胡散臭い人だなあ。
それが、スクエアに対するシリカの第一印象だった。
ピナをコウモリ型モンスターから救ってくれた投げナイフの精度や洞窟内でも落ち着いている様子から、かなりの高レベルプレイヤーだということは分かる。また、戦い方のアドバイスをしてくれたり、新しい作戦を教えてくれたりと、低層プレイヤーであっても歓迎するような様子なので悪い人ではないのだろう。
しかし、へらへらしていて摑みどころがなく、初対面だというのに同じビーストテイマーというだけで強引なくらい親切なのが言いようのない怪しさを感じさせる。
結果、プラス印象とマイナス印象を比べるとシリカの中ではマイナス印象の方がやや大きく、シリカがそのような第一印象を持つのは当然と言えた。
それにも関わらず、シリカがスクエアの同行を了承したのはーー押し切られた感も否めないがーーソロでの行動に不安を感じたからだ。
安全マージンを十分に確保しているとは言え、12歳の少女が一人で閉塞感のある洞窟ダンジョンを歩き回るのは相当なプレッシャーになる。その上、このSAOで一番の友人と言っても良いピナが目の前で殺されかけた後なのだから、その不安感は誰でもいいから年上に頼りたくなるような大きいものだったのであろう。
「そう言えば、シリカちゃんが探してるパーティメンバーってどんな人たち?」
ふと、シリカのやや前を歩くスクエアが振り返り、後ろ歩きになりながら訊ねてきた。
前を歩いているのはシリカの目の届く範囲にいるという彼なりの配慮であり、その距離もステッキを振り回しても腕一本分くらいの余裕があった。
そのため、後ろから様子を観察していたシリカは、スクエアの不意の行動にもあまり不安がることなく答えることができた。
「私含めての五人パーティで、私以外に女の人が二人、男の人が二人います。もともとはその四人でパーティを組んでいたみたいなんですけど、ピナがどんな戦い方をするのか気になって私をパーティに誘ったみたいです」
「フェザーリドラは珍しいからねえ。しかも《ヒールブレス》なんて珍しいスキルを持ってる訳だから、気になるのは当然か。まあ、俺からしたらその可愛さだけで………って痛いから! ミック痛いから!」
シリカの直ぐ近くで飛翔するピナに目を向けてスクエアがそう言いかけると、左肩にいるミックがその左耳たぶに噛み付いた。
SAOのセーフティにより悶絶するほどの痛みはないが、場所が場所なだけに体全体に奔る不快感は強い。慌ててスクエアが前言を撤回すると、ミックは満足したかのようにスクエアの耳を離した。
「ふふ。仲がいいんですね」
そんな一人と一匹のやり取りに、シリカは自然と笑い声を零した。
「いやいや、お恥ずかしいところをお見せして申し訳ない」
「チュ」
そんなシリカに、スクエアは照れ笑いを返す。ミックも恥ずかしくなったのか、スクエアの腰に巻いてあるポーチの中に隠れてしまった。
飼い主とペットは似るというが、使い魔にもその考え方は適応するらしい。そう思ったシリカは、また笑みを浮かべた。
目の前で笑われる少女にいたたまれなくなったスクエアは、咳払いを一つして話を戻すことにした。
「ゴホン。それで、その四人の装備のか容姿ってどんな感じなの? 分からなきゃ人探しも出来ないからさ」
「えーと、一番目立つのがゲイズさんですね。布装備の中に一人だけ顔まで覆った全身金属装備の人がいるのでわかりやすいと思います」
「そりゃわかりやすい」
「あとは、バンダナを巻いた盗賊っぽい格好のミリカさん。羽帽子を被ったトーガさん。私と同じ短剣使いのカタリナさんですね」
「うんうん。なるほど」
シリカから聞いた情報を、頭の中でイメージしていく。何というか、攻撃意識の強そうなパーティ構成である。もしくは、それだけゲイズの壁が厚いということかもしれない。
「はぐれたときの集合場所とかって決めてる?」
「そう言えば聞いてないです。伝え忘れかな………?」
「それは危なっかしいなぁ。………まあ、とりあえずこの下の階にある休憩エリアまで行こうか。もしかしたらそこにいるかもしれないし」
「そうですね」
