シエルにオネエ疑惑をかけられているザルティが、何かに気づき不敵に笑いだす。
「何だぁ?変なやつだな」
「……“
「何だと?」
「上をご覧なさい」
「上?……!?」
ザルティに促され、上を見ると天井から、細い紫の光が氷漬けのデリオラに降り注いでいた。
「何で光が……」
「誰かが上で儀式やってんのか!!?」
「たった一人では【
月の光が当たった場所からデリオラの氷が溶け始める。どんどん氷が溶けてデリオラの姿が現れてくる。
「デリオラの氷が!!」
「くそ!しくじった!!頂上にいる奴なんとかしねーと!!……いで!?」
「ナツ!」
慌てて頂上に向かおうとしたナツだが、突然地面がせり上がり壁となってナツを打ち上げた。私はその“壁”に見覚えがあった。
「さっき私が作った壁っ!」
「先ほど戻した時間を進めさせていただきました。儀式の邪魔はさせませんぞ」
急がないと、こうしている間にもデリオラの氷がみるみる溶けていく。このままだとデリオラが復活してしまう。すぐにでもザルティをぶっ倒さないと。
「【蜂のように刺す】!!」
風を身に纏い、ザルティに向けて突きを放ったが、ザルティは飛び上がって避けた。
「ちっ!」
「ほっほっほーーっ!」
「何笑ってんだぁーーー!」
「ナツ!」
私の横をナツが凄まじい勢いで通り過ぎ、炎の拳でザルティに殴りかかる。
「良いのですかな?デリオラがあんな状態で“火”の魔法など、解氷を促進させますぞ」
ザルティの言葉を無視しナツはザルティを殴りつける。ザルティは避けたが地面が抉れた。
じゃない、そうだった。下手するとナツの炎で氷が溶けるんじゃ。
「火の魔法で氷が溶けたらお前らも苦労しねーだろ」
「ほっほぉーう、戦場での頭の回転の速さと柔軟さには驚かれますなぁ」
私がそんな心配をした瞬間にそんな心配は必要なくなった。まあ、よく考えればそうか……普通の手段で溶けないから【
「シエル!リュウ!先に頂上に行け!!」
「えっ……」
「こいつは俺が相手する!!」
ザルティから目を離さずにナツは言った。ナツ一人を残すことに躊躇をするが、他に手段はないし、そもそも私はナツを心配できるほど強くもない、ここはナツを信じよう。
「分かった!」
「そう簡単に逃がすとお思いですか?」
身を翻し、この場から儀式している頂上に向かう。しかしザルティは水晶玉を飛ばし私の行く手を阻もうとする。飛んできた水晶玉を切ったが水晶玉は瞬く間に切れる前に元どおりになる。その水晶玉をリュウがバリバリ噛み砕き、ザルティを睨みつけた。
「行って、お姉ちゃん」
「リュウ!?」
噛み砕いた水晶玉を飲み込んでリュウはナツの隣につく。
「物体の“時”を操る。さっきお前はそう言った。だけど、リュウが食べた柱と噛み砕いた水晶玉を戻すことはできなかった。お前の魔法は生物と生物が取り込んだ物体の“時”を戻すことができない。なら、リュウが全部食べてやる」
「おや、本当に賢い子猫さんだ。子猫さんの言う通り生物には効きません。だからこそウルであるこの氷の時間も元に戻せなかった」
ザルティの様子を見る限り、嘘は言ってなさそうだ。私とナツは壊すだけ、この場でザルティに一番相性がいいのはリュウか、なら。
「分かった。二人ともここは任せたよ!!けどリュウ!水晶玉とかは食べていいけど“人”は食べちゃ駄目だからね!!」
ここは二人に任せよう。だけど、頭に血が上りかけているリュウには釘を刺しておく。このままだとザルティを頭からパクリと食べそうで怖い。
「…………」
「返事!」
「りゅー……分かったよ!」
私の言葉にリュウは不満げに頷く。頷いた以上どんなに怒っても“人”を食べることはないはず。不安がないかといえば嘘にはなるけど、そこはリュウを信じよう。とにかくここは二人に任せる!私は急いで頂上にへと向かった。
「じゃーまーだぁーー!!」
天井を突き破り、上へ、上へと上がっていく。遺跡が元に戻ったのがザルティの仕業なら、もう気にせず壊す。遺跡自体に修復機能がないなら粉々に壊す。
「何階建てだこの遺跡!無駄に階数多いんだけど!」
思っていた以上に階数があった遺跡に文句を言いながら私は天井を破壊していく。こうしている間にもデリオラの氷は溶けていってるのに。
「オオオオオオオオォォォ!!!!」
七個目の天井を壊すと地下から凄まじい叫び声が聞こえた。私は驚いて槍を落としそうになる。今の声……まさかデリオラが復活した?そんな、間に合わなかった。リュウとナツは大丈夫なの?急いで戻らなきゃ!
