メタルギアソリッドV -THE NAKED-   作:すらららん

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エアコンがあると心が安らぎ、穏やかな気持ちになり、一万文字も苦もなく書けるのです(悟り
まあ正確には一万三千字ですけども

本来はもう終わってる予定の八月で半ばまでしか進んでいないというね、ううむ情けなや。
ではお読みください


※誤字報告を確かに頂いた筈なのですが、何故か消えてしまって確認できませんでした。
 申し訳ない。





因縁

 互いに身を寄せ合う少年達の懇願する視線に晒されるスネークは、しかし淡々と安全装置を解除し銃口を向けた。クッと僅かに引鉄に力を込め自動小銃から幾発もの弾丸が発たれ……弾倉が尽きる。

 弾薬を失った銃はその動作を終え静止する、再装填して油断なく見つめる先にはーーー息絶えた少年がいた。

 

 

 

 

 

 

 7:ダイアモンドの価値は

 

 

「なるほどタフだな。いいぞ……」

 

 椅子に座らされ手足を固定された男は、必死な形相で身を捩りつつ情けなくも涙や鼻水を垂らしながら何かを喋らんと“口元”を動かしていた。

 しかしその必死さが言葉へと変じる事はなく、篭った呻き声が洩れるばかり。それも当然か。なにせ喋ろうにも猿轡をされていては…喋りようがない。

 

 そんな男の周囲をゆっくりと歩みつつ手元の器材を弄りながらオセロットは優しく肩へと手を置く。

 途端に股間が湿り気を帯び臭気が増した。それを見て傍に控えている兵士が堪らず視線を逸らす、拷問に対する訓練はD・D所属前にも受けていたが……彼の拷問は何というか次元(ステージ)が違う。

 この男が味方で良かった……心底からそう思い震える手を強く握った。

 

「んんんん! んんん~んんん!!」

 

 首筋に鈍い痛みと共に“何か”を注入される。

 それは男の予想に反して只の栄養剤なのだが……それを認識することも、指摘してくれよう筈もなく、ひたすら身を捩る。何をされるのか、されていくのか。分からない事が恐ろしい。

 空き椅子を引き寄せ男の前に座り、視線を合わせオセロットは優しく(空恐ろしく)語り掛ける。

 

「人はどうしても痛みに弱い、どれだけのタフガイでも耐え難い痛みを覚えるとその状態から脱しようと反射的に逃避(メリルを見殺しに)してしまう。例え心に無くともな。

ああ、その点お前は違う。いっそ明瞭な程に降伏の意を示しながらーーー裏腹に機を伺っている」

「んんん! んんーんんんっ!?」

 

 敢えてこの男の心情を書き表そう。

 男は何度も『全てを話す、だからもう止めてくれ』と叫んでいた。それは本当に本心からの感情であり、嘘偽りなど考えもしなかった。

 無論、拷問のプロであるオセロットがそんな事に気付かない筈がなく……しかしプロだからこそ、男の歪な部分が目に付いていた。

 

「いいや分かるさ……俺も、嘘吐きだからな。尤も、お前にそんな意思がないのは“確か”だが……お前の雇い主は違う」

「んん? んんんん!?」

 

 意味深な言葉を残し立ち上がる。

 目配せした兵士の1人がグルグルと手回し発電機を回し始める、間もなく放電現象を起こし帯電した2つの鉄棒が手渡され互いを近付けると空気が割れる音が室内に轟く。その威力を文字通り“身をもって”知っている男の身体は恐怖で小刻みに揺れ続けていた。

 そんな男の様子を憐れに思ってか。

 腰を落として再び視線を合わせ、最初から変わらない優しい表情を浮かべ語り掛けた。

 

「なあ、落ち着け。俺はお前を拷問したいわけじゃないんだ……本当はしたいがな。待て待て、暴れるな……これは治療なんだ、それも緊急の。だから少し……荒っぽくなる」

「んんんんんんんーーー!!」

「早く治って(壊れて)くれ。ではいこうか……これは効くぞ」

 

 

 

「っ! ……確かなのか」

 

 とても“協力的な”捕虜からオセロットが得た情報を部下から受けたったミラーは、そのあんまりな内容に思わずスネークとの通信を閉じて暫し考え込んだ。

 元々気の進まない依頼内容であったが、とんだ落とし穴が潜んでいたものだ。

 

(まさか、少年兵とは……!)

