを、他ならぬザ・ボスの言葉があったからこそ遺体の正体に気付いた。気付いてしまった。

 

 ハッチを丁寧に封鎖し、ポッドから跳び降りたスネークはヒューイが先程まで使用していたパソコン付近を探り目的の物を見付けだしてコードを打ち込み始める。

 端末と接続してから無線を起動し指示を出した。

 

「カズ、今からコイツをそっちへ送る。受け入れの準備と……それから花を用意しておいてくれ」

『花?』

「ああ、(オオアマナ)を……な」

 

 ポッドの中身、その正体をスネークは語る事はなかった。未だ得心いかないながらもミラーは命令通りに部下へと指示を始めた。D・D総司令と副司令の間で合意は為された、ポッドの飛翔能力を使用してMBへと移送する事は決定事項となる。

 だが、それに異を唱えようとして事更に大声でヒューイは叫ぶ。その言葉が途切れ途切れになっているのは、頭部の袋によって息がしにくい事だけが原因ではなかった。

 

「まっ、待ってくれ、スネーク! それを……“彼女”を、どうする気なんだっ!?」

「……回収する、それだけだ」

「やめろ、彼女を! くそっ、これ以上やるっていうなら、僕にも考え 『ちょっと! 開けなさい!』 が……っ、ぁ……ぁぁぁ」

 

『これは…………そうか、そういう事か。だが、これは……!』

 

 スネークへと食い下がり続けるヒューイの声を遮る様に、唐突に“とある”音声が再生された。聞き覚えのある声にミラーはほんの少しだけ記憶を辿り、直ぐにその正体に気付いた。そう、その声こそ遺体の正体ーーー9年前に姿を消し、1度だけアマンダの前に現れてから行方を晦ましていたストレンジラブ博士の声だった。

 ならばこそ、他ならぬ彼女の言葉だからこそ。

 

『ヒューイ! 開けて! ヒューイ! ……開けろ!』

 

 何よりも正しく、これこそが真実であると物語っていた。思わぬ方向からの追い討ちに酷く動揺を見せるヒューイ、その表情こそ窺えないものの……もはや第三者が客観的に状況を判断してすら完全な“黒”だ。

 このポッドの“遺体”は、ヒューイにより“閉じ込められ”死んでしまった“ストレンジラブ博士”なのだ。

 

 流れ続けるストレンジラブ博士の独白を、ワナワナと震え首を左右に振り続け否定しようとする。そんな醜態を晒すヒューイを一瞥する事すらせず黙々とキー入力は行われた、どういう意図があったか知らないがポッドは定期的に手入れされており何の異状も見当たらない。

 それが却って、このポッドの中身といい……ヒューイの精神的な異常さを感じさせた。

 

「違う………そう、そうさ」

 

 ブツブツと呻き声をあげていたヒューイの動きが不意に止まる。

 僅かな沈黙の後、まるでスイッチを切り替えた機械の如く気勢を高め自らの無実を証明せんと声を張り上げた。

 

「違うんだ、僕は何もしていない! 勘違いなんだ!」

「……」

「あいつがやったんだ、そう、スカルフェイス! あいつが僕と彼女に研究を強いて、それで逆らった彼女は閉じ込められたんだ!」

「……」

「彼女は僕に助けを求めたけど、僕が動く事は許されなかった。助けたかった、そうさ、そうなんだ! ああ、僕はなんて無力なんだ……!」

「……いい」

「チクショウ! 仇は僕が取るぞ、必ず。だからスネーク、僕をここから連れ出して 「もういい」 す、スネーク……?」

 

 MBへの座標を入力し終えたスネークは、起動装置を左腕で叩き付ける様に押し込むと共にヒューイの言葉を遮った。

 流石にこの場でポッドを飛ばしてしまうと周囲の兵士達に異変を悟られる、なので凡そ30分後に自動で飛び立つ様に手を加えてあるーーー入力した座標は破棄される、誰にも知られる事は無い。

 

「す、すね……ぅ…」

 

