今思えば私の一人旅は、最初っから躓いていた。正確にはリュウがバックの中に入り込んでた時から。
多分、リュウも私もギルドに帰ったら、マスターやエルザに怒られるだろうけど……今はそんなことどうだっていい。
そんなことよりも……今、私が言いたいことはただ一つ。
「遭難しました……」
島を歩いてたら遭難して数日経ちました。浜辺にも戻れません。助けてみんな。
「そうなんだー!」
「……リュウ、そのダジャレはグレイから?」
「だよ?」
「不謹慎だから今後一切それ禁止ね。後、猫のふりを忘れないの」
「に、にゃー」
よし、リュウの寒いダジャレについては、後でグレイを小一時間問い詰めて蹴り飛ばすとして……それより今は目の前のことだ。とにかく、この現状をどうにかしないと。
ギルドに帰らないと怒られることもできないんだから。
──とはいっても。
「おかしい、おかしいよ。いくら見知らぬ土地とはいえど、ここは森の中。小さい時からずっと森でサバイバルをしていた私が、森の中で遭難だと?街中はともかく森の中だよ?どこもかしこも木ばっかりで目印になりそうなものは何処にもないし、月も紫で色々とおかしいけれど、遭難するほど私の方向感覚は狂ってないと思ってたのに……街暮らしで鈍ったか」
「……にゃー」
「……大丈夫、道は繋がってるんだし歩いていけばいつか浜辺に出るよ」
背負っているキャリーから、こちらを心配する鳴き声が聞こえたので安心させるためにリュウに声をかけた。
うん、大丈夫だ。流石にここで一生過ごすことはないだろうし。
最悪の場合“リュウを探しに”めちゃくちゃに怒ったエルザが迎えに来るよ、多分。
「てなわけで……行くぞー!」
「にゃー!」
私の号令にリュウが元気よく返してくれた。私はそれが嬉しくなってズンズンと森の中を突き進んでいった。
──30分経過
「あれ、この道さっき通った?」
「にゃー……」
「だ、大丈夫だって!」
見覚えがある道に首をかしげると、再びリュウがこちらを心配して鳴いた。若干焦りながら私は大丈夫だと伝える。
あ、そうだ。目印つけよう。来た道に目印つければきっとどうにかなるはず……最初にやればよかったね。
「リュウ、丸・三角・四角・バツどれがいい?」
「にゃんかくー!」
「オッケー、三角っと」
手頃な木に△のマークをつける。これで良しっと。
「じゃ、もう一度……行くぞー!」
「に、にゃー!」
お互いに元気を出して、△のマークをつけた木から右に突き進んだ。
──2時間経過
「あれーおかしいなー」
歩けど歩けど、見える景色はただの森。その事実に私は疲れ果てて地面に崩れ落ちる。
同じ景色が続くぐらいなら耐えれたんだ。それだけならまだ良かった。いや、決して良くはないけど。
私が地面に崩れ落ちた原因は他にある。景色が続く以上に疲れることが起こっている。そのせいで私の疲労は倍増している。
目の前にあるものに私は首をかしげた。
「これ、最初の木だよね」
私の目の前にあるのは最初に三角のマークをつけた木だ。この木を見るのはこれで5度目。最初にマークをつけた時は右に真っ直ぐ。2回目は左に真っ直ぐ。3回目は前に真っ直ぐ。4回目は後ろに真っ直ぐ。四方八方いろんな方向へ向かったはずなのに、どんな方向に進んでも最後はここにたどり着く。
……流石におかしすぎる。
「……にゃー」
「
街の人混みはともかく、森で私が迷うはずがない……はず。
だんだん私も不安になってきた……いや、耐えろ私!リュウだって頑張ってるんだから私も頑張る!!
「私は絶対浜辺に戻ってみせる!」
ただし、水も忘れずに採取してから!
