FAIRY TAIL 竜騎兵と竜の子   作:MATTE!

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それとこれとは別問題

 今、この状況で、私はものすごく、大声叫びたいことがある。……叫びたいんだけども、状況がそれを許してくれなくてなんとか自分の内に閉じ込めているところだ。

 

 

 

 

 

 けど、そう、叫べなくてもいいから言わせてほしい。

 

 

 

 

 

 

「……ディスコミュニケーション野郎」

「昨日のことは謝るから本当にそれはやめてくれないか」

「……分かった、ディスコミュニケーション不審シャイお節介マスク変態ロリコン非常識野郎」

「色々増えたぞ!?」

 

 

 私はリュウと……途中でお節介を焼いてきたミストガンと一緒にギルドに帰っている途中だった。唐突にミストガンを罵倒する状況になった理由を簡潔に説明しよう。完全にミストガンの自業自得です。

 

 

「いくら顔を見られたくないからって、幻影で姿を隠して町を歩くのでも非常識なのに、しまいには眠りの魔法でギルドのみんなを眠らそうとする人には妥当な扱いだと思いまーす」

「まーしゅ、シャクシャク」

 

 

 ミストガンの手には幻影の杖と眠りの杖がある。その二本の杖を見れば私にだってミストガンが何をするつもりなのかわかる。ちょっとぐらい言い過ぎたっていいじゃないか。そんな私の言葉にリュウはリンゴを齧り、リスのように頬を膨らませながら同意してくれた。

 

 

「そ、それは確かにそうだが……」

「そりゃ……貴方には貴方なりの理由があることは一応分かってるし、私もリュウも貴方には感謝はしている。けど、それとこれとは別問題、どんな理由があろうとも人を眠らそうとするなら罵倒されても文句は言えないよ。むしろ言葉だけで済む私に感謝してほしいところでもある」

「……昨日は言葉の前に、風の刃を放った後、リュウに噛み付かせようとしてなかったか?」

 

 

 昨日は言葉だけではなかった。その前に手が先に出ていた。アレは牽制なんて甘っちょろいものではなく、完全にこちらに危害を加えるつもりで放たれた一撃だった。そう感じていたミストガンはそのまま疑問を口にする。

 

 

「あれは別勘定だよ。眠らすならまだしも、私とリュウの至福のご飯タイムを邪魔するのが悪い。リュウ程じゃないにしても、私にだって食い意地は存在するんだから」

 

 

 私だって美味しいものはいっぱい食べたいよ。昨日はせっかくのイノシシ肉を地面に落として一枚食べ損ねたんだ(現在はリュウのお腹の中)、そんなことをやられたらちょっとぐらいやり過ぎたっていいと思うな私。

 

 

「とにかく、そんなこんなで罵倒は止めないよ」

「罵倒は止めてくれないのか」

「もし、どうしても止めて欲しかったら……ナシ一年分用意するんだね!!」

 

 

 リュウはリンゴもナシも好きだけど……私はナシが大好物といっても過言ではない。ナシを一年分くれるなら罵倒を止めるのを考えないこともない。

 

 

「……リンゴじゃダメか?」

「私はナシ派!そこは譲れないね!!」

 

 

 


 

 

 

「ミストガン。シエルとリュウも帰ったか」

「…………………」

「ただいま!」

「ただまー!」

 

 

 ギルドから帰ると既にみんなはぐっすりと眠っていた、出迎えてくれたマスターに私たちは返事を返すが、ミストガンは気にせず依頼版(リクエストボード)へ向かう。私たちはカウンターに向かい、私はカウンター内にあるエプロンを手に取った。気づけば既にリュウはいつものカウンター席に座ってパタパタと足を揺らしていた。

 

 

「行ってくる…………」

「…………?わ!?」

「りゅ!」

 

 

 マスターに依頼を受理してもらったミストガンだけど、なぜかこちらに来た、不思議に思ってたらいきなり私達の頭をくしゃりと撫でる。文句を言おうとしたが、ミストガンはすぐに身を翻して外に向かう。

 

 

「これっ!眠りの魔法を解かんか!!!」

 

 

 マスターが叫ぶが、ミストガンは無視してそのまま足を進める。

 

 

