Steal Art Online   作:バンバンブー

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今回、ヒロイン登場


鼠と泥棒

夕闇に沈む第十九層。現在の最前線より少し下の階層にスクエアは来ていた。

 

最前線のすぐ近くという事もありこの階層を拠点としているプレイヤーはまだまだ多く、迷宮区までの中継地点と言える小さな村にも緑のアイコンを浮かべた人の姿がちらほらと見える。

 

ポーチの中で回復結晶と一緒に眠っているミックを起こさないようにのんびりと歩きながら、スクエアは村の中央付近にある二階建ての建物に入った。

 

この建物は一階が酒場、二階が宿屋になっており、扉を開けると、まず開けたスペースに並べられた木製の簡素な丸テーブルとカウンター席が目に映り、そのほとんどをプレイヤーたちが埋めていた。

 

みんながみんな思い思いに酒を呷り、今日の疲れを癒す。酔っ払ってやけに上機嫌だったり、意味もなく泣いていたりするプレイヤーもいたりする。しかし、彼らは本当にアルコールを摂取している訳ではない。SAOは未成年も遊ぶ事が可能なゲームであるため、法律などを意識してアルコールの再現はしていないからだ。

 

その代わりと言えばいいのか、味に関してはかなり拘って再現されている。そのため、酒場の雰囲気と合わさって本当にアルコールを摂取しているかのような感覚に陥って酔っ払ってしまうプレイヤーが相当数存在しているのだ。

 

しかし、これはスクエアにはイマイチ分からない感覚であった。

 

と言うのも、再現されている酒はどれも苦味が強いものばかりであり、例外があるとしても《蜂蜜酒》のようなゲームでもお馴染みの《アイテム》だけで飲酒しているような感覚にはならないからだ。

 

これは、ゲーム内で飲酒をした未成年が現実でも飲酒をしてしまうのを防ぐための配慮から来ている。そのため、アルコールを知らない人からしたらSAO内の酒とは何故好き好んで飲むのか分からないような代物だったりするのだ。

 

ちなみに、飲みやすい酒と同じ味がする飲み物も存在するにはするが、それらはカフェテリアや茶屋などのオシャレ感溢れる店でジュースとして売られているため、今までにそれらを飲んで酔っ払ったプレイヤーはいない。

 

何事も、雰囲気というものは大切なのだ。

 

閑話休題。

 

酒場をグルッと見渡したスクエアは、カウンター席の端っこに室内だというのに褐色のフードを被った小柄なプレイヤーを見つける。フードを被ったそのプレイヤーはカウンター席の左から二番の席に座っており、他のプレイヤーと絡むことなく一人で静かに木製のジョッキを傾けていた。

 

「グッドイブニーング」

 

スクエアは、そんなフードを被ったプレイヤーのわざとらしく空けられた左隣の席に着き、その人物のフードの奥を覗き込む。

 

フードに隠れた顔は、高校生くらいの少女のものであった。

 

突然、一人の空間を邪魔された少女は、金色の瞳でジロリと無礼者の顔を睨めつけるが、相手が自分の知った顔だと気がつくと、フードの奥で髭のようなペイントがされた頰を上げニタリとした笑みを浮かべた。

 

「待ち合わせより少し遅いんじゃないカ。スー太郎?」

 

男勝りな口調でスクエアを妙な呼び方で呼ぶ少女。くるんとした金褐色の巻き毛髪と特徴的なフェイスペイントは愛嬌があって可愛らしいが、そのふてぶてしい眼光と合わせると途端に狡猾なネズミに見えてきて素直に可愛いとは言いがたい。

 

この少女こそが、SAOで最も有名な《鼠のアルゴ》の異名を持つ情報屋であり、スクエアと協力関係にあるプレイヤーであった。

 

昨晩メールを送った人物もアルゴであり、スクエアは今回アルゴに集めてもらった情報を受け取るためにこの酒場を訪れたのだ。

 

「ミックが寝ちゃったからゆっくり来たんだよ。それよりアルゴ、いい加減その変なニックネームやめてくれないかな?」

 

