ふなたびちゅーにきおくそーしつひろったけん   作:水代

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やべえ、書いてて楽しい。


さんわ ゴーリキたちがふんすふんすであせくさい

「うぐー」

 時刻は午後二時。

 ミナモシティにあるカフェでぐでーって机に突っ伏しているのは、蒼の少女、ラピス。

 ポケモンバトルを終え、街に戻ってきたはいいが、あまりにもあっさりと負けたことに何だかショックを受けたらしいラピスは先ほどからどうにもダウナーだ。

 いつも元気すぎるくらいに元気が良いので、こうしてしおらしいのも存外に静かでいいかもしれない、なんて思いつつ昼食のサンドイッチを一口、二口食べ、コーヒーで流し込む。

 

 さて、それはさておき午後である。

 

 僕たちの旅に明確な目的地のようなものは無い。その地方に行って、何か珍しい物、人の手の入ってない場所などを巡って、と言った感じで、行き当たりばったりな部分が多い。

 こう言うのは現地調査が基本、と僕に旅の仕方を教えてくれた師匠も言っていたので、基本的にはその言に従って、最低限の事前知識だけ入れて、後は現地で情報を仕入れている。

 ラピスはラピスでよく分からない。記憶を取り戻す、と言う目的はあるのだろうが、どうやったら思い出すのか、どこに行けばいいのか、本人が分からないと言う以上、僕にだって分かりはしない。

 だからと言って別に僕についてくることは無いのだが、けれど、記憶喪失の彼女にとって知り合いと呼べる相手は僕だけなのだ、だから無意識的に一緒に居たがっているのかもしれない、と思っている。

 

「ラピス」

「んー? なーに?」

「コンテスト会場、行ってみませんか?」

 その言葉に、ラピスが目をぱちくり、とさせ。

「行くっ!」

 がばっ、と勢い良く起き上がる。先ほどまでの気落ちしていた様子はすでにない。

 そうして楽しそうに浮かべる満面の笑みを見て、やっぱりこっちのほうがいいかもしれない、なんてことを思った。

 

 

 * * *

 

 

 ポケモンコンテスト。

 

 ポケモン同士競いあう、と言う意味ではバトルにも通じるものがあるが、ポケモンバトルとは全く関係の無い代物である。

 簡単に言って、ポケモンバトルがポケモンの強さを競うものならば、ポケモンコンテストはポケモンの魅力を競う戦いである。

 ポケモンにはコンディションと言うものがあり、それぞれ“かっこよさ”“うつくしさ”“かわいさ”“かしこさ”“たくましさ”の五つがある。

 コンテストでは、それぞれの専門の分野を絞って審査を行い、一番を決めていく。

 

 因みに出場には審査があるのは当然だが、観客側にも審査がある、正確に言えば、客席を全て予約席にし、その予約席を希望者の中から抽選で決定するのだ。

 何故、と言われると割と簡単な話で。

 観客が多すぎるので、審査してある程度数を絞らないと会場に入りきらないのだ。

 有料化すればある程度数も絞れるのかもしれないが、観客も審査の一部に参加することもあるので、客層を絞ると審査の結果に偏りが出ることもある、と言う理由と、何よりも、誰でも気軽に見ることのできるように門戸を広く、と言う主催者側の意思もあって参加も観戦も無料である。

 

「え、だったらすぐに行ったほうがいいんじゃないの?」

「と、思いますよね?」

 

 呟き、取り出したるは二枚のチケット。何を隠そうマスタークラスコンテストの客席チケットだ。

 それを見たラピスが目を丸くし、え? え? と呟きを漏らす。

「実は先ほどポケモンセンターに寄った時に、センターの職員さんがくれたんですよ」

 何でも友人と二人でチケットを取れたはいいのだが、二人とも突然入った仕事で行けなくなったらしい。それで、無駄になってしまったチケットをどうしようかと思っていた時、さて午後からどうしようか、と悩んでいた僕を見つけて譲ってくれたのだった。

 

「お土産にポロックも売ってるらしいですよ」

 

 ポロック、とは。きのみをきのみブレンダ―で加工して作る、ポケモンのためのお菓子である。

 食べさせることによって、ポケモンのコンディションに磨きをかけることができるのだが、単純にポケモンの好物でもあるので、コンテストと関係の無い人たちも買っているらしい。

 らしい、と言うのはこのポロックが普及しているのがまだホウエン地方だけらしく、僕の出身でもあるジョウト地方のほうでは見かけないからだ。

 旅をすると自分の知る世界とはまったく違う世界を垣間見る。

 文化、文明、景色、光景、人、生き様。

 それを知るたびに、僕の中でまた一つ世界が広がる。そんな感覚を楽しんでいる自分がいる。

 