 

 その生い立ち故か、はたまた……自身ですら定かではないのだがミラーは“少年”という存在に対して潔癖な部分があった。

 何も子どもはみな純真で無垢な存在だと思っている訳ではない、寧ろ接するのは苦手であり好きか嫌いかで言えばハッキリと嫌いである。しかし彼らが兵士として戦場に存在していること……大人の都合で選択の余地なく子どもが銃を手に取る事、そういうモノに強い忌避感を覚えるのだ。

 

 ふとチコの事が頭に浮かんだ。

 あの件以来チコの姉であるアマンダとは面と向かって話せていない、今後の予定を加味すれば何れは通信機越しではなく相対する日が来るのだろう。

 そんな苦い思いをグッと堪え頭の隅に押し込んだ、今は作戦中であり他の事に気を取られている場合ではないのだ。

 

(そうだ、作戦中だ……)

 

 慌てて考え込む。

 意外と早く結論が出た。

 

(……論外だな。こんな任務など続けていられるものかっ)

 

 苛立たし気に髪を掻き毟る。

 依頼の選り好みはしていないが裏取りは徹底させていたというのにこの始末、不甲斐ない諜報班への八つ当たり気味な感情を抑えつつ通信機を立ち上げる。

 

「ボス、聴こえるか? 不味い事になった」

『ああ……だろうな』

 

 その、声色に酷く悪い予感がした。

 虫の報せというものには縁が無かった身だが、そういった勘働きという厄介な代物は得てしてこういうロクでもない時にばかり当たってしまうのだ。

 

「まさか……もう?」

『ああ……少年兵とはな、やってくれる』

 

 通信を遮断する直前はまだ採掘場の手前だったというのに、この短時間で既に場所を特定し目標を見付けていた。普段は頼もしいとしか思わない優秀さを、この時ばかりは恨んだ。

 

 

 

 二重の檻を抜けた先にはまたも檻があった。

 そこには放り込まれていた捕虜……少年兵達が足を抱えて座り込んでいた。安全装置に指を掛けスネークは彼らの下へと歩み寄る、その僅かな砂利を踏む音を聴き頭を上げた1人の少年が恐々としつつ顔を確かめ目を見開く。

 慌てて服の中からダイアモンドの原石を取り出し柵越しに手渡そうと腕を伸ばす、それを念の為に義手で受け取り備に観察する。

 

(この輝きと重量、本物か……)

 

 少年の掌に返すと、それに倣ってか他の少年達からも大小様々なダイアモンドの原石が差し出される。一縷の希望を託していた、自分達の命を買おうとしているのだ。敵か味方かも分からない男に自分達の運命を託して。

 ほんの僅かな量のダイアモンドが彼らの生命線だったーーーこんな端金が。

 

『ボス、聴こえるか? 不味い事になった』

「ああ……だろうな」

『まさか……もう?』

「ああ……少年兵とはな、やってくれる」

 

 自身を見つめる少年達の瞳は皆一様に怯えきっており、しかし僅かな希望を感じさせた。それにほんの少し、違和感を覚えた。左手にピリッとした感覚が走り、直ぐに断ち消える。

 1度だけ視線を切り、素早く戻す。

 

(なるほど……そういうことか)

 

『ボス、テープは回ってる』

 

 ガチン。

 互いに身を寄せ合う少年達の懇願する視線に晒されるスネークは、しかし淡々と安全装置を解除し銃口を向けた。クッと僅かに引鉄に力を込め自動小銃から幾発もの弾丸が発たれ……弾倉が尽きる。

 弾薬を失った銃はその動作を終え静止する、再装填して油断なく見つめる先にはーーー息絶えた少年がいた。

 

 

 

 5人いた少年の数は4人に減じていた。

 死体となった少年の遺体から、そして“隠していた”ダイアモンドの山から慌てて離れる残された少年達。荒々しく扉を蹴破って足を踏み入れたスネークは、そんな彼らの挙動を観察しながら耳元で響くミラーの激昂を聴いていた。

 

『確かに録音はしていた、それで充分だ。あんたには分かった筈だ、そういう“こと”だと。だが何故だ? 何故1人だけ殺したんだボス! 答えてくれッ!!』

 

 真摯な質問に、しかし答える間も惜しく遺体の側を警戒しながらうつ伏せの身体を仰向けに起こしーーー握られていた“拳銃”を奪い取ると銃口を再び少年達に向けた。

 その銃に、いや持ち主の放つ言い知れぬプレッシャーを浴びた少年達は歳相応に取り乱し命乞いの言葉を叫んでいた。

 

「黙れ! 質問する、正直に答えろ。お前達の目的はなんだ、何故コイツは銃を隠し持っていた? 言えっ! 沈黙は許さない……」

 

 曲がりなりにも少年兵として訓練され、今日まで生き延びてきた彼らは不運にも“知らなかった”のだ。本当の戦士を、その中でも一部の戦士だけが持つある種の常軌を逸した“何か”を。

