FAIRY TAIL 竜騎兵と竜の子   作:MATTE!

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イノシシ>ナツ

 机に向かい、ノートに記された数字を睨み付ける。しかし、穴が開くほど見つめていてもその数字が変わることはない。透かそうが裏返そうが逆さにしようが記された内容は変わらない。

 

 

「うーん……このままいくとちょっとやばい……いや大丈夫?」

 

 

 今日の金額をお小遣い帳に記入して呟く。最近、収入より支出のほうが多い。金欠ってわけでもないけど……いや、リュウの食費と燃費を考えたらやっぱりちょっと危ないかも。

 

 

「んー……」

 

 

 明日はそれなりに報酬がいい仕事を受けたほうがいいかな。出来れば食費が浮く仕事、しいていうなら魔獣退治とか。

 

 

「りゅー眠いー」

 

 

 私の足元でずっとゴロゴロしていたリュウがズボンの裾を引っ張って眠いと訴えてきた。

 

 

「っとごめんねリュウ。よし、お小遣い帳も書き終えたし寝よっか」

「ねるー」

「あ、ちょっと待って寝る前には歯を磨かなきゃ」

「……磨いたよ?」

「……へーいつ?」

「さっき!」

 

 

 にっこり笑ってリュウは言った。そっか、“さっき”かー……うん、よし。

 

 

「そっか、ならいいんだけど……あ、リュウこれ食べる?」

「りゅ、食べるー!」

 

 

 私はリュウに先ほどまで使っていた羽ペンと差し出す。リュウはそれを受け取ってポリポリと食べた。

 

 

「ポリポリポリポリ」

「美味しい?」

「りゅ、おいしー!」

「そっかーそれは良かった。じゃ歯磨こうね!」

「りゅ!?」

 

 

 がっしりとリュウの肩を掴む。そしてそのまま逃がさないようにズリズリと引きずっていく。

 

 

「さっき磨いたー!?」

「さっきはさっき、今は今、たった今食べたでしょ“おやつ”(羽ペン)。食べたなら磨かないと」

「りゅー!はめられたー!」

「嵌めてないよ、食べるか食べないかは聞いたもん私」

 

 

 差し出したら間違いなく食べるなと思ったけどさ。それを世間一般は嵌めたというと思うけど……最初に嘘をついたのはリュウの方、今回はリュウが悪い。

 “磨いた”なんて嘘、いくら歯磨きが嫌いでも嘘をつくほうが悪い。

 

 

「りゅー!シャカシャカ嫌だー!」

 

 

 ジタバタとリュウは暴れる。一応私とリュウではそれなりに体格差はあるけれど、人と竜の力の差か手をふりほどきそうになる。

 

 

「わっと暴れないのリュウ!」

「いーやーだー!」

「大丈夫、歯ブラシが嫌いなリュウでもちゃんと磨けるの用意したから」

「りゅ?」

「じゃーん!“液体歯ブラシ”!これを口に含んでグチュグチュしてペッするだけで歯を磨ける優れもの!」

 

 

 私は棚からこの前買った魔法道具を取り出した。これは歯ブラシが嫌いなリュウのために買ってきた優れもの。うがいして吐き出すだけで歯を磨くことができる魔法道具だ。

 

 

「液体……ブラシ?」

「液体の時点でブラシじゃないってのは、無駄なツッコミだよリュウ」

 

 

 きっと私たち以外も思っていることだろうし。二つのコップに液体を注ぐ。そして一つをリュウに手渡した。

 

 

「これなら歯ブラシが嫌いなリュウでも……」

「グチュグチュゴックン!おかわり!」

「……それは歯を磨くためのもので飲み物ではないんだけどなー」

 

 

 リュウは液体歯ブラシでうがいしてすぐに飲み込んだ。そしておかわりを要求した。まさか飲み込むとは思わなかった。

 いや待って、よくよく考えたらこれは“魔法道具”(リュウの大好物)、飲み込まない選択肢なんてなかったね。……ま、まあ一応磨けたし……いっか。

 

 