「……伍……四」

「……3……2」

 

 

 カウントダウンを囁きながら、ミストガンはコツコツと歩いて、ギルドから姿を消す。そんなミストガンに若干呆れを感じながらも、私たちはカウントダウンの続きを勝手に請け負った。

 

 

「……いち!……ぜろ!」

 

 

 リュウの“ぜろ”と全く同じタイミングでみんなが目を覚ました。……ムカつくぐらい腕はいいんだよね。不審者といえど流石妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強の男ってところか。

 

 

「……今の魔法は」

「おはよう」

「はよー!」

「あ、おう。おはようってまたかお前ら!!」

「ぶー残念不正解。私たちじゃなくてミストガンでーす」

「ぶー!」

 

 

 起き出したみんなに挨拶をすると、私たちのせいにされそうだったのですぐさまミストガンを売った。っといってもいつものことなんだから言わなくてもみんな分かってると思うけどね。

 

 

「ミストガン?」

 

 

 ルーシィは今まで聞いたことのない人物に首をかしげる。

 

 

「……一応、妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強の男候補の一人だよ」

 

 

 ルーシィの疑問に取り敢えず周知されている事実を伝えることにする、色々と問題はあるけど間違ってはいないし。

 

 

「どういう訳か誰にも姿を見られたくないらしくて仕事を取るときはいつもこうやって全員を眠らせちまうのさ」

「何それ!?」

「だからマスターとシエルとリュウ以外しか知らねぇんだ」

「へーって、なんでシエル達がそんな人を知ってるの?」

 

 マスター以外にミストガンの顔を知っているのがシエル達だけだということが気にかかったのか、ルーシィはそのまま疑問を口にする。

 

 

「森でサバイバル生活してた私たちをミストガンが拾ったんだよ」

「あの日は驚いたってレベルじゃねえぜ?今日みたいに睡魔に襲われて、気がついたらお前らがミストガンの紹介で『妖精の尻尾』(フェアリーテイル)に入るって話だったんだからな。“あのミストガン”の紹介で」

 

 

 四年前、私達は今日のようにミストガンに連れられて妖精の尻尾(フェアリーテイル)に来た。マスターに手紙を渡したと思ったらすぐに置き去りにされたけど。ギルドに入るなんて寝耳に水だったけど。

 

 

「まあ、とりあえずあの馬鹿のことは、“ディスコミュニケーション不審シャイお節介マスク変態ロリコン非常識野郎”とでも思っておけばいいよ」

「ディ、ディス?不審?え!?」

「……なあ、シエル。さっきも言ったようにお前らをマスターに紹介したのは──」

「ミストガンだね」

「そんでもって、お前を鍛えたのは──」

「ミストガンだね。エルザの方がよくお世話になったけど」

「……………………」

「……………………」

 

 

 グレイは何分かりきってることを聞いてるんだろう。私はグレイの意図が読み込めず首をかしげる。

 

 

「……それってもしかしなくても恩人よね?恩人をそんな呼び方しなくても……」

「それとこれとはちょっと違うから。あいつなんかディスコミュニケーション不審シャイお節介マスク変態ロリコン非常識野郎で十分だから」

 

 

 ルーシィが恐る恐るそこまで言わなくてもと言ってくるが、私はプイッと拗ねた。それとこれとは別問題なんです。私まで眠らせようとするあの馬鹿には妥当な扱いなんです。

 

 

「いや、そりゃ確かにミストガンは変人だと思う。けどな、弟子のお前がそれ以上言ってやるなよ……俺、初めてミストガンが哀れに思えて来たんだが」

「哀れになんて思わなくていいよ。顔を見られたくないからってギルドのみんなを眠らせるんだから、ミストガンの自業自得」

 

 

 本人だって分かっててやってるんだから、文句は言えないよ。みんなを眠らせる馬鹿野郎には良い薬だよ。どうせ言われても直さないだろうけど。

 

 

「ど、どうしてそんなことを……」

「さあ?私は分からないね。まあ、そんなこんなでマスターや私達を除いてあの馬鹿の顔を知らないんだよ」

「いんや、俺もアイツの顔を知ってっぞ」

 

 

