片翼の天使(笑)で剣をふるうのは間違っている   作:御伽草子

19 / 19
 お待たせしました。
 最新話の投稿になります。
 今年の四月にも一話更新しているので、未読の方はご覧いただければと思います


第九話【凶狼は迷宮で吼える】 ③

「【――終末の前触れよ、白き雪よ】」

 

 リヴェリアの足元に展開された魔法円(マジックサークル)から仄かに燐光が立ち上る。蛍火にも似たそれは一つ、二つと徐々に増え、やがてリヴェリアを包む光の柱になっていた。

 

 水に波紋が走るように空気が鳴動する。踊り狂う濁流のような力強さで、揺れ動く揺籃のような柔らかさで、異なる魔力の流れが――同時並列的に収斂して、魔法という超常の現象を引き起こすための経路が形作られる。膨大な魔力の脈動全てを眼で捉えられるわけではないが、それは例え魔法に対する素養の無い者であっても、その場に立ちさえすればはっきりと感じ取れるほどのものだった。

 

 それは肌が粟立ち、腹の奥がざわつくような感覚。

 

 人の意識では知覚しえぬ大きな存在が、夜の闇に紛れてゆっくり練り歩いているような、そんな重々しい足音が聞こえてきそうな厳粛な空気であり、怒号が鳴り響く戦場であろうとも今この場を満たすのは夜のさざめきでさえ息を潜めるような儀式としての冷ややかな静謐であった。

 

「【黄昏を前に風を巻け。閉ざされる光、凍てつく大地】

 

 歌うように玲瓏と紡がれた詠唱は、

 

「【吹雪け三度の厳冬――我が名は、アールヴ】」

 

 ここに混じ綯う。

 

「――ふっ」

 

 短く吐き出された呼気と共にセフィロスが刀を一閃させるとモンスターの群れは斬り払われた。それは鋭くあれど重い。斬られたモンスターの身は微塵に砕け、体内の腐蝕液ごとまるで見えない巨大なハンマーで殴られたかのように後方へと吹き飛ばされていく。振りぬいた刀を手の中でくるりと逆手に持ち替え、地面に突き刺した。

 

「全ての隊は警戒態勢を維持したまま後退せよ!」

 

 了解! という声が上がり、訓練を重ねた無駄の無い動きでロキ・ファミリアの部隊は即座に転進した。

 

 敵モンスターの群れとリヴェリアの間に立つ者はもはやセフィロス一人。一枚岩をよじ登ってくるモンスターに睨みをきかせていたセフィロスは、号令と共に戦闘が開始されてから初めて敵に背を向けてリヴェリアに向き直った。未だ背後からは芋虫型のモンスターの群れが、いくら斬り払われようと微塵も臆した様子はなくこちらに向かっている。巨体をひしめき合わせ、気味の悪い粘着質な音を鳴らしている。しかしもはやセフィロスが連中の動きを気に留めることは無い。その必要すらもはや無くなるのだから。

 

 セフィロスが、その名前を呼んだ。

 

「リヴェリア」

 

 セフィロスの誰何の声に答えるように、リヴェリアは詠唱に集中するために閉じられていた瞼を開いた。数多の言葉を重ねるように視線が交じり合う。

 

 セフィロスがふっと笑うと、リヴェリアも小さく笑みを返した。

 

「任せた」

 

 ただ一言。セフィロスの援護も、仲間たちの奮闘も、全てはただその一言を伝えるための過程であった。その全幅の信頼に応えるように、リヴェリアは声を上げた。全てを決する一撃を解き放つ、その最後の言葉を――。

 

「【ウィン・フィンブルヴェトル】!」

 

 リヴェリアが杖を掲げた。

 

 顕現するのは三条の純白の細氷。それが稲光にも似た動きで瞬く間にモンスターの群れを蹂躙した。奴らに訪れたのは破壊ではない。静かに、速やかに、冷徹に、生態活動を強制的に停止させる凍結の魔法だ。ロキ・ファミリアの一団が立っていた一枚岩の眼下は、次の瞬間には氷に覆われていた。戦場の喧騒も、熱気も、全ては白と蒼の凍土の中へと消えていったのだった。もはやモンスターの群れの中には、身じろぎ一つするものなど存在しない。完全な静寂がそこに広がっていた。

 

 そして。

 

『うおおおおおおおおおおおお――――――ッ!!!!!』

 

 勝鬨が上がった。

 

 

 

 

 

「災難だったな」

「まあ、ここ(ダンジョン)ではよくある事だ」

 

 セフィロスが声をかけると、石の上に腰かけたリヴェリアは苦笑いと共に手を振った。

 

 戦闘が終息してすぐにファミリアのメンバー達は負傷者の手当てを最優先にしながらもすでに撤退の準備を始めていた。

 