「グチュグチュ……ペッ!!よーし歯を磨いたことだし……寝るぞー!」

「りゅー!」

 

 

 いつの間にか竜に戻っていたリュウがベッドの横に吊るしてあるチェアハンモックに飛び込んだ。そして体を丸め、寝る体制に入る。

 私は小さいタオルケットをリュウにかけてあげた。

 

 

「りゅーうー」

「おやすみ。あ、リュウ」

「りゅ?」

「明日依頼受けるから “もし、私より早く起きたら起こしてね”」

「りゅー……」

 

 

 依頼は早い者勝ち、報酬がいいものはそれこそすぐになくなってしまう。受ける依頼が一つもないって状況はご免だしできるだけ早めに受けるためできるだけ早く起きよう。その協力をリュウにお願いすると気の抜けた鳴き声と尻尾をパタパタと振ることで返事を返してくれた。

 念のためにボーダーラインの目覚ましをセットしてそのまま寝に入る。一番肝心なことを言い忘れてたのも気付かないまま、私は夢の世界に旅立った。

 

 

 


 

 

 

 この耳はどんな些細な音も拾う。ちゅんちゅんと鳥たちが鳴いている。寮の皆も何人かは目が覚めて活動している人もいる。うん、朝だ!

 ガバっと起き上がるとお姉ちゃんがかけてくれたタオルがひらりと落ちていきそうになったからパクっと噛んでハンモックに戻す。

 

 

「りゅ~う~りゅ~(お姉ちゃん~朝だよ~)」

 

 

 お姉ちゃんの方を伺うとお姉ちゃんはまだ夢の中だった。ハンモックから降りてペチペチと顔を叩く。でもお姉ちゃんは起きそうにない。

 

 

「うーー……あぐ!(噛むよー?えい!)」

「い……」

「りゅーう!!(これならどうだ!)」

「ぐっ……」

 

 

 噛みついてみたけどそれでもお姉ちゃんは起きなかった。頭突きしても起きなかった。先に起きたら起こしてって言われたのにー。

 どうしようかな。このまま起こさなかったらお仕事取られちゃうよね。なーにーかーいい考えは……

 

 

「りゅ!(そうだ!)」

 

 

 お姉ちゃんの顔を見てたらピコーンといいこと思いついた。さっそく試そうとハンモックに戻る。

 

 

「りゅ~う、りゅ~う(ゆ~ら~ゆ~ら~)」

 

 

 ゆらゆらと全体重を駆使してハンモックを揺らす。まだだ、まだ揺らすんだ。

 

 

「りゅ~う、りゅ~う……りゅーーー!(ゆ~ら~ゆ~ら~……ドラゴーンダイーブ!)」

 

 

 そしていきおいをつけてハンモックからお姉ちゃんのお腹へとダイブした。

 

 

「……ふべぶ!!?」

 

 

 ぐっすり寝てて起きそうにないと判断した私はいつも通りドラゴンダイブ(ただのダイブ)でお姉ちゃんを叩き起こすことにした。だってお姉ちゃんちょっとやそっと揺すっても起きないんだもん。

 お姉ちゃんがうめき声をあげながらゆっくりと起き上がる。そして目をうっすらと開けた。

 

 

「りゅー!(はよー!)」

「……おはようリュウ」

 

 

 こっちを見てくれたので挨拶をする。お姉ちゃんの教えの一つ、“一日の始まりは挨拶から”を実践だよ。お姉ちゃんは挨拶を返してくれた。

 

 

「リュウ、言わなかった私のほうが悪いかもしれないけど。一つだけ言わせて、ダイブは止めよう、ダイブは」

「りゅ!?(え!?)」

 

 

 起きたお姉ちゃんにダイブは止めようと言われた。起きなかったのはお姉ちゃんの方なのにーちょっとというか結構納得いかないよ!