私は急いで来た道を戻ろうとする。
「早く戻らな……【
細いけれども【
「まだ間に合う。いや、間に合わせる!!邪魔だぁーーー!!」
私は天井を再び壊した。壊した先でまず見えたのは紫の月だった。それを見て私は漸く外──頂上に出たことを理解する。
「なんだぁ!?」
頂上では猫耳の男が儀式をしていた。こいつが一人で儀式をしていたのか。
「とりあえず……寝てろぉ!!」
「くぼぉ!?」
猫耳の男が驚いている内に渾身の力を振り絞って槍を猫耳の男に振り下ろす。槍の平たい部分で殴られた猫耳の男は地面に叩きつけられてピクリとも動かなくなった。
「終わり!……間に合った?」
月の光はもう降りていない。空の様子を見て私はその場に座り込んだ。
「はぁ……はぁ……」
「シエル!!」
「へ?誰……ルーシィとハッピー!と……エルザ!?」
誰かから名前を呼ばれたので、座り込んだまま声がした方に振り向く。そこにはルーシィとハッピーとエルザがいた。
あれ、ナツからハッピーとルーシィとグレイでS級クエストで受けた話は聞いたけどエルザも来てたの?いや、連れ戻しに来たのかナツたちかリュウのどちらかを。
こちらに近寄ってくる二人と一匹を見て私はふらつきながらも立ち上がる。
「どうしてお前もこの島にいる?」
「依頼だよ。S級じゃなくて普通の。エルザは……ナツたちの迎え?」
「ああ、もちろんそうだ。【
「今止めた。こいつが一人でやってたみたい」
気絶している猫耳の男を指差す。これでデリオラの封印は守られた……よね。疲れたけどすぐに地下に戻らなきゃ。ナツたちがまだザルティと戦っているかもしれない。
「エルザ、実はまだ地下にナツ……が?」
「誰だ!」
ナツたちか地下にいることを教えようとするとどこからか拍手の音が聞こえた。
「……お前は」
「やあ、さっきぶり」
拍手の主は仮面と緑色の髪を見てすぐに分かった。ナツと合流する前に出会い、そして逃げた幻影の少年だった。
「知り合いか?」
エルザの問いに私はコクリと頷く。
「私かこの島をグルグルする原因を作った奴」
「一応言わせてもらうが、何日も島を迷子になったのは君の不注意も原因だからな」
「そんなの私は知りませんーそもそも迷子じゃなくて遭難ですー」
私は悪くない。全部お前が悪い。そんな思いで私は少年を睨みつける。
「それ、どっちも似たようなものじゃ……むしろ遭難の方が酷いような」
「ルーシィちょっと黙ってね。そもそも何でお前が今現れるんだ。退散したんじゃなかったの?」
あの時こいつは時間稼ぎが終わったって言って幻影の自分を消して逃げた。そんなこいつがまたこの場に現れるなんて絶対碌なこと考えてない。
「そのつもりだったんだけど状況が変わってね」
「状況?」
「正直俺としては悪魔が復活しようがしまいが関係ないんだけど、復活させるのが“俺たち”の目的でね」
「なるほど敵か」
敵か味方か判断するのはその言葉だけで十分だった。エルザと私は武器を構える。
「そうそう敵だよ。もう役目は終わった……ね」
突然頂上に描かれている魔法陣から強い光が放たれる。
「残念だけど、儀式は“二人”で行なっていてね。君が来た時点ですでに儀式は終わっていた。そこのトビーも含め、幻影で儀式がまだ終わっていないように見せてただけだ」
「そんなっ!」
「オオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
地下から悪魔の叫び声が響く。それは頂上に向かうときに聞こえた声よりも大きく恐ろしい声だった。
その声に背筋が凍りつく感覚がする。
「これでデリオラは復活した。今度こそ俺はお役御免だよ」
「待て!!」
少年を止めるため、エルザは少年を斬りつける。しかし少年の体はエルザの剣をすり抜けた。
「何!?」
「何度も言うけど“俺”はこの島にはいない。この先は安全地帯から高みの見物でいかしてもらう」
そこまで言って再び少年の姿は霞に消えた。
私には少年に構う余裕はなかった。頭の中はデリオラが復活した事実でいっぱいだった。恐怖に支配された頭で考えられたのは一つだけ。
「リュウ……」
それは地下に置いてきた妹だった。
──数分前、地下
「ガァウ!!」
リュウは水晶玉を噛み砕き、飲み込んだ。もう幾つ食べたかは覚えていない。そんなの覚えるつもりもない。リュウはザルティの武器全てを食べることしか考えていなかった。自分とナツを狙う物をリュウは全て食べた。
