ふなたびちゅーにきおくそーしつひろったけん   作:水代

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よんわ ロコンちゃんのしっぽはもふもふキュート

 

 コンテストの流れを紹介しておきたいと思う。

 

 まず初めに行うのが外見審査だ。

 登場したポケモンたちの外見を審査する。

 うつくしさの審査なのだから、それ以外にあるのか、と言われると、これがあったりする。

 

 第二審査は技芸審査。

 各々が覚えたポケモンの技を使って、審査員、観客を魅了する。

 

 そして両方の審査の総合の結果を持って優勝者を決定する。

 

 因みにだが、第二審査は選ばれた審査員のみが得点するが、第一審査には観客の得点も配慮される。

 簡単に言えば、第一審査の観客の総得点を百点、審査員の得点を百点とし、第二審査の得点数を二百点満点とする、と言った感じに調整しているらしい、あくまで上の数値は例ではあるが。

 

 第一審査、第二審査、どちらも重要ではあるが、求められるものが異なっている。

 特に第一審査では求められているのは外見、つまりコンディションの高さのみであり、所有する技などは使えないため一切関係無い。

 逆に第二審査では所有する技の華麗さ、組み合わせなど、コンディションは度外視されており、外見的要素は一切関係無い、恐らく第二審査に観客の得点が反映されないのは、コンディションを度外視する、と言うのが難しいからだろう。

 誰だって同じ華麗な技を繰り出しているなら、よりうつくしいポケモンに得点する、どうしても主観的になってしまうのだ。

 

 さて少し話はずれたが、第一審査、第二審査では全く別のものが求められる。

 どれだけ高いクオリティで両方を高めているか、得点数が五分五分である以上、片方にとび抜けてるよりかは総合的に高い水準を満たしているほうが有利ではある。

 コンディション、そして技、どちらを優先的に磨いていくのか、どこまで行けば満足するのか、水準を満たしたと言えるのか、ポケモンコーディネーター(コンテスト用にポケモンを育成する人たち)の腕前如何が問われる。

 

 そしてその成果の全てを白日の元にさらけ出す戦いが、いよいよ始まる。

 

 

 * * *

 

 

「エントリーナンバー1番。ルネシティトレーナーリュウノスケ&ミロカロス!」

 司会が紹介文を読み上げると共に出てきたのは短い黒髪を帽子で隠した短パンの少年と一匹の蛇のようなポケモンだった。

 ミロカロス、世界で最も美しいポケモンとされる。うつくしさコンテストに登場するのはある意味当然の流れである。

 そして、だからこそ。

「エントリーナンバー2番。キンセツシティトレーナーメアリ&ミロカロス!」

 まあこう言うことも良くある。

 入ってきたのは同じくミロカロスに引き連れた茶色の長髪にワンピースの少女。

「そして、エントリーナンバー3番、この人を知らないトレーナーはいないだろう! シロガネやまよりやってきた最強のトレーナーテンゾー&ロコン!」

 次いで出てきたのは僕でも知ってるほど有名な人だった。

 

 シロガネやまトレーナーテンゾー。

 

 簡単に言おう、

 

 歴代ポケモンマスターの一人である。

 

 それは誰でも知っているわけである。

 まさかのポケモンマスターの登場に、観客の声援が一息に白熱していく。

 そんな観客の声に手を振り返しながら、浅黒い肌に金髪の白い袈裟を纏った男が鋭い眼房を携えながら傍らのロコンと共にステージを進む。

 

 そして、最後の一人、その紹介を司会者が告げようとして…………硬直した。

 

「……………………は…………え…………えー」

 

 どこか歯切れの悪い様子に、観客からも動揺が漏れる。

 だが気を取り直したのか、司会者がこほん、と咳払いし。

 

「エントリーナンバー4番。チャンピオンロードトレーナー……………………セクシーダイナマイトナナゾー&コイキング!!!」

 

 そうしてその名と共に出てきたのは。

 

「はぁ~い、いくわよ~♡」

 

 アフロ、☆型眼鏡、セクシービキニ、胸毛、オネェ言葉、すね毛、ビーチサンダル、と筆舌に尽くしがたい外見をした身長190前後の日焼けした浅黒い肌のマッチョの巨漢だった。

 

「「「「「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああ」」」」」

 

 そのあまりの壮絶さに、観客どころか、他の出場者たちまでもが絶叫する、阿鼻叫喚の地獄絵図が広がる。

 客席の後方で気絶しかけた人間までもがちらほらと。

 

「え。えー…………なんとこのナナゾー「セクシーダイナマイト」…………セクシーダイナマイトナナゾー選手、このマスターランクコンテストで優勝経験もある強者です。以上で今回のコンテストの出場者が出そろいました…………え、えー、審査員の方々に少しお話を聞いてみましょう」

 

 余りにも衝撃的な光景に動揺しつつも、それでもマイクを手放さないプロの司会者が紹介を終え、審査員席にほうへと向かう。

 

