人型。獣。昆虫。鳥。岩石。幽霊。半液体。様々な姿形で浮遊城《アンイクラッド》のフィールドを闊歩するモンスターたち。その千変万化の姿と能力でプレイヤーに襲い掛かる彼らであるが、全てのモンスターがそうというわけではなく、それ以外の性質を持ったモンスターも存在している。
その性質は大きく分けると三つに分類される。
一つ目は、非好戦的モンスター。
彼らは、
二つ目は、中立モンスターと呼ばれるモンスターたちである。
フィールドやダンジョンに配置された強力なモンスターの多く分類されており、ある一定の条件を満たさない限り攻撃してこないというのが最大の特徴である。また、逆に一定の条件を満たすと一時的にプレイヤーに協力的になるというタイプもある。
そして、最後が好戦的モンスターである。
積極的にプレイヤーに攻撃を仕掛けるモンスターのことを指し、プレイヤーたちの脅威となる存在である。大半のモンスターがこれに分類されるのは言わずもがなだ。
さて、このように分類できるモンスターたちであるが、《プレイヤーに懐かないという》という点は一緒である。
好戦的モンスターは文字通りであり、非好戦的モンスターはプレイヤーに近づこうとしない。場合によっては最もプレイヤーと関わりが深くなる中立モンスターだとしても、協力的なのは長くて一クエスト程度であり懐いたとは言えない。
しかし、極稀に、小動物型モンスターに限り好戦的、非好戦的なモンスターの場合は襲い掛かってくることなくプレイヤーに近づく、中立モンスターは協力関係が切れても後を付いてくる、などといった友好的な興味を示すイベントが発生することがある。
この時、そのモンスターの餌をあたえるなどして飼い馴らすことにより、そのモンスターを《使い魔》にすることができる。
そんな幸運を手に入れたプレイヤーは、賞賛とやっかみを込めて《ビーストテイマー》と呼ばれていた。
◇◆◇◆◇
「あの、ピナを助けていただいてありがとうございました」
水晶の煌めく洞窟の中でツインテールの少女がぺこりと頭を下げた。その華奢な肩には、ペールブルーの羽毛で包まれたピナと呼ばれた小さなドラゴンが留まっており、少女と一緒に頭を下げている。
「いやいや、気にしないで。同じビーストテイマーのよしみってやつだよ、シリカちゃん」
そんな少女を前にして、スクエアはへらへらしながら照れを誤魔化すように手に持った黒塗りのステッキをクルクルと回して遊んでいた。その左肩にはミックがおり、目の前の少女と小竜をじっと観察している。
「私の名前、知ってるんですか………?」
初めて会った男性に自分の名前を呼ばれたシリカは驚きで目を丸くし、それから警戒の色を見せて半歩後ろに下がった。
そんな様子にショックを受け、同時にそりゃそうかと納得するスクエアは、黒塗りのステッキを腰から下げた留め具にぶら下げて何もしないことをアピールするように両手を開いた。
「そりゃあ、《フェザーリドラ》をテイムしたっていう《竜使いシリカ》の話は中層辺りじゃ有名だからね。使い魔はビーストテイマーの名札みたいなものだからすぐ分かったよ」
厳密には、スクエアは中堅攻略組くらいの実力がありメインの活動場所も最前線付近であるのだが、友人が友人なだけにこの手の情報にはそれなりに詳しかった。
「そうですか………」
バカを演じるようにへらへらしながらそう言うと、シリカは《竜使い》の下で頬を赤く染めて嬉しそうにはにかむ。
竜使いの噂が広がりだしたのは今年の二月頃。今が五月の頭であるから、だいたい三ヶ月が経過している。それだけ時間が経てば、《竜使い》のような二つ名にも慣れ、誇りに感じ始める頃だろう。シリカの笑みからは、そんな心情がありありと感じられる。
(上層じゃほとんど知られてないよー、なんて言ったらどんな顔するかなあ)
そんな意地悪なことを考えるも、スクエアは口に出すことはしない。これがアルゴだったら容赦しないが、さすがに十歳以上も歳が離れていそうな
「それより、そのフェザーリドラ………ピナだっけ? その子は大丈夫なの?」
「はい。使い魔用の回復ポーションはもう使いましたから」
そう言ったシリカは、確認するようにピナの首筋を撫でる。すると、ピナは嬉しそうに「クルルル」と喉を鳴らしてシリカの手に擦り寄った。
そこには、つい数分ほど前にはあった二本の牙による咬み傷は無く、温かそうなペールブルーの羽毛が覆っている。
