Steal Art Online   作:バンバンブー

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お久しぶりです。
予想以上にグダグダです。


朝のスクエア

はじまりの街のメインストリートから外れた路地裏。数日前に指輪を奪われたこの場所に少年は再び訪れていた。

 

朝焼けに照らされて街が少しずつ明るさを取り戻しつつある中、少年にとって嫌な思い出しかないこの場所に訪れたのは、今朝少年が目を覚ますと《ラットピス》からメールが届いていたからだ。

 

このメールを受け取った少年は文字通り部屋を飛び出し、大慌てでこの場所に駆けつけた。

 

しかし、少年が路地裏に着いた時、そこには誰もいなかった。

 

落胆し、早とちりだったのかと少年が待ちぼうけていると、突然背後から足音が聞こえてきた。

 

徐々に近づいてくるその足音に少年は期待を込めて振り返ると、そこには霞のような全容の掴みにくい灰色の影が立っていた。

 

幽霊のようなその存在に、少年は驚き二、三歩後ずさる。それに構わず灰色の影は少年に歩み寄り、お互いに手を伸ばせば直ぐに届く距離で足を止めた。そして、メニューウィンドウを出現させるような仕草を見せたあと、何かを握り込んだ拳を少年に向けて差し出した。

 

受け取れ、とでも言うようなその仕草に、少年は恐る恐る拳の下に両手のひらを上にして差し出す。

 

灰色の影が拳を開く。そこから落ちてきたのは、見覚えのある指輪であった。

 

驚愕で目を見開き、灰色の影の顔にあたるであろう部分を見つめる。

 

灰色の影は小さく頷いた。

 

もう一度、少年は指輪を見つめた。二度と戻って来ないと思っていたものが、こうして再び自分の元に戻ってきた。指輪の微かな重みがその事実を肯定し、少年は歓喜に打ち震えた。

 

「ありがとうございます!」

 

いつの間にか、少年に背を向けて路地裏から出ようとしてきた灰色の影に深く頭を下げる。

 

灰色の影は立ち止まり、振り返ると小さな声で答えた。

 

「またのご利用のない事をお祈り申し上げます」

 

それだけ告げて、灰色の影は路地裏から姿を消した。

 

◇◆◇◆

 

第一層で少年に指輪を返した後、スクエアは依頼部屋のある宿屋をチェックアウトし、直ぐに九層の主街区に足を運んだ。第九層を選んだ理由は特に無く、宿代の最初の数字が9だったというだけである。

 

「いやぁ、終わった終わった。久しぶりに長丁場だったなあ」

 

メインストリートを歩くスクエアは、欠伸を噛み殺しながら、街の中央に向かうプレイヤーの波に宛てもなく流されていた。

 

明け方のこの時間帯は昼組と夜組のプレイヤーが入れ替わる時間であるため、街の中央に向かうプレイヤーたちは十中八九自分の宿屋への帰途にある。そのため、そんなプレイヤーたちに着いて行けば、あまり知らない街でもほとんど迷わずに宿屋に辿り着くことができるのだ。

 

「それにしても、あいつらどんな顔するんかねぇ」

 

キシシ、とでもいうような、いっそわざとらしい悪どい笑い声を漏らす。思い浮かべているのは、当然あの男たちである。

 

目を覚ましたら、指に嵌めていた指輪が消え去っている。部屋の中を探し回るが、あの指輪は見つからない。周りにいるのは自分の仲間。しかし、盗みを平気でやるようなヤツらでもある。………もしかしたら、コイツらの誰かが盗んだのでは?

 

「とか考えそうだよなあ」

 

完徹特有の妙なテンションで妄想を膨らませ、笑いを漏らすスクエア。雑踏で掻き消されているため注目こそされていないが、どう見ても変人のそれである。

 

いや、一人だけその様子を見ている人物が存在していた。

 

「朝っぱらから随分と悪い顔してるナ」

 

「うおっ⁉︎」

 

からかい混じりに話しかけて来たのは、いつの間にか直ぐ隣まで近付いていた褐色のフードを被ったアルゴであった。

 

アルゴの接近に全く気づいていなかったスクエアは驚いて飛び退り、近くを歩いていたプレイヤーとぶつかってしまう。幸い転倒などはしなかったが、迷惑そうな目を向けるプレイヤーにスクエアは平謝りするしかなかった。

 

「………マア、その様子なら無事終わったってところか」

 

「おかげさまでね。戦闘は一切起こらず、サクッと終わらせることができたよ。ただ、アイツらの帰ってくるのが遅すぎて眠いこと眠いこと」

 

今度は大きく欠伸をして、自分の疲労具合をアルゴに伝える。そうすると、アルゴは小さく「お疲れ」と言葉をスクエアにかけた。

 

アルゴからあんまり聞いたことのない類の言葉に、スクエアは鳩が豆鉄砲を食ったような顔を浮かべざるを得なかった。

 

「………なになに? 心配で様子見に来てくれた感じ?」

 

「ン〜………。マ、そういうことにしとけ」

 

戸惑いながらの質問に、アルゴは曖昧な答えを返した。

 

それに加え、意味深な笑みとフードからこちらを覗き込むコケティッシュな瞳にますます何も言えなくなるスクエア。こっちは今年で成人だというのに、慎重差のせいで子供に弄ばれているような気がしてならない。

 

「………んじゃ、そういうことにしておく」

 

唯一思い浮かぶ反撃は、素直に受け取ることしかなかった。これで痛み分けになるかどうかは分からないが、取り敢えず良しとする。

 

「………くくく」

 

ところが、一人満足していたスクエアの耳に嚙み殺すような笑い声が届いた。見れば、俯いて肩を上下に不規則に揺らすアルゴの姿がある。

 

ああ、これは謀られたんだな、とスクエアが理解すると同時に、閉じ込められていた空気が飛び出すかのようにアルゴの笑い声がストリートに響いた。

 

「ニャーハッハッハッ! なにマジメに答えてんだヨ、スー太郎! オイラはたまたま情報収集のためにこの層に来ただけだヨ!」

 

腹を抱えて大爆笑するアルゴ。もしここが宿屋やマイルームだったら、恐らくベッドの上で転げ回っていたであろう。そんな勢いである。

 

さて、そんな勢いで笑っているのだから注目されるのは当然であろう。次第に集まってくる往来を行くプレイヤーたちの視線に、スクエアは針の筵にされていた。

 

「おーい、アルゴさん? そろそろ人の視線がですね」

 

「アレくらいで動揺するなんてオマエどんだけ耐性ないんダ⁉︎ 初心すぎるダロ!」

 

「う、うるさい!」

 

結局、アルゴの笑い声は満足するまでストリートに響き続けた。

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