 だから旅は止められない、そう思うのだ。

 

 

 * * *

 

 

 もらったチケットは、うつくしさコンテストのものだったらしい。

 受付でチケットを見せると、受付のお姉さんが会場の場所を教えてくれた。

 実を言えば、このコンテストを楽しみにしている僕がいることを否めない。

 と言っても、僕はポケモンコンテストにそれほど造詣は深く無い。

 ただ知っていることがある。

 

 ミナモシティで行われるコンテストは、マスターランクのコンテストだ。

 

 ポケモンコンテストには四つのランクがある。

 まず最初、誰でも自由に参加のできるノーマルランクコンテスト。

 そして次に、ノーマルコンテストでの優勝経験のあるポケモンだけが出場できるスーパーランクコンテスト。

 さらに次に、スーパーランクコンテストで優勝経験のあるポケモンだけが出場できるハイパーランクコンテスト。

 そして最後に、ハイパーランクコンテストを優勝した選りすぐりのポケモンたちだけが出場するのことのできるマスターランクコンテスト。

 

 それぞれのコンテストのランクは、コンテスト会場のある街ごとに受け周りで決められている。

 例えば去年のミナモシティではスーパーランクのコンテストが行われていたが、今年はマスターランク、と言った風にだ。

 

 だからこれから見ることのできるコンテストは、とびっきりの物になるであろう予感はしていた。

「っと、その前にポロックを買っておきたいので、ラピス、先に行っていてもらっていいでしょうか?」

「分かったよ、早く来てねー?」

 了解ですと告げ、歩いていくラピスを見送りながら、僕自身もまた売店へと向かう。

 と、言うのも、ギィが食べてみたい、と先ほどからボールを揺らしているのだ。

「分かってますって、ちゃんと約束は守りますよ」

 バトルの時に、何でも買ってあげる、と言った言葉をしっかりと覚えていたらしいギィが早く早く、とボールを揺らして催促してくる。

 

 そうして売店で適当なポロックの詰め合わせを買うと、ボールからギィを出してやる。

「ぎゃ~ぅ♪」

 嬉しそうな声で鳴きながら、その小さな体を僕の足にすり寄せてくるギィに、分かってます、と呟きながらポロックを渡す。

「ぅ~♪」

 そうしてご機嫌な様子でポロックを食べるギィの姿に、思わず笑みが零れた。

 

 

 * * *

 

 

「っと…………ここ、ですかね?」

 ラピスに遅れること五分か十分と言ったところ。

 さすがに五部門ものコンテストが行われる会場だけあって、内装もかなりの広さがある。

 映画館の扉のような両開きのドアの上には“うつくしさ(裏)”と書かれている。

「裏…………舞台裏ってことですかね?」

 少し覗いてみたい気もするが、参加者でもないのに不味いだろう。

 表はどこだろう、と思いつつ扉の前を過ぎ去ろうとして…………。

 

「ん? キミ、お客さんかな?」

 

 唐突にドアが開き中から一人の男性が顔を覗かせた。

 どうやら会場のスタッフの一人らしい。いかにもそれっぽい服装である。

 ずいぶんと大柄な男性だな、その人を見て思うことなどそれくらいであった。だが向こうはこちらを見て少し驚いた様子だった。

「キミ一人かな? 珍しいね、ここにキミのような若者が来るのは」

「えっと、どう言う意味ですか?」

 思わず問い返すが、まあ入って入って。と手招きし、僕を扉の中へと誘う。

「会場、ここで良かったのでしょうかね?」

 ラピスも先に中に入っているのだろうか、そんな疑問を浮かべながら。扉を開き。

 

 

 

 そうして、思考が完全に凍り付いた。

 

 

 

 まず最初に感じ取ったのは、むせかえるようなすえた臭い。

 有り体に言えば、汗臭さ。

 

 そして視界に飛び込んできたのは、広い広い会場、そしてそこを埋め尽くすような観客たち。

 

 舞台の上にいたのは。

 

 筋骨隆々に発達したその肉体美を惜しげもなくさらすゴーリキやカイリキー、エビワラーやサワムラーと言った格闘ポケモンたち、そしてその隣で恐らくトレーナーだろうと思われるはちきれんばかりの筋肉を蓄えたマッチョマンたちが全力でビルドアップを決めている姿であった。

 

「“うつくしさ”裏コンテスト…………通称“肉体美コンテスト”によく来たね」

 

 告げられた言葉に、けれど思考は目の前の衝撃的な光景に完全に止まっている。

 

 上半身裸のマッチョマンたちが同じくほぼ全裸のような格闘ポケモンたちと汗を流し、顔を蒸気させながらポージングを決めている。

 そんな光景を、けれど観客たちが熱狂的なほどに歓声を上げている。

 

