メタルギアソリッドV -THE NAKED-   作:すらららん

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思ったより時間かかってやんの、本当は3日ぐらいで書き上がると思ってたのに。
というワケで今回からアフリカ編、第二章のスタートでもあります。





第二章 抑止
予兆


 高度飛行中のヘリ内部。

 長らく降り続けていた雨足もようやく弱まりだした、幾ばくもしない内に晴れる事だろう。尤も、ミラーから手渡されたカセットテープを再生しながら現地への到着を待つスネークには天候など大した興味はない。

 その脳裏には数日前、MBでの一幕が鮮明に蘇っていた。

 

 

 

「調子はどうだ」

 

 ヒューイの回収は極秘裏に行われた。

 その事実を知る者は当時を知らない極一部の者達に限られ箝口令も敷いてある。とはいえ人の口に戸は立てられない、その相手が“仲間の仇”となれば尚更だ。

 何時まで隠し通せるかは分からないが、近い将来彼の存在と共に“真実”が詳らかにされるのは間違いない。それからどういう“処罰”が科されるかは……鋭意“事情聴取中”のオセロットの結果次第である。

 

「いや、難航している。自白剤が効かない……代謝酵素を増やす様な手術をしているのか、それとも……特殊な遺伝子治療(ジーンセラピー)を受けているのか」

 

 待機室でオセロットとヒューイの“語らい”を眺めていたミラーはそう答えた。

 葉巻を燻らせながら同じ様に2人の姿を眺める、耳元で何事かを呟く度にヒューイの身体が跳ねた。手を縛られ義足の電源は切られ身動きの取れない彼に抵抗する術はない、恐々とこれから行われる“拷問”について想像しているのだろう。

 

「あいつは何と」

「6時間前から変わらない、9年前 核査察が偽物とは知らなかった。そのあとはサイファーに研究を強いられていた……ストレンジラブ博士と共に」

「なぜ研究仲間である博士を殺害した?」

「いや、それについては未だ否認している。あれだけ確かな証拠を突きつけられての上でだーーー呆れて物も言えん」

 

 ポッドからサルベージされた様々な記録、ストレンジラブ博士の件以外にも多種多様な記録。それらとヒューイの証言を照らし合わせるものの数え切れない程の矛盾が生まれていた。返答に詰まる度にコロコロと証言を変え、それを指摘する度にあっさりと話を翻す。一貫性がまるで無い。

 さしものオセロットをして難物と評す他なかった。

 

 そしてヒューイの発言に一貫性が無いという事は、彼の証言を肯定する事も……否定する事も出来ないという事である。物的証拠は海の下だ、確かめ様がない。

 巨大なZEKEのサルベージすら不可能なのだ、無理もない。

 

「9年前の襲撃に関しての真偽は不明だ、証拠はない。クロだとは思うが……あとで聞いてくれ」

「証拠なしで裁判は出来ない、博士の件を考慮してもだ……しばらく様子を見よう」

 

 全ての供述を纏めたカセットテープを手渡し、外へ出ていこうとするミラーの背中に問い掛ける。その背中はどこか煤けて見える。

 本音を言えば今すぐにでも公開処刑を行いたい、その思いをギリギリで押さえていた。それは偏に失った者達の無念を心中に抱え込んでいるからだ。

 半端な真似は出来ない、全てを明らかにしてーーーそれから殺す。

 

「……部屋から出さず研究を続けさせる、奴の為だ。古いスタッフは奴を許さない、外に出せば命の保証はない。俺はそれでも構わんがな」

「今はよせ。今は、な」

 

 その対処がヒューイの為でない事は明白だったが、スネークも敢えて触れはしない。

 

「ボス」

 

 待機室にスネークの姿を見つけたオセロットは彼の下へ早足気味に近付く。無言で葉巻を手渡してくるスネークに軽く手を振り拒否し、入手したばかりの“情報”を語り始めた。

 

「奴は気になる事を話しました、アフガンでの研究が中止になった理由……資金が中部アフリカへと流れたからだ、と」

 

 セラク発電所内での諍い、その要因の1つ。

 研究に対し強い執着心を持っていたヒューイはその勧告に対し強く憤り、その裏側まで調べ尽くしていた。新しい研究をアフリカで行っている、と。相変わらず妙な所だけ強いバイタリティを発揮する男だ。

 

「アフリカ? 何の研究だ」

「エメリッヒも詳細までは知らされていないようで。だが、まともな事も言っていました。サヘラントロプスだけでは軍事における革命(R M A)にならない、アフリカで作られてるのはそれを完全にする……“メタルギアを超える兵器”だと」

 

 弾かれた様に振り向いたミラーの顔も、スネークの顔もまた驚愕に染まっていた。メタルギアの兵器としての有用性は高い、それは実際に相対し採用した事もある彼らにとっては周知の事実だ。その最新鋭であるサヘラントロプスで不十分とは、俄には信じ難い。

 

「つまり、既存の核兵器じゃないってことか」

 

 新機軸の核兵器か、はたまた別種の兵器か。

 今は何の手掛かりもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1:漆黒の空

 

 

 

 中部アフリカ アンゴラ・ザイール国境地帯

 上空7000m

 

 

 

『もうすぐ現地上空に到達します。ボス、準備はよろしいですか?』

 

 限界高度ギリギリまで上昇し水平飛行を保っているヘリ内部。振り返ったパイロットが見たのはダラリと横になりながら呑気に葉巻を吸っているスネークの姿だった。声自体は聴こえてはいるのだろう、手をゆっくりと振り上げるが起き上がる様子は欠片も見られない。

 同じく緊張も。

 

『スネーク、聴いたか? 準備してくれ』

「……フゥ」

 

 改めてミラーから指示が入る。

 モソモソと起き上がり葉巻の火を消してポケットに仕舞いこみ酸素マスクを装着する。漆黒に彩られたスーツを身に纏うその姿は完全に夜の闇に紛れていた。

 扉を開き入り込んできた風を全身に浴びる、雨上がりの空は一面澄み渡っており雲一つ存在しない。眼下に広がるアフリカの大地を眺めながら暗視装置を起動し、iDROIDをマスクの眼鏡部へ直結させ“空の道”を描き出す。

 目的地への最適な進路を投影する事により、夜間でも昼間と同じ様な感覚で降下することが可能となった。

 

『今回の任務はスカルフェイスへの手掛かりを掴む第1歩となる筈だ、頼むぞボス。鳥になってこい』

 

 自然に、身を任せる様に倒れ込む。

 