「にゃハハハ! それはダメだナ!」

 

「ヒッデェ」

 

スクエアの要望を一笑のもと断るアルゴ。それを受けてスクエアが肩を落としてショックを受けましたといった態度を取るも、特に気にした様子も無く持っていたジョッキを呷る。

 

そんな二人の態度から、お互いに気心の知れた仲であることが伺えた。事実、先ほどの掛け合いは会うたびに繰り広げているものであり、スクエアが肩を落としたのもただの演技である。

 

「それで、最近の調子はどうですか? 何かいい情報手に入りました? もしありましたら是非頂きたいのですが」

 

演技から一変、揉み手をしてご機嫌取りをするスクエア。

 

「なんだスー太郎。オイラからタダで情報を手に入れようっていうのカ?」

 

そんなスクエアを、アルゴはジトッとした目で睨みつける。

 

「いいじゃないですか、別に」

 

「ダメだヨ。スー太郎だけ特別扱いしちゃあオイラのお髭の沽券に関わるからナ。………でもまあ」

 

プイッとそっぽを向くことで拒絶を表す。その後、小さく呟くように言葉を漏らすと、アルゴはメニューウィンドウを開いてスクエアの方にスライドさせた。

 

スクエアの目の前に流れて来たのは、二枚のウィンドウ。酒場のメニュー表と、それに隠すように浮かぶあの少年の指輪を奪った男たちに関する情報であった。

 

「贔屓にしてもらってるしナ。今日はオネーサンが奢ってやるヨ」

 

そして、人差し指を立ててコケティッシュな流し目をスクエアに向ける。

 

対してスクエアはと言うと、アルゴから受け取った直後からウィンドウを食い入るように見つめており、アルゴの視線には全く気付いていなかった。

 

「………」

 

「いたっ⁉︎」

 

なんとなくそれが不満に思い、アルゴはスクエアの足を軽く踏みつける。

 

突然の暴力にウィンドウからアルゴに視線移してスクエアは目を白黒させる。それを見て、アルゴは少しだけ溜飲を下げた。

 

「………で、何か気になるのはあったカ?」

 

「うーん………まあ、売られてないならいいかな。これから売りそうな雰囲気も無いんだろ?」

 

「無いナ」

 

「じゃ、大丈夫だな」

 

そう言いながら、スクエアは依頼情報が載ったウィンドウを閉じる。そして、アルゴが一声掛ける間を与えない早さでメニュー表からホットミルクを選択して注文を済ませた。ほとんどタイムラグ無く木製のコップが目の前に現れ、スクエアは心持ちドヤ顔でアルゴに向かって言った。

 

「今日は奢ってくれんるだろ?」

 

「そうは言ったけど、断りもなく注文するのはどうかと思うゾ」

 

「ゴチになりまーす」

 

「スクエア、流石のオネーサンでもぶん殴るゾ」

 

「………ごめんなさい」

 

目が本気なことに気が付き、スクエアはすかさず謝った。

 

「………はぁ。頼んだモンは仕方ないナ。その代わり、一品だけダ」

 

「ありがとうございます」

 

アルゴの許しが出たところで、スクエアは目の前のコップを手に取った。

 

丁寧に木を削って作られたコップにはホットミルクが八分目まで注がれており、酒場にはあまり似つかわしくない上品な甘い匂いを辺りに漂わせる。その匂いを十分に堪能してから、少しずつホットミルクを口に含んで飲み込む。蜂蜜と砂糖が混ぜられた優しい甘さが身体中を駆け巡り、スクエアは気が付けば、ほっ、と息をついていた。

 

「やっぱりスー太郎はミルクを頼むんダナ。たまには蜂蜜酒とか飲んでみたらどうダ?」

 

「大人でも無いのにお酒飲むのって、何だか気がひけるんだよ。犯罪だし」

 

「イヤ、普段からオマエがやってる事も犯罪だからナ?」

 

「俺の場合はほら、カーディナルが赦してくれてるからノーカンノーカン」

 

そう言って自身の緑色のカーソルを指差してケラケラ笑うスクエアは、同時に申し訳なさそうでもあった。

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