 グッと心を掴んで離さないような、そんな強制力に促され彼らは言葉を紡いだ。

 

「し、知らない……そいつは何日か前に、来て、それで……殺して、言う通りにしろって……」

「眼帯の男が来るからって! 俺達は開放するって、それで」

「殺さないで! 僕たち脅されてたんだ、だから……うう……っ」

「あ、ああああ! あぁあああっ!!」

 

 恐慌状態に陥りながらも、生存本能を刺激されてか必死に喋る子ども達。その内容を纏め上げたスネークは大きく舌打ちをしつつ銃を下げた。

 子ども達の瞳には先程までの妙な違和感はなく、それを以て彼らもまた“利用された”だけだと断定するのは、尚早ではないだろう。粟立ってきた肌、それを右手で握り抑えながら立ち上がる。

 

『なんだ、どういう事なんだボス?!』

「嵌められたっ!」

 

 短く切り上げ泣き叫ぶ子ども達に「此処で死にたくなければ付いて来い!」と言い含め洞窟の外、採掘場とは逆方向へと向かったスネークの頬がじわりと熱を帯び額に汗が流れた。

 端末で短くヘリに指示を出す、呑気に合流地点へと赴いている暇などなくなった。手狭だがアイツなら何とか着陸出来るだろうと信じて。

 

 唐突な事態の推移に困惑を隠しきれないミラー、そこへ更にオセロットからの緊急通信が『ミラー! この一件やはりサイファーが絡んでいる、ボスに伝えろ! 早く!』入り、やっと得心がいった。

 

「くっ……」

 

 吹き付ける熱波から身を護るように両腕を組みながら洞窟の外に出たスネークは目にした、直径30mもの巨大な炎柱が漆黒の空を赤々と照らしている姿を。その中心で揺らめく人影を。

 空の果てまで届かんとばかりに噴き上がっていた炎が集束し始める、ある一点を目指して生き物の様に蠢く炎が通り過ぎた痕には見覚えのない“死体”が散乱していたーーーXOFの隊服を着た死体が。

 

 その意味、違えることなく受け取る。

 この一連の“仕込み”こそ彼らが行ったもの、しかし主賓たる存在はこう考えたのだーー邪魔はいらないーーと。

 

「カズ、ヘリを急がせろっ!」

 

 呆気に取られる子ども達。

 彼ら自身には預かり知らぬ処で進行してきた事態、だが呑気に惚ける事は許されない。スネーク1人を此処へ誘い込む為に行われてきた裏工作は成ったのだ、つまりは餌である少年達の命の保障は……無い!

 そして炎の中から、災厄の化身と化した男がその姿を顕した。

 

 

 

 

 

 

 8:2つの炎

 

 

 ローグ・コヨーテはこの地方では異色なPFである。

 企業として一つの意思の下に統制された組織ではなく、雑多な傭兵の寄り合い所帯に近い。大まかな指揮系統こそ存在するものの、基本的に任務毎に初顔合わせになる事などザラだ。

 互いへの関心が薄く、あくまでもビジネスライクな関係性。つまりそれはーーー異分子(サイファー)の思惑が入り込んでいたとしても“分からない”という事なのだ。

 

 

 

 燃える男ーーー全身を炎に包まれたヴォルギンはその口に当たる部分を歪ませ、スネークを見ていた。以前アフガンで出会った頃とは違い人間らしい一面を垣間見せるその姿に、首筋がチリチリと熱を持つ。

 小声で子ども達に逃走を促す。

 こんな場所に居ればここから先どうなるか、想像に難くない。

 

『燃える男……奴がいるという事はやはり、サイファーはこの地に!』

「ああ。そして、どうやら判断を誤ったようだ……あの時に逃げず、倒すべきだった」

 

 口が大きく裂けて火の粉が舞う。

 言葉を発さずともそれは容易にスネークを嘲笑っているのだと感じ取れた。以前の、感情を見せない炎の化け物とは違い明瞭な意思を感じさせるその行い。

 どうやら自分との接触が引鉄となって更なる力を付けた、らしい。それが何となくだが分かる。ギシギシと左腕が軋み出していた。

 

「ヴォルギン、スカルフェイスは何処だ? あのデカブツと一緒に近くに隠れてるのか」

 

 炎の男の表情がそれまでになく歪んだ。

 ワザとらしく首を捻り、悩んでいる風な態度で両腕を持ち上げる。そしてこれが答えだ、とばかりに右手を前方に掲げ炎の弾丸を打ち出した。

 その弾道を見切り上半身を倒して回避したスネーク、向き直ったその口には何と葉巻が咥えられており余裕の表情で燻らせていた。

 