 気圧され、ヒューイは二の句が継げずにいた。

 沈黙した両者の間に不穏な空気が流れる。作業を終えたスネークが近付いてくる足音が妙に恐ろしく感じた。カツン、カツンと自分へと近寄ってくる足音と共に何かを取り出した音を確かに聞く。

 その正体に思い至り背筋にゾッとする様な寒気が走った。

 

「もう、いい。ヒューイ……お前の“言葉”には、なんの意味(価値)もない」

「あ、ああぁあ、うああっ?!」

 

 殺される。

 そう感じたヒューイはこの場から逃れようと足掻くものの、文字通りその“脚を引っ張っている”のが彼自らが歩く為に造り出した義足だというのだから皮肉な話だ。

 慌てふためきながら、しきりに言い訳を口にし続ける。その言葉に心動かされるものはいないにも関わらず。

 

「や、やめてくれ! 殺さないでくれ、ぼ、僕達は仲間じゃないか!? 話せば分かる、誤解なんだ! 信じてくれスネーク!」

「……勘違いするな」

 

 首元に銃身を押し付けられる。

 その金属特有の冷たさを感じ凍り付いた様に身体が硬直する、唯一動く股間からは熱い液体が滴り落ちた。

 

「お前には、そんな(殺される)価値すらない」

 

 

 

 

 

 18:サヘラントロプス

 

 

 

 既に陽は落ちていた。

 闇夜に紛れる様に建物から出て来たスネークは、その名の通り蛇の如く音も立てず滑らかな足取りでコンテナの裏側へと隠れ周囲を窺った。

 増員された警備兵達が持ち場に就く為に駆け足で移動している、この分ではあと幾ばくもしない内に異常に気づかれて騒ぎになってしまうだろう。中で余計な時間を取られ過ぎた、ここからは素早く事を済ませる必要がある。 

 

『エメリッヒだが、眠らせたのか?』

「煩くてかなわん、暫くコイツの声は聞きたくもない。それよりヘリだ。近くに降ろせるか」

『可能だが、戦闘ヘリに見付かるとマズイな。先に片付けてくれ』

「分かった」

 

 端末を開き現在地と戦闘ヘリの所在を確認する、ベースキャンプ内を哨戒するその予測進路は優秀な諜報班のお陰で分単位で詳らかにされていた。背負った男からイヤに生暖かい感触と独特の匂いがする、なるべく早くヘリと合流したい所だ。

 

 草むらの陰に邪魔な荷物(ヒューイ)を横たわせ、ダンボール配送でロケット砲一式を受領したスネークは闇夜に乗じ周囲の兵士達を手早く無力化させ終えると何も無い場所へ向けてロケット砲を構え座り込んだ。

 バババババと爆音を立てながら移動するヘリの音に耳を傾ける、周囲の異常に気づいた様子はない。ヘリの巡回ルート、その死角とも言える位置で待機していたスネークは時間ピッタリに現れたヘリへと容赦なく砲弾を叩き込んだ。

 敵パイロットが気付いた時にはもう遅い、強い衝撃で浮力と制御を失ったヘリは近くの岩壁に叩き付けられ大破した。邪魔者を片付けたスネークは、呑気に寝息を立て始めた荷物(ヒューイ)を抱え直しLZへと急ぐ。相棒と共に。

 

「DD!」

「ワンっ!」

 

 横を走るDDだが、何処となく距離を開けている様に思えた。犬の嗅覚は人の数千から数万倍とも言う、特に酸っぱい臭いに関してならば1億倍にすら至ると言う。ならばこそ彼らにとって小便は縄張りを示すマーキングとなっているのだ、例え人の小便とはいえ近くに居たくは無いのだろう。

 或いは単純に臭いかだが、それを確かめる術は無い。

 

『こちらピークォード、LZに到着。着陸します』

 

 直上でホバリングしているヘリが降着しようと姿勢を正す、その上には綺麗な夜空と星々の瞬きが広がっている。雲一つない美しい空だ。澄んだ空気といい、自然の美しさといい、ただ観光に来たのならば堪らない絶景だったろうと感じ入る。

 

(ん?)