 今現在冒険者依頼(クエスト)のために下層に潜っているメンバーの帰還次第、すぐにでもこの場を離れるためだ。突然の襲撃ですでに物資も残り少なく、これ以上ダンジョン遠征を続ける余力は彼らに残ってはいなかった。あわただしい喧騒が周囲に広がっているが、セフィロスとリヴェリアの二人は手伝いを拒否された。「これ以上お二人の手を煩わせるわけにはいきません。ここは自分たちに任せて休んでいてください」などと真摯な目で言われてしまえば、手を出すのも憚られるというものだった。

 

「セフィロス、お前が私たちを追いかけてきたという事は……ギルドか、あるいはロキに、今回の事態が起きることを想定できるだけの情報が入ってきたということか?」

「当たらずとも遠からず……といったところだ。詳しい話はフィン達が帰ってきてからにするとしよう。もうそこまで来ているようだ」

「分かるのか?」

「気配で、なんとなくだがな」

 

 呆れた奴だな、と一つ溜息をつくとリヴェリアははにかんだように笑いながら、

 

「助かった」

 

 セフィロスも腕組みをしながら小さく笑い、

 

「気にするな」

 

 と、返した。

 

 遠くを行きかうファミリアの女性団員たちがそれを伺い見て黄色い悲鳴を上げていた。リヴェリアが睨むように一瞥すると、頭を下げてから、いたずらが見つかった子供のように小走りに駆けていった。

 

「あー、なんだ……私達が遠征に出ている間、何か変わったことは無かったか?」

 

 リヴェリアは気まずそうにそっぽを向きながらあからさまに話題を変えにかかっていた。

 

「特には無い……」と言いかけてセフィロスはふいに言葉を詰まらせた。

「なにかあったのか? またロキがなにかやらかしたのか?」

 

 怪訝そうに問いかけるリヴェリアに、セフィロスはどう告げたものかと押し黙り、少ししてから口を開いた。

 

「やらかしたのはロキでなく……むしろ俺でな」

「お前が? 一体何をしたというんだ?」

 

 問題行動を自ら起こす奴ではないというのを重々承知しているが、立場的にも性質的にもトラブルのほうから向かってくるような男だ。副団長としても仔細を聞き出さねばならない。リヴェリアが追及すると、セフィロスは口を開いた。

 

「つい先日、ヘファイストスとロキの歓談の中で少しばかり話題に出た事柄でな。それをロキから又聞きした俺が、少しばかり仔細を調べたら懸念が当たっていたというか」

「なんだ? お前にしてはずいぶん歯切れが悪いじゃないか」

「つまり結論だけを述べるとだな――――」

 

 

 

 

 

      ◆      ◆      ◆      ◆

 

 

 

 

 

 ――それは、つい先日のことだ。

 

 

「喧嘩という行為自体は別に悪いことばかりではない」

 

 セフィロスはコップの水を口に含み、喉の渇きを潤してから口を開いた。

 

「人それぞれに考え方や物事の捉え方が違い、趣味嗜好や気質が異なるのだから最初からパズルのピースのようにぴったり人間性が当てはまる繋がりなどそうそうはない。誰もが手探りで人間関係を深め構築していくが、そこに慣れや勘が働くことはあれどマニュアルや正解などはない。そんな中で喧嘩というのは近道であり一種の劇薬のようなものだ。自分が傷つくことがあれば相手も傷つけることも、あるいはその両方もある。しかし相手や自分の心をつまびらかにするには怒りを揮発材とするのが一番手っ取り早い……が、怒りは自分の心の抑圧を外に向けて解放するということだ」

 そこは窓の無い部屋だった。壁や床、天井に至るまで石で覆われているが、壁に吊るされたこじゃれた魔石灯の赤みがかった仄かな光が柔らかく室内を照らし、天井の梁や壁に繰りぬかれたクローゼットの扉といった部屋の中にちらほらと使われている木材の色調が、石室の寒々とした閉塞感を和らげている。決して広い部屋ではない。小さな机とベッドとソファ。生活に最低限必要な物だけを取りそろえた印象がある。しかし無機質ではない。花瓶には野花が生けられ、小まめな掃除が行き届いている。裕福でこそないが生活の中に細やかな彩りを忘れない、そんな住人の細やかな心配りが見て取れる部屋だった。

 

 セフィロスはソファにゆったりと腰を下ろしていた。

 

 指を組み、考えを巡らせるように視線を伏せたまま口を開く。

 

「抑圧を解放する、というのは人によっては言葉にするほど簡単なことではないが、それとは逆に自分を他人に合わせるという事は然程難しいことではない。相手の主張を全て肯定してしまえばいいからだ。だがそのままでは他者と打ち解けようにも、打ち解けるべき自分は押し込められている。親か、周囲の人間か。いつかどこかで誰かに押し付けられた常識や教養といった耳障りの良い言葉で装飾された〝立派〟な主張で形作られた自己は張りぼてに過ぎず、その中身はがらんどう……他者の調子や心の動きばかり観察していて、相手が自分をどう思っているかばかりを気にするあまり結局のところ相手の心そのものに対する関心など微塵もないのだから、他者から得られる好意もたかが知れている」

