「リュウ、ありがとう……」
「りゅー!どういたしまして!」
「……ところでなんでお前がここにいるんだ?」
「りゅー!お姉ちゃんのバックに入って着いてきた!」
全てが終わり、グレイは当然の疑問を口にした。目の前の白豹がリュウであるならこの島にいるのはおかしい。リュウは絶賛家出中だったはずだ。
「シエルもこの島にいるのか……というかシエルに着いてきたってお前……それならエルザに黙っていくことなかっただろ。怒髪天だったぞ、エルザ」
「えー書き置き残したよ?」
グレイはリュウが居なくなり、怒髪天となったエルザを思い出し身震いする。しかしリュウは書き置きをしっかり残したのに怒ったエルザに首を傾げた。
「確かに“行ってきます、大丈夫だから探さないで下さい”って書いた書き置きがあったな……あれで怒られないと思ったのか」
「思った!!」
「ならその認識は改めろ。あの書き置きは俺でも怒る」
「りゅ!?」
グレイにきっぱりと書き置きの内容を否定されて、リュウはガーンとショックを受けた。
そしてしょんぼりと耳を垂れ下げ、顔をうつむかせた。
「しょぼーん……」
「それが通用するのはお前にはチョロいシエルだけだからな。というか、その姿はどうしたんだ?」
「りゅー?それはねー」
「リュウウウウウウウ!!!」
「ぐっ!?」
「シエルか!?」
リュウがグレイになんで自分が白豹の姿をしているか説明しようとすると、横からシエルが凄まじいスピードで現れてリュウの首に抱きついた。首が締まりリュウはグエッとカエルが潰れたような声を出す。
「大丈夫リュウ!?大丈夫だったリュウ!?大丈夫だよねリュウ!!?」
「〜〜〜〜〜っ!」
「落ち着けシエル!!首!リュウの首が絞まってる!!」
シエルは半狂乱になりながらリュウの首に抱きつく、リュウの首がキリキリと締まりリュウは苦しそうな声を漏らす。それを見たグレイ達は慌ててシエルを止めに入った。
「よかった……リュウが無事で……」
「りゅーそんな心配いらないよお姉ちゃん。リュウだって
「さっきはごめんね、本当にごめんね」
プンプン!と頰を風船のように膨らませリュウは言う。完全に臍を曲げられてしまった。ほぼ私のせいだからしょうがないけれど。でも臍を曲げているリュウも可愛い。
「ふーんだ!リュウはお姉ちゃんと違ってチョロくないもーん!そんなんで許さないもんねー!」
「……リュウ、私がチョロいって誰が言った?」
「グレイ」
リュウは尻尾で器用にグレイを指す。指されたグレイはビクッと肩を震わせた。
そっかーグレイかー。
「そう。グレイ、今後
どっかのウェイトレス兼魔術士がお前の料理にタバスコぶっかけても私は全く関係ない。
ニッコリとそして晴れやかに私はそう言い切った。
「リュウ、ここにミストガンの馬鹿から掠め盗った魔力いっぱいの
「いるー!!」
「許してくれる?」
「許すー!」
「「チョロ!?」」
私から
私の誠心誠意の謝罪によりリュウは許してくれた。そこ、チョロいって言うな純粋って言え。
「おーしー!」
「それはよかった」
「ナツー!シエルー!グレイー!」
「ルーシィ!ハッピー!エルザ!」
「げぇ!?エルザ!!?」
「り゛ゅ!?」
ルーシィとハッピーが手を振りながらこちらに駆け寄って来たので、私も手を振り返した。
そして、エルザの存在に恐れ慄く者が二人いた。エルザを見た一人はこの場から逃げようとし、一人は子猫となって私の頭の上に乗った。
「逃げるな」
しかし、エルザから逃げようとした
「ごめん、ほんっとうにごめんリュウ」
「にゃー?」
「全力で猫のフリをしてると思うんだけど、私、エルザに一から十まで全部話しました」
「にゃ、にゃんと?」
「だからそのー……今私の頭にいる白猫が【変化】したリュウだってことが、エルザには分かっています」
本当にごめんリュウ。皆の目を掻い潜って私についてきたのも含め、黙っておくことはできなかった。
私の言葉を正しく理解したリュウはすぐさま私の頭から離れようとする。
「逃すなシエル」
「ア、ハイ」
「りゅー!!!」