 ヘリから投げ出された身体は重力に引かれその速度を急激に増しながら落下を始めた。眼鏡部に次々と浮かんでは消えていく情報と光源増幅された視界を頼りに巧みにバランスを取りながら目的地へと微調整を行う。

 人の営みが消えて久しいアフリカの大地は夜にもなると黒々としており疎らにしか灯りが見えない、その中で一際煌々と輝いている地点を発見する。これが目的地であるンフィンダ油田、しかしバカ正直にそこへ降りてしまっては意味がない。

 

 高度300mを切りパラシュートを起動させ着地への最終シーケンスへと移る。

 ンフィンダ油田から南へ凡そ200m、小高い丘へと続く林へと接近し更に細かい微調整を行う。少しだけ拓かれた場所へと辿り着きパラシュートを脱着する、3m程の高さから舞い降りたスネークは両手を前に構えつつ片膝を曲げ上手く衝撃を逃がしながら着地した。

 役目を終えたパラシュートは機密保持の為に即座に燃ええ上がり一瞬で灰となる。ダンボール箱配送を応用した技術だ。

 

「…………」

 

 かなり前屈みの姿勢になりながら見事に着地を決めたスネークが頭を上げる、ゆっくりと立ち上がりマスクを脱ぎ捨てその素顔を晒した。

 

『上手くいったな、流石だボス』

「高々7000mからの降下だぞ、大袈裟だ」

『確かに通常のHALO降下よりは低いが、それでも肉体にかなりの影響は出る。その服はどうだ? 設計段階では問題なかったが』

 

 漆黒のスーツーー最新鋭のスニーキングスーツーーの実用試験の側面もあった今回の降下は、何一つ問題を起こすこと無く恙無く完了した。

 降下中にバックパックを紛失するなどのミスも犯していない。ポケットに入れていた葉巻もだ、もちろん降り立って直ぐに火を点けている。 

 

「完璧だ、全く風の影響を受けなかった。いつ配備する?」

『早くて1ヶ月先といった所か、それ以降はこのスニーキングスーツが俺達D・D戦闘服のスタンダードとなる。作戦目的に応じてカスタムする事もあるだろうがな、あんたも要望があれば遠慮なく言ってくれ』

「そうだな……葉巻入れを標準装備にしておけ。後は……予備の葉巻入れだ」

 

 軽口を交わしながらンフィンダ油田が見渡せる地形へと移動する。

 小高い丘を抜け崖の側でしゃがみ双眼鏡を取り出す、川に面した工場から流れる汚水の音と虫の鳴き声だけが響いている。警備をしているCFA達の使用する言語アフリカーンスはあまり得意ではなく、会話は上手く聞き取れないでいた。

 

『着いたな。そこがンフィンダ油田だ。今も続く原油の流出……下流に住む者達は飲み水の確保すらままならないでいる』

「ああ上空からも見えていた、随分と忙しなくやっている。不完全燃焼を起こした黒煙が夜でも判るほど立ち込めている、施設の処理能力を大きく超えて稼働させ続けている証拠だ」

『刹那的だな。これでは粗悪な石油にしかならんだろう、商売のイロハというものを知らん』

 

 煙突から黒煙を吐き出し続けながら稼働し続けているンフィンダ油田は、オーナーであるSANRがその操業を停止しする以前から度々原油流出の疑いで取り沙汰されていた。今回の不法占拠によりその疑いは全てCFAの与するUNITAに向けられる事だろう。

 ミラーは“きな臭い”と感じていたSANRという企業に対して更なる不信感を強めていた。

 

「目標を確認した。正面からは……無理だな、仕方ない裏から回ろう」

 

 今回の依頼であるンフィンダ油田の機能停止。その為にやる事は2つ、送油ポンプを停止し油水分離タンクを破壊しなければならない。

 葉巻の火を念入りに消し左腕の着火機能を停止させる、純度が低いとはいえ油だ。用心するに越したことはない。

 

 

 

『C4か、無難だな。起爆する時は離れてからした方がいい。巻き込まれれば終わりだ』

 

 外周をエルードで移動して監視の目を潜り抜けタンクにC4を仕掛けたスネークは、そのまま裏口から下部へ降りて潜行を続ける。元々、施設への潜入を得意としているスネークにとってパイプや柱など様々な死角に遮蔽物があるこの施設内を動くのは遮蔽物の少ないアフガンよりも簡単な物だった。

 幾らCFAが米軍から横流しされた最新鋭の武装をしていようとも、敵を見つけられないのでは宝の持ち腐れでしかない。

 

 人が入れる程の大きさのパイプの中を通り施設北東部へ辿り着く、梯子を上り手早く物陰に隠れ警備の隙を窺う。送油ポンプの制御室付近は定期的に巡回されている、重要施設の警護を厚くするのは理に適っている。だが彼らはもう少しだけ慎重に・或いは職務に勤勉になるべきだった。

 同じルートを同じ時間かけて移動する、そこに一切の揺らぎがない。揺らぎがないということはタイミングを計りやすいことと同義であり、進入者を利する事に他ならなかったのだから。

 

 巡回を行うのは2組。

 3人1組からなる巡回は、1人ずつ後ろから羽交い締めにして意識を奪う事で簡単に始末できた。音もなく忍び寄り行われる犯行に気付く者は居らず、そのままもう1組も同様に始末する。たったこれだけで制御室へと近付く者達は居なくなった。

 制御室に入ったスネークは先ず逃走経路を確認する、都合よく大きな窓がありそこから階下へと降りる事が出来る。そこから出口まで兵士がいない事は確認済み、各自の持ち場を決して離れようとはしない。

 秩序が保たれている事はいい事だが、この場においては裏目に出ている。サボる兵士が居た方がまだマシだったろう、もしかすれば進入者に気付けたかもしれない。

 

「停止した。少し様子を見る、セキュリティに細工が施されているかも知れん」

『ああ、だが見る限り問題は……あれは?』

 

 ポンプを停止した事により水の流れが止まる、それを確かめていた2人の目に“何か”が留まった。今まで水の底に押し込められていた“物体”が浮かび上がったのだ。廃油に塗れ黒ずんでいるものの、それが何であるかは一目瞭然だった。

 一面に浮かんだ物の正体……それは大量の死体。それも尋常の死体ではない、死体は皆一様に胸部が“異様に膨れて”いた。

 

「カズ、これは一体」

『分からん。何かの流行り病か……それとも。いや、今はそれよりもタンクの破壊を優先してくれ』

 

