川村時太郎水泳物語
セミが鳴いてる・・・ミンミンと。
周りには歓声、横には屈強なボディを持った泳者たちがコース台でゴーグルをかけて競泳開始合図の笛を待っている。
俺も同じコース台に立っていた・・・
スターター「いちについて!!!用意!!!・・・」
パンと銃声の合図が鳴ったと同時に競泳者は一斉に飛び込んだ。
だが一つ違った。
それは・・・
他の泳者の圧倒的な水かきとバタ足の力が俺とは比べ物にならなかったことである。
100m自由形終わればブービーから十秒も離されて最下位・・・
だがそんなことは俺は最初から分かってた。
つい一か月前は鉄鎚だったのだから。
俺は自分の学校のスペースに戻った。
青山先輩が声を掛けてくれた。
「落ち込むなよ、お前はまだ一年だろ?」
「ありがとうございます、先輩。」
「ちょっとダウン(激しい運動のあと血液の流れを落ち着かせること)してきますね。先輩の最後の栄光を俺が一中の後輩として見届けますから。」
俺はそう言った後解放プールに行った。
※大会のプールは全て50mプールです。
第1コースでダウンをするために解放プールで泳いだ。
解放プールも競泳プール同様コースロープでコースが区切られていた。
俺はダウンしていたが頭の中では夢中で敗因や改善点を考えていた時である。
ゴツン!!!と頭が固いものに当たった、これはもう俺は完全に接触事故だと思った。
俺はその場で立ち、謝った。
「すいません。大丈夫ですか?」
すると当たった人も立ち止まった。
一瞬だけ見えたがその人は腰に丸く穴の開いた青白いデザインの女性用競泳水着を着ていた。
青白い競泳キャップをはずすとポニーテールの束ねた濡れた一束の髪がもさっと出てきた。
城田「私は髪の毛がクッションになったから大丈夫ですよ、あなたは?」
「僕は平気ですから。」
だが俺はまだ頭にジーンとした痛みが残っていた。
俺が大丈夫だったということを聞いてから何もなかったかのように女の子は泳ぎだした。
ずっと青白い水着が離れていくのをぼーっと見ていた。
俺は青山先輩の中学最後の競泳を応援しに行った。
『続いては男子自由形200m決勝!!!』
アナウンスを聞いて俺は憧れの先輩がコース台に立っているのを見ていた。
先輩の水着はショートスパッツ型の真っ黒に両外の太ももには炎の柄が施してあり『一中』と炎の中に黒の漢字でかっこよく刻んである。
他中からは水着の炎のマークにちなんでアニメのワンピースのエースや世界大会にも行ってるっことからあだ名で『エース』と呼ばれていた。
スターター「いちについて!!!用意!!!・・・」
パンと銃声の合図が鳴ったと同時に競泳者は一斉に飛び込んだ。
青山先輩は水かきとバタ足が人間離れした力であった。
そしてイルカのような動きで華麗に泳いでいた。
当然ぶっちぎりの一位で中学の大会最速記録にも近いタイムを出していた。
青山先輩は同じ中学でも一年生から三年連続で自由形100mと200m両方で全国大会に行った中学にとって誇り高い人物であった。
競泳大会や全校集会でよく青山先輩が表彰されているのを見た。
だが俺の通っている第一中学水泳部の栄光も青山先輩が引退したと同時に廃れた。
そう・・・第一中学水泳部は青山先輩が引退したと同時に俺一人のぼっち部活になってしまった。
青山先輩が秋に引退の時・・・
俺はプールサイドで一人三角座りして、先輩と二人で練習したプールを思い出して眺めていた。
そんな時先輩がやってきた。
「時太郎?サボっているのか。」
先輩は軽快に話しかけてくれた。
「いえ、青山先輩。俺は寂しいです。先輩がいなくなって。」
先輩は俺の発言のあと白い袋を渡してきた。
「その袋の中には俺の今までの競泳人生がすべて入ってる。大切に受け継いでくれよな!」
先輩はそう言い去った後プールから出て行った。
袋の中にはあの炎の水着と競泳用ゴーグルと青山流筋トレ法が書いたノートが入っていた。
「先輩・・・」
と一人俺はつぶやいた。
そして俺は先輩を越えることを目標に冬は青山流のトレーニングをかかさずやった。
青山先輩の卒業時・・・
「先輩・・・学ランのボタン全部ないですね。」
まあジュニア世界大会にでれるくらいであるからボタンがないのは驚きを禁じ得ない。