 

 セフィロスは目の前の少年に視線を向けた。彼は木のスツールに腰かけている。背筋をまっすぐに伸ばし、肩は強張り、膝を鷲掴みにするように置かれた手は力を入れすぎているのかやや白んでいる。身じろぎ一つしない。彫像のように微動だにしない身体とは対照的に、その表情は実に動きに富んでいた。真一文字に引き結んだ口元は時折くすぐったそうに震わせ、潤んだ眼をカッと見開き忙しなくしばたたかせている。少年は呼吸しにくそうなほどに緊張していた。

 

 セフィロスは小さく笑うと、空気を弛緩させるように眦を緩めた。

 

「改めてになるが……すまないな、急に押しかけてしまって。ベル・クラネルといったか?」

「ひゃ、ひゃい! ベルですっ、ベル・クラネルです! 高名なセフィロス・クレシェント氏に名前を憶えてもらえるなんて光栄です!」

 

 少年――ベルは上ずった声で答えた。

 

「畏まられるような大層な名ではない。一介の冒険者だ。君と同じく、な」

「い、いえ決してそんなことは……」

 

 ベルは何事かを口にせねばと思うが、口が思うように動かず頭も惚けたようにうまく回らなかった。書物や口伝の向こう側で憧れた存在が目の前にいる。夢見心地とでも言えばいいのか。そんな現実味の欠けた状況に、ベルは自意識が霞んで朧げになるような錯覚に陥った。ふわふわと頼りない意識に、セフィロスの言葉が差し込まれる。

 

「普段はダンジョン上層に潜っているのだろう。一人でか?」

「は、はい。このファミリアでは僕が唯一の団員なんです」

「ほお、それでは何もかも手探りで何かと苦労も多いことだろう」

「いえっ、神様はもちろんですがギルドのエイナさん……あ、担当の受付の方なんですが、大変よくしていただいてます。ダンジョンに挑むためのアドバイスも親身になって教えてくれるのですごく助けてもらっています!」

 

 つい先程までガチガチに緊張していたことなど嘘のように、信頼している人物を語るベルは目をきらきらと輝かせながら誇らしげに声を張り上げている。そんな些細な言動にもこの少年の純朴な心根の在り方が表れているようだった。セフィロスは微笑ましそうに「そうか」と首肯した。

 

「それにしてもエイナ……エイナ・チュールか」

「ご存知なんですか?」

「彼女とはウチの副団長のリヴェリアを通して面識があってな。情に厚く聡明な女性だ、アドバイスも適格なものをくれるだろう。良い担当に恵まれたな」

「はい! ……あ、その、少しだけ口煩いなと感じてしまうこともあるんですが」

「有難いことじゃないか。冒険者というやつはどうにも生死の境界線を踏み誤ることが多い。モンスターが蔓延り、地形ですら敵になりうるダンジョンという危険な環境に身を置いていると最初は恐怖感が、それを乗り越えると次に高揚感が身を蝕む。『あと一歩だけ』を咎めてくれる者の存在がいるという事に感謝せねばなるまい」

「そう……ですよね。今度改めてお礼を言わなくちゃ」

 

 照れくさそうに笑いながら頬を掻くベル。

 

 その時だ。ガシャン! とけたたましい音が鳴った。花瓶が地面に落ちて割れたのだ。

 

「……また始まったか」

「……元気ですね御両方とも」

 

 セフィロスとベルが見遣った先には……。

 

「どぅああああああかぁらあああっ! このドチビが! 人がちっとばかり下手に出ればつけ上がりおってからに! おう、いつからそんなに偉くなったんや、その無駄に膨れた胸の脂肪と一緒で態度もずいぶんデカいやないか!!??」

「いつ下手に出たっていうんだっ、ソファに偉そうにふんぞり返って「ま、悪かったな」って、謝る態度じゃないだろ!? これだからド貧乳は! その胸と一緒で器までみみっちいときたもんだ!!」

「ああん!? ヤサがちょっとばかり傷んだくらいでガタガタぬかすお前ほどじゃないわ!」

「ちょっとじゃないだろちょっとじゃ! 地下室だからまだよかったけど上の教会なんて見る影もない、ほぼ倒壊しているんだぞ!」

「盛るなや! 最初からほぼ倒壊してるようなもんだったってファイたんから聞いて調べはついているんやでコッチは!」

「だからってトドメを刺したことを許せってのはいくら何でも都合がよすぎやしないかい!?」

「だからこうしてウチが頭下げてるんやから大人しく許せばいいんや許せば!」

「下げてみろよおぉっ! そう言うならまずは頭を下げてみたらどうだい!?」

「ほーか、じゃあ下げてやろうやないか、目ん玉かっぽじってよう見とれよ! せーの……どうもすんませんでしたぁっ!!」

「ほぎゃぁあああっ!! ……そ、それ……ただの頭突きだろうがぁ――っ!!」

「あいたぁっ! 脛を蹴るんやない脛をっ!!」

 