「ふぅ……つい最近お気に入り(ライター)を壊してな、丁度よかった。随分と気が利くようになった、バカは死んでも治らないとは云うがーーーおたくは違ったワケだ」

 

 互いに挑発しながら身体の調子を確かめる。

 バッ、バッ、と全身から火の粉を打ち出してからゆっくり両腕を握り締めて構えるヴォルギン。その体勢はかつての地で生身で対峙した日を強烈に思い起こさせた。

 

『ボス、もう直ぐヘリで到着します! 自分が援護にーーー』 

「いや邪魔だ、さっさと子ども達を連れていけオセロット! 奴の狙いはあくまで俺だ、俺から離れろ!」

 

 CQCの基本姿勢を構えながら叫ぶ。

 その雄大な姿には一切の油断がなく、しかし余裕もなかった。この状況で単身ヴォルギンを相手取るなど無茶を通り越して無謀、退路の存在しなかったスマセ砦よりも手狭な盆地であるこの場所はなお一層不利でしかない。

 傍目から……オセロットから見てスネークに勝ち目は見えなかった。

 

 小汚いガキ4人とスネーク。

 どちらの命の方に価値があるかといえばD・Dの誰もが口を揃えスネークと断言するだろう。オセロットも無論そうだ、しかしだからこそ彼は躊躇なく子ども達をヘリへと乗せ渋るパイロットに激を飛ばして早々にこの場から去る事を決断した。

 

『ボス、御無事で……っ!』

 

 離れていくヘリのローター音が木霊する中、しかし2人の姿は動かない……やがて音が聴こえなくなった頃、どちらともなく動いた。

 奇しくも全く同時に。

 鏡合わせの如く。

 

「ーーーっ!」

 

 一も二もなくスネークは前傾姿勢のままヴォルギンの懐へと向かって走り出し、素早く腰を捻転し左腕を振り抜いた。対するヴォルギンもまた、同じ様に右腕を振り抜く。

 ゴォッ!!

 両者の拳と拳がぶつかり合い金属片と火花が散る。その衝撃で大きくふらついたのは、体格で勝る筈のヴォルギンであった。

 

「ーーーー?!」

 

 体勢を崩しながらも放った火炎弾は目標を外れ、弾倉を外し逆手に持った銃の銃床部分を強かに頭部へと打ち込まれ転倒する。

 すぐ様起き上がろうとした背中へともう一度強い衝撃を受けたヴォルギンは、纏っていた炎を周囲に放出しその反動で立ち上がり怨敵を睨みつけた。

 

 シュルシュルと空を舞って戻ってきたROCKET ARMを接続し身構えるスネーク。

 先ほど出会い頭の拳の衝突時も実はブースターを点火する事で推力を生み押し込んでいたのだ。自壊した前回のFLAME ARMの反省を加え更なる熱処理と対衝撃機構を改良されたROCKET ARMは頑強そのもので、こうした想定外の使用にも問題なく性能を発揮していた。

 

「思ったより硬いな。死後硬直か? それにしちゃあ随分とよく動く」

 

 咥えていた葉巻を手に取り余裕綽々といった風体で煙を吹きかけながら問う、見え透いた挑発にしかし思考が熱に浮かされたままヴォルギンは近付き拳を叩きつけようとするが……当たらない。

 火炎弾を出そうとするものの、ここぞとばかりに反撃され放てず。既にある程度の行動をスネークは見切っていた。

 

 火炎弾の威力にこそ制限はないが、それ相応の溜め時間を必要とする……その仕組みを前回の戦闘で銃器の無意味さと共に嫌という程身に染みて理解していたスネークの選んだ手段は、ことの他うまく噛み合っていた。

 近距離を主軸にし絶えず先手を取り続ける事でヴォルギンの手と“火力”を押さえ込む、想像を絶する難事を以て両者は“拮抗”していた。

 

「ーーーーーッ!!!!」

「何故、こうも手玉に取られるか分からないか? 相変わらず察しは悪いみたいだな」

 

 そう、あくまでも拮抗でしかない。

 軽口を叩きながらも実を言えば切迫していた。

 大量の汗を掻きそれが瞬時に蒸発する程の熱量、殴れば殴る程に蓄熱していく義手が火傷のように酷く痛む。喉は乾き熱された大気は気管支を苛む。

 そも、長時間の戦闘は元より想定していない。

 出来ようがないのだ、あくまでも人間の枠の中で最高に近いスネークの肉体といえど文字通りの“化け物”には及ぶべくもない。秒単位で急速に削られていく体力を気合で補っていられるのも、僅かな間。故の拮抗。

 このままでは先に熱中症で倒れかねない。

 

(やはり……見間違いではない。いけるか?)