 

 キラリ、と一際強い輝きを放つ星が目に付いた。

 何とはなしにその星のあった辺りを眺めているとパッ…パッ…と断続的に光が瞬く。それに違和感を覚えると同時、風を切る様な甲高い音を奏でながら黒鉄の物体が近くへと落下してきた。

 

『うわっ!』

 

 ヘリの真横に落下した物体の衝撃で陥没した粉塵が舞う、とてもではないがこの場に留まる事は出来ないと判断したピークォードが慌てて距離を取った。結果的にそれは正解だった。

 暗闇に目が慣れていたスネークだからこそ一早く気づけた、粉塵の向こう側に“何か”が居る事に。手早く拳銃を構えたスネークの前に……機械仕掛けの“巨人”が姿を現した。

 

『あれは? エメリッヒの開発したメタルギアなのか?!』

 

 オセロットの独白に、しかし答えを返す事の出来る男はスネークの肩で夢の世界に居る。激しく吠え威嚇を始めたDDだったが、全身は震え尻尾は力なく垂れ下がっていた。野生の本能が目の前の存在の強大さを悟っているのだろう、逃げ出さないだけ勇敢なものだ。

 巨人はゆっくりとした動作で立ち上がる。

 その動きの滑らかさは機械特有の硬さが何処にもなく“人間”の様な印象を受けた、まるで“人が中から”動かしているかの様に。包み込まれていた右手が開かれ、そこから現れた男ーーースカルフェイスの視線がスネークと交わり、ぐにゃりと表情が歪む。

 初めて邂逅した時と同じく、大仰な動作を持ってスカルフェイスは朗々と……熱に浮かされたように語り出した。

 

「紹介しよう、これこそがサヘラントロプス! その男(エメリッヒ)の作り出した兵器だ、ビッグボス。

お前達はここで死ぬ。この日! 兵器が直立歩行をした記念すべき日にな!」

 

 興奮した面持ちで語り上げたスカルフェイスは満足気にスネークを眺めた。念願の玩具が手に入った少年の様な純粋で、しかしドス黒い怨念で彩られた殺意と共に。

 

『何処が未完成だ、あいつ(ヒューイ)め……!』

「……スカルフェイス」

 

 その殺意を真っ向から受け止め、サヘラントロプスと呼称された巨人を見上げる。敵性戦闘ヘリがサヘラントロプスの周囲を旋回し、やがて静止する。そのタイミングに合わせて右掌に居たスカルフェイスを回収しようと扉が開かれた。

 そこに見た、奴らの姿を。

 9年前にMSFを襲撃し壊滅させた兵士達と同じ戦闘服に身を包んだ者達を、彼らに指示を出しこの場から離脱しようとしているスカルフェイスの姿をーーースネークの瞳は捉え続けていた。

 

 左腕が疼き出す。

 しかし痛みは感じない、それどころか不思議なことに全身から熱が込み上げ左腕へと集っていき失った筈の左腕の感覚が蘇った。それはまるで機械の左腕に血肉が通っていくかの如く劇的な変化だった。

 不思議な“高揚感”を覚え、しかしスネークはそれに頓着すること無く只ひたすらにスカルフェイスを見続けていた。

 その瞳の奥にーーー

 

「…………」

 

 ーーー激情を宿しながら。

 

 

 

「ようし、離脱しろ……いや待て! まさか、そんな……!?」

 

 それに最初に気付いたのはスカルフェイスだった。

 先程まで確かに全身に満ち溢れていた“高揚感”が失われた、慌ててサヘラントロプスへと視線を向けるとそこには案の定ーーー直立歩行を維持する事が出来ずガクガクと震えている巨人の姿があった。

 そこには先程まで確かに窺えた人間らしさは見受けられない。

 

「どうした、何故動かんサヘラントロプス!」

 

 唐突にぎこち無い動きを見せ、遂には片膝を着いた姿勢で機能停止したサヘラントロプス。その原因は“分かる”ものの“理由”の分からないスカルフェイスは酷く狼狽した。

 油断なく銃を構え動きを観察していたスネークも、何らかのマシントラブルが起きた事に気付く。放心気味だったミラーが慌てて声を張り上げた、戦おうなどとは全く考えもしなかった。