エルザに睨まれて、私は逃げようとしたリュウの身体を掴む。ごめんリュウ。いつものエルザならともかく、今のエルザには逆らえない。ナツ達がマスターの言いつけ破ってS級クエスト受けたからいつも以上に怒ってる。
私に掴まれて、リュウはジタバタと身体をバタつかせる。
「安心しろ二人とも、仕置きは後だ。まだS級クエストは終わっていないだろう」
掴まれながら逃げようとする二人にエルザはS級クエストが終わっていないことを告げる。って。
「デリオラを倒すのがS級クエストじゃなかったの?」
「違う。悪魔にされた村人を救うことが本当の目的だったはずだ」
「……そう言えば確かにそんなことナツが言っていたような……」
ゼルフの悪魔とかグレイの兄弟子とかで一番重要なことがすっ飛んでいた。
「で、てもデリオラは倒したし……村の呪いだってこれで」
「いや、あの呪いはデリオラの影響ではない。
「そんな……」
「んじゃ、とっとと治してやっか!」
「どうやってだよ……あ」
グレイは
「俺は知らんぞ」
しかし、私たちが期待した答えは返ってこなかった。
「何だと!?」
「この後に及んで言い逃れはかっこ悪いぞ!ダメな大人だぞ!街中で真っ裸になるグレイよりかっこ悪いぞ!」
「おい、最後」
「多分リュウ的には、今のお前は“弟弟子よりかっこ悪いぞ”って言いたかったんだと思う」
言ってることはわからないでもないけどね!というかリュウの方が正しいし!
「三年前、この島に来た時村が存在するのは知っていた。しかし俺達は村の人々に干渉しなかった。奴等から会いに来ることもなかったしな」
「何だよ、今更俺たちのせいじゃないって言うのかよ」
「三年間俺達も同じ光を浴びてたんだぞ」
リオンの言葉に私たちはハッとなった。見れば言われてみればそうだ。浴びた量的には儀式の近くにいたリオン達の方が多い。
「気をつけな。奴らは何かを隠してる。……ここからはギルドの仕事だろう」
「村が元に戻ってる!?」
村について、見えた光景にルーシィ達は驚いた。
ルーシィ達の話によると、村はリオンの仲間にボロボロにされたはずだった。それがまるで時が戻ったかのように元どおりになった。
時が戻る……それに私たち三人はある人物を頭に思い浮かべた。
「ねぇな」
「ないでしょ」
「りゅー」
しかし満場一致で、その人物を候補から外した。
「まあいっか!戻ったんだし!」
「うんうん。何が起こったかわからないけどそれが一番だよね」
「いいんだ……」
「魔導師どの!村を元に戻して下さったんですね!」
「きゃ!?」
悪魔がこちらに近寄って来て、私は慌ててエルザの後ろに隠れる。び、ビックリした……村人が悪魔になってるのは話を聞いてたけど思ってた以上に悪魔だった。
「村長さん!」
「それについては感謝しています。しかし!一体いつになったら月を破壊してくれるんですかな!!」
村長さんも呪いを解きたくて必死なんだと思う。けどその呪いのせいでめっちゃ怖い。本人にはそのつもりなくてもすっごく怖い。村長さんの剣幕に私はビクビクだった。
「月を破壊することは容易い」
「とんでもないことしれっと言ってるぞ」
「あい」
「りゅー」
「しかし、その前に確認したいことがある。皆を集めてくれないか」
月を破壊するのが簡単とか恐ろしいことをエルザは言った。流石エルザって言った方がいいのかなこれ。
でも、エルザは破壊する前に確認したいことがあると村人を集めた。
「整理しておこう。君達は月が出てからそのような姿になってしまった。間違いないか」
「正確にはあの月が出ている間だけ、このような姿に……」
「話を纏めるとそれは三年間からということになる」
「確かにそれくらい経つかも……」
エルザの言葉に村人は同意した。
「しかしこの島では三年間毎日
淡々と村の人たちに今までの状況を整理して話すエルザだったけど、突然落とし穴に落ちた。
「え、エルザーー!?いったい誰がこんな性悪な落とし穴を!!」
「ルーシムグ」
「私のせいじゃない、私のせいじゃないからね!」
すぐに落とし穴に駆け寄ってエルザの様子を伺う。
誰が村の入り口を塞ぐような落とし穴を作ったんだ……危ないよ!