 

 

 


 

 

 

「どーれーにーしーよーうーかーなー」

 

 

 依頼版の前に立ち、依頼の品定めをする。お金がそれなりにもらえて食費が浮くような依頼はないものか……

 

 

「よう、シエルお前がウェイトレスしてないでそこの前に突っ立ってるなんて珍しいな」

「当たりまえ、私はウェイトレスじゃなくて魔導士だもん」

 

 

 給仕しないで依頼を品定めしている私が珍しかったのかグレイが話しかけてきた。

 

 

「というかウェイトレスだけじゃ今月厳しくて……」

「帰ってきても金欠じゃねぇか。で、それはどうした……」

「あー」

 

 

 グレイは視線を私の頭……正確には“私に背負われたまま噛みついているリュウ”を見た。

 

 

「う~~~~~!うう!うぅ~~~~~!!う!」

「リュウ、まずシエルの頭を解放……いや、離してから話せ……いいんじゃないかコレ」

「うん、寒いねソレ」

 

 

 リュウは私の頭に噛みついたままグレイに訴えかける。が、勿論意味は伝わらない。

 グレイはリュウに噛みつくの止めさせようと呼びかけるが、下らないことを思いついたのか言葉を言い直した。実際かなり下らなかった。

 

 

「りゅ、お姉ちゃんね!酷いんだよ!リュウが早く起きたら起こしてって言ったのにリュウが起こしたら文句言うの!起きなかったのはお姉ちゃんの方なのに!!う!」

「ということです」

 

 

 リュウは噛みつくのを止めるとグレイに朝起こったことを伝える。そして最後にまた噛みつかれた。

 完全にひねくれモードになってしまった。これはしばらく私の頭から離れないな。別に慣れてるからいいんだけどね、痛いけど……“竜”状態で噛まれるよりはましだし。

 

 

「ようはいつもの事だな」

「いつもの事ではないよ、三日に一回のことだよ」

「それ結構な頻度だからな、というかお前大丈夫なのか」

「モーマンタイだよ!むしろばっちこい!」

「本当にいつもの事だな」

 

 

 グレイはシエルのシスコンぶりに愚問だったかとため息つく。グレイの言葉を受け流しながら私は依頼を品定めし、ちょうどいい依頼を見つける。

 

 

「あ、イノシシ退治もらいっと!報酬もいいし、イノシシを狩った証拠を見せれば後はこっちの自由……なんてステキな依頼!」

「イノシシー!」

 

 

 これで一食分の食費が浮く!!これ幸いと依頼版から依頼書を取り、マスターの元へ行く。

 

 

「これ受けるね!」

「む?シエル、依頼を受けに行くのか?」

「そうだよ?リュウも一緒!」

「りゅー」

「何だよエルザとナツの“決闘”を見ねえのか?」

「決闘?」

 

 

 マスターに依頼書を見せるとちょっと不思議な反応をされた、そのことに首を傾げるとウォーレンがエルザとナツの決闘について話す。

 

 

「あー今日だったっけ、すっかり忘れてた」

 

 

 そういえばエルザとナツはそんな約束してたっけ。その後列車でダウンしたナツがエルザにノックアウトされてたけど。気付くとカナが賭けの元締めになっていた。

 

 

「シエル、アンタはどっちに賭ける?」

「私?うーん……」

 

 

 どちらに賭けるかカナが聞いてきたので私はどちらに賭けようか頭を悩ませる。個人的には師匠であるエルザの方に賭けたいけど、リュウはナツに賭けたいだろうし……

 

 

「……ナーツー」

「お、何だリュウ!」

 

 

 私がどちらに賭けるか悩ませていると、リュウは私に噛みつくのを止めてナツを呼び止めた。

 

 

「なーむー!!」

 

 

 そして勢いよく合掌してニッコリと言い放った。

 

 

「……えーリュウはナツが負けると予想しているようだからエルザにかけるね」

「あいよ」

 

 

 リュウがそう予想したことだし、私はカナに賭け金を渡すことにした。

 

 

「おいこらリュウ!どーゆーつもりだ!!」

「この勝負エルザが勝つよ!」

「んだとぉ!見てろ!俺が勝ってやるからな!!」

「りゅ、分かった!!」

 

 