 

『何だか知らんが今がチャンスだ。ボス! ヘリに乗って離脱してくれ!』

 

 動きの止まったサヘラントロプスの肩に降り立ったスカルフェイスは怒声を浴びせ続ける、そんな事で機械が直るワケが無いというのに……そんな事も理解出来ないほど狼狽しているのか。それとも、そうやれば“動くと”でも言うのだろうかーーー。

 そんな取り留めのない考えに浸っている場合ではない、肩の荷物(ヒューイ)を抱え直して足元のDDへと声を掛ける。

 

「……こっちだDD、そうだ。撤退する、ピークォード! カバーを頼む!」

 

 グルルルルと威嚇を続けるDDを窘めヘリの下へと送り出し、斥候の役目を与える。未だ沈黙を保っているとはいえ何時あの巨人(サヘラントロプス)が動き出すか分からない、常に視界に捉え充分に警戒しながら後退を続けた。

 無防備な姿を晒すスカルフェイスへと銃撃したい所だが、隣でホバリングし続けるヘリ内部から兵士がロケット砲を構え牽制している今それは出来ない。彼らが撃たないのは偏にピークォードが同じ様に砲塔を向け牽制しているからだ、その膠着状態を破ってまで戦う事が最善だとはとても思えない。

 今は戦うべき時では無い、口惜しいが此処は逃げるのが正解だ。

 

「よし、離脱しろ! 全速力だ、飛ばせぇっ!」

 

 ヘリの傍らまで後退したスネークは邪魔な荷物(ヒューイ)をぞんざいに機内へと放り投げてからDDを乗り込ませると、慎重に警戒を続けながら自身も乗り込んだ。拳銃を仕舞い、備え付けてある機銃の1つを掴み巨人の肩部に居るであろうスカルフェイスへと視線を合わせる。

 その視線が奇しくも重なり合った。

 スカルフェイスもまた、去りゆくスネークをじっと見つめていたのだ。

 

「ーーーーーー」

 

 先程まで狼狽していた姿は鳴りを潜め、落ち着きを取り戻している。芝居掛かった仕草で帽子を脱ぐと、別れを惜しむかのように振り上げつつ何事かを呟いた。

 彼我の距離は100m以上離れている、これだけ離れていてはどれだけ大声でもそれ以上の轟音を放つローター音でかき消され声が届く事など有り得ない。

 にも関わらずだ、確かにスネークには聴こえた。

 

  また会おう ボス

 

 確かに、そう聴こえた。

 気の所為ではない、あれは確かにスカルフェイスの声だったと確信できる……それよりも、それ以上に不可解だったのはその声のした“距離”なのだ。

 

『警戒エリアを抜けた。目標は達成した、そのまま帰投してくれ』

「……ああ」

 

 確かに聴こえたのだ、奴の声が。

 そう、まるで……“隣”に居るかの様に。その事に疑問を持っていたからスネークは暫く気付く事がなかった、左腕の感覚と高揚感がいつの間にか“消えて”いる事に。

 

 

 

「そうか……なるほどな」

 

 この場にいなかったミラーはおろか、操縦に意識が集中していたピークォードも、XOF隊員も、DDも、すぐ“真隣”に居たビッグボスすらも気付く事はなかった。フワフワと、幽鬼の如く空を浮かぶ少年の姿を……。

 その事に気付けば“理由”も自ずと説明が付く、スカルフェイスは去りゆくスネークの乗ったヘリを眺めながら忌々しげに口元を歪めた。

 

 それから暫くして、何事も無かったかの様に滑らかな動作でサヘラントロプスが立ち上がる。だが既に敵は遥か彼方へと逃げ去った後、折角のお披露目は無駄になってしまった。待機していたヘリを先に帰投させると、じっ……と己の横に浮かぶ少年の姿を眺める。

 空虚な少年、いや空虚にならなければ生きていられない少年の途方も無い力を“目覚めさせた”のが誰だったかを考えれば、今回の結末など初めから明らかだった。

 とんだ茶番を演じてしまったと、スカルフェイスは込み上げてくる笑いを押さえることが出来ないでいた。

 