 確かに此処で悩んでいたところで何が解決する訳でもない、最後の仕上げに制御盤の配線を切断し基盤を破壊して窓から脱出する。そのまま出口へと大胆に走り抜けながらC4の起爆スイッチを押した、爆発音と共に衝撃波が空気を揺らしスネークの身体を突き抜ける。

 そのままヘリとの合流地点へと向かおうとしていたスネークだったが、前方から接近する人影に気付き間一髪草むらの中へと身を隠す事に成功。ガシンガシンとけたたましい音を立てながら“二足歩行兵器”に乗り込んだCFAの兵士達がンフィンダ油田へと走っていく姿を見送り立ち上がる。

 

『危なかったなボス、もう少し遅ければ封鎖されていた』

『だが、何故ウォーカーギアがこんな所に?』

 

 危険地帯を越えた先で双眼鏡越しにウォーカーギアを観察する、それはアフガンのソ連軍ベースキャンプで確認した機体と同じだった。

 だがオセロットが疑問符を浮かべた通り、何故ウォーカーギアが此処にあると言うのだろうか。あれはソ連の、東側の兵器の筈だ。それが西側が支援をするCFAの下にある、開発者であるヒューイは『ソ連軍の為に作った兵器』だと明言しているのにだ。

 それが嘘でないと仮定するならば、この状況から推察するに……このンフィンダ油田にサイファーのーーースカルフェイスの関与を疑っていたミラーの考察に確かな一押しを与える事になる。

 

「……ふむ」

 

 しげしげとウォーカーギアを眺めていたスネークは、少し考え込んでから深く頷きミラーへと語り掛けた。

 

「……カズ、アレを回収してみるか」

『どういう意味だ?』

「なぁに、あいつも俺達の関心を引きたい頃合だ、アレをベースに何か作らせよう」

『奴の作ったものなぞ信用出来ん!』

 

 にべも無く否定するミラー、想定通りの反応だ。

 ならば想定通りの応えを返すまで、どれだけ感情的になりながらも“明確な利”があれば不満を押し殺せる男だという信頼があった。

 

「どうにかして自分の立場を良くしたいらしい。この前も恐るべき子供たち(聴いてもいないこと)についてベラベラと語ってくれた」

『見当違いも甚だしい話でした。だが先生にとっては災難な事に、私はアレで奴が“重要な真実”を隠していると確信した』

 

 MBに移送されてからヒューイは只ひたすらに己の無実を主張し続けた。ストレンジラブ博士の一件についても頑なに、些細な誤解だと、自分は仲間だと、つらつらと耳障りの良い言葉で同情を買おうと腐心しながら。

 そしてヒューイはスネークに、D・D総司令である彼を味方に抱き込めばいいのだと画策したのだ。或いは何の意図もない本能的な逃避行動かも知れない。

 前者よりも後者の方が始末に負えない。もしそうだとするならば、ヒューイはその時々に応じて強者に媚び諂い生きる正真正銘のクズと言う事になるからだ。

 

 さて、彼の心中の真実は彼の罪過と同じく不明として。スネークに阿り、慈悲を請う為に彼の頭脳は活発化し記憶の中から見つけだした“スネークが興味を持つであろう事柄”について熱心に語った。

 その内容は此処に特筆することでは無い。

 ただヒューイにとって誤算が2つあった。

 

 1つは、確かにサイファーに関する事実ではあっが、残念なことにスネークにとってそれは“既知の事実”でしかないという事。

 もう1つ、これが最悪だった。何故ならその話題こそがサイファー……ゼロとの“決別の理由”だったのだから。

 知らず知らずの内に虎の尾を踏みつけたに等しいヒューイは、その後オセロットと楽しくて眠れない一夜を過ごす事となった。

 

「あいつの人格はともかく能力の高さは否定出来んぞ、まあ誰かの受け売りだがな。奴に作らせた物をウチの開発班に解析させてノウハウを奪え」

『確かに、鞭ばかりでは態度も口も硬くなるばかり。飴を与えて出方を窺う、俺は賛成だミラー』

『……分かった。俺達の為に、せいぜい働いてもらうとしよう』

 

 既に侵入者であるスネークは居ない。

 にも関わらず、何処にも存在しない侵入者を逃さない様に警戒し背中を晒しているCFA兵に近づきながらスタングレネードのピンを抜く。

 コロコロと転がってきた何かが手榴弾である事に青ざめ叫び声を上げ、彼らの意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 2:影を追う

 

 

 

 ンフィンダ油田での任務から約10日。

 その間、警備を担当していたCFAの内ゲバから端を発した任務においてイギリス人の“子爵”と呼ばれる男と現地の共通語であるアフリカーンスの同時通訳者を回収する事に成功。子爵の情報から現地PF間でウォーカーギアの購入が盛んに行われだした事を聞き出し、その裏で動くサイファーの“影”を確かに感じ取ることが出来た。

 だがその“目的”はまるで見当が付かない。

 

 ウォーカーギアは将来的に核兵器を使用する為のモジュールとしての側面を持つ、即ち核抑止力。小さな最終兵器。PFはMSFの……ビッグボスの組織の模倣として誕生した。だが、誰も彼もが核兵器を用いる世界になれば血気に逸った“誰か”が間違いなく核を撃つ、そうなれば報復の連鎖により世界は終焉を迎えるだろう。

 そんなものがサイファーの計画……いやスカルフェイスの目的とは思えない。

 未だ核心には程遠い場所にいるという事だ。

 ならば迫る必要がある、こちらから。

 

 

 

『これはアンゴラ解放人民運動(M P L A)からの依頼だ。ディタディ村落跡のウォーカーギアを排除する事で奴らは供給元へ接触を図るだろう。供給元……サイファーに迫るチャンスだ』

「そりゃいいが、何だコイツは」

「グルルル……バウバウッ! バウ!」

 

 作戦地域へと到着したスネークとDDの前に1台の二足歩行兵器(ウォーカーギア)らしきものが鎮座していた。形にこそ見覚えあるものの、何処かマヌケさを思わせる妙な頭部パーツには全く心当たりがない。

 DDが露骨に敵意を見せ唸る、機体に付着している“匂い”に反応しているのだろう。万が一(エメリッヒ)が脱走した時の為に匂いを覚えさせていたのだ。

 

『そいつはエメリッヒの製作した兵器だ。奴は確か……D-Walkerとか名付けていた。ふん、随分と媚びた名だ』

『だが性能は申し分ない。ボス、私が試乗しましたがウォーカーギアの弱点である足廻りが改善されており操縦性も向上しています。どうやら自分の作品を別の科学者に弄られたのがプライドに障ったらしい、寝る間も惜しんで仕上げていました』