 そのまま取っ組み合いを再開するヘスティアとロキ。ちなみに小康状態を挟んで現在5ラウンド目に突入した。

 

「どうしましょうか? さすがにそろそろ止めたほうがいいんじゃ……」

 

 主神同士のキャットファイトに最初はおろおろしていたベルだったが、今はもう諦め気味の声色だった。いくら止めようとしても「これは神同士の崇高な会談(物理)なので子供たちは下がってなさい」(要約)と言われてしまえば黙っているしかない。

 

「此度の元凶は私だからな。ファミリアの主神同士でまずは話をつけるからひとまずは自分に任せておけ、口を出すな、などと言われてしまっているためあまり強く出れなくてな」

 

 さて、どうしたものか。ため息をつくセフィロス。ロキとヘスティア、仲が悪いとは聞き及んではいたが思っていた以上だったと呟いた。

 

 

 

 

 

 それはロキが鍛冶の神ヘファイストスと街頭でばったり出会ったことから始まった。

 

 ロキはヘファイストスをお茶に誘い、ヘファイストスは今は暇だからとこれを快諾。そして日々の些事を語り合う中で最近ツイてないことが多いという話題になった折、「ヘスティアも不運だったわね」という一言をぽろっと零してしまったのだ。余計なことを言ってしまったと口を噤んだ時にはもう遅い。それはもうロキは心躍った。ウキウキとした表情であの手この手を駆使して、事件の情報をヘファイストスの言動の端々から拾い上げて仔細をつまびらかにしてしまった。

 

 要約するにヘファイストスがヘスティアにファミリアの本拠(ホーム)として提供した、今は使われていない教会が原因不明の崩落をしたというのだ。

 

 ロキはそれはもう笑った。「ドチビ、運悪すぎぃっ!!」と大いに笑い転げ呼吸困難とひきつけを起こして比喩でも何でもなく天に還りかけた。

 

 そして、その話を朝食の席でセフィロスに向かい語り明かした。ほんの世間話の一環のはずだった。しかしセフィロスは話を聞いた途端「すまない、ちょっと出てくる」と言い残し、席を立ちどこかに出かけたのだった。帰ってきたセフィロスが深刻そうな表情で「大事な話がある」と告げてきた時、ロキはうっすらと確信めいた嫌な事実を掴んでしまった。

 

 ――切っ掛けはセフィロスが長年の特務から迷宮都市オラリオに帰還した当日、フレイヤ・ファミリアのオッタルとの小競り合いが原因であったという。

 

 まだ街も眠りから覚める前の早朝。密やかに起こった迷宮都市の誇る二人の冒険者の、もはや災害にも等しい激突はオラリオの住人にも気づかせないほどの恐ろしく静かな幕切れとなった。お互いにその一線だけは遵守せねばならないという暗黙の了解の下、オラリオの住人はおろか建築物にもほぼ被害は無かったのが大きな要因であろう。ただ一点。二人が最初に激突した場所。迷宮都市の一角、人の手がずいぶん長い年月離れてもはや廃墟同然となった区画にある打ち捨てられた廃教会だけは、一気呵成に振りぬかれた怪物二人の激突の余波をもろに受けて倒壊寸前の有様になってしまっていた。本来ならそんなものは誰にも顧みられないはずであった。まるで古代の遺跡を想わせるように、崩落した石造りの建物がそこかしこに転がっているような区画だ。一つ二つ建物が全壊したところで気にも留められないどころか、そもそも気づかれすらしないであろう。

 

 しかし如何なる偶然か、はたまた埒外の凶運か。

 

 その倒壊寸前となった廃教会こそ、新興ファミリアであるヘスティア・ファミリアの本拠(ホーム)であったというのだから笑い話にもならない……いやむしろロキとしてはもう笑っていられない事態だった。

 

「あ、これよう考えたらヤバい案件やん」という事に気づき頭を抱えた。

 

 最大手のファミリアの一角であるロキ・ファミリアの団員が設立して間もない零細ファミリアの本拠(ホーム)を早朝に襲撃して崩壊させた、などというのは外聞として割と本気でシャレにならない。なにせロキとヘスティアの不仲は割と有名である。形だけ見れば大手のファミリアの団員同士の小競り合いで、弱小ファミリアの一つが被害を被ったというよくある話なのだが、それがロキ個人の私怨から来るものであると言われれば正直なところ否定できる材料がない。ピンポイントで破壊されたのが憎きヘスティア・ファミリアの本拠(ホーム)である。これが偶然であると主張するにはあまりに出来すぎている。埒外の凶運と前述したが、これは本拠(ホーム)を破壊されたヘスティアはもちろん、ロキにも言えることだった。さもありなん。