 

 だが突破口は“見え”た。

 こればかりはこうして相対しなければ気付けなかった事だ。何度目かの大振りの拳を躱しそれまでよりも大きく距離を開けたスネークはここにきて初めて銃を構えた、それは悪手だとばかりに大技を喰らわせようとしたヴォルギンのーーーその身体から炎が消失した。

 

「ーーーー!?!?」

 

 身動きの取れなくなったヴォルギンは、僅かに視界に覗くスネークの姿へあらんばかりの憎しみを込める。それが彼が動く為の“燃料”だから。だがどれ程に動こうとしても満足に身体が動かせないでいる。

 賭けに勝った。

 やっと一心地つけたスネークは片膝を着け、銃を降ろしニヤリと微笑みながら虚空を指差す。

 

「なあ坊や、そろそろ自己紹介してくれてもいいんじゃあないか?」

 

 ヴォルギンの後方を指し示すものの、その先には何もない。その筈だ。通信機越しにしか状況を知りえないオセロットとパイロットも、フルトン回収機の高精度レーダーで戦場を俯瞰しているミラー達も、現地でカバーに入っている工作員の双眼鏡にもーーーそこに何も見出す事は出来なかった。

 しかしスネークは確信を持って指先を、熱と血が通い始めた義手の指先で虚空に浮かんでいる“少年”を正確に指し示していた。

 ガスマスクで顔を覆い、宙に浮かんでいる赤毛の少年を。

 

 以前は見えていなかったこの少年の存在にスネークが気付けたのは、偏にこの世の何処とも知れぬ場所で交流した者達の加護によるもの。

 死して尚も共にあると誓った者達の、スネークを生かさんとする強い願いーーーその結晶だった。

 

「………………」

 

 しかし少年は答えない。

 答えようがない、普段から意思の乏しい少年の“中身”は、今や相反する2つの(報復心)が互いを呑み込まんと争う焦熱地獄と化していたのだから。

 

 憎しみや怒り、屈辱に虚栄心を糧とし周囲の全てを巻き込み……遂には自身すら巻き込んで激しく燃え盛る炎。

 喪失、絶望、悲哀、大切な何もかもを取り零して尚もひたむきに小さく……しかし一際力強く輝き目の離せなくなる炎。

 

 2つの炎のせめぎ合いの中、不意に撃ち込まれた弾丸を止める為に“能力”を割り振った少年には……幾ら燃料をヴォルギンが与えても動き出す為の“動力”を分け与える余剰がなかった。

 

『第3の子……そういう事か!』

『何だそれは、俺にも分かる様に話してくれ……いったいボスは“誰の事”を言っているんだ!?』

『ああ、つまりはだーーー』

 

 その存在をスカルフェイスやスネークの他に唯一知っていたオセロットが得心を抱く。

 状況にまるで着いてこれていないミラーの疑問に、状況を噛み砕いて話し出した彼の心中にもはや先程までの焦燥は存在しなかった。

 

「答えないか。まあいい。だがなヴォルギン、手品の種が割れた奇術師は……早々に舞台から降りるしかないぞ」

 

 弾倉が空になるまで少年に撃ち尽くし、そのまま放り捨てて身軽になったスネークは最寄りの合流地点へ向かってなけなしの体力を振り絞り駆け始めた。

 その後ろ姿を、隙だらけの敵へ、何もする事が出来ない惨めさで激しく燃え上がった感情が再び立ち上がる力を得た頃にはーーー既にスネークの姿は無かった。

 

「ーーーーーーー!!!!」

 

 言葉にならぬ叫び。

 段々と白熱していく身体から閃光が瞬き、弾け、光が収まった後にはバターの様に溶かし尽くされ流れている岩だったモノだけが存在していた。 

 

 

 

 

 

 

 9:声の工場

 

 

「覚えているかスネーク、先日あんたに捕まえて貰った少佐(マイヨール)という男を」

「ああ、それが?」

「気になる事を話していてな、実は……」

 

 子ども達をMBへと収容した後、再びアフリカの地へと赴いたスネークは核兵器ビジネスの噂を流す男とその部下を捕らえていた。しかし当の本人はその噂を流すよう頼まれていたに過ぎず、依頼人の正体を知らなかった。

 だがそこには隠し様のないサイファーの影がチラついていた。

 

 そして興味深い話も聞けた。

 ZRSが、ある老人を殺そうとしている話を。

 