 

 端末に転送されたカタログを読む、ものの1分もしない内に粗方の操作法を覚えたスネークが乗り込み起動させる。暫くその場で動かし身体に慣らしていく、確かにオセロットの評価に間違いはなかった。

 馬よりもパワフルに、軍事車輌よりも頑強に、人の脚よりも軽快に悪路を走破する。静音性も高く潜入に極めて向いている、これで自動迎撃システムでも付いていたら百点満点といったところだ。

 

 武器オタクの気があるスネークにとってこのD-Walkerは非常に興味深い物へと仕上がっていた。時間があればじっくりと自分好みにカスタマイズしたいと思う程には。

 

「グルル……ワン! クゥン…」

「なんだ、おいDD。よせ」

 

 新しい玩具に夢中なスネークの背中に飛び乗りDDがぺろぺろと舐め始める。止めようとしても離れようとしないDDにスネークもその理由に感づき、D-Walkerから降りて頭を撫で回した。

 構って貰えたDDは勢い良く尻尾を振り、気持ちよさそうに声を潤ませる。

 

「安心しろDD、俺の相棒はお前だ。こいつは道具に過ぎん、故あれば使い捨てる程度の、な。お前さんとは違うよ」

「ワンッ!! ヘッヘ……」

 

 暫くスネークの近くをグルグルと周り、離れるとD-Walkerに向かって歩き脚元に小便をかけマーキングする。どうやらスネークの言葉の意味を正しく理解しているようだ、オセロットの調教能力に戦慄すら覚え始めたスネークだった。

 

 

 

 この地域はかなり雨が降る。

 濡れてぬかるんだ土の上を歩くのは意外と体力を消耗し脚も取られる、それは鍛え上げられた肉体を持つ軍人と言えども変わらない。その点このD-Walkerは素晴らしい、中腰の態勢を取らなければ操縦出来ない欠点があるもののそれを差し引いて余りある程に快適な移動を使用者へと提供していた。

 ディタディ村落跡の中央、天に向かって突出した岩山の裏側へと大きく回り込み停止させる。村周辺に視線を遮るものは無かったので既に敵兵の配置は確認済みだ、迷う事なく岩山をかけ登り頂上で無線を起動させる。

 

「ウォーカーギアを発見した、数は4。間違いないか?」

『ええボス。それがそこのPFの所持数です』

 

 オセロットからの報告を聞きながら見張りの兵士の後ろへと飛び降りる、その音に気付き振り向いた兵士に左腕を叩き付け昏倒させる。せめて乗り込んで哨戒していればいいものの、恐らくは燃料代の節約の為に普段は使用していないのだろう。

 こういう所に金を使わないから結果的にこんな災難に遭うのだ、まあスネークに目を付けられた以上は完全警戒態勢であろうとも不充分なのだが。 

 

『その岩は現地の者には精霊のゆりかごと呼ばれています、自然の作り出した独特な地形。そこから生まれた精霊が大地に広がる……と信じられています』

「精霊信仰の一種か。そういったモノの多くは眉唾物だが、そうは言っても自然の力(ジ・エンド)とは侮れないと痛い程知っている。俺も祈っておこう」

『ゆりかごの上でウォーカーギアを爆破させる男のセリフとは思えませんね。子に被害が及べば母の怒りを買う、嵐が来るやも知れません』

「そうならないよう祈っておこう」

 

 捕縛されてた捕虜達もついでに回収し、D-Walkerに乗り込んでディタディ村落跡から充分に距離を置く。同じ距離を必死に走って付いて来たDDを労ってからお手をさせ起爆させる。

 岩の中腹辺りが光り煙が上がる、遅れてやってきた小さな爆発音にDDが耳をピクピクと反応していた。

 

「……よし、破壊した。カズ、後は任せた」

 

 返答を聞かずその場を走り去る。

 その鮮やかな仕事ぶりを近くで眺めていた諜報班の人間がヒュー! と口笛を吹き興奮しながら隣の人物へと話し掛けた。

 

「やはりボスは凄いな。あれが伝説の傭兵……本物は噂とはまるで違う」

「ああ。噂以上だ、ボスの潜入を知っている俺達が時折見失う程だからな」

 

 興奮したやり取りを交わしながらも、手元の機材を操作する手は止まらない。各帯域の無線を傍受出来る様に計器を弄る、暗号解読表の載った書類の束に囲まれながら彼らは用心深く事に当たった。

 破壊工作から暫く、放たれた無線の内容を聴きーーー笑みを浮かべ互いの手を取り合った。

 

 

 

『ボス、思った通りだ。あんたがウォーカーギアを排除したことでディタディ村落跡からCFA本部へ補充依頼が飛んだ。そのCFAが接触したのはSANR……そう、ンフィンダ油田のオーナーのな』

「やはりSANRはサイファーの隠れ蓑だった」

『そうなる。補充自体は後回しになったが、ノヴァ・ブラガ空港跡から輸送されることもわかった』

 

 ウォーカーギアの一件からサイファーへの手掛かりを見出したミラーは、各国の諜報班から腕利きの者をアフリカへと集結させPFの物流網を追う事とした。

 それほど間を置かずその流れの一部が浮かび上がる。定期的にサバンナ(草原)を往復している輸送隊(キャラバン)だ、表向きの事業内容からすれば異常とも言えるレベルの護衛(装甲車)が付くほどの“荷物”の中身とは何か。

 

 採掘した資源の上納にしては警備の度が過ぎている、その中身を確かめる為スネークは輸送隊を待ち伏せし襲撃、回収する事を選んだ。ノヴァ・ブラガ空港跡より西方の崖上でキャンプを続け張り込み続ける中でふと、空気が変わり始めた気配を確かに感じた。

 空気とは言っても、天候の事ではない。肌に纏わりつく風や匂いに、言い表し様のない不気味さを感じたのだ。

 

「……来たぞ」

 

 やがてノヴァ・ブラガ空港跡へ何台ものトラックが姿を見せた。その荷台は硬く閉ざされ外部から中を窺えないが、諜報班から殆どのトラックがダミー()であると伝えられているスネークに焦りは無かった。

 大量のダミーを用いてまで運んだ大事な荷物は、此処から先装甲車での厳重な護衛にエスコートさせるという訳だ。数多くの戦車や戦闘ヘリを相手取ってきたスネークとてトラックを確保しながら装甲車と正面切って戦おう等とはとても思わない。

 やるなら今しかない、まだ装甲車が到着していない今しか。

 