ザルティは自分の水晶玉がリュウに殆ど食べられるのを見て、辺りの天井や地面から石飛礫を作り出しそれを武器にしてナツとリュウに飛ばすがリュウはそれを全て吸い込んで食べた。
「りゅ〜う!!」
「その子がいる限りこのままでは私に勝ち目がありませんな」
ザルティはそう言うが、ザルティからは焦りを感じ取れず余裕がにじみ出ていた。その姿を見てリュウは警戒する。
「ハッキリ言ってお前らよく分かんねーよ。こいつを復活させてリオンがそれを倒す。リオンってのはそれでいいのかもしれねぇが、他の仲間には何の得があるんだ?」
「さあ、私めはつい最近仲間になったばかりなのでね。彼らの目的は知りません」
「んじゃお前でいいよ。本当の目的は何だよ」
「いやはや、本当に驚かされますなぁ。零帝様……いいえ、あんな“小僧”ごときにはデリオラはまず倒せませぬ」
零帝──リオンを嘲笑いながらザルティは言った。その様はリオンに対する敬意が微塵も感じられない。ザルティは最初からデリオラを復活させるためだけにリオンに協力していただけだった。
「それじゃ大変じゃねーか!!お前が倒すのか!?」
「とんでもございません──ただ我が物にしたい」
「んだと!」
「例え不死身の怪物であろうと、操る術は存在するのです。あれほどの力、我が物にできたら、さぞ楽しそうではございませぬか」
ザルティはデリオラの力の魅力をナツとリュウに話す。
「何だ、下らねえな」
「りゅ、そんなのより私は美味しいご飯を食べてる時が楽しい」
ザルティの言葉に反してナツとリュウの反応は薄かった。それどころか冷たかった。
「……あなたたちはまだ分かりますまい。“力”が必要な時は必ず来るという事が」
「そん時は自分と仲間の力を信じる。
「自惚れは身を滅ぼしますぞ。天井よ時を加速し朽ちよ」
ザルティは天井の時を進め、大量の石飛礫を作り出した。
「どいつもこいつもくだらねぇ理由で島を荒らしやがって……」
ナツは怒っていた。身勝手な理由で村人たちを悪魔の呪いで苦しめた彼らに、村を破壊した彼らに怒っていた。墓を破壊された村長の息子の為にも、呪いを解いて欲しいと願った彼の為にも、許すことはできなかった。彼の墓の前でナツは誓った。
「もうガマンならねえんだよ!!」
ザルティをぶっ飛ばす為に足から炎を噴出させたナツは飛び出した。その拳には 荒ぶる炎が纏われていた。
「その荒ぶる炎は我が“時のアーク”を捉えられますかな?」
「アークだかポークだか知らねぇが、この島から出ていけ!!」
ナツの拳から繰り出された炎は石飛礫を全部焼き尽くし、目くらましとなってザルティの視界を遮った。
「ぬぅ!」
ナツを見失い、ザルティは煙の動きからナツがどこにいるのかを探す。そして一箇所だけ煙の動きが違う場所があった。ザルティはそこに向けて石飛礫を飛ばす。
「そこか!!」
「りゅ、外れ!!」
「なっ!!」
煙の中で動いていた誰かはリュウだった。リュウは飛ばされた石飛礫を食べ、一瞬でザルティに詰め寄った。
「しまった!!」
「りゅ、いただきまーす!」
リュウは大きな口を開け、鋭い牙をザルティに見せつける。その様子を見たザルティは恐怖で一瞬身を強張らせた。しかし、リュウはザルティには指一本も触れず周りに浮かんでいた石飛礫と水晶玉だけを食べた。
「ごちそーさま。それなりの味だったよ」
そしてリュウはその場を離脱する。最後の美味しい部分を譲る為に。
「そういや、俺にも時が操れるんだ」
「は!!?」
「一秒後にお前をぶっ倒す!!」
ザルティの頭上にはすでにナツがいた。ザルティは回避に移ろうとするがもう遅い。
「【火竜の鉄拳】!!」
「きゃあああああああああああ!!!」
ナツは渾身の力でザルティを殴り、吹き飛ばした。まともに食らったザルティは回転しながら何処かへ吹っ飛んでいく。
吹っ飛ばされたザルティを見て、リュウはどうせなら“あの女”食べておけばよかったか、とも考えたが、シエルから人は食べちゃ駄目だと言われたので我慢をした。味もそこまで不味くはなかったが、酷くエグ味があったので我慢した。
「よし、シエルを助太刀に行くぞ!」
「りゅー!行くー!」
吹き飛ばしたザルティを見て、ナツとリュウは先に頂上に行ったシエルの助太刀をしようと頂上に向かおうとした。
その時だった──
「オオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
──遂にデリオラの封印が解け、悪魔が叫びをあげる。
十年の時を経て、“厄災”は再び動き出そうとしていた。