 自分が負けると予想されたことにナツは気に食わないのか決闘を見てろと言ってきたけど……うん、気が引けるけど言うしかない。

 

 

「ごめん二人とも。今から依頼受けに行くから見れないや。後で結果聞く」

「なにぃ!?」

「りゅ!」

 

 

 依頼書の場所、遠いしから今から行かないと。ナツたちの決闘見てからだと結構遅くなりそうだし。

 

 

「りゅうううう!!!うう~~!」

「リュウ、多分噛みつくぞーって言ってるのはある程度予想できるけど、それはまず噛みつく前に言うことだったと思うなー」

 

 

 ナツ達の決闘を見たかったのかリュウはこちらに噛みついてきた。まあ、噛みつかれても行くのは止めないけど。

 

 

「う~~~~~!」

「リュウ、イノシシとナツどっちがいい?」

「りゅ?」

 

 

 イノシシを食べるか、ナツの決闘を見るか。その問いにリュウは考える。ゆらゆらとイノシシとナツが拮抗する。うーと唸り、考えに考え抜いてリュウは答えを出した。

 

 

「なべー!ぼたなべー!」

 

 

 ナツの決闘より牡丹鍋食べたい。ナツがイノシシに負けた瞬間だった。

 ある程度慕っていて優先されるナツでも、めったに食べられないイノシシに勝つことはできなかったみたいだ。

 

 

「イノシシに負けた!?」

「ナツとエルザのけっとーも見たいけど、リュウはおなかすいた!リュウのモットー“花より団子”!!」

「おお、大体予想が付くモットーだな」

 

 

 リュウの宣言にギルドの皆は深く頷く。いや、食べるだけがリュウじゃないよ!?いつの間にか何かを食べていることは多いと言えば多いけど!!

 

 

「ぼーたーなーべーはーやーくー!」

 

 

 早く牡丹鍋を食べたいのか、リュウは再び私の頭に噛みついてくる。

 

 

「というわけで行ってきまーす!」

「いってらっしゃ~い」

 

 

 私はリュウに噛みつかれたままギルドを出ていった。街に出ると皆、私たちの姿を見てぎょっとする。しかし私を認識すると納得したように頷きそのまま去っていく。

 何だ、皆いつもの事と思っているのか、三日に一回ぐらいしかないよこの光景!若干腑に落ちない気分を味わいながらも駅へと向かう。

 そんな中、私は特徴的な人物たちとすれ違う。その人物達に私は思わず、足を止めて振りかえる。

 

 

「今のは……」

「りゅ?どうしたのお姉ちゃん」

 

 

 急に立ち止まった私を疑問に思ったのかリュウが顎を頭の上に乗っけながら聞いてきた。

 

 

「いや、あのカエル」

「カエルいるの?食べたい!」

「いや、カエルはカエルだけどカエル人間だったから食べちゃダメ」

 

 

 通り過ぎた人物についてリュウに伝えようとするがリュウはまず“カエル”という言葉に反応した。(食の方向に)とはいえそのカエルはカエル人間だったから食べるのは止めておく。

 

 

「うー」

「ふてくされてもダメなものはダーメ。で、そのカエルなんだけど……」

 

 

 今のは……まさか……

 

 

「キレイな服を着ていたんだけど、その服が評議会の服に似ていた気がするんだよね」

「カエル、ひょーぎかいの人?」

「いやーまさか、わざわざ評議会の人がこの街に来る理由なんてないでしょ」

 

 

 

 その時、私は失念していた。

 

 

 

「っと列車に乗り遅れちゃう、リュウ少し揺れるよ」

「だーじょぶ!ちゃんと捕まってる!」

 

 

 『鉄の森』(アイゼンヴァルド)テロ事件について全部終わったつもりになっていたせいでもある。

 

 

 そのカエル人間が評議会の人で、『鉄の森』(アイゼンヴァルド)テロ事件でエルザを捕まえに来たのだと知ったのは依頼から帰って全てが終わった後。

 

 

 

 

 

──こうして私は、過去と再会することなく今を過ごしていたのだった。

 

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