 

 ロキ・ファミリアは迷宮都市オラリオを代表する最大規模のファミリアの一つ、当然それ相応の振る舞いが求められる。義も無い襲撃など周囲から突き上げられる良い材料である。ギルドが今回の件を嗅ぎ付ければ重く受け止めることは必至……いやむしろ重く受け止めねばそれこそギルドの存在意義に関わる。

 

 おそらくは金銭だろうが、まず間違いなくペナルティを課せられる。 

 

 流石にファミリアが傾くような金額を求められることは無いので、それ自体は大した問題ではない。しかしギルドが一つのファミリアにペナルティを課すとなれば、その理由の仔細まで大々的に公表する必要がある。それによって生ずる様々な問題を考えると波風を立てないに越したことは無い。

 

 いっその事、全てを忘れて知らぬ存ぜぬを押し通そうかとも思った。しかしもし万が一、事が露呈してしまった場合に相当面倒なことになる上、セフィロスの性格上、それを許すことも無いだろう。

 

 となると当然ロキ・ファミリアとしては被害者側であるヘスティア・ファミリアにまずは謝罪、という流れになる。

 

 ヘスティア・ファミリアの本拠(ホーム)を訪れたのはロキとセフィロスだけだ。伺う立場の者があまり大挙するのは望ましくない。まずは話がどう転がるにせよ必要最低限の人員で訪れるとなれば、必然的にこの二人になるのだった。

 

 ――その日、ヘスティアとベルの両名は遅めの朝食を食べていた。

 

 ヘスティアのバイトの休日に合わせて、ベルも日課となっていたダンジョンに潜ることを休みにすると決め、今日は二人でのんびり過ごそうかと談笑していた時のことだ。

 

『おらあっ、ドチビ邪魔するで!』

 

 突然来訪したロキにヘスティアの『帰れ!』の怒号が響いた。そもそも何でこの場所を知っているのかと、言葉を叩きつけた。

 

 何事かとひょこっと扉の向こうを見遣ったベルは、心臓が止まりかけた。

 

『ロキっ。……すまない。突然の訪問、礼を欠いていることは重々承知しているが少し話をさせていただきたい』

『まさか――』

 

 女性の名前がロキ……神ロキだというなら隣の男性は、その容姿に、纏った尋常ならざる雰囲気。

 

 まさか、まさか……と期待と混乱が極まり、つい口をついて出てしまった。

 

『まさか……セフィロス……さん、ですか?』

 

 憧れた英雄。

 

 それはベル自身が思っていたよりも大きな事柄だったようだ。

 

 返された言葉は『いかにも』だったか『ああ』と頷いただけか、それとも『初めまして』かもしれない。目の前の人物が、他ならぬ当人にセフィロス・クレシェントであると肯定を返された途端、ベルはオーバーヒートしてその場にぶっ倒れた。

 

 倒れたベルを見たヘスティアが激怒して、更に場が混沌となったのだがそれは割愛する。

 

 すったもんだのやり取りの後、一応は話し合いの席につけたわけだが……

 

『やれやれ、こんな僻地まで歩いてきたせいで喉カラカラや、まずは茶ぁや』

 

 まずこれが大変よろしく無かった。どう考えても謝りに訪れた側の態度ではない。

 

『ケッ、しけたホームやのぉ、ウサギ小屋かなんかか?』

 

 続けざまで言い放った言葉がこれだ。この時点でヘスティアは盛大に額に青筋を浮かべて固めた拳を腰だめに構えた。ベルがそれを必死で止めていた。

 

 ロキはソファにどっかりと座ったまま、背もたれに腕を乗せ、ゆったりと足を組んだ。まるで下民に対応する王侯貴族のような太々しい態度でフンと鼻を鳴らした。そしてロキはヘスティア・ファミリアの本拠(ホーム)崩壊の真実を、相手が言葉を差し挟む暇もないような怒涛の速さで言い放った。

 

『――んでもってそういうわけでここにいるうちのセフィロスとフレイヤのところのもんがちっとばかりやらかした結果こうなったわけや』

 

 最後に一言。

 

『ま、悪かったな。許せや』

 

 それが試合開始のゴングだった。

 

 ヘスティアが雄叫びを上げながらロキに飛び掛かった。

 

 

 

 

 

「話を戻すが」と前置きを入れてからセフィロスは語り始めた。

 

「喧嘩という行為自体は別に悪いことばかりではない、と先程言ったが悪くも無ければ良くも無いという事でもある」

 

 二人の目の前には絶賛喧嘩中の主神二柱がいる。ヘスティアはロキの二の腕に噛みついて、ロキはヘスティアの頬を引っ張っていた。

 