「……くっ……くくっ……ハーハッハ!」

 

 こうまで“見せ付けられ”ては笑うしかない。

 所詮は裏方(パックアップ)に過ぎないお前が、本物(英雄)に敵う筈が無いのだと突き付けられたのだ。考えれば考えるほど納得するしかない、唯一最大の好機である9年前にビッグボスを殺せなかった時点で……いや、スネークイーター作戦をビッグボスが完遂した時点から互いの優劣は決まっていたのだ。

 

「くく、く」

 

 第三の子どもと呼ばれる少年。

 特殊な力場を生み出す事の出来るこの少年が手に入った事でサヘラントロプスは“完成”した。スカルフェイスの意思に応え手足の如く……いや、それ以上にサヘラントロプスは自由自在に動かせる様になった。

 これで鬱陶しいビッグボスと、邪魔になった科学者を同時に葬ることが出来ると思っていた。確信すらしていた。

 

 ところがだ。いざ目的であるビッグボスの前に立った時、ある“誤算”が起こった。彼がスカルフェイスを、XOF兵を、仲間の仇を目にしたその時に放った“感情”に共鳴した少年はスカルフェイスとサヘラントロプスの間を繋げていた“糸”を綻ばせた。

 操り糸を失ったサヘラントロプス(人形)が動く道理は無い、少年が居なければ所詮は未完成のガラクタに過ぎないのだから。もしサヘラントロプスの動作原理をビッグボスが知っていたら、あの場でスカルフェイスは殺されていただろう。

 

「私の意思(報復心)よりもお前の意思(報復心)が上回るか。流石だボス……あの男(ゼロ)が執着するワケだ」

 

 万難を廃して仕掛けたMSF壊滅作戦(海賊討伐)ですらその命に届く事はなく、9年という歳月を対価に今こうして目の前に立ちはだかっている。その兵力こそ未だ小さいが、世界中のPFは程度の差こそあれ潜在的にビッグボスのシンパだ。

 時が経つにつれ新しい組織(ダイアンモンド・ドッグズ)へと集い、その力は天井知らずに増していく事だろう。いずれはXOFのーーースカルフェイスの“真の目的”にまで辿り着くに違いない、蛇は秘かに忍びより獲物を仕留めるもの。

 狩人ではないスカルフェイスでは、殺しきれないのは道理だ。

 

「やはり君しかいない様だ……燃える男(復讐者)よ」

 

 サヘラントロプス近くの木の葉が揺れ、唐突に燃え上がり灰となった。大破して炎上していたヘリ表面の炎が意思を持ったかの様に一点へと集まり人型へと変貌する。噴き上がる熱量こそ、この燃える男の意思(憎しみ)の強さの証である。

 生者よりも死に近い者の意思の方が暗く、重い。その中間に位置する燃える男の意思が生者であるビッグボスを上回る事は“前回の戦い”で証明されている。

 

「奴への対処は全て君に任せよう。私はこれでも忙しい身でね……」

 

 サヘラントロプスの右腕が上がり、掌の上へとスカルフェイスを誘なう。そのまま一気に跳躍し、ベースキャンプから姿を消した。

 ただ1人、残された燃える男はビッグボスの消えて行った方角を睨み付けていた。

 

「ーーーーーーーー」

 

 そんな燃える男の見つめる先へと、1台のポッドが勢い良く飛翔して行く。事前に定められた時間となり誰も居ない建物から飛び出したポッドは、このままMBへと辿り着く事だろう。

 燃える男は手をゆっくりと掲げ、ポッドへと狙いを定め……やめた。

 

「ーーーーーー」

 

 アレはザ・ボス(報復の対象)では無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 SIDE OPS:同じ人を愛して

 

 

 

「こんな所にいたのか、探したぞ」

「……カズか、何の用だ」

 

 司令部プラットフォームの脚部、海にほど近い場所で釣り糸を垂らし葉巻を燻らせていたスネークの隣りにミラーもまた座り込んだ。

 肩に掲げていた袋からハンバーガーを取り出し、手渡す。

 