 どっかの傍迷惑なディスコミュニケーション不審シャイお節介マスク変態ロリコン非常識野郎の話をしていたら、誰かが割って入った。

 

 

「ラクサス!!」

「いたのか!?」

 

 

 二階からこちらを見下ろす金髪の男に皆驚く。ミストガンとは違った意味で威圧感を感じる男、彼──ラクサスはミストガンと同じ、『妖精の尻尾』(フェアリーテイル)の最強の男候補。こいつが珍しくギルドにいたことに私も驚いた。

 

 

「そこのチビ助が言うようにミストガンはシャイなんだ、あまり詮索してやるな」

「チ!?だ、だれがチビだぁ!!」

 

 

 そして出会い頭にチビ助呼ばわりされたことに、イラッときた私はウガーと言い返す。

 

 

「“リュウ”とセットでようやく一人前のガキにはちょうど良い呼び名だぜ?」

「っ!?」

 

 

 ラクサスはこちらを揶揄するが、私は何も言い返せずに、ただ言葉に詰まった。

 

 

「ラクサスー!!俺と勝負しろー!!」

「さっきエルザにやられたばっかじゃねえか」

 

 

 段々とピリピリしてきた周りの雰囲気を気にせず、ナツはラクサスに勝負を挑む。

 

 

「やめとけよ、エルザごときに勝てねえお前じゃ、俺には勝てねえよ」

「それはどう言う意味だ?」

「おい……落ち着けよエルザ」

「俺が最強って事さ」

 

 

 ラクサスの挑発にエルザの機嫌がわかりやすく急降下し、ギルドに緊迫した空気が漂う。皆がヒヤヒヤとしながら、二人の様子を伺うがラクサスは気にせずギルドの皆に聞こえるように宣言した。

 

 

「降りてこいこの野郎!!」

「お前が上がってこい」

「上等だ!!」

 

 

 降りてこいと言うナツに、二階に上がってこいとラクサスは言う。頭に血が上っていたナツは駆け出し、カウンターを踏み台にして飛び上がったが。巨大な手によって潰された。

 

 

「二階に上がってはならん……まだな」

「ははっ!怒られてやんの!」

「ふぬぅ……っ!」

 

 

 ナツを止めたマスターは冷静かつ豪胆に言った。その言葉は戒めのように私達の心の中に残る。基本、まさに“自由”を体現しているギルドではあるが、それでも定められたルールは存在しており、それを破れば相応の罰を受けなければならない。

 ラクサスが今いる二階には通常より遥かに危険度が高い依頼──“S級クエスト”が貼ってある。その為エルザやラクサス……ミストガンのような“S級”の資格を持つものしか二階に上がることは許されない。これには流石のナツも押し黙る。

 しかし、ラクサスにまた揶揄われ再び頭に血が上り拘束から抜け出そうとする。マスターは凄まじい力でナツを押さえつけているのかそれは叶わなかった。

 

 

「ラクサスもよさんか」

妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強の座は誰にも渡さねえよ。エルザにも、ミストガンにも、あの親父にもな」

 

 

 マスターがラクサスを諭すが、ラクサスは聞く耳を持たず、笑みを浮かべながら言葉を続ける。

 

 

「俺が……最強だ!!」

 

 

 皆が見てる中、ラクサスはそう宣言したのだった。

 

 

 


 

 

 

「もきゅもきゅ」

「もきゅもきゅもきゅもきゅ」

 

 

──“リュウ”とセットでようやく一人前のガキにはちょうど良い呼び名だぜ?

 

 

「あーもう!ムカつくなあの不良孫!!」

「!?」

 

 

 今まであった色々をどうにかして落ち着かせようとして干し芋をやけ食いしていたが、あの馬鹿の言葉が頭によぎり、耐えきれずバーン!!と手を机に叩きつける。私の突然のブチ切れに隣にいたリュウがビクッと肩を震わせた。……あ。

 

 

「お、驚かせてごめんねリュウ!?大丈夫!?」

「だ、だいじょぶ……お姉ちゃんもだいじょーぶ?」

 

 

 どぎまぎと、こちらを伺いながら逆に心配をされた。驚かせてしまったのにこちらを心配してくれるその優しさに心が癒されながら、ゆっくりとリュウの頭を撫でる。

 

 