「お互いを理解しようとするわけでもなく、ただ突っぱねるように否定するわけでもない。お互いの長所短所を知った上でそれはそれとしてお前が気に入らないと、もはや定型文と化した罵詈雑言を叩きつけあう。お互いにこいつには何を言ってもいいと思いつつ本当に最後の一線に踏み込むことはしない。かといって手を緩めるわけでもない。例えるならば片手で握手しながらもう一方の手で殴り合って足で蹴りあって頭突きの応酬を繰り広げているようなものだ。小さいながらも厳格なルールがあるがそれ以外は何してもOKという一見矛盾だらけの関係だ」

「あの、それって本当は仲良い……」

「やめておけ。それが耳に届いたらたとえ体力気力が底をついていてもムキになって反論してくるぞ」

 

 言外に面倒だから黙っていたほうがいい、とセフィロス。ベルも全くもって同意であった。

 

「少しばかりしゃべりすぎたな」

「……ええと、つまり」

「色々お互いが気に入らない理由を装飾しているが、根本的にソリが合わないんだろう。元凶である俺では口を挟みにくいというのもあるが、なんだかんだでストレスを吐き出せているんだから、この際飽きるまでやらせておけばいい」

 

 二人が視線を向けた先にはお互いの首を絞めあって顔を青白くしているロキとヘスティアがいた。

 

「あの……これ本当に放っておいていいんですか?」

「……そろそろ止めるか」 

 

 ヘスティアをベルが、ロキをセフィロスが引き離し落ち着ける作業に十分ほどを費やし、ようやっと腰を据えて話し合いが出来る態勢を整えた。ロキとセフィロスが並んでソファに座り、ヘスティアとベルが並んでベッドに腰かけた。ヘスティアとロキは歯をむき出しにしてまだ睨み合っていた。「まずは」とセフィロスがおもむろに立ち上がると「ちょ、おいっ」と静止するロキの声を振り切って、ヘスティアの前で膝をついた。

 

「へ?」と目を丸くするヘスティアに(こうべ)を垂れ、恭しく口を開いた。

 

「神ヘスティア。御身に伏して深く謝罪を。此度の件は私の不注意が招いた事。神々に対しての許されざる不敬、本来であればこの身命を賭して償わねばなりますまい。しかし私の剣はすでに仕えるべき主神へと捧げている。差し出がましくも愚考するに、御身の名をこの背に掲げるには周囲に齎す影響は決して看過できるものではなく、それは御身にとっても喜ばしくない事態となりましょう。されども我が宿意と縁に相違することでなくば、この身を一助とすることに何の躊躇いもなし」

「え……は? な、なんて……?」

「私に出来る力添えでしたら如何様にも……」

「ちょ、待ちぃや! このドチビにそんな全面降伏みたいな真似をやなぁ……っ!?」

「最初から私が悪いのだから降伏も何も無いだろう」

 

 セフィロスがそっと目で制すると、ロキもセフィロスの意思を汲んでか「ぐぅぅぅっ!」と悔しそうに唸りながらも矛を収めた。

 

「そんなこと言われてもコッチは危うく生き埋めにだねえ……っ」

 

 ヘスティアは肩を怒らせながら立ち上がった。ツインテールが檄したように跳ねた。怒りのままに口を開こうとして……しかし自分に向かってずっと深く頭を下げたままのセフィロスを見て口ごもった。煮えたぎった言葉の塊が喉の奥までせり上がっていたが、行き場を失い、気づけば飲み込んでいた。ベルも「神様……」と縋るような眼で自分を見上げている。

 

「うー、あー……もう!」としばらく唸っていたが、ベッドに座り直し、胡坐を組みながら「分かったよ!」と声を張り上げた。

「分かった、分かりました! ほら、顔を上げて。もう、地上の子供達にそんなふうに真摯に謝られたら許さないわけにはいかなくなるじゃないか」

 

 セフィロスが顔を上げると、ヘスティアはしょうがないなあと言うように笑って見せた。セフィロスは目を伏せるように一礼した。

 

「御身に深き感謝を……噂に違わず慈悲深きお方のようだ」

「じ、慈悲深い……? や、やだなぁ、そんなふうに改まって言われると照れちゃうじゃないか」

「そうです! 神様はとってもお優しい方なんです!」

「べ、ベル君まで……やめてよ、もう!」と頭を抱えて、くすぐったそうに身を捩るヘスティア。

 

 そんなやり取りにいつの間にやら蚊帳の外に置かれていたロキはたまらず声を上げた。

 

「おうぅぅい! うちは!? うちそんな神様らしい扱いしてもらったことないで!?」

「神ロキ」

「お、おう?」

 

 たじろぐロキ。セフィロスは

 

「深く謝罪を。私の不徳によって御身にまでご足労いただかねばならない事態となった。処分は如何様にも」

「気にせんでもええんやで!」

 

 ロキは満面の笑みである。

 

「うわっ、ちょっろ……」

「うっさい、お前に言われたないわドチビ」

 