聞きたいことを聞き終えたスクエアは進行方向に向き直る。そこで、プツリと会話が途切れてしまった。
いつもは関係ない話も含めてマシンガンのように話し続けるスクエアであるが、知らない人に話しかけられるシリカの心情を考えて余計な話はしないようにしていた。
スクエア本人としては、間をつなぐ程度の軽い世間話をすることもやぶさかではないのだが、口から出るのはからかうような言葉になってしまうことを知っているために迂闊にすることもできない。
シリカの方も、せっかく会えた数少ないビーストテイマーであり、なおかつ自分よりも高レベルのプレイヤーであるため聞きたいことはたくさんあるのだが、胡散臭いという印象のために自分から話しかけることに二の足を踏んでいた。
そのため、二人の間には、仲良くなりたいのけれど遠慮している、という微妙な沈黙が生まれてしまっていた。
◇◆◇◆◇
「あ……あの、スクエアさん」
会話が途切れてから十五分後。休憩ポイントに向かって黙々と歩き続ける二人であったが、ついにシリカの方が沈黙に耐えられなくなった。
「ん? なに?」
「えーっとですね………」
スクエアは首だけ振り返ってシリカの方に視線を向ける。
しかし、そこに来て何を話すか全く考えていなかったことに気付いたシリカは、しどろもどろになって右へ左へと視線を泳がせた。
何でもいいから話題を探していると、シリカの視線は先ほどミックが潜り込んだポーチで止まった。
「ミックちゃんとはどこで出会ったんですか?」
「え? ミックと?」
予想外の質問に、スクエアはきょとんとした表情を浮かべる。
「はい。私、この層までのダンジョンでミックちゃんと同じモンスターを見たことがなかったので………」
「あー………それもそうか。確かに、シリカちゃんは見たことないかもね」
と、シリカが素直に気になったことを打ち明けると、スクエアは一人納得するように頷いた。何かしらの理由があるのだろうが、それが全くわからないシリカは「はぁ……」と返事ともつかない返事をするしかなかった。
「うん、いいよ。それじゃあどこから話そうか………っと、そういうわけにもいかないか」
「え?」
懐かしむような柔らかい笑みを浮かべて頷くスクエア。そして、どうやって話そうかと腕を組んだ瞬間、足を止めて前方を軽く睨みつけた。
スクエアの視線の先にあるのは、モンスターの出現を表す小さな空間の揺らめき。
そこから現れたのは、先ほどのコウモリ型モンスターが二体と小さな斧を手に持った醜悪な小人が二体であった。
「モンスターが四体も⁉︎」
「きゅるるる………」
モンスターの数に驚愕するシリカと、さっきのコウモリが二体いることに脅えるピナ。
「うーん、これは俺が呼んじゃったかなぁ?」
対照的に、スクエアは困り顔を浮かべるだけで怯むことはなく、非常にリラックスした様子で黒いステッキを構えた。
「リベンジマッチってことで、シリカちゃんたちはコウモリを一体でいいからお願いできる? その間に、他の三体をちゃちゃっとやっつけちゃうから」
大雑把なスクエアの作戦に、シリカはピナに気遣うような視線を送る。
シリカと視線を合わせたピナは、少し逡巡するような仕草を見せると、自分を鼓舞するように短く勇ましい声で鳴いた。
「はい! 大丈夫です!」
ピナの決意を見て頷き、シリカも短剣を構える。
「でも、大丈夫なんですか? 三対一ですよ?」
「大丈夫、大丈夫。こいつがあれば事実上の一対一だからさ」
心配気なシリカの声に、スクエアは牽制のために小人に向けたステッキの先端を空中に円を描くように動かしながら自信満々に答えた。
長さ約90cm。太さ約2cm。持ち手がUの字に曲がり、唯一白塗りの先端部分を除いて全身は漆黒に染め上げられている。
まさしく《ステッキ》としか言いようのないその外見は、はっきり言って、シリカからしたらネタ武器にしか見えない。仮に弱い武器じゃなかったとしても、それをメインで使っているとは到底思えなかった。
「………本当に大丈夫なんですか?」
「本当に大丈夫! オニーサンに任せなさい!」
言外に心外だと伝えながら、スクエアはコウモリに向けて投げナイフを一本投擲した。