「ああ、まあな。」
先輩は苦笑いしていた。
「それより時太郎、あのトレーニングやってるのか?」
「はい、毎日欠かさずやってます。先輩は特待生で高校行くんですよね?」
「ああ、○○大学付属高等学校だ。」
○○大学は常に世界水泳やオリンピック選手を輩出している水泳の名門校である。
「青山先輩!!!すごいじゃないですか!!!」
俺は興奮した。
すると青山先輩はいきなり無表情になって俺に真剣に言った。
「時太郎、お前も俺と同じ舞台に来い。一緒に世界相手に戦おう。それが俺たちの目標だ!」
「は、はい!!!」
俺と先輩は腕を組み誓った。
そして俺は中学二年生になった・・・
部活紹介の時俺は一人体育館で演説した。
『僕は青山先輩の背中を半年、いや四か月しか見ていません。でも青山先輩が渡してくれたバトンに恥じないように僕はこの水泳部を引っ張っていきたいと思います。あと泳げない人も歓迎します。』
この時俺は終始無表情だった。
俺はプールサイドで腕立てをしていた。
そこにモヒカンヘアーの学ランのボタンを上から二つはずしたヤンキー風の男子学生が入って来た。
「川村先輩、俺と勝負してくれませんか?」
誰が見てもその言い方は俺をなめた態度にしか見えなかっただろう。
「え!まだ4月初旬だし、それに君誰?」
「俺は海中智って名前だ。あんたの去年の泳ぎっぷり見てたぜ。あんなんでこの水泳部を統率できるのか?」
どうやら俺の去年の大会でのひどい泳ぎを見ていたようだ。
「分かった。じゃあ50m自由形でどうだ?」
俺がそう言うとすぐに海中はショートボクサー型の競泳姿になった。
どうやら事前に下に履いていたようだ。
俺は海中に待ってもらい男子更衣室で水着に着替えた。
青山先輩からもらった水着はどうやら今日が初陣になるようだ。
俺は履いて履き心地に少し、ぶかぶかで違和感があったがゴムひもをキツク縛った。
炎の柄の一中と書いてある文字を見て一中水泳黄金時代を再び作ると決心した。
俺は更衣室を出た瞬間に海中は驚いた。
「それは!青山選手の水着とゴーグル!!先輩に着る資格があるんですか?」
海中は驚いた後に無表情で煽ってきたが俺は動じなかった。
この冬、いや去年の秋から俺は毎日こつこつと練習していたのだから。
シニア[還暦くらい]が通う温水プールにも週3に通っては何回も死ぬかと思ったこの練習成果を今こそ出す時期がきた。
俺と海中はコース台に立っていた。
※この一中のプールは25mプールです。
挑発した口ぶりで
「川村先輩、先どうぞ。」
「じゃあ、先に行くよ。」
俺は遠慮なく飛び込んだ。
そして海中は一秒待った後飛び込んだ。
ここからは水中での心情になる。
海中(川村は知らないだろうが、俺は小学生の部では市で一番早かった、この勝負もらったな。)
川村(青山先輩、もらったバトンは必ず卒業するまで守りますから・・・)
川村が20m到達、海中が19m到達。
海中(よし!あともう少しだ。川村に一中中に恥じをかかせてやるぜ。部活紹介であんな大口叩いてたからな。)
海中と川村は同時にタンブルターン[体を回転して方向を変えるターン]をした。
海中(やった!ついに抜かせる!!)
だが川村は前半の25mのターン後から徐々にスピードを上げていく。
海中(嘘だろ。畜生!)
海中は全力で水をかきばた足をしたが離されていく一方だった。
川村(青山先輩!俺少しは早くなったかもしれないです!!)
しかし川村の水着のゴムひもがゆるくなっていく。
川村(やべぇ・・・これ脱げるな・・・)
その悲劇はあと10mで決着がつく場所であった。
海中は負けたと思い何も考えず、ゴールした。
「あれ、川村先輩?」
川村はゴール手前10mで立っていた。
「お前の勝ちだ、海中・・・」
「え?」
川村は近くにある黒い何かを持ってゆっくりとプールサイドに上がった。
海中はプール中から全裸の川村を驚いてみていた。
「水着が脱げたんだ。」
俺は恥ずかしそうに言った。
「先輩、だ、だ、大丈夫ですよ。俺しかいないですから!!!それより早く履いてください。」
俺は海中に励まされた。
そしてゆっくりと水にぬれて履きにくい水着を履いた。
次回サブヒロイン登場!!!