『ボス、雨だ』

「こんな時にか、精霊の恨みを買ってしまったかな」

 

 何時しか空はどんよりと曇り嵐の兆候すら窺わせていた。雲の形が揺らぎ、雨となり地上へと降り注ぐ。打ち付ける雨粒が弾ける度に、不吉な予感をヒシヒシと肌に感じる。まるでこれから先に何か“得体の知れない”モノが現れると、そう空に告げられている様で。

 

 そんな不安を感じながらもスネークは輸送隊の待機している倉庫へと向かって1歩を踏み出した。それと同時に雷が鳴り、周囲を眩く照らす。

 雷の光によって生まれた影がノヴァ・ブラガ空港跡の建造物に阻まれ歪みスネークの全身を覆い尽くす様な形へと変わった。

 その影の形は、何の偶然か……まるで“髑髏”の様に歪んでいた。

 

 

 

 

 

 3:売国の車列

 

 

 ダイアモンド・ドックズ(D・D)は瞬く間にその名を広め勢力を拡大していた、その速さはPFの常識から大きく逸脱したものだった。PFとは砕けて言えば傭兵集団。金を貰い、それを対価に働く。だがどれだけ破格の報酬を提示されたとしても、命を懸けてまで請け負う者は僅かだろう。

 当然だ、誰だって自分の命が一番大事なのだから。戦闘は金を稼ぎ生きる為の手段でしかない。死を覚悟して戦う事、戦いの果てに死ぬ事を由とはしない。出来ない。

 

 それが所詮はMSFの真似事でしかないPFの限界だった。

 

 (……何かがマズイ)

 

 通信室で作戦地域に展開中の諜報班から報告を受取りつつ、片手間でハンバーガーを貪りながらミラーは心中でそう呟く。ボスの尽力により食糧事情が改善されてからというもの、自作ハンバーガーの味に如何ともし難い不満を覚えるようになった。

 だが今は、そんな事に気を払っている場合ではない。

 

 諜報班から上がってくる情報は数日前から変わらない、彼らの情報により積荷を輸送するトラックの大凡の位置が割り出されている。護衛部隊の動きも筒抜けだ、上手く事を運べばまんまと出し抜いて積荷ごとトラックを回収できるだろう。

 諜報班の練度は優秀、そこに疑いはない。

 ただ今回は、そんな彼らの能力を以てしても“あまりにも上手く”行き過ぎているように思えなくもない。酷く胸騒ぎがした。何か小さな事を見落としている様な……いや、逆に大き過ぎて気付けない様な、例えようのない違和感。

 失った腕と脚がじくじくと痛む。その痛みは常日頃感じている喪失感から来るものではなく何らかの警告の様だとミラーには思えてならなかった。

 

「……戦闘班、各自状況を報告しろ」

 

 今回のミッションを開始するにあたってミラーは輸送ルート全域に戦闘班を展開させた、これはCFAに対する牽制と同時に注意を逸らす意味合いを持つ。CFAとは既に一度ンフィンダ油田の件で小競り合いを起こしている、サイファーの影を探る為に不可欠な介入だったとはいえ外部から突如参入してきた新興のPFに恥をかかされたCFA側としてはたまらない。

 躍起になってD・Dを目の敵にしているCFAの前で露骨に動きを見せるだけで、彼らの強い報復心が冷静な判断を損なわせ輸送隊へと傾ける筈の戦力さえも削り投入していた。

 

 各部隊長からの報告に目立った異常は見られない。目標は既にノヴァ・ブラガ空港跡へと到着し、護衛部隊の到着を待つばかり。既に作戦は進行中、潜入を開始したスネークのサポートをこなす為にも余計な事に気を回している余裕は無い。

 この機会を逃せば恐らく次はない、惜しむこと無く出せるだけの手札は出し尽くした。後は任せるしかない、伝説の男の手腕に。

 忠を捧げた男に。

 

 

 

 ノヴァ・ブラガ空港跡。

 跡と名が付く通り戦火に巻き込まれる事を恐れた現地民の手により打ち捨てられた場所だ、今ではCFAの縄張りを明確に示す象徴の一つとなっている。

 この地域で活動しているPFは主に3社、彼らはそれぞれ固有の縄張りを持ちその商圏は絶妙に重なっていない。互いに商売敵であるが絶対敵ではない、上手く住み分け出来ている以上そこに“商売”が絡まなければ争う必要は無いのだ。

 ある種の紳士協定とも呼ぶべきその関係性はつまり、故あらば“協力”する可能性も示唆している。

 

 CFAの勢力下である筈のノヴァ・ブラガ空港跡には今ZRSまでもが駐留していた。

 零細PFならまだしも、CFAやZRSなどの大手PFを二社雇うのは普通では考えられない。端的に言って“割に合わない”からだ。PFを雇うには金が掛かる、その度合いは目的によってマチマチだが少なくとも個人が簡単に払えるほど安くはない。

 特にこの周辺ではPFを雇い入れる為に鉱山などの利権すら売り払わなければならない程金策に喘いでいる、一社雇うだけでもかなりの負担だ。それでも“割に合う”のならば二社を雇い入れる事も考えられなくはないが、こと今回に限ればーーーそれは当て嵌らない。

 

「ーーーた、助けてくれ。本当だ、もう知らない……っ! ぐ、はぉ……」

 

 最後の抵抗とばかりに手足をバタバタと動かすものの、やがてグッタリと倒れ込んだ男。手早く後ろ手に紐を使って縛り上げ猿轡を咬ませてから部屋の片隅へと放り投げる。3人ほど同じ様に尋問して吐かせた情報と諜報班が掴んでいた内容に差は無く、かなり信頼性は高まったと言える。

 今回の様な輸送は何度となく繰り返されているらしい。その時々に応じて台数の違いはあるものの、共通しているのはトラックの荷台に積載された“何か”を運ぶという事。

 あくまでも輸送の中継を担う彼らはその中身を知りはしなかったが、国内からの輸送である事と“採掘”されたものだという程度は見当が付いていた。

 そして、その“依頼者”の正体を誰も知らない。

 

『この周辺で採掘が出来、荷台ほどの大きさで採算がとれるものとなればーーーダイアモンドしかない。だが、その利権関係は政府側の管理下にあり移送ルートも各PF間で分散されている……二社に“依頼”してまで運ぶ必要性はない』

「密輸か?」

『その可能性も低い。これだけの利権が関わるとなると一PFの裁量では収まらん……それは酷く悪目立ちするし、PFの理念から離れ過ぎている。俺達と違い多くのPFは一定規模以上の戦力を保有しようとはしない』