「老人……」

「気になるだろう? こちらでも調べておくが、あんたも気に掛けておいてくれ」

「分かった。で、まさか話しておきたかった内容とはそれだけじゃないだろうな?」

 

 久方ぶりに休養を取ろうと、施設内に新設された温泉に浸かろうとしていた矢先に呼び出され少しばかり気分がささくれ立っていた。本当なら今頃はサッパリと汗を掻いてコーヒー牛乳に舌鼓を打っていたというのに。

 ミラーとしても葉巻を吸う以外では滅多に休もうとしないこの男が珍しく取った休養日だ、急ぐことでもないのでわざわざ呼び付けたくはなかったのだが……事情が変わった。

 

「2つある、緊急と業務連絡。そうだな、先にこっちから片付けるか。ヒューイの企画した多脚駆動兵器ーーーバトルギアの設計図が上がってきた。コイツに関してだが、どう思う?」

 

 差し出された設計図を、ひったくる様に受け取って上から下へと流し読みする。

 所狭しと書きなぐられている専門用語と執筆者の機体に対する過剰なまでの賛美が機体概略図のあちこちに散見され、それだけで目が滑る。

 直接会わずに正解だった。

 

「…………」

 

 凡そ1分もの無駄な時間を消費し読み切る。

 机に放り捨てたスネークは苛立たし気に葉巻を取り出し二度三度ほど吸い気分を落ち着けてから「クソだな」端的に切って捨てた。

 ミラーもまた同意見だろうと思い見遣る、しかし信じられない言葉が聞こえた。

 

「だが必要だ」

 

 耳を疑う言葉に思わず葉巻を落とす。

 

「正気か、本当に作らせる気なのか? アレを?」

「ああ、既にあれの同類が各PFに出回り始めている、今は大手ばかりだが……直に中小PF間でも流通し始めるだろう」

「……アレがか!?」

 

 どう好意的に考えても錯乱しているとしか思えないミラーの身体を揺さぶり頬を叩き正気に戻そうと四苦八苦するものの、どうやら本当の事だと知り肩を落とした。更にその証拠となるデータを見せられたスネークはこの世の終わりとばかりに天を仰いだ。

 全くといっていい程にバトルギアに価値を見い出せなかったスネークだが、それは彼の能力が卓抜し過ぎている事に由来する。一般的な兵士にはミラーの言う通り充分に危険な存在なのだ。

 

 全く納得いかないものの、最終的にミラーの判断を信じる事にして無駄金を遣う(浪費する)事に渋々と同意したスネークは落としていた葉巻を拾い上げダラリと椅子へともたれ込んだ。

 

「はぁ……どっと疲れた。で? もう1つは何だ?」

 

 真面目に話を聞く気が失せたスネークは鏡を持ってナイフで髭を整え始める。ジョリジョリ……。

 あまりにも明け透けにやる気のない姿に、話すタイミングを間違えたかと反省しながらミラーは本題を切り出した。

 

 

 

 

 翌日。

 スネークの身はアンゴラの地にあった、シャバニを助けて欲しいという切なる願い(任務)を受けて。

 

 鉱山で働かされていた少年達、そこに居たのは何も売り渡された少年兵だけではなかった。体のいい労働力としてそこら中から集められた少年達の中に、リーダー格と言える立場の少年が居た。

 彼の名こそシャバニ。

 頼れる者のいない子ども達の心の支えとなっていた存在。そして、悪魔に捕らわれた少年。

 

 鉱山で働いている者たちから定期的に悪魔の住処(ンゾ・ヤ・バディアブル)と呼ばれるングンバ工業団地へと人びとが移され、そして二度と還って来ない。

 この悪魔の住処にはSANR社がーーーひいてはサイファーが絡んでいる。口では何と言っても子どもには非常に甘いミラーだが、だからと言って益の無いことに無駄な労力を使ったりはしない。

 

 これは子ども達からの依頼だが、スカルフェイスへと繋がる列記とした任務なのだ。

 

蛇の口(ムノコ・ヤ・ニョカ)駐屯地に着いた、ローグ・コヨーテの連中が居るな」

『いけそうか』

「ああーーー何だアレは、死体?」

 

 大量の死体が纏めて燃やされ、その煙がもうもうと上がっている。何らかの隠蔽工作を疑うミラー、だがスネークはその光景に既視感があった。

 

(確かに見た、アレと同じモノを……そうヴォルギンから逃げる時だ。XOFと同じく奴に燃やされたと思っていたが、違うのか?)