ほんの数分前、たまたまこの洞窟で素材集めをしていた時、コウモリ型モンスターに苦戦している少女と小竜を見つけたスクエアは、それが巷で噂の《竜使いシリカ》と使い魔のピナだと直ぐに気づき少しの間だけ二人の戦闘を観察することにした。
いざとなったら助けに入るつもりで眺めるも、その必要はあまりなさそうに感じた。苦戦していると言ってもHPは
それから数分経ち、コウモリ型モンスターのHPが赤く染まる。
これならフォローに入る必要は無い、と思ったスクエアは、少女の邪魔をしないようにその場を後にしようと立ち上がる。
その時であった。鋭い少女の悲鳴が耳に届きスクエアがそちらに視線を向けると、コウモリ型モンスターに首に噛み付かれたピナの姿があった。
それだけで無く、噛み付きによる継続ダメージでピナのHPが少しずつ減っており、対照的にせっかく減らしたコウモリ型モンスターのHPは少しずつ回復していたのだ。
コウモリ型モンスターの持つ《吸血》スキルである。その名の通り、相手に継続ダメージを与え、それに応じた分のHPを回復するスキルである。しかし、軽い衝撃を与えるだけで直ぐに振り解けるため脅威度はあまり高くないスキルだ。
シリカもそれは理解しているようで、足下に落ちていた小石をコウモリ型モンスターに投げつける。しかし、コウモリ型モンスターはそれなりの高度を飛んでおり、更にシリカが《投剣》スキルを取っていない事が加わって小石は大きく外れてしまった。
投擲を外し、その焦りのあまりシリカの目に涙が浮かぶ。その瞬間、スクエアはマントの裏に隠していた投げナイフを投擲し、コウモリ型モンスターの額を寸分違わず貫いた。
その衝撃でコウモリ型モンスターは思わずピナを口から離し、洞窟の天井に向かって上へと逃亡を謀る。
コウモリ型モンスターから解放されたピナは、数メートルだけ落下するが直ぐに体勢を立て直し、自分の翼で飛翔を始めた。
シリカがピナを抱きとめたとき、そのHPはイエローゾーンにまで到達していた。直ぐさま回復ポーションをピナに使用し、それから恨みを込めてコウモリ型モンスターのいた場所を睨みつける。
そこでシリカが見たのは、逃しはしないとスクエアの手から放たれた投げナイフが黄色の軌跡を描きながら雨あられとコウモリ型モンスターに降り注ぎ、その体をハリネズミのようされるところだった。
そして、現在に至る。
「うーん………もしシリカちゃんが良かったら、出口まで送って行こうか? と言うか、一人でこんなところに来たの?」
改めてさっきの出来事を思い出したスクエアは、自然とそのような事を口にしていた。
シリカ自身のレベルは申し分なさそうであるが、それ以外のシステム外の技能、特に判断力は年齢相応なところがあり心配なのだ。それ以前に、このような少女を危険なダンジョン内を一人で歩かせること自体がスクエアにとっては問題であった。
「いえ、本当はパーティを組んでいるですけど、ちょっとはぐれてしまっていて今探しているところなんです」
「そんな時に、さっきのコウモリに襲われたと。そりゃあ災難だったね」
「あははは………。ま、まあそういう訳ですから、一人で勝手にダンジョンを出ちゃう訳にはいかないんです」
シリカの言葉に、さすが中層のアイドルは違うな、と感想を抱くスクエア。その気になれば転移結晶で脱出できるのだろうけど、それをしないでパーティを探し回っているところに彼女なりの責任感と優しさを感じる。
「そりゃそうだよねー。オッケーオッケー。じゃあ、そのパーティメンバーを探すの手伝ってあげるよ」
益々、スクエアは一人で行かせるわけにはいかないと思った。
「そんな悪いですよ! 私は大丈夫ですから」
「まあまあ、そう言わずに。どうせ俺も素材集めで洞窟の中歩き回らなくちゃいけないから、ある意味丁度いいし」
「ですけど………」
「同じビーストテイマーのよしみだよ」
それが殺し文句となったのか、シリカは申し訳なさそうながらも首を縦に振った。
「えーと………じゃあ、おねがいしてもいいですか?」
「喜んで。………あっとそうだ」
強引ながらもどうにかシリカに了承を得ることができたスクエアは、大事なことを忘れていたのを思い出してシリカに視線を合わせた。
「自己紹介がまだだったね。俺の名前はスクエア。それで、こっちが俺の使い魔のミック」
「チュチュ」
「短い間だけど、よろしくね」