 

 

 

 

 ボクとしても話しづらいからいつもの口調で、とヘスティアに告げられいくらか砕けた口調になったセフィロスは話を進めた。

 

「正直なところ、ロキ・ファミリアには敵も多く、言ってしまえば関わる事柄に悪意を持った見方をされやすい。理由はどうあれ大々的に金銭的な援助をすると、巡り巡ってそちらのファミリアに何らかの不利益を与えかねないことを懸念している。具体的には周囲からヘスティア・ファミリアはロキ・ファミリアの下部組織だ、というように見なされかねない」

 

 謝罪だけで済ませるには事が事だ。目に見える形での誠意を示して、初めてお互いにこの件はもう言いっこ無しと結論付けられる。

 

「うちはそれでもいいけどな」とけらけら笑うロキに、「冗談じゃない!」と憤慨するヘスティア。

「もちろん、賠償として必要な分の金銭は私が用立てる」

「んー、それくらいうちのポケットマネーで出したる。どうせこんな廃墟に毛が生えたような建物の修繕費なんて最初からたかが知れてるわ」

「キミ、ちょいちょい悪態を挟まないと会話できないのかい?」

 

 また取っ組み合いを始めかねない雰囲気になり始めた二柱に、セフィロスは言葉を差し挟んだ。

 

「そういうわけにもいくまい。私とて責任は感じている」

「真面目やなあ。ええんやで、ヤサ自体は無事なんやから。言ってみれば外壁が剥がれてちーっとばかり見栄えが悪くなった程度のもんやでコレ」

「うん、その通りなんだけどキミが言っていいことじゃないぜ、ソレ。ボクが言うべきセリフだから。っていうか話を聞くに、今回の件はフレイヤのところの子にも原因があるみたいなんだけど。肝心のフレイヤはどうしたのさ?」

「うちらに任せると。自分は話がついてから後で改めてごめんなさいするって伝えてくれ言うとったわ。ナメくさりおって、あのアマ」

 

 けッと舌打ちするロキ。

 

「そういうわけで。金銭的な面だけはどうしても制約が出てくるってわけや。んで……ぶっちゃけ他に何か欲しいもんはあるか? 金の流ればっかりはどうしても足がつくから秘密裏にってわけにもいかんけど、それ以外の武器やら物資やらは多少融通はきかせられるで」

「うわ、気持ちワルッ! なんでそんなに気前がいいのさ?」

「あほぅ。こうしてアンタにいつまでもヘイコラするのは我慢ならんから、負債じみたもんは上乗せして返済しておきたいんやコッチは」

「ふん、じゃあそんなの御断りさ。君に施しを受けるみたいで面白くない」

 

 そりゃ足りないものは山ほどあるけど! と叫びながらも、ヘスティアがそれを要求してくる様子はない。

 

 双方意固地になって、このままでは平行線である。

 

「では、こういうのはどうだろうか」と睨み合う二柱にセフィロスが割って入った。

 

「ベル・クラネル」

 

 セフィロスはベルに視線を向けた。

 

 若干話に置いてけぼりになっていたベルは、突然の誰何の声に「は、はいっ?」と軽くどもりながら肩を跳ねさせた。

 

「このファミリアの団長として、単純に君が今、このファミリアに必要だと思うものを言ってほしい」

「ちょっと君、勝手なことをだね……っ」

「申し訳ない。しかしこうでもしなければ話が進まないと感じた」

 

 三人の視線がベルに注がれる。

 

 ベルとしてはこれはだいぶ困った展開になったというものである。責任重大だ。先程ヘスティアが述べた通り、このファミリアに足りてないものなど山ほどある。武器や防具に関しては担当であるエイナに身の丈に合ったものを使用しないと後々痛い目に遭うと口を酸っぱくして言われている。しかし少しくらい上のグレートの物を望んでもいいのではなかろうか。特に防具は命に直結する。それとも食糧はどうか。いやいやむしろポーションの類のほうがよほど重要ではなかろうか。

 

 このファミリアに必要だと思うもの……。

 

 頼まなくても、頼みすぎても駄目。

 

 色々な思考が入り混じり、ベルは返答に窮して、困り果てた瞳でセフィロスを見返した。そこにはまっすぐに自分を見据える憧れの英雄の瞳がある。

 

 ベルはひゅ、と息を飲んだ。

 

 それはまるで問われているようだった。この状況で何を選ぶのか、ファミリアに必要だと思うもの……それを通して自分の冒険者としての資質を見通そうとしている。そうベルは感じた。考えすぎかもしれない。セフィロスは単純に尋ねているだけかもしれない。しかしベルにとって、その問いかけは自分に対する試練の一つのように思えた。英雄に憧れて迷宮都市を訪れた。いくつものファミリアから門前払いをされ、そんな自分を拾ってくれた神ヘスティア。

 

 なんだ、なんだ、なんだ、なんだ、なんなんだ……っ。

 