「実は、あんたが眠っていた間に飲食店を経営していてな。うちのイチオシ商品だ、是非味見してくれ」

「ほぅ」

 

 ムシャリムシャリと頬張る、そのまま一気に全て食べ尽くす。その頃合いを待って手渡されたドリンクで口の中のものを胃へと押し込んだ。

 

「……レーションよりはマシだな」

「手厳しいな」

 

 そんなに悪くないと思うんだがな……そう呟きながらモリモリと咀嚼し、付け合せのしなびたポテトと一緒にコークで飲み干す。

 暫く無言で食べ進めるミラー、スネークは新しい葉巻に火を点けボンヤリと反応の無い竿を眺めていた。

 

 食べ終えたミラーは片腕で器用にゴミを纏めて肩に掛け立ち上がり、背を向ける。そして今回の“本当の”要件を語った。

 

「……ストレンジラブ博士の葬儀の準備が整ったが、本当にいいのか?」

「ああ」

「見送らないのか?」

「俺が? まさか。彼女も拒否する筈だ、俺達はそれ程親しい関係では無かった」

「ならば、何故?」

「…………」

 

 押し黙ったスネーク、その態度と雰囲気で語る気は無いと判断したミラーはハンバーガーの改善点を考えてくれとだけ言い残し去って行った。

 ヒューイと共謀しMSF壊滅に関与した疑いのある彼女だが、死人に口なし。死者を冒涜しようとまで考える者は居なかった。

 

 彼女ーーーストレンジラブ博士の遺体を収納した棺桶は丁寧に防腐処理を施し、研究開発班にあるポッドの近くへと安置される事となる。

 今はまだ、そうしておくしか無い。

 余裕が出来てから“彼の地”へと、ポッドごと運び埋葬する。それまでは“彼女”の近くで、剥き出しの遺体ではなく人として尊厳のある姿で眠らせておきたかった。

 

 何故そんな事をするのか。

 言えるものか、同じ人を愛した仲だから……などと。

 

「……ふぅ。さて、そろそろヒューイの尋問も終わった頃だろう」

 

 僅かに釣り上げた魚の入ったクーラーボックスを抱えて上層部への道を登る。足を運ぶと思っていなかったミラーには悪いことをしたなと、急勾配の階段を登りながら心中で謝罪する。気を遣わせてしまったらしい。

 戻ったら直ぐに作戦の検討、それから……ハンバーガーは素材から選び直せと告げる事に決めた。

 

 

 

 

 

 SIDE OPS:ビッグボスのミーム

 

 

 

「いいだろう、これ?」

「おい、マジかよ。ニューモデルじゃねえか、何処で手に入れた!?」

「へへっ、前の遠征任務の勲章代わりにな」

 

 ビッグボスの伝説に惹かれ集まった者達は、本物を目の当たりにし自然と彼の生き様に倣う。それは戦場に対する心構えであったり、戦技であったり、人となりであったり様々な部分をだ。

 そんな彼らだからこそ、こうして自分の持つ特別な品を自慢する事が“ステイタス”となっていた。

 

「くっ、ボスの使っている段ボール箱のレプリカが貰えるなんて! 羨ましい」

「へへっ。やっぱさ、良いモノを使ってると潜入の歯応えが違うぜ」

 

 きっちりと折り目正しく成形された段ボール箱は、そこらのモノと比べるべくもない程に逸脱していた。加えて扱う兵士の技量も高レベルだ、伊達に1日3時間の自主練習を行っているのではない。

 そうして勝ち誇る男の前に、新しい男が颯爽と現れる。無論、段ボール箱を持参して。

 

「ふん……確かに良いモノ使ってる様だが、俺の段ボール箱に比べたらちいっとばかし劣るかな」

「んなっ?! そ、それはウワサの……!!」

「すげぇ、マジで存在してたんだな!」 

 

 ニヤリと男が見せ付けた段ボール箱こそ、かのスネークイーター作戦に於いて初めてスネークに使用された由緒正しい段ボール箱のレプリカ品である。

 旧MSF時代から熱狂的なビッグボス信者であったこの男は、実に9年以上もこの段ボール箱を扱って来た。

 