「過ぎたチカラ(戦力)を持てばそれだけ身動が取り辛くなり、世界からの注目に晒される。嘗ての俺達(MSF)のように……」

『ああ、そうだ。その身を賭してサイファーの危険性を説いたビッグボス……あんたからの教えだとさ』

「何度聞いても阿呆らしいな」

 

 話しながらも手足は動く、雨で足音が消されている今スネークの存在を気取れる者などなく管制塔の直下まで危なげなく潜入を果たした。

 倉庫前に停車している輸送トラックと周辺の警備を確認する、事前情報通りCFAとZRSによる多重警護。滑走路側の警備は僅かだ、捨て置いて問題はないだろう、雨宿りの為に室内に避難している兵士が何人か見受けられ愚痴を零していた。

 

 この輸送任務に対する愚痴は僅かで、多くがンフィンダ油田に関しての話だった。復活した伝説の英雄、その組織の行く末について。

 

『どうやら連中あんたの事を捜しているらしいな。人気者じゃないかボス、何時もの様にサインでも渡してやったらどうだ?』

「何だそりゃ? 俺が最後(同意書)にサインしたのは20年前の事(スネークイーター作戦)だぞ」

『あんたにはあるじゃないか、取っておきのサイン(CQC)が。アレは強烈だ、あまりの感動(衝撃)に意識を無くすからな』

「ふはっ」

 

 双眼鏡で監視しながら軽口を続けていたスネークは、輸送トラックの後ろから姿を見せたDDを捉えて口元を綻ばせた。

 ピィーー! 口笛を吹き合図を出す、次の瞬間には改造ナイフを咥えたDDがトラックの荷台付近に佇んでいた兵士へと電撃を送り込んだ。

 声を出す暇もなく倒れた兵士の体から煙が立ち上るが命に別状はない、続け様に近くの兵士へと飛び掛ったDDが同じく電撃を叩き込んだ。3度、4度と繰り返し遂にはトラック周囲の警護が全滅する。

 

『流石はDD、いいセンスだ』

 

 オセロットが何処か得意気に呟く、残っているのは周囲を巡回している兵士だけであり接近するのは容易だ。フルトン回収してもいいし、そのまま乗り込んで危険域を離脱してもいい。

 周囲を警戒しながら迂回ルートを通って輸送トラックへと近付く、役目を果たし終えたDDが尻尾を振り回しじゃれ付いてくるのを宥めながら進んだ。

 作戦室の空気は何時しか弛緩していた、特にミラーなど作戦前に感じていた懸念が外れた事にホッとした様子でコークの最後の一滴を飲み干していた。ガリガリと氷を噛み砕きつつ、作戦の最終段階の確認を取るために無線を繋ぐ。

 

『よし。ボス、そのトラックごと荷台を回収してくれ。回収を確認した後、戦闘班に指示を出す。派手に目を引いて周囲の目を欺き、あんたの離脱を助ける手筈だ』

「ああ、了解。戻ったらDDにいい餌をやってくれ、今回の殊勲ーーーいや、待て」

 

 あと10m程度の場所まで辿り着いたスネークは其処ではた、と止まった。無人の筈の輸送トラック、その荷台がガタガタと動き“何か”が飛び出す。

 反射的に身を隠したスネークの眼前、特殊な兵装に身を包んだ霧の部隊(スカルズ)がその姿を現していた。

 

「スカルズか……」

『確定だな。やはりこの積荷は、サイファーと何らかの関わりがある。ボス、どうする? 奴らはまだあんたを見つけてはいない、今回の目的はあくまで輸送トラックの回収だ』

「……気付いたかカズ、今回なぜか奴らが現れるのに“霧”が出て来なかった。お前を襲った時、救出した時、スマセ砦。今まで一つも例外なく霧が出ていたのに、だ」

 

 そう言えば、と。

 作戦地域に霧が発生していない事に今更ながら気付いたミラーは、唸りながら疑問を浮かべる。

 

『確かに……あの霧は自然の物では無かった、奴らに何の意味や目的があるのか分からんが霧を作り出せる事は確かだ。なら何故、今回に限って霧を作らない?』

「さあな、検討も付かん。だが1つ、確かめる方法がある」

『それは……?』

「奴らを捕獲する、そうすれば何か分かる筈だ」

 

 本気か!?

 そう叫ぶミラーの声に応える事なくスネークはその姿を晒した。トラックの四方を固める様に警戒していたスカルズ達はスネークの姿を捉えると共に大きく跳躍し距離を開け何処からともなく取り出した銃を構え、その動きを止めた。

 

 基本的な身体能力の差を考慮し迎撃を選択したスネークもまた同じく動きを止める。

 臨戦態勢に入ったDDは唸り声をあげ、改造ナイフを牙でガッチリと挟んだ。対峙する両者、だがスネークの想定に反しスカルズは動かなかった。不気味な程の沈黙、その姿も相まり実体のない亡霊を幻視しているのかと下らない考えが脳裏に過ぎる。

 

「……どうした? 来ないのか」

 

 スネークを取り囲む様に散らばっているスカルズ達は、その手の銃を放つでもなく身動き一つ取らず只じっと狙いを定めるだけで微動だにしない。突撃銃を下ろし拳銃に持ち替える明からさまな隙を見せてもそれは変わらなかった。

 長期戦を覚悟したスネークは全身の力を適度に抜き自然体で出方を窺う。

 

『連中、どういうつもりだ。ボス、用心してくれ』

 

 無線機越しにしか状況を伺えないミラーもまた、現場に流れている空気を敏感に感じ取るものの、こと戦闘に関してスネークにアドバイスする事が出来る筈もなく、当たり障りのない注意を促すしか出来なかった。

 

 何故スカルズは動きを見せないのか?

 

 一分の隙も見当らない目標に対し攻めあぐねている?