 憧憬。恩義。夢。

 

 様々な考えが頭を駆け抜ける。頭が焼き切れそうなほどに知恵を絞り、そしてオーバーフローしたように真っ白になった思考の中で、ふっと一つの答えがいつのまにか口をついて出ていた。

 

「……知識を」

 

 ベルはセフィロスの眼をまっすぐに見返した。

 

「僕に……ダンジョンについての知識を教えてください」

 

 その言葉にロキは「ほぉ」と感心したように細い目を見開いた。ヘスティアも目を丸くしていた。

 

「なぜそれを欲したか……聞いても?」

 

 セフィロスは静かに問いかける。ベルは身じろぎ一つすることなく、ひたとセフィロスの瞳を見据えて答えた。

 

「今、僕に、このファミリアに必要だと感じたものはダンジョンについての知識です、ノウハウです。先達のいるファミリアならそれを教えてもらうことが出来るでしょう。でも僕にはそれができません。でもこのファミリアに団員が増えてくれば、いずれ僕がその役割を担います。そしてそれは僕一人の問題じゃありません。僕の後に続く団員や、ひいては神様のためになります。最大手のファミリアが蓄積してきたダンジョンに挑むためのノウハウは、たとえその断片であっても今ようやくスタートし始めた僕たちにとって単純な金銭以上の価値があると感じました」

 

 ベルはここが正念場だというように、一度大きく息を吸った。

 

「だから……お願いします! 僕に冒険者が知っておくべきことを教えてください」 

 

 

 

 

 

 ――ロキとセフィロスは帰路についていた。

 

 

 

「どつきあいをしたのは狙い通りか?」

 

 セフィロスが隣を歩くロキに向かって問いかけると、ロキは片方の眉を上げていたずらっぽく笑った。

 

「お、やっぱ分かるか?」

「いくらなんでもあの煽り方は明け透けすぎるだろう」

「わっはっはっ、まああのドチビは気づいてへんかったけどな!」

「そればかりは相手が悪かったと言うべきだろう。奸計を用いる事において貴女ほどの者もそうはいないだろうに」

「ま、うちらからしたら落としどころを定める前に、ギルドに駆け込まれて介入されるのが一番面倒な展開になったからな。まあ、あれだけブチギレれば目の前のうちのツラをぶっ飛ばさずにはいられないやろ。冷静な思考なんざフッとぶってもんや。あとはホレ、お前さんが上手いこと纏めるやろ」

「……信頼していただいて何よりだ。元より俺の過失だ」

「拗ねるな拗ねるな! たしかになんも伝えんとやらかしたんは悪い思っとるんよ! ……しっかし、うちとしてはある程度のダンジョンについての知識やらノウハウを供給してお茶を濁すかと思うたんやけど……あれでよかったんか?」

「そこまで大仰なものでもないさ。知識の伝え方が書物か口頭でかの程度の違いだ」

「いやいやそれを周りの連中がどう捉えるかってのが重要でな、反応が怖いで?」

「問題ない。他のファミリアに漏れればヘスティア・ファミリアに好奇の視線が注がれることは俺とて理解はしている。細心の注意を払うさ。もっともベルの担当であるエイナ女史には伝えておく必要があるだろうが。むしろこれは誠意の問題だ。文章だけでは伝えきれない事柄が多々ある。俺に出来る範囲での償いはするさ」

「そか、まあセフィロスがいいならいいんやけどな」

 

 セフィロスにも聞こえないような声で、ロキはぽつりとつぶやいた。

 

「うちが言ってる周りの連中の反応がオモシロ……もとい怖いってのは他ファミリアの有象無象じゃなくて、うちのファミリア内の連中のことなんやけどな」

 

 

 

 

 

      ◆      ◆      ◆      ◆

 

 

 

 

 

 セフィロスは声を潜めた。

 

 ファミリアの中でも内密で頼む、と前置きをした。

 

「俺に弟子……というほど大層な物じゃないが教え子のようなものができた。他のファミリアの団員で、まだまだ駆け出しの冒険者なのだが」

「はぁっ!?」

 

 リヴェリアにしては珍しく素っ頓狂な叫び声だった。

 

「理由はフィンも交えて話す」

 

 どういうことだ、とリヴェリアが問い詰めようとするが、それよりも先に声を上げる人物がそこにはいた。帰ってきていた。

 

「オイ、そりゃあ何の冗談だ?」

 

 静かでいながら、怒気を孕んだ声だった。

 

「……聞こえていたか。さすがに耳がいいな――」

 

 セフィロスがそちらに視線を向けた。

 

「――ベート」

 

 ベート・ローガ。

 

 凶狼(ヴァナルガンド)の二つ名を持つロキ・ファミリアの一級冒険者がそこに立っていた。

 

 その瞳で燃え滾っているのは失意にも似た激しい怒りだった。

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。