「行くぞー!」
「みゃにゃー!!」
「……まさか今日まで迷っているとは……夢にも思っていなかったぞ」
「誰!?」
木の上から人の声がしたので、見上げるとそこには仮面をつけた緑髪の少年がこちらを見下げていた。
この島に人がいたのか?……遭難していた数日間、今まで会わなかったってことはどんだけ運が悪いんだろう私。
「ど、どうもこんにちは」
「どうもこんにちは」
「にゃー」
「猫ちゃんもご丁寧にありがとう」
とりあえず第一村人?を発見したので私たちは挨拶はした、挨拶は大事だもん。
「まあ、挨拶もそこそこに本題に入ろうか」
「本題?」
「そう、本題。……即刻この島から立ち去れ」
「……無理」
「にゃ」
まさか、会って早々第一村人に帰れって言われると思わなかった。
かなり失礼な少年にリュウの機嫌も悪くなっていく。
「こっちにはこっちの都合がある。人の指図なんて受けないよ。そもそも帰るにも現在進行形で森からでれないんだよ!」
「ああ、確かに君の都合は知らない。だが、君がここ数日この森で迷子になっていたことは知っている」
「迷子じゃない遭難だ!というか気づいてたならもっと早く声をかけて欲しかった!こちとら大変だったんだよ!同じ場所をぐるぐるぐるぐる!!」
「迷子も遭難も似たようなものだろ。そもそも君たちが今日までここを彷徨っているのが計算外だ」
出会った少年は人が遭難してるのを数日放置する悪趣味な性質を持っていた。放っておかれた事実に私は怒る。
いや、それだけならまだ許せたんだ。遭難を放置されたけどぱっと見の印象と話した時の印象は悪くなかったから。ただの仮面をつけた薄情な少年だった。
だけど、その次に少年が言った台詞で私の中の少年の印象は下落する。
「確かに“遺跡に近寄らせないよう人避けの魔法をこの近辺にかけたのは俺だ”。“その魔法と君の方向音痴が噛み合って君たちが迷子になったわけだけど”」
「お前の仕業かーーーーー!!!!」
「うわ!?」
仮面をつけた薄情な少年はこの瞬間、
目の前の敵をぶちのめすため、【疾風のごとく】を取り出して、飛びかかった。少年はすぐさま別の木に飛び移る。最初に少年が足場にしていた木の枝を切り落とした私はそのまま【疾風のごとく】を空中で構える。
「それと私は方向音痴じゃないよ!私だって努力したんだよ!!遭難してからこれはまずいと目印つけるとかで対策したよ!!」
「そうだな、方向音痴という言葉は正しくなかったかもしれない。方向音痴というよりは慌てるとドツボにハマるタイプだな君。正直な話、遭難してから目印つけても、あまり意味はないというか。……そもそも最初っから今のように空を飛んどけば、何日も森の中を迷うことはなかったんじゃないか?俺がかけた人避けは森の中だけだ、空の上は何も無い。空を飛べば少なくとも浜辺には戻れたと思うんだが……」
「………………」
「………………」
少年の言葉になんとも言えない気まずい沈黙が場を支配する。三人とも身じろぎもせずその場で固まっていた。
誰も動かず数分が経過したが、均衡を破ったのはシエルだった。
「……別に空飛ばなくても道は全部繋がってるから歩けば着くと思ったんだよこの馬鹿!もーいつもは歩いた道に置く目印を忘れたのも!ぐるぐる島を遭難することになったもの!リュウが付いて来ちゃったのも!全部お前が悪い!!」
「それを全部俺のせいにするのは無理ないか!?最後は俺全く意味わからないぞ!?」
そりゃ魔法でややこしくしたのは俺だけど!と少年が叫けぶ。
魔法でややこしくした自覚があるならいい。思う存分ぶっ飛ばせる。大丈夫、こっちも八つ当たりの自覚はある!!
「遭難の恨みーー!!」
「ちょっと待て人の話を──っ!?」
上から下へ叩き渡すように【疾風のごとく】を振るって風の刃を放ち、風を起こす。
少年は風の刃は避けることができたが、風圧は避けることができずまともに風を受ける。少年は地面に叩きつけられた。
私は地面に伏した少年の側に降りて、少年を伺う。
「これに懲りたら人を遭難させるのは止めてね」
「にゃー!!」
「リュウ?危ないからキャリーに入っで!?」
突然リュウがキャリーから飛び出して、私の頭に噛み付いたって痛い痛い!?いつもより強く噛みつかれてるんだけど!!えっ!?何で!?反抗期!?
リュウの反抗期に慌てていると、横にいた少年の姿が揺らいだ。
──ってまさか!?