 

 いや、そうではなかった。

 彼らは待っていたのだ、この戦いの始まりを告げる“合図”を。その為にサイファーはワザと“情報を漏らし”D・Dを、引いてはスネークをこの場に誘き出したのだから。

 

 

 

 それはいっそ呆気ない程簡単に決定した。

 

『したければ好きにしたまえ』

 

 それだけを告げ意識から自分の事を消した髑髏顔の男(スカルフェイス)を見送る、その姿が完全に見えなくなるまでじっと。期待されていないのだろう。キプロス島での一件からケチが付き始めたのを実感するばかりだ、キツく噛み締めた唇からは血が垂れていた。

 

「…………」

 

 ノヴァ・ブラガ空港跡から優に2キロは離れた崖の上、そこに1つの影が潜んでいた。

 大型の狙撃銃を構え備え付けてあるスコープにはツヤ消しされ反射を極限まで抑えられたレンズ、そのレンズ越しに状況を観察し続ける影はスカルズが姿を見せるよりも前から只1つの目標へと狙いを定め続けていた。

 その影の正体……“女”は黒い艶やかな髪を無造作に束ねているのが特徴的で、迷彩服に包まれた身体は長時間の雨に晒され冷え切っているのだろう、下半身が震えており顔色は青ざめている。

 だが、狙撃銃を構えている両腕に震えはなく、何よりその瞳には強い意思の火が灯っていた。

 

「…………」

 

 女の持つ狙撃銃は、また一段と特徴的だ。

 超長距離狙撃の為だけに加工された狙撃銃は取り回しや携帯性を完全に度外視した大振りな造りとなっており、女の身長や体格から見れば不釣り合いな得物に思えるがーーーその狙撃銃を構える姿は実に堂に入ったものだ。

 

「…………」

 

 “特殊”な措置を施されていないにも関わらず、こと狙撃に関してならばスカルズをも凌駕する能力を女は有していた。

 実際ノヴァ・ブラガ空港跡へと潜入してきた男を逸早く見付け、今の今まで死角に入られた時以外スコープから目標を逃したりはしなかった。急激な動作の変調にも対応し、何度となく必中の予感を覚えながら隙あらば作戦を変更してでも撃とうと狙い続けーーーしかし放つ事は叶わなかった。

 

 撃とうとしたのだ。

 その度に得体の知れない感覚に襲われて指が止まった。身体が、指が、経験が、必中と、必殺であると肯定しながら……狙撃手としての本能とでも言うべき“何か”が止めろと警鐘を鳴らし女を押し留めた。

 何の事は無い、その何かとは即ちーーー畏怖。

 呑まれてしまっていたのだ、その男が放つ気迫に。

 

 流石は伝説の男(ビッグボス)だと感心した。

 故に、だからこそ、必ず己の手で葬るとあの日(取り逃して)から誓っていた。

 男の意識は今までになく張り詰めていたが、その全てはスカルズへと向けられている。スカルズを前にして生き残り、ましてや返り討ちにするという図抜けた戦闘力を持つ男とはいえ、流石に片手間で行える程に容易では無い。

 それこそが狙いだった。

 その予想は正しく、あれだけ狂おしいまでに警鐘を鳴らし続けていた内なる感覚が今は凪いでいる。それどころか意識は澄み渡っていき、外れるという概念が存在しないのではと思う程に冴えていた。

 

「……さようなら、ボス」

 

 絶対の確信を以てスコープから、この日、初めて自主的に対象を外し虚空へと狙いを定めた。弾丸は重力・風力・推力……様々な要素が絡み合い曲射弾道を描く、その弾道を瞬時に計算した上での最適な解こそがこの角度。

 知覚外から放たれるこの弾丸は風雨の影響を受けた後、僅かに弾道を変えてーーービッグボスの頭部を貫く“コース”へと誘われる事だろう。

 

 着弾まで2秒にも満たない僅かな時間。

 亜音速に至る弾丸を躱すことなど“普通なら”出来よう筈もない。引鉄へと指を添え、今度こそ間髪入れず押し込んだ。

 

 

 

 結果を先にいえばスネークは避けた。

 

「…!」

 

 しかしそれは意識しての行動ではない、何せスネーク自身ですら弾丸が目の前を通過していった事に気付いてから初めて自分が避けていた事に気付いたのだ。

 普通なら無理だ。

 神がかり、奇跡としか言えない回避。

 その理由を理屈付けて語る事は出来ないだろう。それでも敢えて一つだけ理由を挙げるとするならばそれはーーー世界最高の狙撃手(ジ・エンド)との戦闘経験に他ならない。

 

 だから、そう。

 これを奇跡と呼ぶのならば、これこそが奇跡だと言うならば。これから起こる結末は、女の執念が生み出した必然だった。

 

「ーーーー!」

 

 大きく体勢を崩しながらも注意を向けていたスネークの眼は、スカルズ達の身体の表面にボコボコと生まれ始めた“岩のような何か”を捉えた。未知の能力を発揮したその瞬間、それが戦闘の合図だと確信しーー首筋を寒気が襲う。

 

 回避した筈の弾丸。

 必殺の弾丸。

 だがそれが“合図”にしか過ぎなかったとしたらどうだろうか? 十中八九は当たる筈だ、だが1つでも当たらない可能性が有るのなら対策を講じるのが当然だろう。当たればそれで良し、しかし躱されたとしても……寧ろ躱すことすら“想定されて”いた狙撃だったとしたら?

 その弾丸は“何”に対して放たれたのか。

 

 バッ!

 身体中に岩を纏ったスカルズ達が一斉に両腕を頭の前で組んで大きく腰を落とす。隙を晒す事を覚悟して振り返ったスネークの瞳に“ある物が”映り込み、反射的に駆け出した。

 

 ダメだーーー逃げきれん!

 

 逃走が不可能である事を悟ったスネークはやおら地面へと飛び込み身体を丸めながら義手である左腕を頭部へと被せる、対衝撃態勢を取ったもののそれがあまりに頼りない事に誰よりも彼自身が気付きながら。

 バチチッ! 雨音にかき消されそうな程に小さな“火花”の音が異様に大きく耳に届いた。そう、狙撃手の放った弾丸は初めから其処へと至る為に撃ち込まれていた。ノヴァ・ブラガ空港跡へ運び込まれる“通常”の荷物に紛れて何度となく、決して感づかれる事が無いように、念入りに、周到に。

 警備を担当しているCFAやZRSにすら報せず配置されていた“爆薬”へと、その弾丸は撃ち込まれていた。

 

 ゴッ!