「え、えーと、審査員のナグモさん、今回のコンテスト、どうなると予想されますか」

 審査員席に座るナグモと呼ばれた男性は、眼鏡をきらりと光らせながら、そうだね、と呟き。

「セクシーダイナマイトナナゾー選手のポケモンはいつも度肝を抜かせてくれるから、今回も期待してる。一方でテンゾーさんのロコンもかなり良い仕上がり。第一審査もかなりいいとこまで行くと思う。第二審査次第ではセクシーダイナマイトナナゾー選手に並ぶ可能性もある」

「えー、冷静なコメントありがとうございます、それでは次の…………」

 

 そうして一人ずつ審査員にコメントをもらいに行く司会者を見てふと気づく。

 

「誰一人として動揺してませんね、あの審査員の人たち」

「へ…………ほえ?」 

 あの強烈すぎる巨漢のインパクトに、ラピスすらも思わず叫び声をあげたと言うのに、審査員の誰一人としてそれがどうした、と言わんばかりに動揺を見せないのが分かる。

 

「…………プロだね」

「…………プロですね」

 

 思わずラピスとしみじみ呟いてしまったのも無理は無いだろう。

 

 

 * * *

 

 

 第一審査は壇上に一体ずつポケモンたちが並び、そのうつくしさを持って得点が決定される。

 

「エントリーナンバー1番、ミロカロス」

「くぉ~♪」

 

 楽しそうにポーズを決めるミロカロスを見て、客席も盛り上がる。

「わあ…………綺麗だねー」

「そうですね、さすが世界一美しいポケモンと言われるだけはあります」

 中々の好評、と言ったところか。

 観客からの反応は良い、だが対照的に審査員たちの視線は厳しい。

「…………さすがのプロ、と言うことでしょうかね」

「え? 何か言った?」

「…………いいえ、なんでもありませんよ、それより次のポケモンが出てくるようですよ」

 そんな僕の言葉の直後、司会が口を開く。

 

「エントリーナンバー2番、ミロカロス」

「くぉ~~~」

 

 先ほどの元気の良い活発そうなミロカロスとは対称的に、ゆっくりとした間延びした鳴き声で喉を鳴らしながら壇上へと昇るミロカロス。

 

「あ、私こっちの子のほうが好きかも。この辺は性格の違いかなー? 雰囲気まで違って見えるねー」

「ですね」

 

 ポケモンは生き物だ。当たり前だが、それに気づかない人間も多い。

 特に数年前に同じポケモンでも個体ごとに性格に違いがある、と発見されるまで、ポケモンごとに個性があることすら気づかれなかったほどだ。

 先ほどのミロカロスは、楽しそうにポーズを決めていた、恐らく性格的には“むじゃき”と言ったところか。

 そして壇上のミロカロスは、どうにもマイペースな感じだ、性格的に“のんき”と言ったところか。

 ラピスも言った通り、同じミロカロスでも、性格によって印象が大分違う、人の好みもあるのかもしれないが、僕自身こちらののんびりとしたミロカロスのほうが好きかもしれない。

 

 そうしてミロカロスが壇上を降り、次のポケモンが司会に呼ばれる。

 

「エントリーナンバー3番、ロコン」

 

 壇上へ続く階段を一足飛びに駆け上がり、壇上に着地を決めるロコンに観客が沸き立つ。

 

「コォ~♪」

「「「~~~~!!!」」」

 

 ふわふわとした尻尾を振りながら、ロコンが鳴き声をあげると、観客から歓声が飛び交う。

 審査員の目もロコンに惹きつけられているのが分かる、評価はかなり高そうだ。

 

「しかし、ポケモンマスターがこんなことまでやっているとは…………知りませんでした」

「へ? ポケモンマスター? あの人?」

 

 初めて知った、と言った様子で目を見開いてテンゾーを見るラピスに、頷く。

 

「そう言えば色々忘れてるんでしたね、あの人は元々ジョウト地方出身のポケモンマスターですよ」

 

 ポケモンマスター。トレーナーたちが目指す終点と呼ばれる地位。

 

 ポケモンリーグ、と呼ばれるものには二種類あるのは子供でも知っている事実だ。

 

 一つ、地方リーグ。カントー、ジョウト、ホウエン…………最近だとシンオウ、イッシュ、カロスなど、それぞれの地方で開かれるリーグ、そこで優勝、ないし準優勝をする、これをリーグ入りと言う。

 そしてそれぞれの地方のリーグ入りしたトレーナーがカントー地方セキエイ高原に集まり開かれるのが、全国リーグである。

 

 簡単に言えばポケモンマスターとは、この全国リーグの覇者を言う。

 それもただ優勝するだけでは足りない、総当たり式トーナメントで全勝をして優勝したトレーナーだけに与えられる称号である。

 

 全てのトレーナーの頂点に立つ、トレーナーの覇者。

 

 それがポケモンマスターと言う存在だ。

 

 そして、ステージ脇で不敵に笑う男もまたその一人である。

 

 

 * * *

 

 

 会場中、誰もが言葉を失った。

 