「っ!?リュウ!!」
「みゃ!!」
「そこかっ!“七光の槍よ!”
リュウは尻尾で誰もいない場所を指し示す。私は頷きその場所に七光の槍を放った。
誰もいなかったはずの空間が歪み、少年が姿を現わす。少年は飛び上がって光の槍を避けた。
「っとと、まさか気づかれるとは思わなかった。君の猫ちゃん、中々賢いね」
「ふしゃーー!」
リュウが毛を立てて目の前の少年に威嚇する。私も目の前の少年を睨みつけた。
「幻影魔法……」
「そ、アレで満足して帰ってくれればよかったんだけどね。動物には効き目がなかったか」
「残念でした。リュウがいる限り私に幻影魔法は通じないよ観念して私にぶっ飛ばされろ」
「そうだね残念だ。“今回俺があんまり目立つわけにはいかなくてね”」
「は?」
少年がそう言うと少年の姿が揺らいで消えていく。
「ちょっと!?」
「俺の本体はこの島にいない。君が目にしているのは俺の分身だ」
「分身?」
「今回の俺はサポートでね、君と村人とギルドの奴ら相手に充分時間稼ぎをしたからそろそろ俺は退散させてもらうよ。“ゼレフの悪魔が復活しようが俺には何も関係ない”」
少年の言葉に目を見開く、こいつは今何って言った?ゼレフの……悪魔!?
「待って!それはどういうこと!?」
「さあ、どういうことだろうな。人避けの魔法は解いておくから、後は頑張れ。生き残りたかったらこの島から逃げることだよ」
そう言って少年の姿は完全に消えた。頭の上に乗っているリュウに視線を向けるとリュウは首を横に振った。
すでに……いや、最初からここにはいなかったと言うことか。いない人をこれ以上考えても無意味だ。それより今はあいつが去り際に言った言葉。
「ゼレフの悪魔が復活する?」
今まで遭難していた事実が軽くすっ飛ぶくらいには、少年の言葉は衝撃すぎた。
ゼレフの悪魔……『
復活するのはあの【
「“アレ”と同等……下手するとそれ以上の悪魔を復活させようとしているってことか」
もしかしたらアレより弱い奴を復活させる可能性もあるけどそれは希望的観測だ。“ゼレフの悪魔”である以上、そんな楽観視はできない。
「今から戻って……皆に報告、いや、あいつは時間稼ぎが終わったから消えた。もう、時間がない。今、悪魔を倒さないと……」
「……………にゃ!」
シエルの様子を見ていたリュウは、突然何かに気づきシエルの頭の上から飛び降りて、地面に着地する。そしてどこかへ走り出した。
「リュウ?一人で行動しないで危ないよ!」
私は慌ててリュウの後を追いかけた。
「にゃつーー!!」
「ぶっ?」
シエルの元から離れて走り出したリュウはある少年の姿を見つける。そしてそのままそれなりに上位の優先順位(シエルには遠く及ばないが)にいる少年の顔に飛びついた。彼女がいきなり
そして必ず助けてくれると確信していたからだ。
「なんだぁ!?」
「みゃ!」
少年は顔に引っ付いた猫の首根っこを掴み引き剥がした。
「いきなりなんだ!!……ってこの匂いは……お前リュウか!?」
「にゃんみゃー!」
少年はいきなり飛びかかってきた猫に怒るが、覚えのある匂いに首をかしげ、匂いから猫の正体を言い当てた。
リュウは当ててもらえたことが嬉しくて上機嫌に鳴く。
「お前、まさか呪われて猫になったのか!?」
「みゃ〜?」
そして変なことを言い出した少年にリュウは首をかしげる。“え、呪いってなに?”っと思ったリュウは言葉にして告げようかと考えたがシエルからお願いされた“猫のふり”を止めるわけには行かないと言葉にするのを抑えた。
いつもは自由人のリュウは、流石にそこは考えて行動をした。さっきから猫のふりが抜けていたので巻き返そうと頑張った。
「……リュウ、待って……って」
「あ、シエル」
リュウより少し遅れてシエルがこの場にたどり着いた。
少年がシエルに気がつき、シエルは少年がこの島にいたことに驚く。
リュウが飛びついた少年は──