「だいじょーぶー?」
「つまりこの島で一番怪しい場所ではないか」
私たちの心配を他所にエルザは平然と穴から這い出て話を続けた。ちょっとエルザ、多分恥ずかしいんだと思うけどリュウの心配を無視しないでほしい。
「何事もなかったかのように話を続けたぞ」
「逞しいな……」
「なぜ調査しなかったのだ」
ざわざわと村人達がざわめく、言うべきか言わざるべきか言葉を選んでいる雰囲気を感じた。
その中で村長さんが、口火を切った。
「それが……ワシらにもよくわからんのです。……正直あの遺跡は何度も調査しようといたしました。皆は慣れない武器を持ち、ワシはもみあげを整え……」
「もみあげ?」
「リュウ、シー……」
話が脱線しそうだったので唇に人差し指を当てて、リュウには今は静かにしてもらうことにした。今大事なところだからね。
「……何度も、遺跡に向かいました。しかし、近づけないのです」
「!!」
「遺跡に向かって歩いても気がつけば村の門。我々は遺跡に近づけないのです」
「どーいうこと?」
「私たちの時みたいに仮面の馬鹿がなんか魔法かけてたとか?」
遺跡に近づけない原因として思い当たるのは私たちが森で何日も遭難することになった諸悪の根源だった。あいつめ私たちだけじゃなくて村人まで魔法かけてたのか。
「森の中を迷子になるのと、入り口に戻されるのは違うだろ」
「迷子じゃないし!遭難だし!」
「でも俺たちは中まで入れたぞ、フツーに」
「ネズミには襲われたけどね……」
村人たちが遺跡に近づけない事に私たちは当然の疑問を浮かべる。そんなことありえるかと。
「こんな話信じていただけないでしょうから黙っていましたが」
「本当なんだ!!遺跡には何度も行こうとした!」
「だが、たどり着いた村人は一人もいねえんだ!」
私たちが半信半疑なのを見て、村人たちは口々に言う。その姿は嘘を言っているようにはとてもではないけど見えなかった。
「やはり……か」
しかし、エルザは村人たちの反応を見て確信を得たようだった。そして身に纏う鎧を【巨人の鎧】に変えた。
「ナツ、ついて来い。これから月を破壊する」
「おお!」
「「「「ええーーー!!!?」」」」
「今からあの月を破壊する。そして皆を元に戻そう」
そう言ってエルザはナツを連れて村の櫓に登った。
「月を壊すって……流石のエルザでも無理……だよな?」
「何をするつもりだろ……」
「ドキドキするね」
「そうだね。間違いなくこのドキドキはワクワク的なドキドキじゃないけどね」
「ビクビク的なドキドキだね!」
本当に月を破壊するのかな。と言うか破壊されたら今後どうやって月見をするんだろう。
「この鎧は【巨人の鎧】投擲力を上げる効果を持つ。そしてこの槍は闇を退けし【破邪の槍】」
「それをぶん投げて月を壊すのか!!すっげえ!!」
いや無理だから。私たちの思考は一致する。それで月が壊せた色々と問題だと思うな、私。
でもエルザは本気だし、ナツは楽しそうだし止められる雰囲気ではない。
「しかし、それだけではあそこまで届かんだろう。だからお前の火力でブーストさせたい」
「?」
「石突きを思いっきり殴るんだ。【巨人の鎧】の投擲力とお前の火力を合わせて月を壊す」
「おし!わかった!」
「なんであの二人はあんなにノリノリなんだよ」
「まさか本当に月が壊れたりしないよね……」
「月が壊れたら今後月見団子食べれなくなっちゃう?」
「うーん……月見ず団子なら食べれるんじゃないかな」