 

 不気味な焼死体に疑いを持ったスネークは手近に居た兵士を尋問し、ますます疑いを濃くする。序とばかりに周辺の兵士を無力化し資材と共に回収した。

 

(突然現れ、殺し、燃やして去っていった謎の部隊……か。もしやあの時ヴォルギンと居たのはそういう理由もあって? 分からん、情報が少なすぎるーーーあん?)

 

 駐屯地を抜けた少し先、停車してあったトラックの荷台で考え事に耽っていたスネークは突如として動き出した事に面食らい身体を起こした。

 気付かれたか、と思うものの運転手に走りからは動揺や焦りの色は感じられない。どうやら互いの“存在に”気付かなかったらしい。

 

 ある程度進んだ先、監視所の一角で停車したトラックから姿を見られないように降りたスネークは、静かに扉を開け運転席に乗り込み移動計画書を見つけ端末を開き行き先と目的地を照らし合わせた。

 幸運にも移動先は目的地近くでああると知れ、これ幸いと荷台へと戻り愛用の段ボール箱を被り時を待った。雨天の多いアフリカの地でも問題なく使用可能な、対水加工の施された最新版を。

 

 

 

 荷台を検められる事もなく、地図に乗っていない検問所をも越え一年中霧が立ち込める地である目的地、ングンバ工業団地へと辿り着いた。道中、橋が壊れていて通れないなどのハプニングもあったが。

 脆く今にも崩れそうなトンネル()を通った先に存在したのはコンクリート製の壁と骨組み以外が軒並み崩壊した幾つかの建物跡と、場当たり的な補修がされ窓が塗り固められ何故か今もなお健在な建物が1棟。

 周囲を検めると、随所に人の出入りしている痕跡が見受けられる。

 

「発電機に、これは……貯水タンク」

『怪しいな』

 

 周囲の観察を終え中へと入って直ぐ、地面が血だらけである事に気付く。風化して黒ずんだモノや今も鮮明に赤く光るモノ、つまりは極最近まで誰かしらがここを利用していた事の証明。

 さしものスネークも流石に匍匐前進する気が起きず中腰のまま警戒しつつ奥へと進む、その道中で何故か付けっぱなしにされ吊るしてあるラジカセや、人1人がスッポリと入る袋を目にしながら。

 

「っ……!」

 

 手足を拘束され虚ろな瞳で宙を眺める男を発見し近寄るものの反応が薄い、喉は声帯の辺りまで切り開かれ何かを挿入されている。その何かを義手で取り出した先にあったのは、何故かイヤホン。

 耳を近づけその内容を聴く、複数の言語に精通しているスネークには分かった……なんてことはないニュース番組。

 イヤホンの元を辿れば、そこには道中で見た様にラジカセが吊るしてある。

 

 咳き込んだ男の胸部、シートで覆い隠されている部分を開きーーーそれがンフィンダ油田で見付けた死体と同じ状態である事に気付く。クチャリ。

 粘液に触れ生理的な嫌悪感を感じ振り払いライターで触れた部分を念入りに炙った。

 

『警備兵の姿すらないとはな。静か過ぎるのが却って不気味だ、用心してくれ』

 

 ミラーの注意を聞きつつ、別の部屋へと進もうとカーテンを開いたスネークの目に……何人もの人間が先程の男と同じ状態で並べられている様に瞠目する。

 言い知れぬ不安感、姿の見えないシャバニ……その最悪の結末が脳裏にチラつきながら奥へと進む。

 

 そして遂に見付けた。

 小柄な体格で同じ様に手足を拘束されている少年を、その胸部は他の者達とは違うものの……似たような症状が見られる。恐らくは……発症の初期段階か。

 意識が朦朧としている少年へと声を掛ける、シャバニと。それに対して僅かだが反応が返る。

 この少年で間違いないだろう。

 

「お前の仲間に頼まれた。さあ、ここから出るぞ」

 

 返答はないが、声には確実に反応している。

 掌に大事に持っている首飾りを仕舞い、拘束しているベルトをナイフで切り落とし持ち上げようとする。その時奥から、恐らくは裏口から何者かが入り込んだ音が聴こえ手を止める。

 

 カーテンの隙間越しにその正体を伺おうとし、その姿が見えーーー反射的に飛び出し咄嗟に取り出そうとした銃を奪い取り帽子を被った頭部へと突きつける。

 それでも反抗しようとした先手を取り関節を捻りながら拘束。その鮮やかな手並みを受けた男は、顔を見るまでもなく自分を拘束した者の正体を悟った。

 

「お前か……」

 

 男……スカルフェイスは驚きの声を挙げた。

 この邂逅は完全に偶然なのだろう、でなければ執拗な迄に用心深いこの男が生身での戦闘能力が遥かに勝るスネークの前にノコノコと姿を見せる筈もない。

 