 全く持って理解のできない光景、そして理解の追いつかない思考。

 

 そこにトドメを指すかのように、スタッフらしき男がこう告げる。

 

 

「ようこそ…………“男の世界”へ」

 

 

 その後の記憶は無い。

 

 

 * * *

 

 

「…………ァー…………バーってば」

 耳元で叫ばれた声にはっとなる。

 慌てて声のしたほうを振り向くと、そこにいたのは少しだけ怒った表情をしたラピスだった。

「…………あ…………ラピス?」

「ラピス? じゃないわよー、こんなところでどうしたの?」

 こんなところ、と言われて周囲を見ると、そこは“うつくしさ”と書かれたプレートの掲げられた扉の前であった。

「遅いから探しに行こうかと思ったら、会場の扉の前で呆然としてるし、驚いちゃったわよ」

「……………………あれ、僕何してましたっけ? コンテスト会場の扉を開いて…………う、うーん、ダメですね、何も思い出せません」

「アンバーまで記憶喪失?」

「い、いえ…………多分、少しぼうっとしてただけです、きっと…………そうですよ」

 僕の言葉に納得したのかしてないのか、うーん、とラピスが首を傾げ。

「まあ、アンバーがそういうのならいーけど、それじゃ、会場に入りましょ?」

「え、ええ、そうですね」

 

 …………なんだろう、何かすごく恐ろしいものを見た気がするのだが。

 

 僕は一体何をしていたのだろうか。

 

 何か知りませんか、ギィ?

 

 ボールに収納されたギィに訪ねてみるが、答えは返ってこない、どころか何故かボールが異常なくらいにぶるぶると震えている。まるで何か見てはいけないものを見てしまったかのような、そんな尋常じゃない震え具合だった。

 

「…………何だろう、思い出さないほうがいいのかな」

 

 ふと足を見れば、ズボンの裾が萎れている。まるで何かに引っ張られたかのように…………。

 

「…………ギィ、何ですかね」

 

 多分、あの様子だと聞いても答えてくれないだろうが、と言うかもう思い出したくも無いようだったので、聞かないほうが賢明なのかもしれないが。

 何となく、相棒が自分を助けてくれたような、そんな気がして。

 

「…………ありがとうございます、ギィ」

 

 あとでまたポロックを買ってあげないと。

 

 すっかり気に入ってしまったギィのあの楽しそうな様子を思い出して、また笑った。

 

 

 * * *

 

 

 座席のほうはチケットが指定してくれているので、誰かに勝手に座られる、と言うことは無い。

 どうやらラピスとは席が隣同士のようなので、ラピスの蒼い髪ですぐに場所が分かった。

「お待たせしました」

「よーやく来た。って言っても、まだ審査始まらないみたいだけどねー」

 ふと舞台の上を見れば、会場設置の準備がまだ終わっていないのか、運営スタッフが忙しそうに設備の移動を行っていた。

 そして運営スタッフと共に重い機材を運ぶゴーリキの姿に何か悪寒のようなものを感じる。気のせいか、僕の手の中でギィの入ったボールがぶるり、と震えた気がした。

 

「そう言えばさっきスタッフの人がパンフレット配ってたよー」

 

 そう言って座席に敷いていたパンフレットをこちらに渡してくる。

 載っていたのは四人のポケモンコーディネーターと、出場する四匹のポケモンたち。

 

「へー…………さすがマスターランクに出場するだけあって、綺麗ですね」

「そうだよねー、私のユキちゃんも頑張れば綺麗になれるかな?」

 あ、でも可愛いのも捨てがたいかもねー、と手に収まるボールを見ながらころころと笑うラピス。

 

 マスターランクの名に恥じない、レベルの高いトレーナーとポケモンたちが揃っているのがパンフレットで見て取れる。

 恐らく実際にはもっと凄いのだろう…………何せ、他者を魅せるためにその美を磨き上げてきたポケモンたちの頂点なのだから。

 

「…………これは優勝が気になりますね」

「だねー」

 

 互いにそうやって雑談を交わしていると。

 

 ぱちん、と会場の照明が唐突に落ちる。

 

 そして。

 

「会場の皆々様、お待たせいたしました!」

 

 コンテストが始まる。

 

「ただいまより、“うつくしさ”部門、マスターランクのコンテストを開始いたします!」

 

 




ようこそ…………『男の世界』へ


元ネタわかったやつは不幸。いや、なんかもう書いててこの台詞があまりにもぴったりはまりすぎたせいで他に何も思い浮かばなかった。


次回はコンテスト。
出場するポケモンは?
まあうつくしさコンテストだし、ある程度予想はできるよね。
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