片翼の天使(笑)で剣をふるうのは間違っている   作:御伽草子

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 すみません。活動報告にも書きましたが、この間の土日は時間が取れなかったため、今回はかなり短めになります。


第八話【懐かしのオラリオ】 プロローグ

 

 

 

 【片翼の天使】セフィロス・クレシェントがオラリオに――ひいてはロキ・ファミリアに帰還して数日が流れた。

 

 現在、ロキ・ファミリアの主要メンバーはダンジョン遠征の真っ最中であり、ロキ・ファミリアの本拠(ホーム)である『黄昏の館』に残るのは、留守を任された者達ばかりである。

 

 セフィロスもそのうちの一人だった。

 

 純粋な戦闘力ならロキ・ファミリアはおろかオラリオでも最高峰であるセフィロスが、遠征に出ないというのもおかしな話であるが、今回は事情が事情である。

 

 なにせ、セフィロスは遠征に出発する前夜に帰ってきたばかりなのだ。

 

 遠征はあくまでロキ・ファミリアという一つの群れとして行動する必要がある。そこにあるのは軍隊のような規律であり、何よりも必要なのは一糸乱れぬ統率である。何度も訓練を重ね、各々の役割分担や、どう動くかを明確にする事により、迷宮での生存率を上げるのだ。

 

 セフィロスは個としてあまりに突出しすぎた武力である。遊撃に回れば比類無い力を発揮するだろう。しかし連携の取り方などの打ち合わせの一つもなく参加したのでは全体の足並みが乱れる恐れがある上、セフィロスにあまり頼りすぎるのも将来的なファミリア全体の成長に悪影響を生みかねないという団長(フィン)の判断である。

 

 なによりセフィロスにはやらなければならないことが山ほどあるのだ。

 

 まず第一に、オラリオに帰還した事について、ギルドへの正式な報告。加えてセフィロスが外の世界を巡る契機になった事件の中でロキ・ファミリアのために骨を折ってくれた方達への挨拶回り。

 

 通すべき筋を通さずに、ダンジョン遠征に行くわけには行かなかった。

 

 そういった事情もあり、今回セフィロスのダンジョン遠征への参加は見送られることになった。

 

 

 

 

 

 ――しかし、そうも言っていられない事態となった。

 

 

 

 

 

 夜も深まった頃、ロキの自室に扉をノックする音が響いた。

 

「ん~、誰やぁ~?」

 

 晩酌を終え、眠りにつこうとしていたロキは胡乱げな表情で扉を見遣った。こんな夜遅くに尋ねてくる眷属なんて珍しい。ましてや団長であるフィンや副団長のリヴェリアを始め、現在主要メンバーは遠征で出払っているのだ。

 

「俺だ。すまないな夜遅く」

「ん、なんやセフィロスかい……どうしたん、こんな時間に?」

「ロキの耳に入れておきたい火急の用件があってな」

「……ふむ、聞こか。入ってええよ」

 

 ロキはベッドから起き上がるとそのまま縁に腰掛けた。扉を開けて部屋に入ってきたセフィロスに、ロキは茶化すような視線を投げかけた。

 

「ふふん、淑女の部屋にこんな夜更けに尋ねてくるなんてなぁ……自分、なかなかやるやないか」

 

 意地の悪い含み笑いだった。

 

 セフィロスもフッと笑みを零しながら、床をぐるりと見渡して大仰に肩を落とした。

 

「その淑女の部屋に山ほど酒瓶が転がっているのはどうなんだ? 注意するリヴェリアがいないからって少し気が緩んでるんじゃないのか?」

「う……自分、なかなかエゲツないカウンター使うやないか」

 

 足の踏み場も無い、とは言わないが、まるで紛争地帯の地雷のように部屋の各所に酒瓶が転がっている。うっかり踏んで転んだり、瓶を踏んで割りそうな危険があった。

 セフィロスの言うとおり、注意する人間がいないからといって、普段よりやや自堕落な生活になっていたのはロキ自身も認めるところだった。

 

「んで、どうしたんや。火急の用件なんて、あまり穏やかじゃない言い回しやな」

「実際、穏やかとは言えない内容でな」

「うわー、あんまり聞きとうないな」

 

 しかしセフィロスの物言いからそうも言っていられない内容なのだろうということは容易に想像がついた。「まあ座り」と手近にあった椅子への着席を促す。

 

「なんか飲むか? ……まあ酒しかないんやけどな」

 

 そう言って笑うロキだったが、セフィロスの言う火急の用件とやらが気になっているようで視線は真剣そのものだった。

 

 セフィロスは手を振って答えてから、椅子に座り、話し始めた。

 

「……今日オッタルと会った」

「フレイヤんとこの猛者(おうじゃ)か……まさか街中でドンパチなんてやらかしてないやろうな?」

 

 茶化すような物言いだが内容そのものは笑い話で済むようなものではなかった。

 

 セフィロスとオッタル。両名共に迷宮都市を代表する強者だ。その気になれば一区画まるまる崩壊させかねないほどの力を持っており、その二人が市内で激突したとなれば戦闘の余波だけで周囲に与える被害は計り知れないだろう。