「動くな、少しでも動けば撃つ……!」

 

 思いもよらぬタイミングで対峙することとなった両者だったが、しかしその表情は正反対だった。

 銃を突き付け拘束し絶対的に優位な立場にいる筈のスネークは焦りの表情を浮かべ、その逆の立場のスカルフェイスは……恍惚とした表情を浮かべていた。

 二イィ……。

 

「っ!!」

 

 ゾクリと背筋を這う危機感に従いスカルフェイスから離れ警戒態勢を取ろうとしたスネークだったが、「ぐぅ!」1手遅かった。大きな衝撃を受けスカルフェイスの下から離されたスネーク、瞬間……室内が炎で埋め尽くされる。

 

 伸し掛ってきた何かが首を絞め圧迫感とヒリヒリとした痛みを感じた。覚えている、つい先日コレと全く同じモノを間近で浴びていたのだから。

 

「……ック! ヴォル、ギン……!!」

 

 もう二度と離しはしないと、ありったけの怒りと憎しみの篭った腕で首を絞めてくるヴォルギンに対し咄嗟の反撃手段が思い付かない。というよりもこれはもはや、どうしようもない。

 マズイ、死ぬ。そう覚悟するしかない状況でその腕が不意に、止まった。何故?

 

『逃げろ、ボス!』

 

 通信機越しのミラーの言葉、それが切っ掛けとなりスネークの足が自然と出口へと向かった。振り返る事など考える暇もなく、ただーー炎に包まれ悶えていたシャバニと傍らに浮かぶ謎の少年ーーの姿が強く脳裏に焼き付き離れないでいた。

 突如として静止したヴォルギン、シャバニのうめき声、少年の存在。恐らくはそういう事なのだ。スネークは少年の能力と、その条件をこの時完全に理解した。

 

(……シャバニ、すまない……っ!)

 

 意図してでは無いだろう、スネークでさえ今やっと全ての条件を知ったのだ。シャバニが知る由も、ましてや自分を助ける義理もない。

 だが結果的に、救いに来た少年に命を救われた。

 そのやるせなさや憤りを胸に抱えながら、この古くから続く因縁に決着を付けるため外へと出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 SIDE OPS:訪問者

 

 

 当時の心境を今、正確に思い出せはしない。

 それでも確かな事はある。彼を……BIGBOSSを恨んだ事など一度もない。

 

「ああ、いやな夢……」

 

 つい先日、ミラーと言葉を交わしてからあの頃の夢をよく見るようになった。弟が惚れた女の為に先走り、挙句はMSF壊滅の一助をになってしまった日の事を。

 チコが死んだと報せがきた日の夢を。

 

「アマンダ、起きているか」

 

 トントンと、扉を叩く音が聞こえる。

 時計を見上げると既に昼過ぎの時間帯、完全に寝過ごしてしまった。まだまだ頭を締め付けてくる先日の深酒の名残りに眉間を顰めつつ、扉を開いた。

 

「ごめん、寝てたわ。何か用?」

「ああ、お客さんだ。彼女がアマンダだ、あとは好きにしな」

 

 男の後に控えていた人影が促されてアマンダの前に姿を見せる。妙齢の女性だった、黄金のブロンドヘアーを肩で切り揃え、ピッチりとしたライダースーツを着こなす身体付きに、妙にハリがあって豊満なバストが存在感を主張している。

 目元はサングラスで隠されているものの、所謂美人である事に間違いはない。見る者が見れば目を丸くした事だろう、歳を経ても尚その美しさは微塵も損なわれていない事に。

 

「えっと、初めましてよね?」

 

 寝起きと二日酔いで頭がボーッとしているが、こんなに特徴的な相手の顔を忘れるとは思えずそう話し掛けた。

 

「ええ、初対面」

 

 妙に色気のある声だと感じた。

 おもむろにサングラスを取り外した女性は、にっこりと笑いながらアマンダへその名を告げる。

 

「初めまして、私は……タチアナ」

 

 

 




 話の要点


・燃える男の大攻勢
 ハッキリ言って原作よりも強いヴォルギン氏
 何故なら相手が本人だから、ネイキッドにはいい迷惑


・左腕
 スネークの報復心に呼応した少年が力を与えた時に感覚が蘇る

 それで何となくスネークはヴォルギンの出現を察知している、スカルフェイスを拘束するのに夢中で気付くのが遅れた


・タチアナさん
 まだまだ張りのある肉体をお持ちの熟女
 見た目は妙齢の女性だが、近くでよく見るとシワが目立つ
 でも胸は何故か張りとツヤがある



次回更新?
書き上がったらね。
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