「確かにボスの使用された最新段ボール箱は銘品だ、その機能性の高さは元より洗練された佇まいには溜息を零すしかねぇ。かくいう俺も受領した日にゃ一日中眺めたもんさ。

だがな、こうして愛着を持って使い続けることも大切なんだぜ……お前さんにゃまだ“真心”がたりてねぇや」

 

 瞬間、まるで雷に打たれたようにくずおれた兵士。段ボール箱は傷付けないように丁寧に退かしてからくずおれている、安心して欲しい。

 

「くっ! お、おれは自分が恥ずかしい!」

 

 そんな彼の肩をポン、と叩いて顔を上げさせる。

 

「いいのさ、分かれば。新しい段ボール箱があればつい被りたくなるもの、そう……使命感に似たものがあるもんなぁ」

 

 立ち上がった彼らは各々の段ボール箱を被り完全に風景に溶け込むと、ニョキっと脚だけを出して立ち上がった。

 

「んじゃそろそろ交代の時間だ、俺は先に行くぜぇ」

「頑張れよ」

「終わったら一緒に段ボール箱磨こうぜ!」

 

 トットット、膝を曲げなければ構造的に段ボール箱を被れない為必然的に移動スピードは落ちる事となる。最新モデルでなく初期モデルを使用しているなら尚更だ、にも関わらず彼の動きは素早く見事な物だった。

 

「俺達も負けてらんねぇな、今から一緒に訓練しないか?」

「いいね、段ボール箱魂に火が点いてたところだ!」

 

 タッタッタ、テッテッテ、スネークフォーメーションで移動を始めた2つの段ボール箱。そんな彼らの勇姿を見送り、今まで完璧に風景へと溶け込んでいた段ボール箱からオセロットが姿を見せた。

 

「フン、情けない姿を見せるなら指導してやる所だったがーーーなかなかどうして、気持ちのいい奴らだった」

 

 だが自分に気付けない様ではまだまだだなと、口元を緩ませながら悪態を吐きその場を後にする。

 その姿を見送り、更に完璧に風景へと溶け込んでいたスネークが段ボール箱から立ち上がった。

 

 

 

 




 今回の文字数は2万文字強です。
 ちょっと長めですね、でも個人的には月一ならこのぐらいの量は読みたいと思うのですが如何です?
 まあ今回は詰め込みすぎただけなので要反省ですが、久々に更新されたと喜んで読みに行った時にスクロールバーの太さに泣くよりはいいかな、って。



 話の要点


・スネークの体調
 特に引っ掛けもなく問題はありません、深読みされませんように。とても50代の動きではありませんからね。


・幻肢痛
 決してスネークが表に出そうとしない“感情”の高まりに反応して現れました。
 今後も、何かしら感情が強く揺さぶられたりした時に現れます。


・ヒューイ
 感想欄で色々と説があると指摘されました、全部知ってます。その上で今作ではガチクズ野郎として描写します、まともなのは僕だけか? ボートを用意しろ。


・ポッド(ザ・ボス)
 本物のビッグボスによる違い、此処で中身をバラした事で只でさえ少なかったヒューイの信用がゼロに。まだ下り坂の一番上。


・サヘラントロプスと第三の子ども
 スネークの目覚めに呼応して覚醒したのだから、そりゃスネークの意思に反応するでしょうよという話。これによりスカルフェイスは単身でスネークに手を出せなくなりました、その分原作より燃える男の能力値が上昇しています。


・左腕の感覚の一時的復活
 これはサヘラントロプスを動かす原理と同じ、超能力ブーストによって義手の感覚が本物を超えたという証。露骨な伏線。
 尚、燃える男の前でこの状態にはならない(なれない)模様。


・燃える男
 虎視眈々と強化フラグを積み重ねています。そりゃね、本物が相手だものね。


・ストレンジラブ博士
 キチンと葬ってあげました。



 今回は結局、この3日ぐらいで誤字脱字の修正と合わせ倍ほど書き足してしまいました。毎日こまめに書くことの大切さを実感しましたが、恐らく次も月末で限界ギリギリでしょう。
では、またの更新をお待ちください。


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