 

 ――まさか、ちゃうよなぁ……いや、ホントにそれは勘弁してえな。

 

 そうなった場合にギルドから下されるであろうペナルティやら被害額を考えると頭が痛いどころの話では無い。もちろんセフィロスが考え無しで戦うような人物で無い事は分かりきっているが、フレイヤのところの猛者(おうじゃ)に関しては結構な戦闘脳だと聞く。喧嘩をふっかけられたセフィロスが止むに止まれず応戦、というシナリオも無くは無い上、実際にセフィロスがらみで昔同じような事をやらかしているのでその可能性はあった。

 

 もしそうなら被害額は全額フレイヤにふっかけようと心に固く誓い、じっとセフィロスを見つめる。するとそのあまりに真剣な眼差しがおかしかったのか、セフィロスは笑みを浮かべながら答えた。

 

「まさか、そこまで浅慮ではない。オッタルから気になる情報を耳にしてな」

「気になる情報?」

 

 オウム返しにロキが聞き返すと、セフィロスは懐から小石を取り出した。いや。それはただの石では無い。

 

「魔石、なんかコレ?」

 

 それはモンスターに取っての核になる魔石であった。しかし本来魔石の色は一様に紫紺色である。しかしセフィロスが取り出したのは形や雰囲気は魔石であるが中心の辺りが毒々しい極彩色に輝いていた。

 

「ダンジョンに異変が起きている可能性がある」

「これを……ダンジョンのモンスターが?」

 

 確かめるように問いかけるロキに、セフィロスは肯定の意を示して、語り始める。

 剣を交えたことで、セフィロスの昇格(ランクアップ)を確信したオッタルが、フレイヤの許可を取り、今日までのしばらくの間ダンジョンに潜っていたこと。そして50階層付近に現れた異変。

 

 遭遇した謎のモンスターから入手したという、この魔石。

 

「腐食液を出すモンスター……それも50階層付近か」

 

 ダンジョンでモンスターが新たに発見されることはもちろんある。しかし今回の場合、過去の事例のどれにも当てはまらない。

 

 神妙な面持ちで、もたらされた情報を吟味するロキは、まず前提となる条件を確固たる物にするためセフィロスに確認をとった。

 

「ここまでの一連の話が猛者(おうじゃ)の虚言だという可能性はあるんか?」

「それはないだろう。そんなくだらないことをする奴ではない。オッタルに唯一命令できる立場であるフレイヤに関しても……まあ、そちらのほうはロキの方が詳しいだろう」

「まあなー、フレイヤの方かて意味無くそんなことする奴やないわ」

 

 逆に言えば、意味さえあればやりかねないのだが。例えば、気になった男がらみとか。ただしそこにさえ突っ込んでいなければ例え悪巧みの類であったとしても〝華〟の無い行為はしない女神である。

 

 それに……。

 

 ロキは手にした魔石をまじまじと見つめる。色こそ異常であるが、間違い無く魔石だ。これを騙しの小道具とするには、あまりに手が込んでいる。

 

「なら、今までの一連の話を全て真実とする。となると、気になるのは……」

「フィン達だな」

 

 現在ロキ・ファミリアの主要メンバーが行っているダンジョンへの遠征。目的は未到達領域である59階層へのアタックである。必ず50階層は通り抜けることになる。オッタルが遭遇したという未知のモンスターと遭遇する可能性は十分ある。

 

「それに……」

「出てくるモンスターは猛者(おうじゃ)が遭遇したモンスターだけとは限らへんちゅうことか」

 

 オッタルが遭遇したのは腐食液を体内に溜め込んだ芋虫形のモンスターだけだったらしい。下手に攻撃すると、腐食液によって武器破壊を引き起こされる極めて厄介なモンスターだ。

 

 腐食液自体も相当に強力なものらしく、第一級冒険者の【耐久】を持ってしても、恐らくは場合によっては致命傷になるほどだという。

 

 ダンジョンでは何が起こるか分からない。

 

 しかし今回の事態はイレギュラーに過ぎていた。

 

「報告は以上だ。それともう一つ、許可を貰いたい」

 

 セフィロスはすくっと立ち上がった。

 ロキは細めていた目をわずかに開いて、セフィロスを見つめた。

 

「もしかして……自分」

 

 ああ、とセフィロスはうつむく。

 

「こうして頭を突き合わせて悩んでいても仕方がないだろう」

「……そっか、そやな。んじゃあ正式に主神命令や」

 

 誤情報だった場合も含め、何も無いのならそれに越した事は無い。

 

 例え困難が立ち塞がろうとフィン達なら乗り越えるだろうという信頼と確信がある。しかしだからといって打てるべき手を打たないことは意味が違う。

 

 ――幸いにして、今この手中にはこれ以上は望めないほどの強力な援軍を送る準備があるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 第八話はロキ・ファミリアが遠征に出発後した後、セフィロスのオラリオ巡りみたいなものが話の中心になります。
 

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