 ステージを照らすライト。遥か高所にあるはずのそのライトのすぐ傍に跳びあがったその姿が巨大な影絵として映し出される。

 

 ひゅう、と、それが上空から急降下し。

 

 ぺちんっ

 

 床に着地すると同時に跳ね上がり、衝撃を殺す。

 

「…………………………す、すごい」

「………………き、綺麗」

 

 誰もが言葉を失う中、思わず漏れ出た言葉は、けれど誰の耳にも届かず消えていく、

 

 ムーンサルト。

 

 どちらが前か後かも分からないくせに、登場で虚空に三日月を描くがごときその跳躍は、先ほどまでポケモンマスターのポケモンに沸き立っていた会場をピタリと閉口させた。

 

 どうして気づかなかったのだろう、いや、あのトレーナーの外見が衝撃的過ぎて、気づけなかった。

 

 このコイキングの神々しさとも言える輝きに満ちた姿を。

 

 最早他とは格が違う。辛うじてロコンが食らいつける程度か。

 

 審査員たちの姿が視界に入る。

 

 誰もが一様に目を口を見開き、魅入っていた。先ほどのロコンとは違う、まさしく魂までも抜かれたかのような抜け落ちた表情が、その衝撃を、そして一つの事実を物語っていた。

 

 この会場の王者が誰かと言うことを。

 

 

 * * *

 

 

「…………いやー、意外な最後だったね」

「いや、これはさすがに例外過ぎると言いますか」

 コンテストが終わって、会場の外。

 

 気づけばコンテストは終わっていた。

 

 文字通りそうとしか言いようが無い。

 あのコイキングの登場に全ての人間の時が止まった。

 誰もが魅入られ、満場一致で第一審査での過去最高得点をたたき出したコイキングは、第二審査でも無敵だった。

 

 やったことは単純、ただ跳ねていただけ。

 

 第二審査は都度五回の技を繰り出し、その華麗さを競う。

 そして同じ技を出すと、観客も審査員も飽きるというもので、普通評価が下がるのだが、どうしてかあのコイキングの跳ねる姿は見れば見るほど惹きつけられ、繰り出すほどに評価が上がっていく。

 最早ミロカロス二匹は勝負にすらなっていなかった。辛うじて食らいついたのはやはりロコン。

 かげぶんしんで分身を生み出しながら、ほのおのうずを自身の周囲に纏いながらでんこうせっかでステージを駆け回ると言う華麗な技の組み合わせにより、かなり高い評価を得ていた。

 

 だが結果は変わらない。

 

 コイキングの牙城を誰も崩すには至らない。

 

 これは決まった、誰もがそう思った、その時。

 

 コイキングが輝いた。

 

 いや、元々神々しいほどに輝いたオーラが纏っていたが、そう言う感じのものではなく、何と言うか。

 

 ポケモンがよく進化する時に発する光のような…………。

 

『『『『『『えっ?』』』』』』

 

 会場中の全員が発した疑問符に、答えるように。

 

『グギャ~~~~!』

 

 コイキングが進化して、ギャラドスとなった。

 

 

 

「まさかあれで失格とか予想できませんよ」

「確かにねー…………でもまあ最初に登録したポケモンと違うポケモンになっちゃったし仕方ないと言われれば仕方ない、のかな?」

 まあ優勝の代わり、と言うわけではないが、ギャラドスには審査員特別賞が贈られた。

 トレーナーでもあるセクシーダイナマイトナナゾー選手(尚仕事上の名前のようなものらしい)もそれで納得して去っていったので大きな混乱には至らなかったが、コンテスト中にポケモンが進化と言う前代未聞の事態、そして存在しないはずの審査員特別賞と言うこれまた前代未聞の受賞は明日の新聞に一面に載ることだろう。

 

 因みに優勝者はあのコイキングを除けば当然と言える評価をたたき出したテンゾー&ロコンである。

 

 最後にコメントで『次はこんな拾い勝ちではなく、ちゃんとした勝利を取りに行かせてもらう』と言って観客を沸かせていた。

 

「なんだか疲れたねー」

「そうですね…………どっと疲れました」

 もう帰ろうか、そんなラピスの提案に一も二も無く頷く。

 

「ねえ、アンバー」

 

 その帰り道。すでに夕刻となり、夕日の刺す道の途中、先を歩く彼女が立ち止まり、振り向く。

 

「ありがとね、楽しかったよ」

 

 そう言ってほほ笑む彼女の姿に。

 

「そうですか…………では、またいつか行きましょう」

 

 肩を竦め、また、と約束する。

 

「そうだね、またいつか」

 

 そう彼女もまた呟き。

 

「約束だよ?」

 

 そんな彼女の問いに。

 

「はい、約束です」

 

 笑って答えた。

 

 

 




リュウノスケ⇒どこかで聞いたあの作者さんとは一切関係はありませんよ?
メアリ⇒某部屋のロボット
テンゾー⇒某妖怪とは一切関係はありません、無いからね? シロガネやまゲンゾーが親族。

セクシーダイナマイトナナゾー⇒平日はサラリーマン

ナグモ⇒ぐも~

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