 

『ボス、逃げーーーー!!』

『伏せーーーー!!』

 

 無線機越しに伝わる声が途絶え、眼前を炎が埋め尽くす。今や火薬庫と化したノヴァ・ブラガ空港跡は、CFAとZRS、スカルズとスネーク等を巻き込み爆心地と化す。

 

 

 

 爆発に巻き込まれる直前

 

 

 

 目の前に黒い影(DD)が跳躍した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 SIDE OPS:偽りを生きる

 

 

 

 一言で表すならば、充実。

 “彼”が目覚めてから今日まで、オセロットの心と肉体はそれまでの9年間とは較べるべくもなく充実したモノとなっていた。 

 あまりの機嫌の良さに鼻歌を口ずさみ、それにすら怯える目の前の“男の表情”を見るだけで更に上機嫌となる。事の真偽はどうあれ、この男がMSF崩壊ーーーついてはビッグボスの命の危機を生んだ一因である事に違いはない。そんなこの男に対して行う拷問は“そういう役割”をしていないにも関わらず心地よい。

 

「さて先生。昨日の続きと行こうか」

 

 配合を変えた自白剤を投与し、その効果が出て欲しいと願う気持ちとーーー効かなければ良いのにと願う気持ち、矛盾した感情を両立させながら様子を窺う。

 薬による反応は確かに見られた、だがどうにも……期待したほどの効能は見られない。

 

 この男が拷問に対する訓練を受けていないのは明白だ、拷問の名手として知られるオセロットは自分の能力に対し客観的に見て“超一級”の評価を付けている。

 そんな自分が見逃す程に高度な訓練を積んだ? 有り得ない、それだけの結果を生むにはこの男の精神はーーー未熟だ。

 

「あ、ああ……あ…………」

「今回は嗜好を変えてみた。どうだ先生、心地いいだろう? ああ、聴こえていないか。今頃は天国にいるだろうからな」

 

 自白剤の中に麻薬を混ぜたものを動脈に流した。

 何の面白みもなく顔を綻ばせ、あへあへと笑みを浮かべる男から離れパイプ椅子に腰掛ける。

 これでハッキリとした、この男は薬物に対する何らかの処置を行っている……だがその効力は小さく、寧ろ不十分。それなのにこの男から一向に真実を聞き出せない理由。

 

「……自分を偽る者から言葉を聞き出すのは難しい。都合の悪い真実よりも、都合のいい嘘の方が心地いいからな。

ふんっ、先生。あんたはそういう人間だーーー」

 

 真実を偽る。

 そう口にし、自嘲の笑みを浮かべる。目の前にいるどうしようもない男と“似たような”存在である自分自身の人生が重なり、同族嫌悪に近くて遠い複雑な感情が内心に渦巻いていた。

 

「……あと10分と言った所か、先生。さっさとそこからこっち(天国の外側)に戻って来い、現実にな」

 

 嘘偽りに塗れた人生。

 それを否定しない、目の前の男と何も変わらないと指摘されても否定の言葉が浮かばない程に。

 

 それでも、ただ一点。

 

 一点だけ決定的に違うという部分がオセロットと、ヒューイの立場をこうして隔てているのだ。

 

 それは己の保身に執心するヒューイには絶対に持ちえない事柄。

 

 忠を尽くす。

 

 それだけが2人の運命を分けていた。

 

 

 

 

 SIDE OPS:第二の

 

 

 

「よく来た。座れ」

 

 旧MSFの頃から在籍し、9年間をミラーと共に生き抜いた者達。その中でも選りすぐりのメンバーが極秘理に集められ、こうしてミラーの前に座っていた。

 

 メンバーの顔を見渡し、満足気に頷き1人1人に書類を手渡す。無言で読み進める内に明らかに顔色と表情が変わった、それは奇しくも……いや必然的に全員が同じものであった。

 

「アマンダの配下にいた者達が既に資材の確保の為に動いている、お前達は彼らと合流し“そこに書かれている通り”に命令を遂行してもらう。

その書類はこの場で廃棄する、全て頭に叩き込んでおけ。コチラの“カタが付く”まで完全に接触を断つ、質問は今のうちにしておけ」

 

 ミラーの指示に従い、決して薄くはない書類の内容を記憶する。記憶し終えた者から立ち上がりミラーの下へ書類と共に“部隊章”を返却し、敬礼したのち静かに退室する。パラパラと人が減っていき、僅かに30分ほどで0になった。

 その優秀さに感心しながら返却された“預かった”部隊章を懐に入れ、不要となった書類に火をつけ全てが灰となるまでその場で見届けた。

 

 完全に火が消え、書類の復元が限りなく不可能である事を確認した上で部屋を出ると海に向かって投げ捨てる。風に吹かれ散り散りとなって海に散った灰を回収する事など不可能だ。

 そこまで気を張り詰めていたミラーは、へリポートから飛び立っていく1台のヘリを見つけ敬礼をした。

 

「頼むぞ、お前達の働き次第で世界が変わる」

 

 長年苦楽を共にした戦友だからこそ信じて送り出す。

 彼らの行動が結果を見せるまで長い年月が必要となるだろう、それでも必ず彼らは遣り遂げる。その果てにこそ誕生するのだ、全ての戦士の理想郷(アウターヘブン)となる場所が。

 

「俺達の居場所は、其処だ」

 

 

 

 

 




 話の要点


・HALO降下
 MGS3冒頭のオマージュ、作者がMGSVで実装されるだろうと妄想していた出撃オプションの1つ。まさかヘリしか無いとは思わなんだ。


・建造物の潜入が得意
 MGS1・2の事、3の冒頭ザ・ボスのセリフより。
 実際のンフィンダ油田は初見だとかなり歯応えがあります、作者は5回ぐらい死んだ。


・D-Walker開発経緯の違い
 ガチク……ヒューイ懐柔作の1つ。
 これに気を良くさせバトルギアへと繋げる。


・ボスの噂
 語り継がれる内に脚色されていった伝説
 しかし本人を前にするとそんな三文小説で得たあらゆる事柄は無価値になり、忠を尽くす様になる


・髑髏の影
 露骨な次回への伏線
 果たしてスネークの前に立ちはだかるモノとはいったい?!


・第二の
 サイドオプスには珍しく本編とがっつり関係のある話、露骨な伏線その2



・D・Dと他PFの違い

 同じ様な組織でありながら、その本質はかけ離れている。


・謎の女

 抜群の狙撃センスを持つ謎の存在
 今のところ普通に喋る
 全身に火傷を負っていない
 身体能力は普通
 下着でうろつきはしない


・爆心地と化したノヴァ・ブラガ空港跡

 イメージとしては、本編より最初は綺麗だったがこの爆発によって本編以上のボロさになる


・黒い影

 演出としては以下の通り
 スネークに迫り来る爆発
 GZでパスが爆発する瞬間と重なる
 飛び出した影がヘリで自分を庇った男と重なる
 よせぇええええ!
 と叫びながら暗転

 ローディング...




次回はいつでしょうね、下手したら三月の終わりでしょうか。なるべくなら2月中にもう1回更新したいところ。
ではでは。


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