「うん、リュウのおかげでちょっと落ち着いたよ」

「りゅ〜……リュウのおかげ?」

「うん!リュウのおかげ!!」

 

 

 私がそう言い切ると、リュウは顔をパァーッっと明るくさせて抱きついてくる。

 

 

「リュウのおかげー!」

「そう、リュウのおかげー!」

「リュウのおかげー!!」

「なんと言うか……お前らが楽しそうで何よりだよ」

 

 

 抱きつきながら私の言葉をオウム返ししてくるリュウが、あまりにも可愛らしくて私も抱きつく。その後、二人で言い合ってたら、マカオが生易しい目で私達を見守っていた。

 

 

「へへーん!混ぜてあげないよーだ!」

「へーん!よーだ!」

「分かってる分かってる」

「分かってるならいいよ」

 

 

 これ以上はやぶ蛇になると察したマカオは、早々に退散する。マカオが退散したし、もうちょっとリュウを甘やかしたいところではあるけれど、私は最後にリュウの頭をガシガシと少々乱暴に撫で、体を離す。

 さってと、リュウ成分も補充したところだし、そろそろ行くか。席から立ち上がり、依頼板(リクエストボード)まで歩くと、リュウも私の後ろをヒヨコのように着いてくる。

 

 

「さて、何を……みっけ、これにしよう」

 

 依頼板(リクエストボード)に貼ってある依頼をパッと見て、即決断して紙を一枚取った。

 

 

「シエル、また依頼か?」

「うん、と言うことでエルザ。暫くリュウを預かって欲しいんだけど」

「りゅ!?」

 

 

 次の依頼にはリュウを連れてけない。そう判断した私はエルザにリュウを預かってもらうようお願いする。リュウはまさか預けられるとは夢にも思っていなかったのか、驚いた表情を見せた。

 

 

「……ラクサスが言ったことを気にしてるのか?」

「そう言うわけじゃないよ、たた次の依頼にリュウを連れてけないだけ」

「りゅ〜……」

「だから、そんな捨てられた子犬のような目をしても連れてけないよリュウ」

 

 

 リュウは捨てられた子犬のような目をして訴えかけるが、今回ばかりは本当に連れてけない。そりゃ……まあ、ラクサスの言葉を気にしてないか気にしてるかと聞かれたら気にしてるけど。それとは関係なしに連れてけない。そんな気持ちを分かってもらいたくて、今度は諭すようにリュウの頭を撫でる。

 

 

「だから、待ってて。私が帰ったらおかえりって出迎えて欲しいな」

「りゅ、うぅ」

「と言うわけでエルザ、リュウのことをお願いするね」

「ああ、任せろ」

「マスター!これ受けるね!行ってきまーす!!」

 

 

 私は元気よく、ギルドを飛び出た。

 

 

 


 

 

 

「……暇!」

 

 

 駅につき、切符を買ったシエルは、手持ち無沙汰になったこの状況をどう打開するか考えていた。今彼女は一人だった。

 

 

「駅弁は……どうしようかな、買おうかな……買うかー」

 

 

 取り敢えず暇だし、買うだけは買おうと、シエルは貴重品を持って、荷物から離れた。少しするとシエルが荷物から離れるのを待ち構えていたかのように一匹の“白猫”がそろりと現れる。猫はキョロキョロと辺りを見渡し、周りの人々が荷物を見ていない事を確認して、荷物に近寄った。

 

 

「にゃ!」

 

 

 猫はバックの蓋を開け、中に入った後、尻尾でバックの蓋を器用に戻す。それからバックがもぞもぞと動くが、中の猫が丁度いい体勢を見つけられたのかピタリと動きが止まる。

 

 

「ただいまー……って誰もいないけどさ」

 

 

 シエルが戻る頃にはバックは元どおりになっていた。彼女はバックの中身が増えているなど考えもせず、バックを手に取り列車に乗る。

 

 

「……にゃにゃー」

 

 

 バックの中にいた猫がコッソリと返事を返したが、シエルはそれを聞き取れなかった。聞き取れさえすれば、その後の話は違ったかもしれないが、それはもう後の祭り。

 こうして彼女はいつも通り、一人と“一匹”で依頼先に向かったのだった。

 

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