Steal Art Online   作:バンバンブー

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昼間のスクエアは基本的に日和見


昼間のスクエア1

ーーチチッ

 

顔の直ぐ近くで、ネズミを思わせる鳴き声が聞こえる。その声につられてベッドで眠っていたスクエアが薄っすら目を開けると、薄茶色の体毛が体を覆う小さなネズミの姿があった。そのネズミは、体の倍程の長さがある針金のような細い尻尾を折ったり曲げたり捻ったりと複雑に動かしながら、スクエアが起きるのを待っていた。

 

「おはよう。ミック」

 

スクエアはミックと呼んだネズミの頭を指先で軽く撫で、ゆっくりと体を起こした。

 

グイッと体を伸ばしてから小さく息を吐き、ダランと手をベッドに放って脱力する。すると、ミックはその腕をよじ登り定位置であるスクエアの左肩で腰を落ち着けた。

 

軽く頭を振り眠気を飛ばして外を見ると、太陽は中天を通り過ぎて西に傾き始めたところだった。

 

「昨日は遅かったからなあ……と言っても、流石に寝すぎか」

 

ベッドから立ち上がり、メニューウィンドウを操作して装備品を寝巻きから戦闘用のものに入れ替える。すると、薄いグレーのインナーが微かに光り、瞬く間に深緑色を基調とした布装備に変化した。

 

鏡も使わずにざっと身だしなみを確認し、次いでポーチの中にある回復アイテム等の確認をする。

 

可笑しなところも不足がないことも確認し、毎朝のルーチンワークを終えたスクエアはもう一度ウィンドウを操作して腰に90cmくらいの黒みがかったステッキを出現させて部屋を出た。

 

◇◆◇◆

 

春になったばかりという事もあり、外の空気はまだ肌寒い。露出した手のひらをポケットに突っ込んで寒さから守りながら、スクエアは第一層《はじまりの街》のメインストリートをのんびりと歩いていた。

 

お昼過ぎであるためストリートにいるプレイヤーの数は多く、今日の収穫をパーティ内で自慢しあったり、レストランやカフェテリアで料理を囲んだりと楽しそうな姿がたくさん見える。そんな陽気な雑踏に、スクエアも思わず頰を緩ませた。

 

しかし、人で溢れているからこそ起きる不幸もある。

 

何気無く正面から逸らした視線の先でスクエアが見たのは、数人の男性プレイヤーが自分よりも年下と思われる少年と共に路地裏に入っていくところであった。

 

いや、入っていったというよりは連れ込まれたと言った方が正しいであろう。友人と待ち合わせしているのか、はたまたソロプレイヤーでフィールドから帰ってきたのかは分からないが、一人でストリートの端っこを歩いていた少年の腕を掴み引きずり込んだようにスクエアには見えたのだ。

 

今のメインストリートのように人が多いと場所だと、自分の身内を見失わないようにするため他人にまで気を使うことができない。また、この雑踏が助けを求める声を掻き消してしまう。少し信じられない話ではあるが、そういった事を知っているのか人混みの中でも悪事を働く人間は存在するのだ。

 

「これはきな臭いなあ」

 

ひとり呟いたスクエアは、静かに少年の引きずり込まれた路地裏に足を向けた。

 

人波の中を立ち止まる事なくするすると進んで行き、あっという間に路地裏の入り口まで辿り着く。無遠慮に壁から顔を出して路地裏を覗くと、やや奥の方に四、五人くらいの人集りが見えた。顔をよく見ていなかったから確証は無いが、恫喝するような声が聞こえるためさっきの男たちで間違いないだろう。

 

これからどうしようか、とスクエアが考えながら路地裏の様子を伺っていると、少年を取り囲む男たちの一人と目が合った。

 

スクエアと目が合った男は一瞬表情を強張らせたが、相手が子供だと気づくとこちらを睨みつけて声を荒げた。

 

「何見てんだ!」

 

その声につられて、他の男たちもスクエアの方に視線を向けた。

 

こちらを睨みつける男たち目が四対に、救いを求めるような少年の目が一対。合わせて五人分の視線に晒されたスクエアは、首を竦めてそそくさとその場を離れた。

 

臆病風に吹かれたかのようなその姿に、男たちは嘲りの声を上げる。それに紛れて少年の助けを求める声が聞こえる。

 

しかし、それらに構わずスクエアは路地裏を離れた。ただし、その表情に男たちを恐れた様子はなく、獰猛な笑みを浮かべいた。

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