「もう月を壊れること前提の会話してる!?」
いやーうん。諦めって大事だよね。月が壊れるのが決定事項なら。もうその後の会話をした方が有意義だと私は思うんだ。
「ナツ!!!」
「おう!!そらあ!!」
「届けええええええ!!」
エルザはナツの力を借りて、月に目掛けて槍を放つ。紫の月にヒビが入る。その事実に村人たちは喜び私たちは驚いた。
しかし、その後の光景に皆目を疑った。
「月!?」
「これは」
紫の月が割れると、そこに現れたのは私たちがよく知る普通の月だった。
割れたのは月ではなかった。空が割れてキラキラと欠片が落ちてくる。
「割れたのは……空?」
「この島は邪気の膜で覆われていたんだ」
「膜」
「
月は本来の姿を取り戻し。村人たちの身体がキラキラと光り輝く。
「邪気の膜は破れ……この島は本来の輝きを取り戻す」
光が収まる。そこにいたのは人間の村び……
「あれ?」
「元に……戻れないの?」
光が収まっても、そこにいたのは悪魔の姿の村人たちだった。
「いや、これで元どおりなんだ。邪気の膜は彼らの姿ではなく彼らの記憶を冒していた“夜になると悪魔になってしまう”という間違った記憶だ」
「それって……」
「ま、まさか……」
私たちはエルザが言おうとしていることに気づく、まさか、いやまさか。前提から間違っていたなんて……
「彼らは元々悪魔だったのだ」
「ま、まじ?」
「う、うむ……まだ頭は混乱しておりますが」
恐る恐るグレイは村長さんに確認を取る。村長さんも混乱しながらエルザの言ってる事が正しいと認めた。
「彼らは人間に変身する力を持っていた。その人間に変身している自分を本来の姿だと思い込んでしまったのだ。それが
「それじゃどうしてリオンたちは無事だったの?」
三年間
「彼らは人間だからな。どうやらこの記憶障害は悪魔にだけ効果があるらしい。あの遺跡に村人たちが近づけないのも彼らが悪魔だからだ。聖なる光を蓄えたあの遺跡に闇の者は近づけない」
「流石だ、君たちに任せてよかった……魔導士さん」
「ボ……ボボ!!」
突然現れた悪魔を見て村長さんは驚く。ルーシィやグレイも顔を強張らせた。
「ゆ、幽霊!?」
「船乗りのオッサンか!?」
「え、だ、だって!」
村人は現れた悪魔と墓を交互に見る。それを見て悪魔は大笑いをした。
「胸を刺されたくらいじゃ
「……ルーシィ、ルーシィ、彼はどなた様?」
「村長の息子さん。私たちを島に連れてってくれたんだけど……」
「あんた……船の上から消えただろ」
「こんな風にか?」
「あ!」
悪魔……ボボさんは翼を広げ瞬く間に頭上へ飛び上がった。
「あの時は本当のことが言えなくてすまなかった。俺は一人だけ記憶が戻っちまってこの島から離れてたんだ。自分のことを人間だと思い込んでいる村の皆が怖くて怖くて……はは」
ボボさんを見て、村長さんの目から涙が零れ落ちる。そして村長さんも翼を広げてボボさんの元へ向かう。
「ボボーーー!」
「やっと正気に戻ったな親父!」
悪魔の親子が抱きしめ合う。
それを見た村人たちも我先にと飛び上がって彼らの元へ向かった。
「悪魔の島……か」
「でもさ、皆の顔見てっと悪魔ってより天使みてーだな!」
「りゅ!」
村長さんが今宵は宴じゃーーー!悪魔の宴じゃーーー!と叫ぶ。その響きに私たちはちょっと顔を強張らせるけど、皆笑みを浮かべて宴に参加した。
この島は悪魔たちの楽園。
私たちは悪魔の島で目一杯楽しんだ。
紫の月はもう上がらない。